質問主意書

第103回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六号

米軍用地特措法に基づく土地の強制使用二十年延長問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年十月二十八日

喜屋武 眞榮   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   米軍用地特措法に基づく土地の強制使用二十年延長問題に関する質問主意書

 去る八月五日、那覇防衛施設局は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(昭和二七年法律第一四〇号)」(以下、「米軍用地特措法」という。)に基づく、米軍用地の契約拒否地主等の土地の強制使用期限が、昭和六十二年五月十四日をもつて、五年間の期限切れを迎えるに当たり、新たに、二十年間の強制使用期間を設定すべく、沖縄県収用委員会に対して、裁決申請の手続をとつた。
 この措置は、米軍用地特措法の過去の適用例を見た場合、その期間が二十年間の長期にわたる点と沖縄県以外の他の都道府県には、このような長期強制使用の前例が一件も存在しないという点で、極めて注目すべき特異な事実であつて、このような措置をとつたこと自体、厳しい歴史の審判を受けるべきであると確信するが、以下、この措置をめぐる問題点について質問する。

一 今回の措置により、二十年間の強制使用を企図する理由について、那覇防衛施設局は、「わが国の防衛は日米安保が基本で、その根幹を成すものが米軍駐留である。従つて、米軍基地の安定使用が必要である。」との論理を展開している。
 現在、わが国に存在する米軍専用施設の実に七十五パーセントが集中し、甚大な犠牲を強いられている沖縄県民の立場からすれば、このことは、第二次大戦末期において、本土防衛の名の下に国内唯一の地上戦闘の舞台となり、十数万人の県民の尊い生命の犠牲を伴う過酷な戦争体験を余儀なくされた事実を想起せしめて余りある。そして、それは、再び、三たび、沖縄県民のみに犠牲を強要してはばからない措置であると言わざるを得ないが、この点に関して、政府の考えを伺いたい。

二 本年九月十九日の参議院決算委員会において、米軍用地特措法による二十年間強制使用問題に関する私の質疑に対して、佐々淳行防衛施設庁長官は、「日米安保条約は成立後二十五年、長期にわたつて続いてまいり、また、日米両国の間においてこの条約は高く評価をされ、重要な意義を持つておりますので、両国政府ともこれを早期に撤廃をするという意思はなく、相当期間続くものと思われております。その意味で、基地の安定的使用は我が国の防衛政策上非常に重要な問題であろうかと考えております。」と答弁している。
 この答弁は、長期自民党政権の存続の上にあぐらをかいた独善的な見解であつて、政権交代を前提とした議院内閣制、代表民主制を建前とする日本国憲法の原則に悸る見解であり、日米両国政府の意思が、現在、安保条約の重要な意義を評価しているとしても、この政府意思が二十年先までも不変であるとすることは、あくまでも、当事者の希望的観測の域を出ず、仮定の問題であつて、客観性に欠けると考える。
 このような主観性の強い論拠をもつて、国民の基本的人権である財産権を二十年の長期間にわたつて制約しようと試みることは憲法違反であり、合理性に乏しいと考える。この点に関する見解を承りたい。

三 また、前述の答弁の中で日米安保条約が「相当期間」続くものと思われると予想するが、この相当期間とは、具体的には何年間を意味するのか、伺いたい。

四 (1) 昭和五十七年四月十四日の衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会において、政府委員は、当時の裁決申請に当たつては、使用期限を二年、三年、五年と分けて申請し、二年ないし三年の申請をした理由は、リロケーション等によつて返還が可能となる時期を見越して、そのように申請をしたと言つている。そして、その他の一般施設については、五年という使用期限を設けて裁決申請を行つたと説明している。当時の政府の認識では、五年の使用期限というものが一般的、原則的であるということを示している。
 それにもかかわらず、今回は、二十年間も強制使用をしようとしている。この点、政府の認識が変わつたのか、理由を伺いたい。
  (2) 一方、政府は、前述の通り、二十年間の強制使用をしようとする理由について、米軍基地の安定的使用の確保のためとするが、米軍基地の安定的使用の確保の必要性は、政府の立場では、昭和五十七年の時点でも、現時点でも変わらないと思われるのに、昭和五十七年の時は五年間で足りたものが、現在では、五年間では足りず、二十年間としなければならないとする。このように大幅な期限の延長を意図している背景には、何か重大な基地政策の転換なり、事情の変更があるのか。

五 現行日米安保条約は、締結当初、その有効期間を十年間とし、更に現在では、日米何れか一方が廃棄を通告すれば、一年後に効力を失うことは周知の通りである。
 このように、米軍の日本駐留を根拠付けている日米安保条約及びこれに基づく「地位協定」が、制度上、このように流動的なものであるにもかかわらず、これらの基本法に基づく、執行法規であるはずの米軍用地特措法の運用を長期間固定化するということは、矛盾も甚だしいと言わざるを得ない。この点に関して、政府はどのように考えるのか、伺いたい。

六 全く同一同内容の米軍用地特措法の適用期間を前回の昭和五十七年には五年間とし、今回は一挙に二十年間に延長しようとすることは、身勝手な法の運用であり、法的安定性を損なうばかりか、政府の信用を失墜せしめるものであり、合理的な説明をなし得ないのではないかと思われるが、政府の見解はどうか。

七 米軍用地特措法は、昭和二十七年の成立以来昭和三十七年までの十年間に、「本土」において四十三件の裁決例があるというが、間違いないか。また、その中の最長使用期間は四年が最高で、大部分は一年ないし二年程度であると言われているが事実か。
 また、同法の「本土」における適用実績を、施設名、使用と収用の別、面積、対象地主数、裁決年月日、使用期間別に明らかにされたい。

八 米軍用地特措法が、昭和三十七年以降、昭和五十七年に沖縄県において適用されるまでの二十年間にわたつて、適用例がなく、眠れる法と化していたのは、如何なる理由に基づくのか。
 また、この間、「本土」において、新たに米軍用地として提供された土地があれば、その面積を強制使用・収用と任意契約に分けて示されたい。

九 沖縄県における米軍用地の提供に当たつては、当初、五年単位で十年間、「公用地暫定使用法」及び「地籍明確化法」により、三回目の提供の際に初めて米軍用地特措法によつたのは、如何なる理由に基づくのか、明確にされたい。

十 更に、過去三回の提供の際には、何れも期間を五年としておきながら、今回、四回目にして一挙に四倍の二十年とすることは、如何にも合理的根拠に欠け、妥当性も乏しいと思われるが、見解を伺いたい。

十一 強制使用期間を二十年間とする論拠の第二点は、民法第六〇四条第一項の賃貸借契約の最長期間二十年を参考にしたと言うが、この規定はあくまで合意契約を前提にしたものであり、今回のような公権力の発動である強制使用の場合とは全く事情を異にするものであり、何ら参考にすべきものではないと考えるが、どうか。

十二 米軍用地特措法は第三条で、土地の強制使用のためには、単に当該土地が「必要」であるというだけでは足りず、当該土地を米軍用地として供することが、「適正且つ合理的」な場合でなければならないと厳格な要件を課している。世界情勢の変化、兵器等の日進月歩の発達を考えれば、二十年間という長期にわたつて、当該土地使用につき、この「適正且つ合理的」要件を満たすなどという判断が、現時点で果たしてできるものかどうか疑わざるを得ない。この点について、政府はどのように考えるのか。

十三 何れにしても、防衛施設庁当局による今回の米軍用地特措法に基づく、強制使用期間二十年とする沖縄県収用委員会に対する裁決申請は、憲法の原則及び行政当局の採つた前例等に照らしても、明らかに不法、不当なものであると考えるので、今回の措置の撤回を強く求めたいが、この点に関して、政府の見解を問いたい。

  右質問する。