質問主意書

第102回国会(常会)

質問主意書


質問第四五号

スキー場の安全対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和六十年六月二十日

市川 正一   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   スキー場の安全対策に関する質問主意書

 わが国のスキー人口は、近年、ますます増加の傾向にあり、一千万人を超えているといわれている。大自然のなかで思い切り身体を動かすスキーは、冬季の健康的なスポーツ、レクリエーションとして、いまや老若男女を問わず国民の広い層に親しまれている。
 同時に、スキー愛好者の広がりに伴い、スキーに関連する事故が多発していることは、人命尊重の見地からはもとより、国民スポーツの振興の立場からみても軽視し得ない問題である。
 とくに、今シーズンは、信濃平での雪崩による死亡事故、戸隠スキー場などでのリフトのワイヤーが外れてスキーヤーが転落して重傷を負つたり、赤倉スキー場での圧雪車によるスキーヤーの死亡事故など重大な事故が頻発している。
 これらのスキー事故の原因については、さまざまな角度から検討される必要があるが、その主な原因の一つにスキー場の整備や管理運営の問題があることは衆目の一致するところである。
 スキー場については、運輸省、林野庁、環境庁、文部省などが、それぞれの所管業務との関連で指導監督する責任を持つている。
 そこで、スキー場の安全対策について、以下質問したい。

一 雪崩対策について

 雪崩の発生は、地形、積雪、風、気温など自然条件に左右されるが、スキーが国民の広い層に普及している今日、スキー場の設置にあたつては、その周辺を含めて雪崩の危険性についての関係機関の厳密な審査が求められている。

(一) スキー場の設置について、それが国有林野内の場合は林野庁が、国立公園、国定公園内の場合は環境庁が、それぞれ設置の条件を定めているが、スキー場の安全確保を考えると不十分である。
 そこで、スキー場の設置にあたつて、雪崩危険地帯の除外、雪崩防止施設の完備、周辺の雪崩の危険性の有無などを、必要な基準の一つとして明定すべきではないか。
(二) リフトの設置は、「索道規則」でその基準が定められているが、五竜とおみスキー場のように、支柱が雪崩道に建てられていたため、雪崩の直撃で被害を受けている例もある。
 そこで、索道事業の免許にあたつては、雪崩を考慮した設置場所の基準を定めるとともに、現行の書類のみの審査だけでなく、実地の審査をおこなうよう、必要な体制も確立すべきではないか。
(三) 既設のスキー場について、雪崩防止の観点から点検調査をおこなうとともに、雪崩の危険のあるスキー場については、雪崩防止施設の整備、スキー場の構造の変更、雪庇の除去、事前の人工雪崩の誘発など、効果的な対策をとるよう指導を強め、必要な場合は国としても援助措置をとるべきではないか。
(四) 雪崩による被害を防ぐため、雪崩発生の予知に努め、危険個所の滑降禁止、スキー場の閉鎖など、安全確保のための緊急措置が機敏にとれるような体制を確立する必要があると思うが、どうか。

二 スキー・リフト等の安全対策について

(一)ワイヤーの脱落、減速装置の故障による搬器の逆送、搬器とワイヤーをつなぐボルトやパイプの折損などの事故が起こつているが、これらは、索道の検査基準を安全確保の立場から厳格に遵守していれば、大半は未然に防止できたものであり、索道事業者に対する厳格な指導監督が必要である。また、これを保障するための検査体制の充実強化をはかる必要があると考えるが、どうか。
(二)近年、リフトの高速化や二人乗り、三人乗りの普及に伴い輸送力が増大している。これは、スキーヤーのリフト待ち時間を短縮する反面、限られた広さのゲレンデの混雑に拍車をかけ、衝突事故の危険性を増大させている。
 こうした事態を未然に防止するため、リフトの増設、高速化、あるいは搬器の構造変更等の認可にあたつては、その最大輸送力がゲレンデの面積との関係で過密状態にならないよう適切な基準を設けるべきではないか。

三 ゲレンデの安全管理の強化について

 林野庁、環境庁などはそれぞれ所管のスキー場について、安全管理のあり方について定めている。また、一九七二年の保健体育審議会答申も、スキー場整備の最少限度の留意事項として、障害物の除去、初心者用と熟練者用のゲレンデの区分、休息所、道標等の整備などを指摘している。
 しかし、その遵守状況は十分といえる状態にないので、あらためてスキー場の安全管理の実態を正しく把握し、関係機関の適切な指導を強化すべきではないか。

四 雪上車の運行管理について

 近年、スキー場の圧雪車導入が増加し、ゲレンデの整備、表層雪崩の防止等で効果をあげている反面、圧雪車がスキーヤーを轢く事故も多発しており、この現状は看過できない状況になつている。

(一) 圧雪車の運転は、難度が高いにもかかわらず運転免許が不要であり、一部には運転免許制の確立の声もあがつているが、当面、圧雪車の運転者を対象とした講習会を毎シーズン前に開き、その受講者に運転資格を与える等の緊急措置をとる必要があると考えるが、どうか。
(二) スキー場によつては、圧雪車等の運行規程を設け、スキー場の営業時間内は原則として運行しない、やむを得ず運行する場合は運転者の他に見張要員を添乗させる等を決めている。
これらの自主的な規程の確立とその遵守を奨励する必要があると考えるが、どうか。

五 スキーパトロールについて

 スキー場の管理運営は、自然条件の変化に即応して必要な対策をとらなければならない特殊な事情があり、ここでの安全管理を保障する上で、パトロール制度の果たすべき役割は極めて重大である。
 しかし、パトロール制度の現状は、その任務、権限、待遇等、改善すべき余地が少なくない。そこで、当面、次の対策をとるべきではないか。

(一) スキー場に配置されているパトローラーは、そのスキー場事業者に雇用されていること、リフトの運行等には権限がないことなど多くの限界があるが、事故が起こつた際の救急活動などでは一定の役割を果たしている。従つて、スキー場におけるパトローラーの数、そのなかでの有資格者の割合、スキー場の規模に応じた適正数あるいは服務規程の基準などを定め、関係者への指導を強めてはどうか。
(二) さらに、一定の地域、たとえば営林署管内、国立・国定公園別、地方陸運局管内ごとに、スキーシーズンの期間中、各スキー場のパトロール隊の指導にあたる公的スキーパトロール・センターを確立すべきであると考えるが、どうか。
(三) パトローラーの養成、資格付与については、現在、全日本スキー連盟、日本赤十字社がおこない一定の積極的役割を果たしているが、内容的には救急法が中心であり、スキー場の総合的な安全対策を確保する上では、かなり専門的な知識と技術が要求されるし、一定の権限も必要である。
 そこで、わが国のパトロール制度の現状と問題点を明らかにして、諸外国のパトロール制度等も調査、研究し、教訓となるものは取り入れて、スキー場の広い意味での安全確保に役立つ、わが国のパトロール制度を確立するため、関係団体や専門家を含んだ機関をつくり、検討を開始すべきであると考えるが、どうか。

  右質問する。