質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第四〇号

蚕糸価格の安定等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年八月二日

鈴木 一弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   蚕糸価格の安定等に関する質問主意書

 政府は、去る三月三十一日、蚕糸業振興審議会の答申を受けて昭和五十九生糸年度に適用する基準糸価等の安定帯価格を決定した。
 この安定帯価格は、最近における生糸・絹需給の実態を反映して、前年度並みに据え置かれ、基準糸価は昭和五十六年度以降一キログラム当たり一万四千円に据え置かれることとなつた。
 しかし、生糸価格は、生糸・絹需要の低迷、蚕糸砂糖類価格安定事業団(以下、「事業団」という。)在庫の膨大な累積等を背景にして、昭和五十九生糸年度の始まる六月頃から急落し、基準糸価を大きく下回り、一時は異常変動防止制度の安定下位価格(一キログラム当たり一万三千二百円)のレベルにまで達した。最近(七月上旬)は、やや持ち直してきたものの、それでも事業団の中間買入価格(一キログラム当たり一万三千九百円)を下回つている。
 このような生糸価格の低落は、生糸・絹織物市場の混乱を招いており、政府の決定した基準糸価等の安定帯価格に対する信頼性を著しく低下させている。
 したがつて、政府は、繭糸価格安定制度の適切な運用はもとより、緊急に効果的な市況改善措置を講ずることにより、蚕糸・絹織物業界における混乱の防止に努めるべきである。
 このような観点に立つて、以下の具体的な諸点につき政府の見解を質したい。

一 昭和五十九生糸年度に適用する基準糸価等の安定帯価格の決定に当たつて、関係織物業界等は、これら行政価格の据置きは生糸の需給実勢を無視する措置で、絹業者の疲弊、崩壊をも招きかねないと懸念されていた。
 ところが政府は、需給の改善を価格政策によつて実現する政策選択を行わず、昭和五十九年産繭における大幅減産対策と、六月の新生糸年度から開始した当面の絹業活性化対策によつて、生糸が低落している局面を打開する政策を選択した。
 そもそも、需給不均衡が深刻化する下で最近における生糸の価格は、事業団の買い支えによつて維持されてきた感が強い。しかし、膨大な負債と赤字を抱えるに至つた事業団の機能に対する不安感が基準糸価を大幅に割り込む市況を現出させた一因と考えられる。
 また、今回の糸価暴落の背景には、繭価協定を有利に展開させる目的での製糸業者の事業団への売り控え、繭減産対策の効果に関する不透明感等の要素も加わつているとみられているが、政府は今回の糸価暴落の原因をどのように分析しているのか。
 次に、依然として低迷している糸価の回復を図り、繭糸価格安定制度の信頼性を確保するため、政府はいかなる具体的措置を講ずる所存か。

二 農林水産省は、当面する生糸需給の不均衡を打開する手段として、昭和五十九年産繭の生産量を、昭和五十八年産基準収繭量より二十五パーセント減産する計画を生産者団体の協力で推進している。
 去る六月十四日に公表された昭和五十九年春蚕の予想収繭量は、一万八千七百トンで、前年の実績を十八パーセント下回ると予想されている。この繭減産の市況に及ぼす影響は、七月以降になつて現われると見込まれているが、その見通しと、夏秋蚕以降における繭減産計画の実施方針について明らかにされたい。

三 最近における糸価低迷の背景として、事業団の中間安定制度の運用に伴う生糸在庫の累積が指摘されている。
 昭和五十九年二月現在における事業団の生糸在庫数量は十七万五千俵に達している。このため、事業団の生糸の買入れ、保管等に伴う農林中央金庫からの借入金は、同じく本年の二月末で約千八百億円余に達し、昭和五十七年度決算においては、在庫生糸の評価損等に伴い五十七億円の赤字を出すとともに、四十三億円の繰越欠損金を生むに至つている。
 このような事業団の生糸在庫、財政状態は、繭糸価格安定制度の先行きに危機感を深めているが、制度の崩壊を招きかねないこの事態に政府はいかなる方針で臨むのか、明らかにされたい。

四 最近における構造的な糸価の低迷状態を克服するためには、需要に見合つた供給体制を確立することが当面の重要な課題と考えられる。
 昭和五十八暦年の絹の需給をみると、三十二万俵の総供給量(生糸換算、以下同じ)に対して国内需要量は二十九万二千俵であり、この間に三万俵弱のギャップがある。しかし、供給量の内訳をみると、生糸の国内生産量は約二十一万俵であり、国内需要量の約七十一パーセントを満たしているに過ぎない。
 政府は、農産物需給の基本的な理念として、「国内生産を原則とし、足らざるものを輸入する。」という考え方を示しているが、絹需給については、過大な、特に絹織物の輸入が国内の需給を混乱させる大きな要因となつている。
 したがつて、需給不均衡解消のために絹織物等の輸入については、その抑制に最善の努力を傾注すべきであると考えるがどうか。
 また、これに関連して、日韓及び日中間における二国間輸入協定交渉の経過と、交渉に臨む我が国政府の基本姿勢について明らかにされたい。

五 蚕糸業振興審議会は、昭和五十九生糸年度に適用する安定帯価格等の答申に際して付した附帯決議において、「新規用途等売渡しの推進を含め、関係業界の自主的努力と相まつて、生糸・絹需要の拡大を図るため一段と努力すること。」と指摘した。
 政府は、これを受けて昭和五十九生糸年度の始まる六月から実需者割当生糸の毎月定量売渡し(月二千俵)、特別売渡し(月八百俵)を設定する等の絹業活性化対策を実施しているが、この政策効果について明らかにされたい。

六 生糸・絹需要の低迷は、近年における我が国経済の停滞、生活様式の変化等による国内需要の大幅な減少によつてもたらされたといわれる。昭和五十七暦年における生糸等の用途別消費量をみると、和装関係需要が八十六・六パーセントを占め、洋服分野における消費は、近年伸びる傾向にあるとはいうものの需要量に占めるウェイトがまだ小さく、新分野における需要の開拓が今後の生糸、絹需給の動向を左右する重要な鍵になると考えられる。
 政府は、このため、繭糸価格安定法の一部改正を行うことにより、新規用途等売渡しの一層の推進に努めているほか、ジャパン・シルク・センターの設置による宣伝事業の強化、海外における需要開拓のための見本市の開催、絹素材の周知徹底と消費の拡大を図るためのアパレル業者等に対するシルク・ストッフの開催等各般の施策を講じているが、我が国の蚕糸・絹業の健全な発展を図るため、需要増進対策をより強化、拡充する必要があると思うがどうか。

  右質問する。