質問主意書

第94回国会(常会)

答弁書


答弁書第一一号

内閣参質九四第一一号

  昭和五十六年五月二十九日

内閣総理大臣 鈴木 善幸   


       参議院議長 徳永 正利 殿

参議院議員秦豊君提出政府の対外経済援助に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出政府の対外経済援助に関する質問に対する答弁書

一について

 援助の増大と多様化に伴い、援助効果に関する評価の重要性はますます強く認識されている。国際的にも先般のヴェニス・サミット、OECD(経済協力開発機構)等の場において援助評価の重要性が認識されるに至つている。かかる事実を背景として、去る一月三十日、外務省は省内に「経済協力評価委員会」を設立した。同委員会は、経済協力局長を委員長、経済協力局内の各課長を委員とし、必要に応じ他の関係部局よりの参加も得ることとしている。
 また、同委員会は適切な経済協力の実施に資するため、評価手法の開発、評価調査団の派遣、調査団報告に基づく提言等を作成することとしている。かかる評価の結果は我が国の在外公館、援助実施機関へも送付することとしている。

二について

 円借款の供与に当たつては、従来より関係四省庁間等で、慎重かつ十分に検討を行つており、円借款の供与が開発途上国の経済社会開発と民生の安定に資するものとなるよう遺漏なきを期しているところである。また、円借款の供与金額については、相手国からの正式要請を前提として、先方より提出される資料等に基づき、対象計画の実行可能性等を我が方において慎重に調査検討することによつて供与額の妥当性を確保している。

三について

 インドネシアのASEAN尿素肥料プロジェクトについては、昭和五十三年に国際協力事業団が実施したフィージビリティー調査の結果に基づいて、昭和五十四年二月、インドネシア政府より資金協力の要請が行われ、同年十月、海外経済協力基金及び日本輸出入銀行より各々三百三十億円までの円借款及び百四十五億円までの輸出信用を供与するための取決めが、日本政府及び上記二政府関係機関とインドネシア政府との間でそれぞれ締結された。
 その後、昭和五十五年九月、インドネシア政府より同プロジェクトに対する追加的な資金協力の要請が行われた。この要請については、インドネシア側より説明を聴取するとともに、我が方で詳細に検討を行つた結果、プロジェクトの実施スケジュール及び一部仕様の変更等により所要資金が増加したことによつて追加資金が必要となつたものであり、妥当なものであると認められたので、昭和五十六年一月、鈴木総理大臣のASEAN各国歴訪に際し、百八十九億円までの追加的な資金協力(百三十二・三億円までの円借款及び五十六・七億円までの輸出信用)を行う意図がある旨を表明した。
 なお、このうち円借款については、同年三月、日本政府及び海外経済協力基金とインドネシア政府との間でそれぞれ関係の取決めが締結された。

四について

1(一) 我が国は、従来より実施している国際機関を通ずる援助の一般アンタイド化に加え、円借款についても、昭和五十三年度新規意図表明分より一般アンタイド化を基本方針として、内外にわたる諸般の事情を考慮しつつ、その着実な実行に努めている。その結果、円借款全体に占める一般アンタイド化の割合は、交換公文締結ベースで昭和五十四年には過半を超えるとともに、昭和五十五年には六十五・二パーセントに達している。
 (二) 我が国としては、政府開発援助(ODA)の質的改善を図る観点から、内外にわたる諸般の事情を考慮しつつ、かかる基本方針の実施に努めていく所存である。

2 また、無償援助については、原則として単年度内に援助を完了させる必要があることもあり、契約当事者の指導、連絡等、援助の円滑かつ適正な実施の観点から、被援助国が物資及び役務の調達契約を締結する相手を日本人又は日本法人に限つているが、この日本人又は日本法人による物資及び役務の調達先は、援助資金の有効利用の観点から、被援助国内における調達あるいは、その他第三国からの調達を認めている。
3 経済協力の基本政策については、政府は開発途上国の経済・社会開発に対する自助努力を支援し、これら諸国の民生の安定、福祉の向上に貢献していくことを経済協力の目的としており、援助の実施に際しては農村・農業開発、エネルギー開発、「人造り」協力、中小企業の振興等開発途上国の国民一般の生活に具体的に裨益するような分野の援助に一層力を入れていく考えである。

五について

 我が国は平和国家として、また自由世界第二位の大きな経済力を有する国として、相互依存並びに人道的考慮の二つを基本的な理念とし、経済協力を積極的に推進し、もつて世界の平和と安定に貢献していくこととしている。同時に、経済協力は我が国の総合安全保障の重要な一環であるが、我が国の総合安全保障は西側諸国、更には世界全体の平和と安定に密接に関連している点にも配慮すべきであると考える。いずれにせよ、我が国の援助政策は我が国独自の判断の下に進めており、我が国の援助政策が米国の政策に安易に同調するといつたことはない。

六について

 経済協力は原則として単年度予算によつて実施してきているが、経済協力の実施には、援助相手国の予算措置や行政能力等相手国側の事情に左右されるという側面も少なくない。しかし、政府は具体的な案件の選定に際しては、当該案件について検討するだけではなく、我が国と相手国との関係、相手国の有する開発計画等、中長期的観点からも総合的に判断を行つた上で案件の選定を行つている。
 政府開発援助(ODA)については、政府は去る一月、ODAを積極的に拡充し、引き続きそのGNP比率の改善を図り、千九百八十年代前半五か年間のODA実績総額を千九百七十年代後半五か年間の総額(百六・八億ドル程度)の倍以上とするよう努め、このため、(一)千九百八十年代前半五か年間において、千九百七十年代後半五か年間に比しODAに関連する国の予算を倍以上とすることを目指す、(二)政府借款の積極的拡大を図る、(三)国際開発金融機関の出資等の要請に対し積極的に対応することを内容とする新たな中期目標を設定した。我が国の援助は毎年度相手国からの援助要請を中長期的観点に立ちつつ総合的に判断の上実施しており、原則として単年度予算によつて実施しているので多年度にわたつて年度別の援助供与額等を約束することは原則として行つていない。

七について

 二国間援助の地理的配分については、近年、アジアに全体の約七割(ASEAN諸国に対しては約三割)が配分されてきており、残りの約三割が中近東、アフリカ、中南米の各地域に配分されてきている。また、昭和五十四年の場合、インドネシア、バングラデシュ、タイ、ビルマ、パキスタン、エジプト、フィリピン、マレイシア、韓国、インド等が主要援助対象国であつた。

八について

 予算の執行には案件の調査から始まる諸種の検討に加え、相手国の事情及び援助案件が完成するまでに建設等のために一定の期間を要するといつた事情もあり、八十九・二パーセント(昭和五十五年)の執行率は決して低い水準とは言えないものと考える。
 政府は、被援助国の要請及び援助案件の優先度、更に当該国の中期的経済開発計画をも勘案しつつ総合的な判断を行つた上で、個々に具体的な援助案件の決定を行つており、我が国の援助が我が国の商社の作り上げたニーズに振り回されるといつた事態は生じていない。また、援助の実施に当たつては援助政策の企画、立案のための情報収集、提言、更には、具体的案件の実施の面で在外公館の果たす役割は大きく、また、具体的案件の実施の面で援助実施機関の果たす役割は大きい。かかる観点から政府は経済協力実施体制の整備強化に努め、また、調査団派遣の拡充を図つてきているほか、経済協力担当官及び援助実施機関の職員が実際に赴任する前に種々研修を行う等により、援助の円滑な実施に努めている。