質問主意書

第93回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

食糧備蓄対策の改善等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十五年十一月二十五日

鈴木 一弘   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   食糧備蓄対策の改善等に関する質問主意書

 政府は、去る十一月七日の閣議において、十月三十一日に農政審議会から答申のあつた昭和六十五年度を目標とする「農産物の需要と生産の長期見通し」を決定すると共に、「八〇年代の農政の基本方向」(以下「基本方向」)を発表した。
 この答申の中で食糧の安全保障という課題が始めて農政の前面に打ち出され、世論の注目を浴びている。
 しかし、食糧の安全保障確保のうえで極めて重要な要素となる食糧備蓄の具体的な政策方向については、今後の検討課題とするにとどまつている。
 現在、穀物の国際相場が急騰し、これに対する対応が緊要な課題となつていることからも、食糧備蓄対策の改善等に関し、次の諸点について質問する。

一 現在、我が国における備蓄は、米・麦・大豆・飼料穀物について行われている。その備蓄規模は、米については単年度需給均衡を前提にして昭和四十六年度程度の不作(作況指数九三)が二年続いても混乱が起きない数量として二〇〇万トン、大豆は、一九七三年の世界的な食糧危機を背景に米国が行つた大豆禁輸措置のような、不測の事態が発生しても当面の供給に支障を生じない程度との判断から七万トン、飼料穀物(とうもろこし又はこうりやん)については、配合飼料の安定的供給を確保する観点から五〇万トンを備蓄するとされている。

(1) 米の備蓄規模は、今年産米の収穫量が十月十五日現在の予想で九八二万トン(水稲の作況指数は八八)に落ち込んだことからも、適正備蓄の根拠は早くも崩れさつてしまつたものと考えるが、米の備蓄規模を見直す用意はないか。
(2) 米以外で備蓄規模の小さい飼料穀物・大豆・小麦については、最近における国際穀物価格の高騰が、配合飼料価格や消費者麦価へ大きな影響を及ぼすのではないかと懸念されている。政府はいかなる対応策を講ずる所存か。

二 先の「基本方向」によつて食糧備蓄体制の見直しが迫られている。

(1) 政府は、農政審議会に作業グループを設け、今後具体的に検討を行う予定と言われているが、この見直しについて、どのような基本的姿勢で臨むのか。
(2) 「基本方向」で提示された「民間備蓄」及び毎年備蓄の全量を回転、更新するという仕組みを原則としている「米の備蓄方式の見直し」という課題については、具体的にどう対処される所存か。

三 わが国の食糧安全保障体制を確立するためには、国内農業の再建を図り、食糧自給率を向上させることが基本である。しかし、他方、今日においてはいうまでもなく中・長期的にみても、輸入食糧への依存という考え方を全く抜きにした食糧政策は非現実的と言わざるを得ない。このような意味からも、主要輸出国との二国間の中・長期協定の位置づけが再考されて然るべきと考える。
 すなわち、現在の二国間穀物輸入協定は、一九七三年の食糧危機以降、世界の穀物需給が比較的平穏に推移してきたこともあつて、小麦と大麦に関する対カナダ及び対オーストラリア間の協定が存在するに過ぎない。しかも、これらの協定は、毎年更新を必要とするもので、食糧の安定的確保を図る上で、どれ程有効かは疑問である。そこで、最近における世界穀物情勢から判断すると、一九七八年に期限切れとなつている安倍・バッツ協定の復活問題に我が国政府がどう対応するかが当面の大きな課題になると考える。

(1) 本年十二月初旬には、ワシントンにおいて日米農産物定期協議が開催される予定と聞くが、政府はこの機会に対米長期穀物取引協定を締結する考えはないか。
(2) 米国以外の主要輸出国との協定締結については、現行協定の見直しを含めてどう対応する考えか。

四 国際緊急食糧備蓄(IEFR)は、国際連合の主催により、一九七四年にローマで開催された「世界食糧会議」における「食糧援助に関する決議」(決議一八)を受けて、一九七五年九月の第七回国際連合特別総会において設立されたものである。この国際的な食糧備蓄制度は、不安定な国際穀物情勢による発展途上諸国経済への影響を極力防止する効果を有するだけでなく、我が国の食糧供給の安定にとつても寄与するところが大きいと考える。しかし、この備蓄制度による援助目標は小さなもので、当初の年間最低五〇万トンという規模は、その後も変わつていない。わが国としては、将来にむけてこの制度の内容を拡充させる方向で臨むべきであると考えるが、政府の見解はどうか。

五 昨年の八月に開催された第二回日伯閣僚会議において、ブラジル側から、同国を中心とした南米産の穀物や鉄鉱石をアジア地域に供給するための港湾、備蓄基地をわが国に設置してはどうかという趣旨の「アジア・ポート構想」が提案された。
 この構想は、わが国にとつても、食糧の安全保障確保の見地から、現在米国に偏重している穀物の輸入先を多元化させるうえで意味があるものと考える。しかも、わが国は、自由世界第二位の経済大国として、アジアにおける他の発展途上諸国の産業・経済の発展について応分の協力を果たすべき義務もあると考える。
 仄聞するところでは、すでに運輸省は、この構想の具体化を検討するための研究会を発足させているとのことであるが、壮大な同構想の実現のためには二千億円の建設費を要するという。従つて、同構想は少なくとも国家プロジェクトとして位置づけ、国も積極的に取り組むべきものと考えるがどうか。
 これまでの検討の経過、今後の展望についてもあわせて政府の見解を示されたい。

  右質問する。