質問主意書

第94回国会(常会)

質問主意書


質問第一三号

政府の総合安全保障政策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十六年五月一日

秦 豊   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   政府の総合安全保障政策に関する質問主意書

 政府の総合安全保障政策は、いまなお熟成のはるか以前であり、関係閣僚会議も十全に機能しているとは思えない。安全保障政策が、体系としての整合性を備えていない限り、対米交渉やオタワ・サミットなど先進各国との様々なレベルの協議の場でも説得性を有さないことは自明であろう。よつて次の項目毎に内閣の見解を明示して頂きたい。

一 政府のいわゆる総合安全保障政策にもつとも欠落しているのは、まさにその総合性ではないのか。防衛計画、対外経済援助計画、外交政策、文化交流計画等を整合させる努力とその理念が希薄ではないのか。

二 一九六〇年代以後のわが国の非軍事大国路線は、南北問題重視やいわゆる全方位外交と整合する。レ-ガン政権が強く求めてくる「対ソ戦略再構築と同盟国の分担強化路線」に安易に参入することは、このユニークな日本の路線と基本的に矛盾するものではないのか。

三 むしろ南北問題や第三世界対策を軽視し、いたずらに「力の戦略」に回帰するアメリカに対して、日本独自の分担と貢献の理念と路線を明快かつ強力に説得すべきではないか。

四 政府開発援助(ODA)は、確かに着実に増加しその誠意は国際的にも認知されつつあると思うが、単に「五年以内に倍増」的発想ではなく長期にわたる開発戦略的な視点が必要ではあるまいか。西独とカナダが既に策定した発展途上国との経済協力政策は、少なくとも十カ年を展望した戦略となつているが、日本としても改めて長期戦略を踏まえた年次計画が必要ではないか。
 また、政府開発援助をGNP比〇・七%とする野心的な将来計画(一九八五年)については如何か。

五 総合安全保障を構想する場合、備蓄についての政府としての対応が不可欠である。基本的にどう考えているか。また、アメリカとスウェーデン両国政府は、既に戦時備蓄の制度化を実現している。政府としてはその点についてどう考えているのか。備蓄対策は、有事法制などより優先すべき施策対象ではないのか。

六 その場合は、戦略備蓄(ストック・パイル)と商業備蓄(バッファー・ストック)を共に考慮すべきであり有事の際の国民生活を一定期間支え得る資源、物資を最低限網羅する必要があると考えるが、政府として考慮している有事備蓄対策の概要を明らかにして頂きたい。

七 石油備蓄は、現状に止まらず百二十日分の水準を設定しているのか。実現のめどはいつか。
 更にそれに要する費用は如何。

八 食糧、飼料の備蓄対策はどうなつているのか。検討した経緯はあるのか。無いとすればどう考えているのか伺いたい。

九 石炭をはじめ鉄鉱石、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、コバルト、チタン、白金、モリブデン、クロム、マンガン等の備蓄についての見解と素案は如何。
 なお、八及び九についてはいずれも有事、危機の期間を六カ月として試算し、その必要量と必要経費を概算して頂きたい。

十 国として必要な備蓄対策については、一部民間のシンク・タンクなどに素案が散見されるが、これについては政府こそが緻密に策定し、総合安全保障政策の中に位置づけをすべきではないか。

十一 総合安全保障政策をめざす以上、政府は、新たに国家予算全体の中での総合安全保障費を積算しておく必要がある。その場合含まれるべき費目としては政府開発援助、備蓄費、防衛費などの他、民間防衛関係費、文化交流、海外広報等の費目、大型技術開発投資などは当然その範囲の費目と考えるが如何。

十二 安全保障を総合でとらえようとする以上、これらに要する財源は、一種のトータル・コストであり、たえず国民合意の裏づけがなければなるまい。また、総合政策の中での防衛費ないし防衛政策の位置づけが改めて問われねばならないが、そのためにも政府は、GNP比一%の枠内における専守防衛についてより精細な検討を加えるべきである。政府が、総合安全保障政策を深め得るかどうかは今後の対外交渉、特に対米説得力を左右すると考えるが如何か。

  右質問する。