質問主意書

第103回国会(臨時会)

質問主意書


質問第九号

ニカラグァ人民の民族自決と日本政府の対応に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年十一月十九日

立木 洋   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   ニカラグァ人民の民族自決と日本政府の対応に関する質問主意書

 世界のいかなる民族も、みずからの意思で自分の運命をきめるという民族自決の原則は、今や、世界平和と社会進歩の重要な柱の一つとして国際的に承認されている。
 しかるに、レーガン大統領による米国の対ニカラグァ政策は、力によつてニカラグァ人民の民族自決権を圧殺しようとするものであり、事態は深刻化している。よつて、以下質問する。

一 民族自決権について

1 国連においても、一九六〇年の「植民地独立付与宣言」の採択以来、民族自決権は、慣習国際法上の権利として確立されている。日本政府は、自決権について現在の国際政治と国際法の最も基本的な原則の一つと認めるのかどうか、明らかにされたい。
2 今日のニカラグァをめぐる事態に関して、日本政府がとるべき基本的態度は、何を基準に判断するのか。日本政府は、第一にニカラグァの民族自決権を尊重することを基本とすべきであると思うが、どう考えるか。

二 米国のニカラグァへの侵害と干渉について

1 米政府は、ニカラグァにおけるサンディニスタ革命の勝利と前進を、「ソ連・キューバの拡張」などとねじまげ、外部から、反政府ゲリラであるコントラを使つて、死者一万一千人、物的被害十五億ドルに達する干渉を続けている。

(1) 米議会は、本年七月、コントラへの援助予算二千七百万ドルを承認したが、ニカラグァ人民が選んだ合法政権を武力で打倒しようとする勢力への援助予算を公然と支出することは、米国のニカラグァへの内政干渉ではないか。日本政府は、このような援助をニカラグァにたいする内政干渉とは認めないのか。
(2) 日本政府は、米政府にたいして、このようなコントラへの援助を中止するよう、または、コントラへの援助を行わないよう申し入れるべきと考えるが、申し入れる意思があるかどうか、明らかにされたい。

2 本年五月一日、米政府は突如、ニカラグァに経済封鎖措置の決定を発表し、現在も継続している。ニカラグァ経済への打撃は決して小さくない。

(1) 米国のニカラグァにたいする経済封鎖は、ニカラグァの民族自決権への侵害であり、不法な力の行使と考えるが、政府はどのような認識か、明らかにされたい。
(2) 国連においても、一九六五年の「不干渉宣言」決議や、一九七〇年の「友好関係宣言」決議以来、「いかなる国家」も「他国にたいして、その主権的権利の行使を従属させかつその国家から何らかの利益を得るため、経済的、政治的または、他のいかなる強制措置を用い、また用いることを助長してはならない」とし、「武力干渉および他のすべての形態の介入、または企てられた威嚇は、国際法の侵害」とみなしている。従つて、米国のニカラグァに対する経済封鎖は、明らかに国際法の侵害ではないのか、明らかにされたい。

3 米国のニカラグァに対する姿勢は、経済封鎖にとどまらず、ニカラグァに対しての軍事的威嚇や進攻計画にまで及んでいる。
 一九八三年十一月、米南方方面軍が米議会に提出した秘密メモのなかで、「軍事行動による対ニカラグァ問題解決に必要な準備が着々と進んでいる」「ホンデュラスの軍事演習は、米軍のホンデュラス常駐態勢の第一段階で、二千万ドル以上を投入した海・空軍基地拡張やレーダー施設、病院、兵たん基地の建設が全土で進み、これらはエル・サルヴァドルとニカラグァの非常事態にそなえたもの」と、米軍の意図を明らかにしている。
 今年に入つても、二月以来の米・ホンデュラス合同演習「アワスタラIII」が行われ、これと重復して、四月中旬から新たな合同演習「ユニバーサル・トレク’85」がホンデュラス北部で進行。これは、米陸軍、海軍、海兵隊七千人が参加する最大級のもので、最終段階は、海兵隊の強襲上陸作戦、降下部隊の急襲作戦となつている。

(1) このような米軍の軍事行動は、ニカラグァへ脅威を与えており、国連憲章第二条第四項で禁じている軍事的威嚇ではないのか。
(2) このような軍事行動は、日本政府も認めている「平和的話合い」を進めるのに障害となるものではないのか。
(3) 日本政府は、米国に軍事的威嚇をやめるよう申し入れるべきではないか、また、申し入れる意思があるか。
(4) キッシンジャーが委員長をつとめた米国の中米諮問委員会の報告でも、「ニカラグァ政府にたいする『最後の手段』として軍事力行使を除外すべきではない」と対ニカラグァ武力行使を公然と表明しているが、こういう事態をさけるため日本政府は努力すべきではないか。

三 日本政府の対ニカラグァ政策について

1 コンタドーラ・グループは、二年がかりで作成した和平条約案について、本年四月よりその最終合意に向けて努力していたにもかかわらず、米政府は、五月一日、突如ニカラグァへの経済封鎖措置を決定した。

(1) 日本政府は、話合い解決の障害となる対ニカラグァ経済封鎖を中止するよう米国に働きかけるべきではないか。
(2) 本年七月二十一日のコンタドーラ外相会議でも、八月二十五日のコンタドーラを含むカルタヘナでの八カ国外相会議でも、米、ニカラグァの対話再開を強く対米勧告している。コンタドーラ・グループを支持する日本政府としては、直接、米政府へ対話再開を申し入れるべきではないか。

2 日本政府は、現在、ニカラグァへの経済協力をほとんど行つていないに等しいが、ECなどはニカラグァとの間で経済援助協定を締結し、援助拡大に動きはじめている。

(1) 日本政府は、人道的立場からも、ニカラグァへの大幅な援助を行うべきではないのか。
(2) 過去三年間に行つた、対ニカラグァ経済協力(無償協力、円借款、技術協力)の事業内容及び援助額を詳細に明らかにされたい。

3 ニカラグァへの経済協力について「内戦のため援助に協力できない」などと、政府はいうが、ECやカナダなどは援助の拡大に動いており、必要なニカラグァでの調査も可能であることを証明している。どうして日本政府が協力できないのか、納得できる説明を求める。

4 日本政府は、ニカラグァには援助をほとんど行わず、米国とともに、ホンデュラス、コスタ・リカ、グァテマラ、ジャマイカなど、ニカラグァを事実上包囲する国々への援助を強化するなどということが、あつてはならないことだと思うが、来年度以降の援助も、これらの国々に拡大するのか、援助方針を説明されたい。

  右質問する。