質問主意書

第100回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一六号

小樽運河と石造倉庫群の全面保存等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十八年十一月十四日

小笠原 貞子   


       参議院議長 木村 睦男 殿


   小樽運河と石造倉庫群の全面保存等に関する質問主意書

 小樽市の運河と石造倉庫群は、神戸の異人館通り、長崎のグラバー邸のある南山手地区と並び、日本の近代史を象徴する三大景観と称されている。
 ところが、運河を埋め立てる計画は着々と進行し、「十一月中旬にクイ打ち」を行うという決定的な段階に至つている。このことは、日本の文化財保護の価値からも、小樽市の経済的効果の面からも、極めて重大な過失を歴史に残すことになる。
 しかも、運河の埋め立ては、都市計画法に基づく街路計画の一環として強行されようとしているのである。都市計画法の理念からも逸脱したものと指摘せざるを得ない。昭和五十年における文化財保護法の改正で、都市計画法の中に「伝統的建造物群保存地区」を取り入れ、文化的遺産を都市づくりの重要な柱とすべきことを明記した。
 「覆水盆にかえらず」とのたとえのように、一度失われたものは再び生き返らない。
 さし迫つた埋め立て・クイ打ちを一時ストップし、道路の代替ルート等を含めて再検討を行い、運河と石造倉庫群の全面保存を図る立場から、以下質問する。

一 現在進められている運河を半分以上埋め立てる部分保存では、文化的、歴史的な伝統の保存とは全く相入れないものである。
 現に、文部省及び文化庁当局は、そのことを明確に認めている。昭和五十四年三月二十八日の本院予算委員会第四分科会における私の質疑に対し、吉久文化庁次長(当時)は、「石造倉庫群とその周辺を取り巻く運河は、一体のものとして歴史的風致を形成しているというふうに考えるわけで、これらは一体として伝統的建造物群保存地区として保護するのが最も望ましい」とし、「部分保存の考えは持つていない」と答えている。同時に、内藤文相(当時)は、「この文化財を失うことは、これは日本の偉大な損失だと思う。これだけは残しておきたい、後世に残す誇りがなくなつてしまう。」とまでのべた。
 にもかかわらず、今日の事態は、内藤元文相のいう「偉大な損失」の道を突き進んでいる。文化遺産を継承していく行政としては、自殺行為の何ものでもない。その価値に対する考え方が変らないとすれば、拱手傍観するのではなく、全面保存のため、あらゆる努力をすべきではないか。

二 小樽市民の中では、埋め立て工事を目前に、あらためて事の重大性に、郷土愛に根ざした大きな論議がまき起つている。本来、運河埋め立ての先頭に立つていた経済界の代表である商工会議所の首脳が、「全面保存で小樽市の再生、町づくりを目指すべきである。」との見解に立ち、また、「小樽運河百人委員会」が全面保存の十万人署名を集めきろうとしている。
 埋め立て決定以降のあらたな環境に立ちいたつている小樽市民の多くは、「なんとか残したい」と切実に願つている。この市民の声を受けとめ、北海道庁、小樽市に対し、指導を含めた話し合いを早急にすべきと思うが、政府の考えはどうか。

三 運河の全面保存をする場合、埋め立て部分の道路に代るルー卜を求めることになり、都市計画の変更手続きが必要となる。
 その場合、

(1) 道・市が都市計画の変更手続きを都市計画法第二十一条に基づき申請を行つた場合、国は変更の認可を行うべきと思うがどうか。
(2) すでに、今年度の予算で運河埋め立てのクイ打ち工事の予算がついているからという理由で、都市計画の変更は認められないということはないと思うがどうか。
(3) 地域自治体が運河を全面保存し、街路計画を変更する場合、国がそのことを始めからストップをかけたり、その変更の手続きを行政的に行わないうちに、「今まで通り実施するよう」求めたりすることは、都市計画法にもとる行為といわなければならないが、政府の見解を問う。

四 小樽市は、全住民に配布した広報の中で、「事業計画の決定、変更など手続きにしたがつて進んできた。」、だから「国(建設省、北海道開発庁、運輸省)では小樽市に対し、方針どおり実施するよう、強く確認を求めてきています。」と宣伝している。そこで、次の点について尋ねる。

(1) 先に記したように、市民の中に大きな変化がでてきた中で、「国が方針どおり実施するよう、強く確認を求めた。」ことは事実なのか、政府の明確な答弁を求める。
(2) 次に、このことは、都市計画など事業計画の変更を頭から認めることは出来ないという指摘であり、法の趣旨をゆがめるものではないか。
 同時に、真剣に小樽市の町づくりを考える市民に対する背信的な行為でもあると思うが、見解を問う。
(3) 更に重大なのは、その広報で、「小樽市の方針変更は、不信を招き、すべての公共事業に、重大な支障が出てくる。」とし、「見直しの運動や、決定を覆すことが、小樽市を孤立させ、危うくさせる。」と断定していることである。いつたい国は、もし自治体が運河の全面保存のため事業計画の変更を行つた場合、“すべての公共事業に重大な支障が出てくる”ような措置を行い、“小樽市を孤立させ、危うくさせる”ようなことを考えているのか、お尋ねしたい。
 広報という税金を使用してのこの様な宣伝を適切と考えるのか、併せて見解を伺いたい。

五 小樽市や北海道では、全面保存しない理由に、いま進められている街路計画に代り得る代替ルートがないとしている。しかし、例えば、市が老巧化した第一、第二、第三ふ頭をドッキングして、大型化し再開発する港湾計画を策定中である。この中で、道道臨港線の代替ルートが可能であることを市長自身が認めており、小樽市の総合都市計画の策定にあたり、運河埋め立てを進言した横浜国立大学の井上孝教授も同様の考えを示している。このことからも、運河をつぶしての臨港線道路の建設を強行するのではなく、港湾の再開発計画の中で一体として検討すべきでないのか。

六 運河を埋め立て、臨港線を急ぐ理由として、交通の渋滞をきたすからとしている。また“港湾再開発計画がまだ先のことである”とするなら、逆に、道路計画でも、運河埋め立てのヨコの部分の道路ばかり急ぐのではなくて、いわゆる運河埋め立てとは全く関係ないタテの部分、即ち運河部分から稲北及び長橋バイパスの道路計画を先に手をつけていくことこそ求められている。ヨコの部分が完成しても、それにつながるタテの部分が解決されなければ交通渋滞も解消されない。ほとんど手がつけられていないタテの部分の計画をまず先行することが必要ではないか。そのことにより、港湾再開発計画も含めて様々な検討が出来るのではないか。

七 タテの部分の運河から稲北までの道路計画について尋ねるが、当然関係住民の理解を十分に得ることが前提である。この部分は、支障物件も約八十棟もあり、反対住民も相当数いる。現在までの建設状況の推移と見通しについて、具体的に答弁願いたい。
 また長橋バイパスについて、約五・四キロメートルのうち、どれ位の用地買収が終つたのか明らかにされたい。同時に、事業が完了するのはいつなのか、現状と見通しについても答弁願いたい。

  右質問する。