質問主意書

第92回国会(特別会)

質問主意書


質問第三号

国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の運用の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十五年七月二十五日

秦 豊   


       参議院議長 徳永 正利 殿


   国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の運用の実態に関する質問主意書

 国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(以下「権限法」という。)の運用の実態に関する質問に対し、大平内閣下にあつて、内閣答弁書(内閣衆質八九第四号、内閣参質九一第五号及び同第一一号)が開示されている。これら答弁書にはなお不明朗・不明確な点が内包されていると思料するがゆえ、若干の質問を追加し、当時と同様の趣旨の下に、鈴木善幸新首相の御見解を以下賜りたい。

一 司法権と行政権との人事交流について

(1) 訟務担当の検事を裁判官から採用しても最高裁判所の人事計画に影響を及ぼすことはないとのことであるが、

(イ) 最高裁判所による訟務担当の検事の推薦は、すでに本人の承諾が得られたものに限られているのではないのか。
(ロ) 最高裁判所による訟務担当の検事の推薦で、本人の承諾が得られなかつたケースは現在までなかつたのではないのか。
(ハ) 裁判所及び法務省関係の定期異動人事は、少くとも結果として、一体のものとして行われていたことになるのではないのか。

(2) 昭和四十一年度以降現在に至るまで、検察官等の行政官に一時的に籍を移動した裁判官の数、そのうち訟務担当の検事となつたものの数、及び裁判官としての籍を回復したものの数をそれぞれ年度毎に示されたい。
(3) 法曹一元の制度は望ましい制度とのことであるが、望ましい制度であるとする事由を項目別に列挙されたい。
(4) それにもかかわらず、現在実現が困難という法曹一元の制度の将来における採用を現在決定し、その実現に向つて鋭意努力しようとはしない理由は何か。
(5) 昭和五十五年四月一日現在における弁護士数が一万一千四百三十八名ということであるが、これは社会的需要からみて、供給過多なのか。それとも供給過少なのか。また、その理由とするところは何か。
(6) 法曹となるための国家試験である司法試験が資格試験であつて、その合格者数がそれほど多くないのが現状であるとのことであるが、

(イ) 昭和四十一年度以降現在に至るまでの司法試験の受験者数、第二次試験に係る短答式による筆記試験の合格者数、同じく論文式による筆記試験の合格者数、同じく口述試験の合格者数、司法修習生となるものの数、裁判官となるもの(新任)の数、及び検察官となるもの(新任)の数を、それぞれ年度毎に示されたい。
(ロ) 司法試験の合格者数には、事実上の定員があることになるのではないのか。
(ハ) とすれば、そのような定員をおく理由は何か。

二 小川英明参事官の成田空港建設事件の指定代理人としての適格性には、あくまでも問題がないとのことである。

(1) 小川英明参事官は、最近、右事件の筆頭代理人ではなくなつたとも聞くが、筆頭代理人としての適格性に、何か問題でもあつたのか。どのような問題があつたのか。
(2) 指定代理人の適格性の要件として、基本的人権の擁護が概念として包摂されているとのことであるが、小川英明参事官は、右事件の指定代理人として、一体誰の基本的人権を擁護せんとしているのか。
(3) 空港公団が内部的な事務処理の必要上作成したという「用地買収の経過と収用手続に関する業務資料」を書証とした乙第四七号証と内閣答弁書(内閣参質八九第四号)の別表一(以下「別表」という)について

(イ) 空港公団作成の際の「内部的な事務処理の必要上」とは、空港公団としてわざわざあの時期にいかなる内部的な事務処理にどのような必要があつたのか。
(ロ) 右作成は、法務大臣またはその代理人からの依頼によるのではなかつたのか、したがつて、いい加減に作成されたということではなかつたのか。
(ハ) 右作成及び作成された資料に運輸大臣は、責任を負うているのか。とすれば、誰に対するどのような責任か、またその根拠規定は何か。
(ニ) 別表には、ともかく内閣答弁書である以上、歴史的客観的な事柄については、真実が記載表示されているとみなしてよいのではないのか。みなせないのであれば、その理由は何か。
(ホ) 別表を含む内閣答弁書の内閣としての決済に法務大臣は参画し、したがつて、責任を負うているのではないのか。
(ヘ) とすれば、法務大臣の見解(別表)と法務大臣が適正な事務処理を確保するという観点から選任されたはずの小川英明参事官の見解(乙第四七号証)との間に、差異があることになるが、それでも小川英明参事官が法務大臣の指定代理人たり得るとすれば、その理由は何か。
(ト) たとえば、権利取得裁決の時期について、別表では七回とされ、乙第四七号証では六回とされているが、小川英明参事官は乙第四七号証が収用手続の経過の概要を立証する書証として、どのような理由により適当であるとしたのか。
(チ) 小川英明参事官は、内閣答弁書一般は格別、成田空港建設事件に関連した内閣答弁書を、日常的な業務の一環としてチェックしていなかつたのか。なぜか。
(リ) 小川英明参事官は、憲法に定められる国の統治機構が三権分立を基軸とし、それゆえ行政行為は司法権のみならず、立法権(国政調査権)によつても批判・検証にさらされるということを知らなかつたのか。なぜか。
(ヌ) 小川英明参事官の前任者であつた渡辺剛男参事官(当時)は、成田空港建設事件が昭和五十一年春の衆議院予算委員会で、しかも事件発生以来予算委員会の総括質疑で最初にとりあげられた際、政府委員席で傍聴していたと聞くが、小川英明参事官は立法権による行政行為のチェックに何ら関心をはらわなかつたのか。なぜか。
(ル) 乙第四七号証に、例示したもの以外に虚偽表示があれば、法務大臣の責任でその全てを示されたい。
(ヲ) 乙第四七号証は、法務大臣の責任において撤回されるか、撤回しないのであれば、立証趣旨を、たとえば、空港公団の業務がいい加減であることなどと変更されるべきではないのか。
(ワ) 成田空港建設事件に関連して運輸省または空港公団が作成した文書・資料を採用するには、法務大臣としては独自にチェックしてからにすべきではないのか。その必要がないのであれば、その理由を示されたい。

(4) 城野好樹証人の証人申請について

(イ) 小川英明参事官は、自ら証人申請を行つた時期に、どのような理由により城野好樹証人による立証を必要とすることになつたのか。
(ロ) 小川英明参事官は、そもそもどのような立証計画をもつて、右事件に係る行政処分の適法性の立証責任を果そうとしていたのか。

三 成田空港建設事件を裁く藤田耕三裁判長と同事件に係る被告代理人・小川英明参事官との間には、民事訴訟法所定の除斥、忌避または回避の事由に該当するような関係は存在せず、したがつて、あくまでも問題がないとのことである。

(1) 最高裁判所によつて選任され、内閣によつて任命された裁判官が、憲法及び法律にのみ拘束され、良心に従い独立して職権を行使しても、除斥、忌避または回避のいずれかの要件が充足される場合には、実態として不公平な裁判が必ず行われるということになるのか。
(2) 民事訴訟法に除斥、忌避及び回避の制度が設けられているのは、実態として不公正な裁判を排除するということ以前の問題として、不公正な裁判のおそれを排除し、裁判に対する国民の信頼を確保・維持することにあるのではないのか。その他どのような存在理由があるのか。
(3) 除斥の制度の他に忌避の制度がわざわざ設けられているゆえんは何か。
(4) 忌避の要件を裁判官と事件の関係からみて偏頗不公平な裁判のおそれを当事者に起こさせるに足る客観的な事情の存在とし、当事者の許婚者とが親友とかを例示する見解(三ケ月章「民事訴訟法」二六四頁)は、適正・妥当な見解か。
(5) 行政訴訟において、裁判官と法務大臣の指定代理人との間に、除斥、忌避または回避のいずれかの要件が成立する場合、裁判官が交代すべきであるというのが、法務大臣の公式見解と承つてよいのか。
(6) 除斥、忌避及び回避の制度は、たしかに行政訴訟に対しても適用されることになつているが、これら制度の適用は、訟務担当の検事が裁判官から採用されるということを当然の前提としたものであつたのか。
(7) 藤田耕三裁判長と小川英明参事官との間に親友などの忌避の要件が成立していないことを原告側はどうやつて知ることができるのか。

四 新東京国際空港工事実施計画の認可処分等取消請求事件(東京地方裁判所・昭和四十二年(行ウ)第六一号)について

(1) 被告代理人は、脇征男、水田嘉憲、三澤明の三氏とのことであるが、

(イ) 右三氏の所属・役職名を示されたい。
(ロ) 右三氏が、訴訟代理人となつた年月日及び理由を示されたい。
(ハ) 昭和四十二年九月二十七日以来現在に至る歴代の被告代理人は誰か。所属・役職名(当時)、訴訟代理人となつた年月日及び訴訟代理人ではなくなつた年月日とともに示されたい。

(2) 被告代理人は、右事件について、どのような立証計画にもとづき、立証責任を果そうとしていたのか、また、今後果そうというのか。
(3) 昭和四十二年九月二十七日以来、口頭弁論が行われていないとは、一体どういうことなのか。
(4) 被告代理人は、権限法を誠実に執行してきたといえるのか。その理由は何か。
(5) 第一次収用裁決処分取消請求事件(千葉地方裁判所・昭和四十六年(行ウ)第三号)にあつては、右事件と同様、口頭弁論期日が「追つて指定」となつていたところ、裁判所の構成が変つたことを契機として、裁判所主導で口頭弁論期日が指定されたと聞くが、右事件にあつては、裁判所の不作為と解すべきものなのか。

  右質問する。