質問主意書

第96回国会(常会)

質問主意書


質問第一四号

航空事故調査委員会設置法の解釈と運用の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十七年五月十一日

秦 豊   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   航空事故調査委員会設置法の解釈と運用の実態に関する質問主意書

 去る二月九日午前、羽田空港へ進入降下中の日本航空DC8型機が、同空港沖三百メートルの海上に墜落した。航空事故調査委員会設置法(以下「設置法」という。)が、昭和四十九年一月十一日に施行されて以来、最初の本格的な航空事故(以下「本件事故」という。)である。航空事故調査委員会(以下「委員会」という。)も、設置法の定める手続きに従い、鋭意、事故の原因究明に当たられていることと拝察される。
 一方、委員会発足以来の活動をみるに、設置法立法の趣旨が十分に生かされていないという前提で、本件事故に先立つ昭和五十五年九月七日、宮城雅子氏を代表幹事とする航空法調査研究会から「航空事故防止のための提言」--事故調査を中心として--(以下「宮城提言」という。)が、運輸大臣に手渡され、また委員会等各方面に送付されているとも聞いている。
 そこで、本件事故の原因究明中という時期をあえてとらえて、設置法の解釈と運用の実態につき、本件事故の調査及び宮城提言を媒介にして、以下、運輸大臣及び委員会の御見解をあらかじめ承つておきたい。

一 委員会の設置が、設置法第一条の「航空事故の防止に寄与すること」という目的を実現し得ているや否やの要件は、したがつて、憲法第七十三条第一号の規定するが如く、設置法が誠実に執行されているや否やの要件は、設置法第三条第二号の「勧告」及び同第三号の「建議」が行われているや否やということなのか、その他右要件の具体的内容を明らかにされたい。

二 「委員会を運輸省に置く」と規定した設置法第二条が、たとえば、土地収用法第五十一条の如く、「運輸大臣の所轄の下に設置する」となつている場合とでは、組織法上どのような相異があるのか、具体的に明らかにされたい。

三 宮城提言によれば、委員会発足以来、設置法第三条第二号にいう勧告及び同第三号にいう建議が行われたことがなく、また同じく同第四号にいう調査研究が行われたと発表されたこともないとのことであるが、

(1) 右勧告、建議及び調査研究が行われなかつた理由は何か、それぞれ示されたい。
(2) 委員会の勧告、建議及び調査研究に係る各能力は、どのようにして確保されてきているのか、人的構成・調査研究施設その他具体的に明らかにされたい。併せて、それら能力が必要十分なものであるとする根拠を示されたい。
(3) ところで、委員会運営規則(以下「運営規則」という。)第七条によれば、事故原因の究明は「航空事故を生ずるに至つた要因の排除」に資するに足るものでなければならないことになるのか。逆に、右要因の排除に資するに足りない「事故原因の究明」のレベルでは、事故原因を究明したことにならないと解してよいのか。
(4) 右要因の排除は、委員会の勧告によつて始動するものなのか。要因の排除に至る手続きを明らかにされたい。
(5) 宮城提言によれば、航空法第七十六条第一項各号に掲げる事故(設置法第三条第一号)以外の事態であつても、右勧告、建議、あるいはそのための調査研究に必要なものの通報を受け入れるべきシステムの必要性が示されているが、

(イ) 設置法や運営規則には、右通報受入に関する規定がないが、なぜか。
(ロ) 右通報は、航空行政総体としては、現実にどのように処理されているのか、根拠規定を挙げ、その処理の実態を明らかにされたい。

(6) 宮城提言によれば、少なくとも空港の消防能力の拡充、ハイドロ・プレイニング現象及びウインドシアについては、建議されるべく調査研究がなされるべきことが示されているが、

(イ) 右三点のうち、調査研究の必要を認めないというものがあれば、その理由を各々明らかにされたい。
(ロ) 右三点のうち、調査研究の必要を認めるものがあるが、委員会にそれを担う能力がないというのであれば、その理由を各々明らかにされたい。
(ハ) 右三点の調査研究につき、運営規則第六条により部会が置かれているものがあれば、その設置年月日をそれぞれ明らかにされたい。

(7) 設置法第三条第四号にいう調査研究を、委員会外の機関等にその全部又は一部を委任する、又は同機関等と共同で行うことにつき、設置法又は運営規則に何ら規定されていないが、なぜか。
(8) 宮城提言によれば、アメリカ連邦規則 Title 49 Part 831.31を例にひいて、委員会が一方向的に勧告を出すだけでなく、逆に、何人からの勧告も受け入れ、且つ、これを公開情報の中に含めるべきことが示されているが、設置法又は運営規則には、このような手続きが定められていないが、なぜか。

四 本件事故の場合、設置法第四条に係る職権行使の独立性は、その阻害要因からどのようにして確保されているか。

五 委員会の委員長及び委員について、

(1) 委員長及び委員の専門とする領域を明らかにされたい。また、このうち、設置法第五条第四項にいう委員長職務代理は誰か。
(2) 本件事故に係る設置法第二十条の規定する報告書作成前に任期の到来する委員長及び委員は、責任の継続性からして、再任されることになるのか。

六 設置法第十二条、同法施行令第一条及び運営規則第十一条の規定する専門委員について、

(1) 設置法第十二条第一項の規定では、専門委員が設置法第三条第三号の「建議」に必要な同第四号の「調査研究」を行い得たにもかかわらず、設置法施行令第一条や運営規則第十一条では、当該航空事故に専門委員の所掌を制限した理由及び設置法上の根拠規定は何か。
(2) 専門委員は、国家公務員法第二条第二項にいうところの一般職か。
(3) 本件事故を除き、委員会発足後現在に至るまで、専門委員が任命されたことがあるのか。どのような事故においてか。
(4) 本件事故において、専門委員が任命されていれば、その現職名及び担当することになる専門事項を、各専門委員毎に明らかにされたい。

七 設置法第十四条第二項は、委員会事務局に所属する航空事故調査官につき規定するが、

(1) 現在の航空事故調査官の専門領域(たとえば、運営規則第四十三条第二号の別)を明らかにされたい。また、このうち、首席事故調査官として指名されたものは誰か。
(2) 航空事故調査官の任命権者は、運輸大臣か。根拠となる規定は何か。
(3) 右において、専門委員任命におけるが如き委員会の意思は、どのような手続きにより反映されるのか。根拠となる規定は何か。
(4) 設置法案に係る衆議院附帯決議にある「航空事故調査官の事故調査能力の向上」は、どのようにして確保されているか。
(5) 設置法立法時、航空事故調査官に係る研修制度を十分活用し、予算としては二名を四週間ほど米国NTSB(国家交通安全委員会)へ派遣して研修を行わせることは考えているとの答弁であつたが、委員会発足後現在に至るまで、右NTSBでの研修は、現実にどのように行われてきたのか、具体的に明らかにされたい。

八 設置法案に係る衆議院附帯決議に「航空事故調査委員会の予算及び定員については、航空事故調査が円滑に実施できるよう十分に配慮すること。」とあるが、

(1) 右附帯決議に基づく、現在に至るまでの実施状況を明らかにされたい。
(2) 委員会の経費(事故調査費)として予備費が用いられたことがあるか。いかなる事故においてか。
(3) 本件事故の調査には、予備費からの支出も行われるのか。
(4) 委員会発足以来現在まで、右衆議院附帯決議は遵守されてきたといえるのか。

九 本件事故の調査は、どのような契機により開始されたのか、その経緯を運営規則第八条及び設置法第十六条に従い即事的に明らかにされたい。

十 運営規則第六条により本件事故につき、部会が置かれていれば、部会に所属すべき委員及び専門委員は誰か、部会毎に明らかにされたい。

十一 運営規則第十条により、本件事故の調査に当たり指名された調査官及び主管調査官はそれぞれ誰か。

十二 運営規則第十九条によれば、事実調査の方法等については、委員会が別に定めるものがあるようであるが、現在までにどのようなものが別に定められているのか、そのすべてにつき標目及び制定年月日を明らかにされたい。

十三 本件事故に係る設置法第十七条の運輸大臣の援助について、次により明らかにされたい。

(1) 第一項により委員会が運輸大臣に求めた援助の内容は何か。
(2) 第二項により運輸大臣がその職員に行わせた処分の内容は何か。
(3) 第三項により運輸大臣がとつた適切な措置の内容は何か。
(4) 第四項により運輸大臣がその職員に行わせた処分の内容は何か。

十四 本件事故の調査に関し、設置法第十八条により委員会が、関係行政機関の長又は関係地方公共団体の長に対し、協力を求めているのであれば、求めた協力及び得られた協力の各内容につき、各関係行政機関又は関係地方公共団体毎に明らかにされたい。

十五 運営規則第二十三条は、設置法第十九条第一項を受けて、原因関係者の意見陳述機会付与について規定するが、

(1) 設置法第十九条第一項の立法の趣旨は、原因関係者の利益保護とそれに伴う委員会の判断の公正さの確保ということではなかつたのか。どういうことだつたのか。
(2) 原因関係者が刑事訴訟法等の手続きにより身柄を拘束されている場合の扱いが必ずしも定かではないが、このような場合に意見陳述機会の付与をどのようにして確保すれば、右立法の趣旨が達成されていることになるのか。
(3) 聴聞会で公述しようとする者に対しては、運営規則第二十六条第二項により、事前に当該事故に係る事実調査に関する報告書の案を閲覧する機会が付与されているが、原因関係者の意見陳述に対しては、立法時の答弁とは異なり、どうして右閲覧又はそれ相当の規定が運営規則にもうけられなかつたのか。

十六 運営規則第五章は、設置法第十九条第二項を受けて、聴聞会開催に関する諸手続きにつき規定しているが、

(1) 委員会発足後現在に至るまでに聴聞会が開催されたことがあるか。どのような事故の場合だつたのか。
(2) 原因関係者も、公述人となることができるのか。
(3) 事実調査に関する報告書の案について、刑事訴訟法等の手続きにより身柄を拘束されている原因関係者の閲覧は、どのように扱われるのか。
(4) 本件については、聴聞会を開催することになるのか。右開催は設置法第十九条第二項によるのか、同第三項によるのか、理由を付して明らかにされたい。

十七 設置法第二十四条は、航空事故調査への協力者に対する不利益取扱いの禁止について規定しているが、

(1) これは訓示規定か。
(2) 右規定にある「何人」には、法人は含むのか。なぜか。
(3) 現実に不利益な取扱いを受けた場合、右規定はどのようにして救済規定となり得るのか。誰に対して効力を有する規定なのか。
(4) 委員会や運輸大臣は、航空事故調査に協力した者に対して、そのことにより不利益な取扱いを受けぬよう、どういう形で配慮するのか。またその根拠となる規定は何か。
(5) 右不利益取扱いの禁止が、原因関係者に対する場合を排除するものであれば、その理由を根拠を付して明らかにされたい。
(6) 右不利益が、刑事処分や行政処分を排除するものであれば、その理由を根拠を付して明らかにされたい。
(7) 運営規則には、設置法第二十四条を受けた規定が置かれていないが、なぜか。
(8) たとえば、運営規則第十八条では、現場調査により知り得た事実を発表する場合、右不利益取扱いの禁止は、どのように扱われるのか。
(9) 右第十八条において、発表できない場合につき制限列挙し、それ以外はすべて発表しなければならないという条文構成にしなかつた理由は何か。

十八 設置法第十五条の規定による委員会の、及び同第十七条の規定による運輸大臣の各職権の行使は、同第二十五条の罰則の存在という間接強制により確保されることになつているが、

(1) 証拠物件の確保や現場の保全について、直接強制という手段が委員会や運輸大臣に用意されなかつたのは、いかなる理由によるのか。
(2) たとえ、罰金を課されてもなお、関係者の協力が得られなかつた場合、右職権の行使はどのようにして確保されるのか、設置法第十五条第二項各号毎にそれぞれ明らかにされたい。行政代執行によることになるのか。
(3) 航空事故調査に係る証拠物件として、先任航空交通管制官が保管する航空交通管制通信記録など運輸大臣の所管下にあるものがあれば、委員会からの請求の有無にかかわらず、物理的に不可能な場合を除きただちに、運輸大臣には提出させるべき義務があるのではないのか。右義務がないというのであれば、その理由を根拠を付して明らかにされたい。
(4) 航空法第六十一条の二第二項により、FDR(飛行記録装置)やCVR(操縦室用音声記録装置)の航空機への搭載を義務づけたのは、専ら航空事故の原因究明に資するのが趣旨であつて、それ以外ではないのであるから、航空事故発生以降それらの管理権は、憲法第二十九条第二項に係る公共の福祉のため、事故調査終了後まで一時的に、所有権者から委員会に変動するものとしてよかつたのではないのか。なぜ、これを制度的に保障しなかつたのか。
(5) 委員会や運輸大臣の右職権行使は、刑事捜査に係る職権行使と競合することになるが、

(イ) これはどういう原理でどのように調整解決されているのか、具体的に明らかにされたい。
(ロ) 海難審判では、審判先行主義とはいわないまでも、事実上審判の結果をまつて、刑事・民事手続きが進行しているのではないのか。とすれば、その理由は何か。
(ハ) 日本の航空安全行政が範とする米国では、事故調査が刑事・民事手続きに先行しているのではないのか。

(6) 委員会による航空事故調査に限界(航空事故を生ずるに至つた要因の排除に資する原因究明が不能となる事態)があるとすれば、それを規定する要因は何か、そのすべてを具体的に明らかにされたい。
(7) 委員会による原因究明は、それが設置法第二十条に係る報告書となつて公表されても、司法権にいう既判力が生ずるわけではないので、委員会の判断で再調査することが法律上可能ではないのか。不可能であるとすれば、その根拠規定を示されたい。

十九 宮城提言は、事故調査機関からの情報の公開(知る権利の保障)についても、航空事故調査の事実に関する情報等の公開及び軍用航空機事故の調査の公開の二つに分けて提示しているが、

(1)航空事故調査の事実に関する情報等の公開として、更に、すべての情報の原則的公開、何人に対しても公開及び手続きの三つに分けて詳論されているが、これら三つの提言のうち、制度として実現するのが適正かつ合理的でないとされるものがあれば、その各々につきその理由を根拠を付して明らかにされたい。
(2) 軍用航空機事故の調査の公開として、更に、報告書発表の義務、地上被害をともなう事故の調査及び在日米軍機事故の調査についての合意内容の公開の三つに分けて詳論されているが、これら三つの提言のうち、制度として実現するのが適正かつ合理的でないとされるものがあれば、その各々につきその理由を根拠を付して明らかにされたい。

二十 昭和五十五年九月七日に運輸大臣に手渡された宮城提言は、その後運輸省の事務レベルでどのように扱われ処理されているのか、現在に至るまでの処理の手続的経緯につき具体的に明らかにされたい。

  右質問する。