質問主意書

第94回国会(常会)

質問主意書


質問第一九号

国営・公営の事業と金融行政に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十六年六月二日

鈴木 一弘   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   国営・公営の事業と金融行政に関する質問主意書

 我が国の三公社五現業及び特殊法人などの国営等の事業のあり方について、現在第二次臨時行政調査会で検討されている。
 一方、国営等の事業の原資の大宗である郵便貯金についても内閣総理大臣の私的諮問機関「金融の分野における官業のあり方に関する懇談会」において討議されている。
 これらの問題は、これからの我が国の産業及び経済の方向を左右する極めて重要な課題である。
 よつて以下の諸点について質問する。

一 国営・公営の事業のあり方について

(1) 憲法をはじめ、現行法の制定に当たつては、国等が行う国営・公営の事業は公共の福祉及び国民生活の安定・充実を目的として営まれている。
 したがつて、国営・公営の事業は、民営事業を補完すると共に、その時々の政策目的を遂行すべきものであり、国営・公営の事業が民営事業と競合し、あるいは圧迫する等の問題は本来生じるものではないというのが現行法制定の前提であると思うがどうか。
(2) 我が国経済の高度成長の過程において国営・公営の事業の規模は著しく拡大し、また事業分野も多方面にわたるに至つている。
 今日この国営・公営事業について財政再建という視点からの見直しが、国民的な要請となつているが、その視点だけでなく我が国の産業・経済全般の今後の展望の上に立つて国営・公営の事業と民営事業の関係及びそのあり方について明確にすべきである。
 このための法的措置も講ずる必要があるという意見もあるがどうか。
(3) 第二次臨時行政調査会及び金融の分野における官業のあり方に関する懇談会から、それぞれ夏頃答申が出される予定だが、この答申を受ける政府の基本的姿勢を示されたい。
(4) 日本輸出入銀行法第二十四条と日本開発銀行法第二十二条のいずれにも「金融機関との競争禁止」の規定が設けられている。
 この規定は、金融の事業分野において国営・公営事業のあり方の基本的な考え方を示しているものと思うがどうか。

二 郵便貯金の実態について

(1) 郵政省の説明によると、郵便貯金の特性は個人性と小口性であるとし、国民の零細な貯金より成るものであるとしている。
 しかし、郵便貯金については巨額の資金を預入限度内で分散して預けるなど、悪用していた事例が数多く報道されており、さらにこれらは氷山の一角であるという見方もある。
 このことから見て、郵便貯金法第十条の預入限度額管理の実効性について疑問を持たざるを得ない。
 そこで郵便貯金法第十一条第一項の制限額超過の際の預金者への通知件数と金額、また同条第二項の預金者の減額実行件数及び金額、更に同条第三項の預金者が減額しないため国債を購入した件数及び金額について、それぞれ過去五年間の年度別の計数を明らかにされたい。
(2) 郵政省は、毎年郵便貯金の限度額超過件数を報告しているが、税務当局はこの年間二万件以上の限度額超過件数に対しどのようにこれを把握し、処理しているかを示されたい。
 また所得税法施行令第十八条第一項には郵便貯金の限度額超過分への利子に課税することが規定されているが、過去五年間の年度別にみた同規定の適用件数及び課税金額を示されたい。

三 郵便貯金運営上の現行制度について

 郵便貯金は国営事業であるため、民間金融機関に比べて特別有利な制度が存在している。
 以下例示すると次の通りである。
 第一に所得税法第九条で郵便貯金は、非課税の扱いを受けており、そのための税務署への申告書提出の義務はない。
 これに対して銀行等の預金の場合は、いわゆるマル優の扱いを受けるためには所得税法第十条により非課税扱いの申告書を税務署へ提出する義務が課せられている。
 第二に、少額貯蓄の非課税扱いについて最も重要な点は、本人確認が適切に行われているかどうかであるが、郵便貯金では現行法上、その規定はあるものの具体的な方法については明示されていない。
 これに対して銀行等の預金の場合は所得税法施行令第四十六条に、本人の住民票、国民健康保険の被保険者証、あるいは国民年金手帳等の提示による本人確認を義務づけている。
 第三に、名寄せについては、郵便貯金は郵政省部内での名寄せであるが、銀行等の預金は制度上から実質的に税務署で名寄せが行われている。
 第四に、預貯金の非課税限度額超過分の利子に対する課税について郵便貯金は、所得税法施行令第十八条の規定により、故意又は重大な過失により限度額を超過した際その超過部分に係る利子のみに課税する。
 これに対して銀行等の預金の場合は限度額を超過すればその超過分を含めた預貯金の全額の利子に対して課税される。
 第五に、利子を元金に加えた場合の非課税限度額の管理について郵便貯金の定額貯金を見ると、当初の預入金額が三百万円以下であれば、その後、半年ごとに利子が元金に加えられ三百万円を超過しても課税されない。
 これに対して、銀行等の定期預金では利子加算後の元金が三百万円を超過したら非課税扱いとならない。
 第六に、郵便貯金は十年間預入れができ、この間、金利は固定されることがたてまえとなつているが、預入期間内において金利が引き上げられた場合、高い金利に預け替えされる。
 これに対して銀行等の預金は今回導入される告知定期預金においても預入期間は三年である。
 以上の点から見て、今後経済の活力と秩序を損なわないために、この郵便貯金有利の制度を改めるべきであるという意見も多いが右にあげた六項目の諸点についての対応策をそれぞれ明確に示されたい。

四 郵便貯金特別会計について

(1) 郵便貯金は、銀行等のコストとなる法人税等の負担はない。
 したがつて郵便貯金特別会計は本来黒字であつて然るべきであるにもかかわらず、現状は巨額の累積赤字を計上しており、この先の見通しも決して明るくない。
 今後、昭和五十九年度までの年度別見通しを明らかにされたい。
(2) 郵便貯金を担当する外務員の募集手当は、毎年度相当大きな金額が支出されているにもかかわらず予算では明示されていない。
 ここ五年間の募集手当の予算額と決算額を示されたい。更に外務員の募集手当の今後のあり方についても示されたい。

五 グリーンカード制実施について

(1) 現行税制度の不公平是正の一環として昨年、グリーンカード制の実施(昭和五十九年より)が決まつているが、最近この見直しの論議が盛んであることが伝えられている。
 グリーンカード制を適正に実施し不公平税制是正をするべきであるが政府の決意を示されたい。
(2) この制度を実施するに当たり、現在の預貯金等の非課税限度額の引き上げをすべきであるとの意見もあるが、それに対する政府の見解を示されたい。
(3) 昨年このグリーンカード制について、大蔵・郵政両省の話し合いで昭和五十八年以前の預入分も含めてグリーン番号制による名寄せを行うことで合意した。
 しかし、郵政当局のこれまで進めてきた、郵貯オンラインシステムではグリーン番号制による名寄せは困難であるとの見解もある。
 大蔵・郵政の合意による名寄せが可能となる具体的な方策があれば示されたい。
(4) 預貯金の名寄せは、本人確認をしなければ実効がない。
 この本人確認について郵便貯金は、昭和五十九年一月一日以降の払い戻しの際に行うということであるが、郵便貯金の大部分を占める定額貯金の預入期間は十年間である。
 つまり場合によつては十年間近くも本人確認が出来ないことになり問題であるゆえ対策を講じるべきであると思うが、見解を示されたい。

  右質問する。