質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第三七号

核巡航ミサイル「トマホーク」の配備とわが国の非核三原則に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年七月十六日

秦 豊   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   核巡航ミサイル「トマホーク」の配備とわが国の非核三原則に関する質問主意書

 周知のごとく核巡航ミサイル「トマホーク」については、核搭載か非核かの識別は、搭載艦船の外観上からは不可能であり、その意味でもわが国の非核三原則との関連はきわめて微妙且つ曖昧と言わねばなるまい。よつて、次の諸点について質問する。

一 中曽根総理大臣は、トマホーク配備についての質疑に対し、「私の得ておる未確認情報では、ニュージャージーには核兵器は搭載しない、有核トマホークは搭載しないというような情報、未確認情報でございますが、そういうものがあるんではないかと思います。それから、ニュージャージーの日本寄港も今のところはない、そういうように私は聞いております。そういう問題は、だから今のところは起きないんではないかと思います。」(昭和五十九年七月九日参議院決算委員会速記録による。)と答弁されている。
 しかし、いやしくも一国の総理大臣の国会における答弁が、全く未確認な資料を踏まえたり、不確かな伝聞に依ることはあり得まい。
 政府は、“未確認情報”などではなく、米国政府からニュージャージーには当面(例えば年内は)核付き巡航ミサイル(TLAM-N)の搭載はしない等、何らかの感触を得ているのか。

二 ニュージャージー以外の艦船の核トマホーク搭載と日本寄港については、米国側から何らかの情報、あるいは感触を得ているのか。

三 核付きトマホークを搭載した米国の艦船の日本への寄港は、実際には少なくとも年内はあり得ないとの情報がもたらされているのか。

四 米国政府からの非公式な感触などが全くなかつたとするならば、先に示した中曽根総理の答弁は、何を根拠にされたのか。例えば、「トマホーク」問題について何らかの対米打診ないしは接触が最近行われた結果の答弁なのか。

五 米国防総省をはじめ、米海軍省の公式資料によると、海上・海中発射トマホークのうち、TASM(通常弾頭用対艦攻撃型)、TLAM-C(通常弾頭用対地攻撃型)、TLAM-N(核弾頭用対地攻撃型)の三種類すべてを積載出来る艦艇のタイプが明示されている。それによれば、戦艦-アイオワ級、巡洋艦-ロングビーチ級及びカリフォルニア級、駆遂艦-スプルーアンス級、潜水艦-スタージョン級及びロサンゼルス級等が列挙されている。
 言うまでもなくニュージャージーは、アイオワ級の第一号艦として、トマホーク搭載のため改装された艦であるが、ニュージャージーには、まずTLAM-N(核弾頭用対地攻撃型)が装備されており、通常弾頭用対地攻撃型のTLAM-Cは技術上の難点のため搭載が遅れたままになつているというのが軍事専門家の定説ではないのか。
 この点、先にあげた中曽根総理の答弁は、事実関係の誤認に基づくものと考えられるがいかがか。

六 前記米国側の公式資料によれば、核弾頭用対地攻撃型のTLAM-Nを搭載し、日本に寄港する可能性を有する米国艦船は戦艦一、巡洋艦二、駆遂艦十五、潜水艦二十三の合計四十一隻にのぼつている。
 米海軍がこのように「核付きトマホークの搭載艦」について、従来の核についての一般的な方針とは別に、ある程度、その存在と装備の可能性を明らかにすることによる対ソ抑止ないしは示威効果の増大をめざしていることは、広く知られているところである。
 従つて、わが国としてとるべき方針もまた従来の事前協議に関する余りにもパターン化された対応にとどまるべきではあるまい。
 具体的には、前記の米国側公式資料にあらわれた四十一隻にのぼる米国艦船の日本への寄港に当たつては、その都度、一隻ごとに核の搭載について、外交ルートを通じた確認を求めるべきではないのか。

七 わが国の国是たる非核三原則を堅持する立場からすれば、そうした確認とチェックを怠つて、「米国側から事前協議の申出がない限り、核の持込みなどはあり得ない」等の姑息な態度をとり続けることは、政府として怠慢であり、核巡航ミサイル「トマホーク」の配備に対する不安と疑念をつのらせている国民に対して、誠実さを欠き、またそのこと自体国是にもとるあり方であると考えるがどうか。

八 改めて質問をしておきたいが、ニュージャージーの寄港に当たつての確認は行うのか。また、その確認とは、具体的にはどのような方法によつて、どのようになされるのか。

九 また、核の有無の確認とチェックをニュージャージーのみに限定することは、他の核搭載可能艦船を放置、黙認することになり、その結果は、政府自らが非核三原則の空洞化を助長することにほかならず、論理的にも、到底整合しないと考えているが、この点について政府はどう考えているのか。

十 核をめぐる古典的な命題について、改めて政府側の今日的見解を質しておきたい。
 一九八一年五月のライシャワー元駐日米大使の発言、「核搭載のアメリカ艦船、航空機の日本への寄港・通過は事前協議の対象ではない。核の持込みとは地上への配置、貯蔵を指すものであり、このことは藤山・マッカーサー口頭了解において明らかである。」等のうち、重ねて尋ねるが、「口頭了解」の存在は認めるのか。また、それは、どのような内容か。

十一 「口頭了解」の中では、特に「イントロダクション」についての共通の理解があつたのか。日本側はどのように理解していたのか、また米国側はどうか。

十二 元来、日米間では、核の「持込み(introduction)」についての解釈と認識にギャップがありはしないか。

十三 政府は、核の「持込み」とはどのような態様を指すと考えるか。

十四 米国政府の理解は、持込みとは核兵器の配置や貯蔵を指すものであり、それ以外は、「トランジット」として一括し、「トランジット」には寄港、通航、飛来、訪問、着陸が含まれ、共に事前協議の対象外であるとするものではないのか。

十五 この核の「持込み」概念をめぐる日米間の理解のギャップこそが、国是たるわが国の非核三原則の空洞化につながつているとは考えないか。

十六 佐藤内閣時代の昭和四十三年以来、政府は、核積載艦船の領海通航は無害通航とは認めない、これは核持込みに含めるとの解釈をとつて来たが、TLAM-N(核弾頭用対地攻撃型)トマホーク搭載の米艦四十一隻が、第七艦隊として行動し寄港するという新たな段階を迎えた今、わが国政府は、どのように対応するのか。

十七 一九八一年五月のライシャワー発言の中には、「日米間の核をめぐるギャップについては、大使在任中に当時の外相であつた故大平首相に明確に指摘し、国民に事実を告げるべきであるとの示唆をし、大平外相の了解を得ていた。」とする箇所があるが、このような事実はあつたのか。

十八 「米国の核抑止力に依存する日本が、一方で核搭載艦の一時寄港や通過を公式に認めないのは国家としてのエゴイズムであり矛盾だ。」とする根強い意見が、米国サイドからも聞かれるが、これに対して、政府はどのように考えるか。

十九 国内、例えば与党内にも、「寄港や通過は配備につながる長期の持込みとは区別して、はつきりさせる時期である。」とする主張も依然として強いが、そのような論旨に対して、政府はどう考えるか。

二十 本年一月四日報道された毎日新聞の世論調査によると、「日本国内の米軍基地への核持込みや核を積んだままの米軍艦船等の寄港や領海通過について」、「核は持ち込まれている」が六十五%、「そうは思わない」が五%。「核を積んだままで寄港や通過をしている」が七十%、「していない」が三%、となつている。非核三原則は貫かれているとする政府としては、この国民の世論動向と認識については、どのような受けとめ方をしているのか。

  右質問する。