質問主意書

第101回国会(特別会)

質問主意書


質問第二八号

中曽根総理の「防衛政策論」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十九年五月八日

秦 豊   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   中曽根総理の「防衛政策論」に関する質問主意書

 中曽根総理は、総理就任以前の昭和五十五年四月二十九日から五月九日にかけての中国訪問の際、華国鋒首相(当時)や伍修権人民解放軍副総参謀長らと、国防問題について意見を交換した。その訪中を終え帰国した直後、以下次のように、防衛政策全般について発言したと伝えられる。
 「日本はまず、アクセルを踏む前に車体の検査が必要である。その対象は、第一に国民の防衛意識と合意の形成、第二に日本としての防衛戦略の確立、第三に現防衛体制の総点検、第四に財政との調整である。日本の防衛についてはアメリカからの外圧からこれが問題とされ、しかもややもすれば、GNP比の数字や語呂合わせのような印象で論じられ、防衛に対する現状認識を持たない財政当局所管の防衛費論争になつていることは全く残念である。防衛の第一義は自主独立の精神からくる国民精神の問題である。次に世界戦略である。そして、それらを経て外交や資源や民心や国内防衛体系や財政調整に下つてゆくべきである。」(特別レポート「解き放たれる『防衛費』-国会論議が避けているもの-」月刊誌「選択」昭和五十九年三月号参照)
 以下、この伝えられる発言に関して、いくつかお尋ねしておきたい。

一 前文で引用したような発言をされた経緯および事実の有無を明らかにされたい。

二 発言の有無を別としても、前文に引用した発言を「一つの防衛政策論」としてみるとき、中曽根総理は、このような防衛政策論について、どのようにお考えですか。

三 「アクセルを踏む前に車体の検査が必要である。」とする捉え方は、今まさに重要だと考えるが、総理の見解を伺いたい。

四 “車体の検査”に相当する重要な一つは、“現防衛体制の総点検”ではないかと考えるが、見解を伺いたい。

五 中曽根総理としては、現防衛体制の総点検を考えるとすると、どんな方向での総点検が考えられますか。
 この中に、陸・海・空三自衛隊間のバランスの再点検と防衛力整備の重点化は含まれますか。

六 これまでの防衛力整備については、防衛力整備の優先順位が、極めて曖昧と、中曽根総理はお考えになりませんか。

七 中曽根総理は、今後の防衛力整備について、三海峡封鎖等を含めたシーレーン防衛を、特に、重視されるお考えですか。
 それとも、国土防衛を最重点とされますか。あるいは、領空の防空体制の強化が重点ですか。

八 行政改革と財政再建を指向する中曽根政治は、本来あらゆる聖域を認めないとする前提に立つべきではありませんか。それとも、防衛力整備は、対米関係重視の一環として、今後とも格別の配慮の対象、つまり一種の聖域とされるのですか。

九 前文で引用した中曽根総理の“防衛政策論”によれば、GNP比一パーセント論は、防衛論における根幹でもなければ、本質でもない、換言すれば、部分に過ぎないとするご見解ですか。

十 中曽根総理が、前文で引用した意見を展開されたのは、今から四年前ですが、現在では日本としての防衛戦略は、既に確立されているとお考えですか。

十一 中曽根総理の描いておられる「わが国としてのあるべき国家防衛戦略」とは、いかなるものでしようか。

十二 わが国の防衛政策を考えるうえで、いま最も肝要なことは、「ビルド・アンド・ビルド」ではなく、「スクラップ・アンド・ビルド」の視点ではないでしようか。これまでの、また、現在のわが国の防衛体制を総点検し再検討して、防衛力整備の重点化と優先順位をより厳しく打ち出すことではないでしようか。また、それこそが、国の安全保障に第一義的な責任を有する政治の役割りであると考えますが、総理並びに政府の見解を示されたい。

  右質問する。