質問主意書

第96回国会(常会)

質問主意書


質問第三一号

ブロック米通商代表書簡にある通商産業省が作成したとされる市場開放対策に関する首相談話の案文を指示する添付文書に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十七年七月二十八日

市川 正一   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   ブロック米通商代表書簡にある通商産業省が作成したとされる市場開放対策に関する首相談話の案文を指示する添付文書に関する質問主意書

 日本の農業やその他の産業分野に重大な影響を与える市場開放対策第二弾は去る五月二十八日決定されたが、これに先立つ五月十一日、ブロック米通商代表がわが国首脳にあてた書簡には、農産物の完全自由化の要求とともに「日本の総理大臣の日本市場開放政策に関する声明」(草案)という添付文書があつたことが、報道機関によつて明らかにされた。
 報道によれば、その内容は、わが国の首相が発表するであろう談話の内容について詳細に指示したもので、わが国をアメリカの「属国扱い」する態度は、外交常識を逸脱する暴挙といわなければならない。しかも重大なことは、こうした文書を一言の抗議もすることなく受けとつている政府の卑屈な態度である。この政府の態度は、現在の日米関係の実態を象徴的に示すものである。
 さらに驚くべきことは、この文書が、実はわが国の通産省が作成してアメリカに渡し、アメリカの意思として表明するよう依頼したものであると報道されていることである。また、その内容も、「日本国内のいくつかの産業分野に衝撃を与えるが、日本は、自由貿易体制の恩恵を受けている以上、避けられないことだ。」などとして、自動車、鉄鋼、電器などわが国の大企業の市場を守るため、農業、皮革産業、中小企業に打撃を与えてもやむをえないという重大な立場に立つている。
 日米経済摩擦の真の解決のため、日本の農業、中小企業を守り日本経済のつりあいのとれた発展をはかるうえで、また外交のあり方のうえでも、今回の事態は、政府が責任をもつて調査し、その全容を国民の前に明らかにするとともに、その責任の所在を明確にすべき重大な問題であるので、以下、政府に質問する。

一 ブロック米通商代表が櫻内外務大臣に手渡した五月十一日付の政府四首脳あて書簡並びに添付文書について

(1) 書簡が届いていることは、五月十五日午前の宮澤官房長官の記者会見で確認されているところであるが、その書簡に総理大臣の市場開放政策に関する声明の内容を指示した添付文書があつたことは、その後、報道機関によつて写真入りで紹介されており、この文書が存在することは明らかである。そこで、これらの文書の内容を明らかにされたい。
(2) 一国の首相にたいし、政策決定の方向からその発言の内容にまで立ち入り、指示するアメリカの態度は、まさにわが国を「属国扱い」するものであり、内政干渉もはなはだしいものと考えるが、政府の認識はどうか。
(3) 書簡に関連して農水省は、外務省を通じて、農産物の自由化について抗議的見解をアメリカ側に伝えたようであるが、内政干渉にわたる添付文書について、政府がなんらの抗議もおこなつていないのはなぜか。

二 ブロック書簡の添付文書は、実は日本の通産省が作成してアメリカの通商代表部に持ち込んだとされている点について

(1) 「通産省の出したものと一言一句違わないことをある筋から確認した(大蔵省筋)」、「某上司が指揮し、某さんが英文にしたことを知らされた。内容も変わつていないという(通産省筋)」、「指摘されるその件は暗黙の事項です(米側関係筋)」など、添付文書は通産省が作成してアメリカに持ち込んだと報道されているが、事実はどうか。
(2) 「外務省が直ちに在米大使館を通じ、USTR(米通商代表部)事務当局に対し『どういう性格の文書か』と照会したところ、間もなく、問題の追記(添付)文書はUSTRが作成したわけでなく、日本側通産省が持ち込んできたもので、内容がよくできていたのでそのまま渡した、と回答してきた。」との報道があるが、これは事実か。
(3) 外務省が、本件についてすすめている調査の経過と結果、その内容を明らかにされたい。

三 通産省が首相談話の骨子をアメリカへ通報したとされる点について

(1) 報道によれば、通産省が調査した結果、文書は書いたことはないが、「五月七日、通産省で起草していた首相談話の骨子を電話で米通商代表部などへ通報した。」ことになつている。その通報の内容を詳細に明らかにされたい。
(2) 首相談話の骨子を通報することを、通産省のどのレベルで決定されたものが、通産大臣は了解していたのか、明らかにされたい。
(3) 鈴木内閣総理大臣は、米側に通報する時点で、通報することを了解していたか。また、その内容を承知していたか、明らかにされたい。
(4) 鈴木内閣総理大臣が五月二十八日に発表した談話は、いつ最終的にその内容が決定されたのか、明らかにされたい。
(5) 通産省が、首相談話の内容が決定される以前に、その内容をアメリカ側に通報していたとすれば、通産省がアメリカの圧力をつかつて首相に指図させるものであり、自ら主権を放棄するというありうべからざる暴挙であるといわなければならないが、政府の認識はどうか。

四 ブロック書簡の添付文書の内容にたいする政府の見解について

(1) 添付文書について、全体としてどのような評価をしているか、うかがいたい。
(2) 「日本国内のいくつかの産業分野に衝撃を与えるが、………避けられないことだ。」と添付文書は述べているが、いくつかの産業とは、日米経済摩擦の現状からすれば、それは農業であり、また皮革産業をはじめ中小企業であることは明白である。政府はこれを認める立場に立つているのかどうか、明らかにされたい。

  右質問する。