質問主意書

第100回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一八号

内閣参質一〇〇第一八号

  昭和五十八年十一月二十二日

内閣総理大臣 中曽根 康弘   


       参議院議長 木村 睦男 殿

参議院議員小笠原貞子君提出アイヌ系住民の民族的権利の保障等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員小笠原貞子君提出アイヌ系住民の民族的権利の保障等に関する質問に対する答弁書

一について

 北海道旧土人保護法の存廃については、北海道庁を始めとする地元関係者において検討が行われていることから、その結果等も尊重しつつ検討していくことが必要であると考える。

二について

 北海道を始め千島等においても、ウタリが古くから住んでいたということは、文献等からみて通説になつていると承知している。

三について

(1) 教科書の検定は、教科書の記述が客観的で公正なものとなり、かつ、適切な教育的配慮がなされたものとなるようにとの立場から行つているところである。
 御指摘の検定についても、このような立場から行つたものである。
(2) 「北方地域総合実態調査書」(昭和四十七年三月)は、北方地域における戦前の実態を把握し、同地域に関する事務の参考に供するため、「北海道概況」(昭和十六年)等既存の資料を収集、整理することにより作成されたものであり、同調査書中の用語は、当該資料中の用語が使用されたものである。
(3) 学校教育及び社会教育を通じ、基本的人権尊重の教育は極めて重要であると考えており、特に、学校教育においては児童・生徒の発達段階に即し、各教科、道徳、特別活動等学校の教育活動全体を通して基本的人権尊重の精神のかん養に努めているところである。
 今後とも、基本的人権尊重の教育が一層適切に行われるよう指導してまいりたい。

四の(1)及び(5)について

 アイヌの民俗文化財については、既に、衣食住等の生活用具コレクション及びまるきぶねを重要有形民俗文化財に指定し、ユーカラ、アイヌの建築技術及び儀礼並びに春採と阿寒のアイヌ古式舞踊を記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として選択している。
 また、アイヌの衣食住、生業、芸能等の民俗文化財については、北海道教育委員会が行う北海道内アイヌ民俗文化財についての総合的な調査及び地域伝承活動並びに保存団体が行うアイヌの習俗に関する記録映画の作成について助成を行い、その保存の充実に努めているところである。
 なお、アイヌ古式舞踊については、重要無形民俗文化財として指定することを現在検討中であるが、今後とも、歴史的価値のあるものについては、文化財保護審議会の審議を経て指定又は選択の措置を考慮してまいりたい。

四の(2)及び六の(2)について

 地域の特色を示す民俗文化財あるいは地域の歴史の流れを裏付ける遺物・文書等の歴史資料の保存・活用を図るための施設として、地方公共団体が設置する歴史民俗資料館の建設助成を進め、民俗文化財の地域における拠点作りを行つているところであり、御指摘のような国の施設を設置することは考えていない。

四の(3)及び(4)について

 いわゆる人間国宝とは、重要無形文化財の保持者として認定されている者のことであるが、この認定は、芸能や工芸技術における高度に練磨された芸術的な伝統技法の保存のために行われる措置であつて、口頭伝承や習俗等については、事柄の性質上該当しないものである。

四の(6)について

 水産資源保護法により内水面におけるさけの採捕は禁止されており、漁業の免許を受けた者又は増殖事業や試験研究等のため知事の許可を受けた者が採捕する場合はこの限りではないとされているが、ウタリが行うカムイノミ等の際におけるさけの採捕はこれに当たらない。
 なお、カムイノミ等には飼育されている熊等が用いられていると承知している。
 また、国有地を祭り等のため一時的に使用する場合は、一般に国の事務・事業等の遂行に支障がない場合で真に止むを得ないと認められるときは、所要の手続を経た上、これを認めることができる。

四の(7)について

 アイヌの衣服、衣装、民芸具などの伝統工芸品類の製作に携わる技能者の養成については、現在、公共職業訓練校からの委託訓練として、北海道ウタリ協会各支部が木材工芸科、織布科の職業訓練を実施しているところである。

五について

 ウタリの全道的な利用施設については、北海道の「第二次ウタリ福祉対策」においてウタリ会館の建設が計画されており、北海道は、北海道ウタリ協会と話し合つていると聞いている。

六の(1)について

 政府の実施しているウタリ対策事業は、ウタリが古くから居住している北海道において、ウタリを取り巻く社会的、経済的環境等にかんがみ、その改善向上を図るため、北海道が自ら実施しているウタリ諸対策について、国の立場からもこれに協力し推進しているものである。
 政府としては、北海道以外の地域において、北海道におけるような情勢があるというようなことは承知していない。