質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第三四号

大学の婦人教員・婦人研究者の地位向上と労働条件改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年七月六日

吉川 春子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   大学の婦人教員・婦人研究者の地位向上と労働条件改善に関する質問主意書

 「国連婦人の十年」最終年を目前にひかえ、わが国においても、男女平等を真に実現するための法整備、慣行の見直しが強く求められている。特に、雇用における平等について「婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」は、「すべての人間の奪い得ない権利としての労働の権利」と位置づけたうえで、婦人が婦人であるがゆえに、また、結婚や母性を理由に差別されてはならないことを明記している。これを受けてわが国においても、一九七五年、内閣総理大臣を本部長とする婦人問題企画推進本部を設置するなどのとりくみもなされ、また、発表された国内行動計画のなかにも「雇用における男女平等、育児環境の整備、母性と健康を守る対策」などが重点目標とされている。これらが実現し、国際婦人年が成功するよう婦人は期待している。
 しかし、わが国の婦人労働者の労働環境は依然きびしく、職場での男女差別を嘆く婦人は多い。
 ことに、学術・研究分野の職場においては婦人は排除されているに等しい。
 一九八二年度、大学における婦人教員の割合は、国立では五・一七%、公立では九・六%、私立では一一・四%であり、この一〇年間減少ないし横ばいという状況である。しかも、これらの婦人教員のうち、六六・三%は講師及び助手である(文部省『学校基本調査報告書』)。さらには、定職が得られず、非常勤講師等の不安定な身分で研究に従事している者も多い。また、オーバードクター期間は男性より一層長いことが当然視されている。
 科研費プロジェクト総合研究A「婦人研究者のライフサイクル調査研究」によると、婦人教員・研究者のなかで、独身者の割合四一・三%、結婚しても子どもを持たない割合二八・七%、夫婦別居生活の経験者の割合一七・三%と、一般と比べてきわめて高い。このことは、婦人が研究生活と家庭生活を両立させることの困難さを物語つている。
 「婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」をまつまでもなく、わが国は憲法をはじめ、労働基準法、勤労婦人福祉法、国家公務員法、地方公務員法などにおいて、男女平等の婦人の働く権利を明記している。また、教育・学術の発展という見地から、能力ある婦人教員・研究者を登用しないというのは大きな損失である。五月二〇日付の新聞によれば、東京天文台野辺山宇宙電波観測所の婦人研究者グループが、おうし座の暗黒星雲の中から、星の誕生や宇宙生成の謎を解く物質として世界中の天文学者が探していた星間分子「一酸化三炭素」を発見したということである。その他の分野でも多くの婦人研究者がすぐれた業績を残している。婦人が男性と同等に学術・研究の分野でもふさわしい地位が与えられることは、婦人の当然の権利であるとともに、学問の発展のためにも必要なことである。
 一九七七年、日本学術会議は、「婦人研究者の地位の改善について」の要望書を提出し、(1)婦人研究者に関する実態調査の実施、(2)婦人研究者の数を増加させるなど、能力を発揮しうる条件の整備、(3)採用・昇進についての男女の機会均等の保障、(4)母性を守るための措置、などについて政府の対策を求めている。これらは緊急に取りくまれなければならない重要な課題である。
 政府がこれらについて具体的施策を講じることを願つて、以下五点にわたつて質問する。

一 国公私立の大学教員のなかで、婦人の占める位置は先に示したように助手・講師が圧倒的であり、また、オーバードクター問題も婦人は深刻である。政府は、婦人研究者のおかれている地位・待遇など、その実態についてどの程度つかんでいるのか。もし、つかんでいないとすれば、早急に実態調査を行うべきであると思うが、どうか。

二 婦人研究者の数を増加させ、能力を発揮できる場を与えるための特別の施策が必要ではないか。
 ソ連では、アカデミー会員の一〇%は婦人が占めるように配慮されている。また、米国では、一万ドル以上の助成金を受けとる企業・大学等、連邦政府との契約者に対して、雇用主・機関は雇つている婦人が不当に少ない場合、目標値と計画をもつて婦人を優先的に雇用しなければならないという、罰則つきの政令が発せられている。大学等において婦人研究者の割合が、他の分野の婦人労働者の割合に比べて低いときは、何年か計画でその水準まで引き上げることが求められるのである。
 日本ではそのようなことが全くなされていないかというと、身体障害者の法定雇用率など他分野にそういう例がないわけではない。
 高校以下の婦人教員の伸びのめざましさを大学のそれと比較してみても、大学という特殊性からか、その数が極端に少ない。大学の婦人教員・婦人研究者の雇用の増大と機会の均等という点から何らかの対策を講じるべきであると思うが、どうか。政府は何か具体策をもつているのか。

三 大学の婦人教員・婦人研究者のなかでは、妊娠・出産による退職、また、それを理由にした採用・昇格時の差別が多い。退職しないまでも、産休を切りちぢめて出産直前まで、あるいは出産直後から就業し、そのために、子どもをもつ者(三三〇人)に対して、出産異常、切迫流産、重症のつわり等の経験者(一四六人)は四四・二%にのぼり、異常な高さだといえる(『婦人研究者のライフサイクル調査研究』による)。
 東京都においては、国際婦人年のとりくみの一環として、都立大学における婦人教員の積極的採用及び登用とともに、同大学の産前産後休暇中の授業担当者の代替として非常勤講師を確保する予算を計上している。
 大学の婦人教員・研究者が産休を規定どおり安心してとるために、本人または大学、研究所が必要とした場合は、産休中の代替職員(すでに採用している非常勤講師の活用も含めて)を確保できる制度を確立すべきと考えるが、どうか。

四 現在、勤労婦人福祉法第十一条に基づく、私大・民間研究所の教員・研究者を対象とした育児休業制度の実施状況はどうか。
 文部省が衆院予算委員会に提出した資料によれば、公立小中高校及び特殊諸学校の女子教職員の育児休業取得率は該当者の七〇%を越している。制度発足後六年目にして実に高い利用率であることをみれば、今日、育児休業法の対象をすべての職種に広げるべきであるという声は当然であり、大学の教員・研究者もその例外ではない。育児休業法を、大学の教員・研究者も含めたすべての職種の婦人に適用・拡大していくことが必要だと考えるが、政府はどう検討しているのか。

五 差別撤廃条約の批准と実効ある雇用平等法を求める世論の高まりのなかで、かなりおくれた分野となつてしまつた婦人研究者の問題について、政府の積極的なとりくみを求める次第であるが、これについて考え方を明確にされたい。

  右質問する。