質問主意書

第91回国会(常会)

質問主意書


質問第二三号

「旧土人保護法」を廃止し、アイヌ系住民の民族的民主的権利を守る新立法措置をとること等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十五年五月十四日

小笠原 貞子   


       参議院議長 安井 謙 殿


   「旧土人保護法」を廃止し、アイヌ系住民の民族的民主的権利を守る新立法措置をとること等に関する質問主意書

 今日、アイヌ系住民は、日常生活上さまざまな不当な差別をおしつけられ、就職、結婚、子どもの教育など特別の困難を余儀なくせられている。アイヌ系住民の多くは生業が安定せず、収入が低いため劣悪な生活環境におかれている。とくに、農漁村ではとり残された孤独の老人がふえる一方、仕事を求めて都市へ流れる数は急激にふえつつある。また、適切な保護政策がとられてこなかつたため、ユーカラなど貴重な民族的文化、言語、生活様式も失なわれようとしている。
 アイヌ系住民を今日の深刻な事態におとしいれたものは、アイヌ系住民の民族的権利を無視し、差別的政策をとつてきた明治以来の政府のこれまでの政策にある。
 私は、アイヌ系住民の民族的権利を保障し、いつさいの差別を一掃し、かつ生活にたいする特別の対策を実施すべきであるとの立場から、以下政府に質問する。

一 「旧土人保護法」の廃止とそれにかわる新しい立法措置について

(一) アイヌ系住民に対する歴代政府の過酷な支配と抑圧について、これを反省し、その民族的権利を保障すること、同時に今日なお残している「旧土人」なる蔑称をとりのぞくことは、政府の当然の責任である。
 政府は、依然として「旧土人保護法」を残し、それにかわる新しい立法の検討をすすめようとしていないが、その理由を明確にされたい。
(二) 「旧土人保護法」の再検討をしない理由の一つに、従来政府は、アイヌ系住民の意見がまとまつていないことをあげてきた。しかし、北海道ウタリ協会は、すでに昭和五十三年度総会において、「旧土人保護法」とそれにかわる法律について検討する「特別委員会」を発足させており、同協会野村理事長ら協会役員は一致して「新しい法律を是非制定してほしい」と関係者に要請している。
 こうした関係者の熱意に応えて、政府は、ただちに「旧土人保護法」を再検討し、新しい立法についての検討に着手すべきだと考えるが、どうか。
(三) 現在、政府部内に、アイヌ問題を総合的民主的に検討する機関さえおかれていないのは、昭和四十八年三月、「審議会を作つて検討することが望ましい」(厚生大臣、北海道開発庁長官)とした国会答弁を無視する、政府の重大な怠慢である。
 政府が、ただちにアイヌ系住民を含む関係者の審議会を政府部内に作り、自らの約束を実行するのは当然であると考えるが、どうか。
(四) 政府は、アイヌ対策の窓口を北海道開発庁におき、関係省庁連絡会議を随時開いているときく。しかし、昭和四十九年三月、町村北海道開発庁長官(当時)は、「北海道開発庁は、開発法にもとづいて、北海道に関係する公共事業だけをやるたてまえになつており、役所の構成も、人的関係も窓口にはふさわしくない」(衆院予算委分科会)と答え、北海道開発庁をアイヌ問題の窓口とすることは適当でないとした。私も、北海道開発庁の窓口では、単なる予算対策のみとなり、アイヌ問題の総合的体系的な対策にのりだすことはできないと考えている。
 そこで政府にきくが、北海道開発庁をアイヌ問題の窓口とする措置は、便宜的、経過的なものなのか、それとも将来にわたつて継続されるのか。
(五) いずれにしても、政府としてアイヌ系住民に対する総合的体系的な施策を緊急にとる必要がある。その意向があるかどうか、その施策を企画する場合、どの省庁が行うにふさわしいと考えるか明確にされたい。

二 民族的文化の保護について

 アイヌ系住民は、世界的叙事詩といわれるユーカラをはじめすぐれた独自の民族的文化をもつている。しかし、このすぐれた文化は、政府が戦前アイヌ語やアイヌ風俗を事実上禁止、ないしは抑圧し、戦後もほとんど何らの保護対策もとつてこなかつたこととも相まつて、アイヌ語を話せる古老が年々いなくなるなど、滅亡の危機にさらされている。アイヌ文化は、国民的な財産であり、それは当然、政府の責任において守られなければならない。
 そこで政府にたずねたい。

(一) 昭和四十九年三月、政府は、「いまだんだん古老が減つてしまう状態であるので、そういう方々の現存しているうちに、こういう文化遺産を一つ残さず保存することは、われわれ和人の重大な責任である」(北海道開発庁長官)とのべている。にもかかわらず、現在は、アイヌ文化の映画作成、アイヌ語のききとりや資料館の建設にわずかの補助がされているにすぎない状態である。
 これでは到底、「文化遺産を一つ残さず保存する」などといえるものでないことは明白である。予算増など抜本的対策を講ずべきだと考えるが、どうか。
(二) アイヌ系住民が非常に多い沙流郡平取町二風谷には、アイヌ語を話せる人は若干名いるが、これらの人たちは毎年夏になると観光地に出稼ぎに行き、アイヌ語の語りや踊りでほそぼそと生計を立てている。しかし、観光地の仕事があまりに過重なため、健康を害する人も数多くでている状態である。
 そこで、アイヌ語を話せるこれらの人々が出稼ぎに行かなくても、居住地等で、アイヌ語の伝承保存に専念できる体制を、国が責任をもつて緊急につくる必要があると考えるが、どうか。
(三) ユーカラのみならず、ウェペケレ(アイヌ説話)、カムイノミ(神を祈る儀式)なども歴史的価値ある民族的文化である。その保護保存のため、ユーカラを語れる人やカムイノミなどを、人間国宝や有形、無形文化財として指定する措置をとるべきではないか。

三 北海道の「ウタリ対策新計画」について

(一) 北海道が昭和四十九年からすすめている「ウタリ福祉対策七カ年計画」は本年度終了し、来年度には新計画をスタートさせるべくその策定作業が現在行われている。
 こうしたアイヌ対策について、北海道や市町村にだけまかせるのではなく、国民的課題として重視し、政府自身が責任をもつた計画を策定すべきであると考える。
 北海道の新計画策定について、政府の基本的態度を明らかにされたい。
(二) 北海道がすすめている新計画の策定作業に、当然、ウタリ協会の意見などがとり入れられるようアイヌ系住民の代表を含む適切な機関が設けられるべきである。しかしながら現実には、そうした体制がなく、関係者の意見も十分くみつくされているとはいいがたい。
 そこで政府としても、北海道に、そういうことのないようアイヌ系住民の意見が正しく反映されるための助言などを行うべきであると思うが、どうか。

  右質問する。