質問主意書

第102回国会(常会)

答弁書


答弁書第四〇号

内閣参質一〇二第四〇号

  昭和六十年六月十四日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員中村鋭一君提出高等学校における交通安全教育に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員中村鋭一君提出高等学校における交通安全教育に関する質問に対する答弁書

一について

 文部省の委嘱により教員用の指導資料として財団法人日本交通安全教育普及協会が作成した「高等学校交通安全指導の手引」は、各都道府県教育委員会、各高等学校等に既に一万部が配布され、現在、更に増刷中である。また、このほかにも、交通安全教育に関する各種の指導資料が、各都道府県においてその実情に応じて作成されているところである。これらの指導資料は、教員の指導上の参考資料として相当活用されており、高等学校における交通安全指導のために効果を挙げていると考えている。

二について

 昭和五十六年六月二十二日付けの文部省体育局長名による通知後の高等学校における交通安全教育の実態については、調査していないが、昭和六十年度に調査を行う予定である。
 なお、文部省において承知している限りでは、特別活動のホームルームや学校行事等において年数回指導が行われているところが多いという状況であり、その指導の状況については必ずしも十分でないと考えている。

三について

 生徒の免許取得及び二輪車又は自動車の運転を禁止し、違反した生徒に対して懲戒を行つている高等学校があることは承知しているが、その全国的な実態については、把握していない。

四について

 運転免許を取得するかどうかは、本来、生徒自身が保護者等とも相談しながら決めることではあるが、生徒が人身事故を起こす等悲惨な交通事故の経験を踏まえ、高等学校が、こうしたことを未然に防ぐために、生徒やその保護者の理解を求めながら、運転免許の取得を制限し、又は、それに違反した生徒に懲戒を加えることは、地域における現実的な対応の一つとして考えられるところである。

五について

 文部省が昭和六十年三月に調査したところによれば、都道府県の教育委員会、PTA、高等学校長協会等の申合せ等により、全部又はほとんどの高等学校が二輪車の規制を実施しているのは、二十八府県である。これらの府県における高等学校の生徒の二輪車による交通事故について規制を実施する前年における死傷者数と昭和五十九年における死傷者数とを比較すると、死者数及び負傷者数が共に減少しているのは、十八県となつている。また、当該二十八府県を、昭和四十九年以前に規制を実施したもの、昭和五十年から昭和五十四年までの間に規制を実施したもの及び昭和五十五年以後に規制を実施したものに区分し、その区分ごとに、生徒の二輪車による交通事故の死傷者の合計数について、規制を実施する前年と昭和五十九年とを比較すると、それぞれ二十二パーセント、六十五パーセント及び三十パーセント減少している。

六について

 二輪車の運転に関する「三ない運動」のような規制措置は、高等学校、教育委員会、PTA等が生徒の悲惨な交通事故を未然に防ぐために運転免許の取得、二輪車の運転等を制限するものであり、地域における現実的な対応の一つとして考えられるところである。今後とも、このような規制措置の在り方をも含め、交通安全教育の充実、交通環境の整備等交通事故の減少のための総合的な方策について、各都道府県の実情に応じた検討が行われることを期待しており、文部省においても、必要に応じ、交通安全の充実が図られるよう指導してまいりたい。

七について

 懲戒を行う場合には、平素から、懲戒事由等につき本人を含む関係者の十分な理解を得るよう努めるとともに、処分は、問題行動の程度のほか、当該生徒の性格、行動、心身の発達状況等に十分配慮して行うよう各都道府県教育委員会を通じて指導しているところである。しかし、御指摘の二つの事件については、本人や保護者の十分な理解が得られず訴訟に至つたことは遺憾である。今後とも、懲戒は十分な教育的配慮の下に行われるよう指導してまいりたい。

八について

 高等学校における交通安全教育の推進を図るためには、教職員全員が交通安全教育の重要性について共通理解を深めるとともに、交通安全教育を年間の指導計画に明確に位置付け、適切な指導資料や教材を活用して指導を充実することが重要であると考えている。このため、交通安全教育に関する各種の研修会等を開催し、指導に当たる教員の資質の向上を図るとともに、交通安全教育に関する指導資料等の充実を図り、高等学校における交通安全教育の推進を図つてまいりたい。

九について

 御指摘の名簿の閲覧等は、昭和五十一年から高知県で始められ、現在、千葉県、和歌山県、広島県、高知県、福岡県、熊本県及び大分県の七県で行われていると承知している。

十について

 名簿の閲覧による効果を確認することのできる資料は、得られていない。

十一及び十二について

 名簿は、御指摘の名目があるからといつて、だれにでも閲覧させるというものではない。
 現在高等学校又は教育委員会の要請により名簿を閲覧させている七県警察については、その要請の趣旨が交通安全教育等の学校教育上の目的に資するものであり、公益性が高いと認められることから、その必要性等を各県警察において具体的に判断の上、これに応じているものと承知している。高等学校又は教育委員会においても、その要請の趣旨に従い、必要な範囲内で、名簿を閲覧し、利用しているものと承知しており、今後とも、各県警察においては、このような方針で対処していくものと考えている。

十三について

 「三ない運動」等による効果を確認することのできる資料は、得られていない。
 なお、福岡県警察が同県内の高等学校について運転免許取得を全面的に禁止しているもの及びそれ以外のものに区分してそれぞれの昭和五十九年中の交通事故発生状況を調査したところ、別表一のとおりであつた。

十四について

 高等学校の生徒に係る無免許運転取締り件数については、把握していないが、昭和五十七年から昭和五十九年までの間における無免許運転に係る死亡事故のうち生徒が第一当事者となつているものは、別表二のとおりであつた。
 なお、無免許運転取締り件数又は無免許運転による死亡事故件数と「三ない運動」等との関連については、確認することができない。

十五について

 「三ない運動」等実施校の卒業者による交通事故発生件数については、把握していない。

十六について

 若年の二輪車運転者に対しては、交通事故防止等のため、特に次の施策を重点施策として実施しているが、今後ともその推進を図ることとしている。

(一) 自動二輪車免許の新規取得者に対しては、白バイ隊員その他自動二輪車運転の知識及び技能に精通する者を講師として講習を実施する。
(二) 原動機付自転車免許取得者のための技能講習については、良好な講習環境及び十分な講習時間を確保する等その充実に努める。
(三) 更新時講習及び処分者講習においては、二輪特別学級及び若年者特別学級の編成を促進し、きめ細かい指導により、安全運転態度の形成に努める。

十七について

 警察においては、これまでも高等学校等と連携をとり、法令講習や安全運転実技指導等を実施してきたところであるが、今後も、要望があれば、可能な限り、実技指導員の派遣、資料提供等により協力してまいりたい。

別表一

別表二