質問主意書

第94回国会(常会)

答弁書


答弁書第一三号

内閣参質九四第一三号

  昭和五十六年五月二十九日

内閣総理大臣 鈴木 善幸   


       参議院議長 徳永 正利 殿

参議院議員秦豊君提出政府の総合安全保障政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出政府の総合安全保障政策に関する質問に対する答弁書

一について

 最近の国際情勢と我が国の立場を顧みれば、単に防衛力の整備のみで我が国の平和と安全を確保することが困難であることは明らかであり、経済、外交等を含めた広い立場からの努力が必要である。これらの諸施策は、むろんそれぞれの所管官庁が推進してきているが、更にこれらについて、総合的な安全保障の視点から、高いレベルでその整合性を確保するため、昨年十二月、内閣に総合安全保障関係閣僚会議を設置した次第である。今後とも、同会議を通じて、各般の施策の整合性を保ちつつ、我が国の総合的な安全保障政策を進めていく考えである。

二について

1 我が国は、これまでも米国との友好協力関係を基軸とし、世界の平和と安全に脅威を与える要因に対しては、自由主義諸国との連帯関係の下に対処し、これを基盤として、世界の国々との友好・協調の輪を広げていくとの外交を進めてきており、第三世界に対しては、経済協力を始めとする外交努力を推進し、建設的な南北関係の構築に貢献するよう努めているところである。
2 また、我が国の防衛は、平和憲法の下、専守防衛に徹し、近隣諸国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、更に、非核三原則を国是とすることをその基本方針としている。
3 我が国としては、かかる従来からの基本方針を堅持しつつ、日米両国が連帯・協調して世界の平和と繁栄を目指し緊密に協力していくべきであるとの姿勢に変わりはない。

三について

 先進民主主義諸国は、西側全体の安全を総合的に図るために、世界の政治、軍事及び経済上の諸問題に対して、共通の認識を持ち、整合性のとれた形で対応することが重要であり、防衛、世界経済の改善、第三世界に対する経済協力及び相互に補強し合う外交活動の分野において、一層の努力を行う必要があるが、平和国家たる我が国が行い得る役割は、政治・経済分野における積極的な努力が中心となるべきものと考える。かかる基本的な考え方は、今回の総理訪米に際しても米国側に説明し、その理解を得ているものである。

四について

 政府開発援助(ODA)については、政府は去る一月、ODAを積極的に拡充し、引き続きそのGNP比率の改善を図り、千九百八十年代前半五か年間のODA実績総額を千九百七十年代後半五か年間の総額(百六・八億ドル程度)の倍以上とするよう努め、このため、(一)千九百八十年代前半五か年間において、千九百七十年代後半五か年間に比しODAに関連する国の予算を倍以上とすることを目指す、(二)政府借款の積極的拡大を図る、(三)国際開発金融機関の出資等の要請に対し積極的に対応することを内容とする新たな中期目標を設定した。また、「第三次国連開発の十年」においても提唱されているODAのGNP比率〇・七パーセントの国際目標については、引き続きその達成に努め、当面これを速やかに先進国水準にまで高めることを目指すこととしている。
 なお、長期にわたる年次計画については、我が国は、経済協力を原則として単年度予算によつて実施しており、多年度にわたつて年度別の援助供与額等を約束することは原則として行つていないこともあり、国別・地域別等の長期計画は策定していないが、他方、右中期目標にもみられる如く、中長期的観点に立つた総合的な援助政策の立案に努めている。

五及び六について

 エネルギーなどの資源及び食料の安定的供給を確保することは、我が国の国民生活の安定と国民経済の円滑な運営を図つていく上で不可欠であり、政府においては、従来からこれらについて所要の備蓄対策を含む諸般の施策を検討・実施してきている。
 今後、国際情勢を踏まえて我が国の総合的な安全保障政策を進めるに当たり、国として必要な備蓄対策についても更に検討していくこととしているが、その際、諸外国における備蓄制度についても、その背景、運用等を十分参考にしてまいりたい。

七について

1 我が国は、石油備蓄法に基づき実施している九十日備蓄を目標とする民間備蓄と石油公団により実施している三千万キロリットルを目標とする国家備蓄により石油備蓄を行うこととしている。このうち、民間備蓄については、昭和五十五年度末に九十日備蓄の水準を達成したが、今後ともこの水準を維持していくこととしている。また、国家備蓄については、昭和五十五年度末で約七百二十万キロリットルの水準となつており、昭和五十六年度以降も継続的に積増しを実施し、可及的速やかに三千万キロリットルの水準を達成することとしている。
2 備蓄に要する資金量については、一定の前提の下で試算すると、民間備蓄については、九十日備蓄の水準を達成するため約二兆八千億円を要し、国家備蓄については、三千万キロリットルの水準を達成するため約三兆円の資金を要するものと想定される。

八について

1 食料、飼料の備蓄については、国内における不作や輸出国における港湾ストライキ、輸出規制などによる一時的な輸入の減少等に対応するという考え方に立つて、計画的な備蓄を推進してきている。
 その結果、現在、米については、十分な在庫を有しており、また、小麦、飼料穀物及び大豆についても所要の備蓄を有している。
 更に、昭和五十六年度予算においても飼料穀物及び大豆について備蓄の積増しを図ることとしている。
2 不測の事態への対応については、昨年十月の農政審議会の答申「八十年代の農政の基本方向」において、食料の安全保障の一環として、更に検討を深める必要があると指摘されており、農林水産省において、このような観点から、備蓄の規模、経費等の問題を含め検討が進められているところである。

九について

1 御指摘の鉱物資源については、これまでもその安定確保のための諸施策を検討・実施してきており、その一環としてニッケル、クロム等の安定確保のための備蓄対策を実施してきたところである。
2 政府としては、今後、御指摘の鉱物資源については、その賦存状況、国民経済上の重要性及び代替可能性とともに、安定供給を損なうおそれのある危機の態様等を検討の上、総合的な安全保障の観点を踏まえた安定供給のための施策の一環として、備蓄対策についても考えてまいりたい。

十について

 我が国の国民生活や国民経済にとつて不可欠なエネルギーなどの資源及び食料の安定的供給を確保することは、総合的な安全保障の観点からも重要であることにかんがみ、国として必要な備蓄対策についてもこれらの安定供給のための施策の重要な一環として、各施策間の整合性の確保に留意しつつ、その検討を行つてまいりたい。

十一について

 国の諸施策について、総合的な安全保障の視点から整合性を確保していくためには、これらの施策の裏付けとなる予算面においても所要の配慮が必要なことはいうまでもない。
 しかしながら、国家予算全体の中で総合安全保障費を特定することについては、これに含まれるべき費目の範囲のほか、各費目が有するそれぞれの政策目的との関連等検討すべき問題点も多いので、今後の課題として慎重に取り組んでいく考えである。

十二について

 我が国の平和と安全を確保するためには、防衛力の整備とともに、経済、外交等を含めた広い立場からの努力が必要であり、今後とも、国防会議及び総合安全保障関係閣僚会議の機能の積極的な活用を通じ、国民の理解を得ながら、我が国の総合的な安全保障政策を進めていく考えである。我が国におけるかかる真摯な努力は、国際社会の平和と安定にも寄与するものであり、日米関係等我が国の対外関係にも好ましい影響をもたらすものと考えている。