質問主意書

第98回国会(常会)

質問主意書


質問第一七号

近代建築物の保存に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十八年五月二十六日

市川 正一   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   近代建築物の保存に関する質問主意書

 明治以降建設された近代建築物のうち、とくに優れたもの百棟あまりは、既に重要文化財に指定され保護されている。しかし、重要文化財に指定されていないもののなかにも、建築技術的にも歴史的にも優れており、保存が望まれているものが多く、また大正期以後のものは、年代的に新しいため重要文化財に指定されていないものも少なくない。
 優れた建築物は、その周辺の自然環境や社会環境と一体となつて、その地域の文化を構成する重要な要素であり、そこに住む人々の精神的な糧ともなつている。これらの価値ある建築物は、その所有の形態が私的であれ公的であれ、国民にとつて共有の文化的遺産ともいうべきものであつて、その保存は国民的課題である。
 ところが、高度経済成長政策によつて、都市に資本と人口が集中した結果、地価の高騰を招き、また新しい都市機能や大規模な新しい建築物の必要性が生じ、これを充足するため、都市再開発が促進され、都市の自然的、歴史的環境が破壊され、過密がいつそう進行した。資本は、より高度な経済性、効率性を求める結果、価値ある建築物が惜しげもなく取り壊され、そのあとには、資本にとつて機能的には優れていても、建築物としては何の変哲もない大規模なビルが林立することになつているのが現状である。
 こうした状況の下で、日本建築学会は、明治以降の建築物を全国的に調査し、一万三千棟のなかから、とくに優れた二千棟近くの建築物の保存を、その所有者によびかけている。また、全国各地において様々な形で近代建築物を保存しようとする運動が、多くの困難に直面しながらも、貴重な成果を生んでいる。しかし、学会や住民運動によつて保存される建築物には限りがあり、このまま都市再開発がすすめられるならば、価値ある近代建築物は、次々とその姿を消していくことになるであろう。
 さきに衆議院において、わが党の浦井洋議員が、主として神戸市におけるこの問題をとりあげ、また私も先年、東京芸術大学の“奏楽堂”保存問題にとりくむなどの経験を通じて、国と地方自治体が、国民共有の文化的遺産である優れた建築物の保存対策を実施することは緊急の課題であることを痛感したところである。
 この立場から、以下質問する。

一 価値ある近代建築物は、国民共有の文化的遺産として、その保存を促進すべきであると考えるが、この問題にたいする政府の基本的見解と立場はどうか、明らかにされたい。

二 建築物の単体保存については、文化財保護法にもとづいて、重要文化財、国宝などで保護、保存の対象としている。しかし、重要文化財の基準には該当しないが、建築技術的、歴史的など、価値ある近代建築物については、その保存が望まれながらも放置され、取り壊わされているのが現状である。
 そこで、例えばこうした近代建築物については、文化財保護法による指定対象を広げ、重要文化財に準じ、それにふさわしい保存をはかるなど、必要な保存対策を充実させるべきであると思うがどうか。

三 市町村が定める伝統的建造物群保存地区については、文化財保護法にもとづいて、一定の補助が実施されているが不十分であるので、この内容を拡充する必要があると思うがどうか。

四 建築物の建て替えに際して、ファサード保存やワン・スパン保存によつて近代建築物の保存を考慮しても、建築基準法および消防法の制約から断念せざるを得ない事態も生まれているので、安全性の確保を前提にその運用に配慮する必要があるのではないか。

五 公共建築物のうち、近代建築物の優れたものについては、可能な限り保存するため、必要な体制をつくるべきではないか。

六 公共建築物を新設する場合、利用目的にそつた使いやすいものにするとともに、歴史に残るような優れた建築物にするため、管理者とともに専門家や実際にその建築物を利用する職員や利用者の代表などで構成される委員会等をつくり、十分な審議をもとに建設すべきであると思うがどうか。
 また、設計にあたつて、現行「設計入札制度」は、設計の質よりも経費を重視するため、結局、建築物の質の低下をきたしているので、この制度は抜本的に再検討すべきではないか。

七 価値ある建築物の保存について、民間において積極的な活動がすすめられているが、文化的遺産を守る立場から、政府としてもこれに積極的な援助を実施すべきであると思うが、見解はどうか。

  右質問する。