質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第三二号

大幅な繭減産等による養蚕農家の経営危機打開策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年六月十二日

下田 京子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   大幅な繭減産等による養蚕農家の経営危機打開策に関する質問主意書

 今日、養蚕農家は、長期にわたる生糸・繭価格の低迷と、「過剰」による繭減産を余儀なくされ、その経営は極度に悪化し、養蚕経営からの離脱も続出している。しかも、自主的な繭減産の取り組みにもかかわらず、生糸在庫はむしろ累増し、蚕糸業はかつてない危機に直面している。
 こうした事態に対して、政府は、去る三月末、一九八四年産繭の計画数量を前年度基準収繭量より約二五%減産することを決めた。
 しかし、これでは養蚕農家の経営危機に拍車をかけ、わが国の伝統産業である養蚕の一層の衰退をもたらすことは明らかである。しかもこのことは、養蚕が、過疎化の進む山間地帯の農業の中心作物であるだけに、地域経済にも深刻な打撃を与えることは必至である。
 従つて、養蚕農家の経営を守り、山間地農業をしつかりと保護することは、政府の重大な責務と考える。こうした見地から以下質問する。

一 最近の生糸需給について

 政府は、大幅な繭減産の理由として、蚕糸砂糖類価格安定事業団(以下、「蚕糸事業団」という。)の生糸在庫の異常な累増をあげている。そこで生糸需給について尋ねたい。

(1) 生糸の消費量は、繭の自主的減産を開始した一九八一年の二十三万千俵が、八三年には十九万六千俵に落ち込んでいる。この原因についてどのように分折しているか。
(2) 絹織物の輸入量は、面積ベースでは、八一年の二、四一七万m2から八三年の二、二六五万m2に減つている。しかし、重量換算では、逆に、八一年の三、二五七トンから八三年の三、二六九トンにと増えている。つまり生糸量に換算すると輸入量が増えていることになる。この点をどう認識しているか。
(3) 特に、輸入絹織物全体に占めるキモノ地(小幅絹織物)の割合が、八一年の三四%から八三年の四三%に高まつている。このことは、絹白生地産地である京都の丹後地方等の機業地に大きな打撃を与え、その結果、生糸消費量を大きく減少させていると考えるがどうか。
(4) 繭の計画生産実施中の三年間、生糸生産量は、六十七万二千俵で、同期間の生糸消費量は六十七万千俵であり、三年間のトータルでは、生産と消費が均衡している。従つて、蚕糸事業団の生糸在庫の累増は、生糸輸入の結果がもたらしたというべきであると考えるがどうか。
(5) しかも、その輸入量が、八一年一万五千俵、八二年三万八千俵、八三年四万俵と、年々増加していることは、養蚕農家が苦労して繭減産に取り組んできたその努力をふみにじるものだと思うがどうか。

二 繭減産について

 生糸需給の具体的な数字が示しているように、「過剰」の最大の原因は、絹需要が減退しているにもかかわらず、それを無視した絹織物・生糸等の輸入にあることは明白である。
 しかるに、政府は、輸入数量が急増し、過去最高となつた七八年を基準にして、「輸入は大幅に削減しており、今度は国内繭の大幅減産が必要」と説明していることは、黒を白といいくるめるものであり、養蚕農家を納得させることができないのは当然である。そこで、今回の繭減産対策について尋ねる。

(1) 今回の繭減産が蚕糸事業団の生糸過剰在庫解消のための緊急避難措置というならば、まず少なくとも、過剰在庫解消までの間、絹織物・生糸等の輸入を全面的に停止するなど、輸入規制の強化こそ優先すべきではないか。
 特に、わが国の蚕糸業と絹業の一体的な発展を図る見地から、絹白生地の輸入規制について、中国、韓国等関係国に対し、積極的な交渉をすべきであると考えるがどうか。
(2) こうした輸入規制強化を前提に、繭減産を実施する場合には、福島県の例にみられるように、老朽桑園の改植・改廃など、生産基盤の強化にむすびつけた方法も含めて、地域の自主的な取り組みとすべきである。政府が上から目標を押しつける今回の繭減産のやり方は、撤回すべきだと考えるがどうか。
(3) 一九八三年産の桑園十アール当たり所得は、六万八、六四六円にすぎず、過去十二年間の中で最低の水準に落ち込んでいる。こうした事態であるだけに、減産に伴う減収を償い、経営を維持するために、国としての手厚い助成措置が必要と考えるがどうか。
(4) 今回政府は、経営維持安定資金の貸付を実施することとしているが、貸付対象農家の要件を弾力的に運用し、経営資金を必要とする農家がすべて借りられるようにするとともに、償還期間の改善等、真に経営改善に役立つ資金とすべきであると考えるがどうか。併せて、既借入金の償還猶予等の措置を講ずべきだと思うがどうか。
(5) 生糸・絹製品の需要を積極的に拡大することは、養蚕危機打開にとつて欠かせない課題と考えるが、和装品の消費拡大策について、政府は具体的にどのように進める考えか。
 また現在、養蚕、絹織物業界が取り組んでいる絹洋装品等による新用途拡大に対する助成措置を拡充すべきであると考えるがどうか。

三 異常低温等による桑被害対策について

 大幅な繭減産決定に追い打ちをかけるように、東北、北陸、関東など東日本の養蚕農家に深刻な打撃を与えているのが、豪雪、低温等による桑の被害と成育の遅れである。
 福島県の養蚕地帯である安達郡では、養蚕の掃立日が、桑の成育障害のため、例年の五月十八日から六月十日以降にと、三週間も遅れている。加えて桑の雪寒害や野ソ害のため、養蚕の掃立て不能になる農家も出ており、掃立回数の減少が避けられない状況にある。
 全国一の養蚕県である群馬県においても、桑の成育量が平年比で二~三割落ち込んでおり、伊勢崎市の場合には半分以下という深刻な事態にある。
 こうした桑被害、成育遅れ等に対する政府の具体的対応について尋ねたい。

(1) 異常低温等による成育遅延は、桑以外にも、稲、果樹、野菜等、全作物に深刻な被害を与えつつある。それだけに、成育状況を迅速かつ総合的に把握する体制を確立し、状況に応じた技術指導や、あるいは、災害対策に万全を期すべきであると考えるがどうか。
(2) 豪雪、異常低温等によりすでに大きな農作物被害が発生しており、さらに養蚕の場合も桑の成育障害による減収が避けられない状況にある。これら災害を一連のものとして、被災農家の救済のため、天災融資法の発動、自作農維持資金の特例枠の設定、既借入金の償還条件の改善措置等、資金対策について万全の措置をとるべきであると思うがどうか。
(3) 蚕繭共済制度における損害評価に当たつては、桑の成育遅れ等による収繭量減を適切に評価するとともに、共済金の早期支払いの実施が求められているが、具体的にどのように対応するのか。
 また、共済目的の種類の区分となる掃立期日については、桑の成育遅れが原因で、その期日を過ぎて掃立てされた場合も、実態に即して弾力的に対応すべきであると考えるがどうか。

  右質問する。