質問主意書

第96回国会(常会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質九六第二号

  昭和五十七年一月十九日

内閣総理大臣 鈴木 善幸   


       参議院議長 徳永 正利 殿

参議院議員黒柳明君提出限定核戦争等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員黒柳明君提出限定核戦争等に関する質問に対する答弁書

一について

 レーガン米大統領等のいわゆる核兵器の限定的使用等に言及したと言われている発言は、基本的には米国としていかなる攻撃に対してもこれに対応し得る有効な態勢をとることを、その抑止力の基本としているという趣旨を述べたものと認識している。
 米国としては、核兵器の使用がもたらす結果の深刻さを強調し、また、軍備の削減を可能な限り追求して平和確保に最善を尽くさなくてはならない等述べており、核戦争に至るような対決は避けなければならないという基本的立場を有しているものと考えている。
 なお、米国政府は、昭和五十六年十月二日戦略兵器近代化計画を発表したが、これは米国として核抑止力の有効性を高めることを目的としているものであると考えている。

二について

 第二次大戦後米ソ間の直接の武力衝突が回避されてきたのは、双方の自制と相互抑止によるところが少なくないと考える。米ソ両国は、更に御指摘のごとき諸条約の締結等を通じて相互抑止をより安定的なものとし、ひいては両国関係全般の改善を図る努力を払つてきている。
 国際社会の平和と安全をより確固たるものとしていくためには、米ソ間でかかる努力が更に強化されることが不可欠である。かかる観点から、政府としては、特に、昭和五十六年十一月末に開始された中距離核戦力削減交渉を始めとする両国間の軍備管理の話合いが進展することを強く期待するものであり、引き続きその動向を注視してまいりたい。

三について

 トマホークの開発計画との関連で、米議会資料等において、トマホークの潜水艦、水上艦艇等への配備に関する計画が示されたことは承知しているが、トマホークは、通常弾頭及び核弾頭の双方を装備できる核・非核両用兵器であり、また、トマホークを含め巡航ミサイルは、まだ米国において開発中の段階であると承知している。
 また、米国政府は、昭和五十六年十月二日核弾頭搭載巡航ミサイルを既存の潜水艦の一部に配備する旨述べているところではあるが、この米国政府の発表においても実際の配備は千九百八十四年以降とされており、また、その具体的な展開の態様等についての決定は下されていないと承知している。
 いずれにせよ、艦船によるものを含め核の持込みが行われる場合はすべて事前協議の対象となり、また、核持込みについての事前協議が行われた場合には政府として常にこれを拒否する所存であることは、従来から政府が説明しているとおりである。

四について

 極東におけるソ連の核配備に対しては、あくまで非核三原則を堅持しつつ、日米安保条約に基づき米国の核抑止力に依存することにより我が国の安全を確保している。

五について

 我が国は、核の脅威に対しては、その態様のいかんを問わず、米国の核抑止力に依存することとしており、我が国自ら核兵器を保有してこれに対処することは全く考えていないところである。また、防衛庁を含め政府として、そのための研究、訓練等を行つているということもない。
 なお、放射能に汚染された状況の下における防護に関する教育訓練については、従来からある程度これを実施してきている。

六及び七について

 艦船又は航空機による核の持込みを含め核の持込みが行われる場合はすべて事前協議の対象となるということは、合衆国軍隊の装備における重要な変更を事前協議の対象とする交換公文の規定及びいわゆる藤山・マッカーサー口頭了解から十分に明らかであり、この点に関し日米間に了解の違いはないと考える。装備における重要な変更について事前協議を行うことは、米国の日米安保条約上の義務であり、核の存否を明らかにしないという米国の政策がこの義務に優先することはあり得ず、また、米国政府が日米安保条約上の義務を誠実に遵守する旨繰り返し確言していることは従来から政府が説明しているとおりである。
 したがつて、政府としては、この問題について米国政府との間で話合いを行うというようなことは考えていない。

八について

 我が国は、核の惨禍が二度と繰り返されてはならないと願つており、自ら平和憲法の下で非核三原則を堅持するとともに、国連、ジュネーヴ軍縮委員会等の場において、核廃絶という究極的目的に向かつて現実の国際関係の中で実現可能な具体的措置を一歩一歩進めて行くための国際的努力の必要性を強く訴えてきている。
 最近では、昨年の国連総会の際一般演説において、米ソ両国に対し核軍縮努力を要請し、特に核軍備競争を停止するための第一歩としての核実験全面禁止の実現を緊急の課題として訴えた。この核実験全面禁止に関しては、更に同総会において米・英・ソ三国間交渉の再開を求め、ジュネーヴ軍縮委員会における本件作業部会の設置を要請する決議案を作成し、他の共同提案国と共にこれを提案し、右決議案は圧倒的多数の支持を得て採択されたところである。
 また、核実験の全面禁止の検証については、ジュネーヴ軍縮委員会で続けられている地下核実験探知制度の確立のための努力に対し、従来から専門家を派遣して貢献してきているが、特に千九百七十八年十月には東京において地震専門家会合を開催する等、我が国の進んだ技術を生かした特色のある貢献を行つてきている。
 更に、我が国は、あらゆる国のいかなる核実験にも反対するとの立場から、従来からかかる我が国の立場をあらゆる機会をとらえて表明するとともに、核実験の実施に対して繰り返し遺憾の意を表明している。
 このほか、核不拡散条約の締約国として核不拡散体制の普遍化を訴えており、また、兵器用核分裂性物質の生産停止を重視する立場から、本件に関する審議を要請する決議の共同提案国となる等着実な努力を積み重ねてきている。