質問主意書

第102回国会(常会)

質問主意書


質問第一二号

日米諮問委員会報告などに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年十二月二十一日

立木 洋   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   日米諮問委員会報告などに関する質問主意書

 日米諮問委員会は、本年九月、日米両首脳にたいする最終報告(以下、報告という。)を提出した。この報告は、日米の今後のあり方を方向づけ、米レーガン戦略に日本をひき込み、危険な軍拡の道にいつそう組み込むことは必至である。しかも、新年早々の日米首脳会談で、当然本報告の実行を米側が要求してくるものと考えられる。さらに中曽根首相は、本報告実現のための努力を指示し、政府自身すでに実現に向かつて取り組み中のものである。
従つて、新年の日米首脳会談などとともに、日米諮問委員会の報告に関する政府の見解について、以下質問する。

一 新年早々の日米首脳会談では、この報告が基調となるのか、どうか。

二 政府は、この報告すべてを実施する見地に立つているのか。内容上支持できない点があるとすればそれは何か。

三 中曽根首相は、本年九月二十五日の閣議で、報告されている各分野の指摘について、「各省庁で討議し、実現に向かつて努力」を指示したが、これらの検討がどういう段階にきているのか、具体的に明らかにされたい。

四 外交・安全保障について

1 報告は、「世界的諸問題を集中的に検討」するとして、「日本の外務大臣および防衛庁長官と米国の国務・国防両長官との間で折にふれた合同会議」を提案している。政府は、この合同会議を開催する意思があるのか。
 また、これまですでに日米両国において開催されていた会議と、新たに「合同会議」として設置するものとはいかなる関連があるのか、その意味を明らかにされたい。
2 報告は、韓国について、「米国の韓国への安全保障のコミットメントにたいする日本の政治面と後方支援の面での協力は朝鮮半島における抑止力の強化に不可欠な要素」とのべている。

(1) 「政治面での協力」とは、

(ア) 人権抑圧の全斗煥政権の無条件支持を続けるということか。
(イ) 対韓安保援助を続けるということか。

(2) 「後方支援助の面での協力」とは、

(ア) 在日米軍の核通信システムの安定的使用をはかるということか。
(イ) 在日米軍基地の自由使用を許すということか。
(ウ) 相模補給所を軍需物資の事前配備場とすることも含まれるのか。
(エ) 日韓間の軍事情報交換の強化やわが国自衛官と韓国軍人との交流の強化も含まれるのか。

(3) また、新年の日米首脳会談において韓国問題での新たな協力も議題となるのか。

3 報告は、「太平洋地域は……一層その重要性を増す」「太平洋協力へ向けてより緊密かつ組織だつた地域機構につながつていく可能性」を指摘している。また、今回の首脳会談でも環太平洋構想がとり上げられると伝えられるが、

(1) 太平洋地域を日米による、かつての大東亜共栄圏的な構想として考えているのではないか。
(2) 太平洋問題を論じる前提は、かつての大日本帝国の大東亜共栄圏構想が誤りであつたとの認識がまず明らかにされねばならないと思うが、どうか。
(3) 米国は、対ソ包囲網としての太平洋構想を抱いているといわれるが、政府はいかなる見地から環太平洋問題を考えようとしているのか、明らかにされたい。

4 報告は、安全保障の問題でも、西ヨーロッパとのつながりが一層強まるという認識を示している。

(1) 当時の栗原防衛庁長官が訪欧の際、NATOと対ソ情報等の交換をおこなつたが、これは、日米安保のNATO化をめざすものではないのか。
(2) NATOとの間で、対ソ軍事情報の交換を今後おこなつていくのかどうか。
(3) 「日米欧諸国の防衛担当政府高官と軍部高官による定期会議を開催すべきである」と日米欧委員会の下部機構の報告で指摘されているが、このような定期会議を必要だと政府は考えているのか。

5 報告は、中南米地域の安定を図るため、「政治的、経済的影響力を行使すべきである」とのべているが、この地域への米国の軍事的圧力と干渉こそ問題である。中南米諸国民の民族自決権の擁護がいまこそ重要である。そこで、以下尋ねる。

(1) 強い軍事干渉を受けているニカラグア政府が祖国防衛のためにとる措置は、当然ニカラグア国民の民族自決権に属するものであるが、政府の見解はどうか。
(2) また、米国は現在、ニカラグアへの軍事的威嚇をつづけているが、これを支持しないと断言できるか。
(3) しかも今、ニカラグア国民は、グレナダのように米国の武力侵入を警戒し、緊張が高まつている。このような状況を考慮するなら、政府は、ニカラグアへの武力侵入に反対である旨、米側に申し入れるべきであるがどうか。

6 報告は、「日本においてもその安全保障上の利害が自国の領海をはるかに越えているのだという認識が高まつてきた」とある。これは、一九八〇年五月シュレジンジャー元米国防長官が講演で、「かつては同盟は締約国の領土保全の確保を目標とするものと考えられて」いたが、「今日では共通の安全保障に対応するために……領土の境界線の外側に位置する資源ならびに輸送路の保護にも備えなければなら」ない、と同趣旨のものである。政府は、シュレジンジャー発言をどう考えるか。
7 「日本は自国の領土を防衛する必要性とは別に、自国を潜在的威嚇から守り、行動の自由を損なわないための軍事力を必要としている」と報告にある。

(1) 政府も潜在的威嚇があるとみなしているのか。また潜在的威嚇とは何か。
(2) 報告で述べられた「行動の自由を損なわない」軍事力の水準とは、どのようなものか。現在の防衛計画大綱の水準を越えた軍事力を持つことを提起しているのではないか。この点について、政府はどう考えるか。

8 報告は、「相互防衛分担の定義についての実質的進展があつた」、「日本がより大きな防衛負担を引き受ける可能性の増大」などと述べている。

(1) 「防衛分担の定義についての実質的進展」とは、わが国のシーレーン一千海里内の海・空域を日本側の防衛分担区域として確認したことを意味するのではないか、政府の見解を明らかにされたい。
(2) 「日本がより大きな防衛負担を引き受ける可能性の増大」とは、日本側が防衛計画大綱の水準をふみ出して新たな防衛力の整備をめざしていると考えざるをえない。中曽根首相の私的諮問機関「平和問題研究会」の本年十二月十八日の報告でも、防衛計画の大綱の見直しが提言されている。政府は、こうした見直しをやるべきではないと思うが、見解はどうか。

9 報告は、「日本は東京・大阪から一千海里にわたつて延びるシーレーンを防衛することになつている」と海・空一千海里を防衛範囲とみなしている。中曽根内閣は、鈴木内閣の立場を継承するとのべてきたが、海・空域一千海里を防衛範囲とするのか、あらためて見解を問う。
10 報告は、「防衛支出をめぐる不毛な議論自体はさけるべきであろう」とのべ、また「平和問題研究会」報告でも防衛費対GNP比一%枠を見直せと提言しているが、

(1) あくまで一%枠を守ると言明できるかどうか明確にされたい。
(2) これまで政府は、東南アジア諸国に軍事大国にならない保証として防衛費対GNP比一%枠を一つの根拠としていた。一%枠をとり払えば、これら諸国に脅威を与えることにならないか所見を求める。

11 報告は、「国連の……多国間平和維持活動に……制服要員の派遣を通じて参加することを考慮(英文ではprepare=準備する)」するよう報告している。本年十一月九日の衆議院外務委員会において、わが党の岡崎議員のこの点に関する質疑に対して、安倍外相は、「検討しない」と答弁したが、自衛隊法上はもちろん、あれこれの派遣形態などについて研究そのものをもしないということなのか、確認を求める。

五 経済・農産物について

1 市場開放問題では、これまでも産業と国民生活に犠牲を強いてきたが、これ以上の国民犠牲は許されない。しかも、政府は今回の日米首脳会談に向けて大幅な対米譲歩案を作つていると伝えられている。いつたいそれは何か、具体的に列挙されたい。
2 報告は、臨時行政調査会に類するような「国際経済強化のための日本の行動に関する特別委員会」をはじめ九件もの監視機構の設置を提案している。臨調が行政機関はもとより、国権の最高機関である国会にすら優先するかのごとくふるまつたように、各種委員会を設置するなら議会制民主主義の形がい化、あるいは、否定につながることは明らかである。政府は、このような各種委員会を設置すべきではないと思うがどうか。
3 報告にいう九件の各種委員会のうち、すでに設置を考えている委員会があれば、あわせて明らかにされたい。
4 農産物の自由化に関して、牛肉・かんきつ類のこれ以上の輸入枠拡大は生産農民の生活を根底から破壊するものである。

(1) 牛肉・かんきつ類のこれ以上の輸入枠拡大はしないといえるか。
(2) 同じく牛肉・かんきつ類の輸入自由化はしないと約束できるか。

5 日本の「食糧安全保障」に言及するなら、政府は、穀物をはじめ農産物の自給率向上を基本にすえるべきと考えるが、どうか。

  右質問する。