質問主意書

第90回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二号

行政不服審査法の解釈と運用の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年十一月二十八日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   行政不服審査法の解釈と運用の実態に関する質問主意書

 昭和四十六年六月十二日に千葉県収用委員会が行つた成田空港建設に係る緊急裁決に対し、同年七月十三日、同委員会からの教示もあつて建設大臣宛に、土地収用法第一二九条及び行政不服審査法(以下「行審法」という)第一五条に基き、「成田市駒井野字天並野二二一二番の二九外九筆の土地収用事件につき、公共用地の取得に関する特別措置法第二〇条に基く千葉県収用委員会による緊急裁決(千収委第七一号)に対する審査請求事件」を事件名とする審査請求(以下「本件請求」という)が行われたと聞く。以来八年以上を経過するも、現在に至るまで、いまだに裁決はおろか、十全の審理も行われていないという。
 これは一体どうしたことか。
 そもそも成田空港建設の総体が行政権濫用の所産であると聞くが、これもその一翼をなすものなのであろうか。右行審法執行に係る建設大臣の十全の審理、したがつて、裁決の放置は、本件請求の審理を担当した建設省計画局総務課における怠慢というよりも、むしろ違法な不作為として法的に非難されるべきものではないのか。故意またはそれに相当する重大な過失があつたのではないのか。
 よつて、以下、大平正芳首相の責任において、建設大臣による行審法の解釈と運用の実態に関し、御答弁を賜りたい。

一 本件請求に対する裁決を八年以上も不作為のまま放置してきた建設省計画局総務課について、

(1) 本件請求時から現在に至るまでの全課長の氏名、就任・辞任年月日、本件請求に係りなした業務の内容、及び本件請求に係る辞任引継ぎ事項の内容をそれぞれ示されたい。
(2) 本件請求時から現在に至るまでの収用担当の全補佐官の氏名、就任・辞任年月日、本件請求に係りなした業務の内容、及び本件請求に係る辞任引継ぎ事項の内容をそれぞれ示されたい。

二 放置されていた本件請求に関する審理手続(以下「本件手続」という)が進められることになつた理由について、昭和五十三年十二月一日政府において「新東京国際空港周辺地域における農業振興のための基本となる考え方について」が閣議報告されるなど成田空港建設に関して話し合いの気運が生ずるとともに、同月二十日には審査請求人の一部から本件請求に関する新たな主張を含む審査請求補充書が提出されるなど状況に変化が見られたことを挙げ、本件手続進行の最初の外形的な形として、本年二月七日、審査請求人に対して補正等を命じたことが指摘されている。

(1) 話し合いの気運の発生と審査請求補充書の提出以外に、右にいう「状況の変化」を規定する構成要件たり得るものがあれば、その全てを列挙されたい。
(2) 右にいう「状況の変化」がなければ、本件手続は依然として放置されたままということになるが、とすれば、本件手続が放置されていたのは、建設省計画局総務課における忘却による過失ではなく、承知の上の故意によるとしてよいのか、理由を付して示されたい。
(3) 話し合いの気運の発生の具体的な形として、政府内における閣議決定が例示されているが、これ以外に話し合いの気運の発生を証拠だてる事態があれば、その全てを列挙されたい。
(4) そもそもこの話し合いの気運とは何か、その概念の具体的内容を示されたい。
(5) 政府の一方的な意志決定にすぎない右閣議決定が、なぜ、この話し合いの気運の発生を意味することになるのか。
(6) この話し合いの気運の発生は、政府内だけのことなのか。その他、話し合いの気運はどこに発生していたのか。
(7) この話し合いの気運は、いつまで持続していたか。またそれは何によつて明らかとなるのか。
(8) 三月六日の森山欽司運輸相(当時)の「二期工事は年内着工」の閣議発言は、この話し合い気運とはどういう関係にあるのか。
(9) この話し合いの気運は、現在消滅しているのではないのか。
(10) この話し合いの気運が消滅していても、なお、本件手続を進行させるのであれば、この話し合いの気運の発生ということは、本件手続進行の根拠たり得ないのではないか。
(11) そもそもこの話し合いの気運の発生が、なにゆえ本件手続進行の根拠たり得るのか。
(12) また法令上その提出が義務づけられていない審査請求補充書の提出が、しかも六十四名の審査請求人のうちわずか一名の者の承継人からにすぎない審査請求補充書の提出が、なにゆえ本件手続進行の根拠たり得るのか。
(13) 逆に、審査請求補充書が提出されないかぎり、本件手続を進行させなかつたという趣旨か。
(14) 審査請求補充書を提出しない審査請求人に対しても、本件手続を進行させるのか。とすれば、審査請求補充書の提出は、彼らにとつて本件手続を進行させる根拠とはなり得ないのではないのか。
(15) 本件手続を進行させることになつたのは、話し合いの気運の発生や審査請求補充書の提出ではなく、まさに本件手続を不作為のまま放置していることの違法確認を求める不作為違法確認等請求事件(昭和五十三年(行ウ)第一六七号)が、昨年十二月二日に東京地方裁判所民事第三部に提訴されたことを唯一無二の理由とするのではないのか。
(16) 一般に不作為違法確認事件が提訴された結果、その不作為を解除すべく作為を開始するのは、不作為のまま放置してきたことに、何ら正当事由がなかつたことの何よりの証拠となるのではないのか。

三 本件請求以降、右二にいう「状況の変化」により進行されることになるまで、本件手続が故意に放置されていた不作為自体の中にも正当事由が全くないことについて、

(1) 本件請求について、その専らの理由とするところが、本件請求に係る緊急裁決の前提となる特定公共事業認定処分の違憲・違法であるとは意見陳述ぬきにはとてもいえず、まして本件請求に係る審査請求書では、右特定公共事業認定処分の違憲・違法に加え、分割裁決の違法と審理手続の違法が展開されていたのではないのか。
(2) 仮に本件請求の専らの理由とするところが、本件請求に係る緊急裁決の前提となる特定公共事業認定処分の違憲・違法であり、この特定公共事業認定処分に対する異議申立てに対し建設大臣が判断ずみであつたとしても、本件手続を故意に放置してよいとする行審法上の規定は存在しないのではないのか。
(3) 行政不服審査のなされている事件が、同時に司法裁判所に持ちこまれたからといつて、行審法に基く審理手続を故意に放置してよいとする行審法上の規定は存在しないのではないのか。
(4) 本件請求に係る緊急裁決の前提となる特定公共事業認定処分に対する昭和四十六年一月二十七日付異議申立てに対し、同年五月二十八日付で建設大臣は棄却決定をなしたが、少くともこの時期までは、成田空港建設に係る行審法に基く審理を故意に放置すべき何らの事由も建設省内には存在しなかつたのではないのか。
(5) 本件手続が故意に放置されている間に、成田市長及び千葉県知事は、成田空港建設に関係した行審法に基く審理を行つている。即ち、昭和五十年六月五日付に始まる三件の異議申立てに対し、成田市長は同年七月一日付で始まる三件の棄却決定をなし、これに続く同年八月一日付で始まる三件の審査請求に対し、千葉県知事により弁明書・反論書の往復による争点の成熟化、証拠物件の閲覧、意見陳述の機会の付与等の審理手続が着実に行われていると聞く。してみれば、本件手続が故意に放置されていたのは、建設省内部の特別の事情によるのではないのか。
(6) 本件手続が故意に放置されている間に、建設大臣は一方で成田空港建設に関係した行審法に基く審理を、成田開港に必要不可欠とされた例の二基の鉄塔撤去のための道路建設とそれに対する反対運動という開港前の「空港の緊張状態」といわれる状況の中で行つている。即ち、昭和五十一年二月二十五日付審査請求書の提出、同年六月二十八日付弁明書の提出、同年十一月十五日付同弁明書の送付、同年十二月十三日付反論書の提出、翌年一月十日付審尋、同審尋に対する同年二月九日付答弁書の提出、そして同年四月十五日付却下裁決が、大臣官房会計課を事務局として行われ、「空港の緊張状態」をかもし出していたはずの空港反対運動もこれに従つたと聞く。してみれば、本件手続の故意の放置は、建設省内部の特別の事情というよりも、建設省計画局総務課内部の特別の事情ではないのか。
(7) 行審法に係る審理を審査庁内部の担当事務局の特別の事情により故意に放置するのは、不作為の正当事由とはなり得ないのではないのか。
(8) 成田空港の一期工区(緊急裁決の申立て対象地域)にある三筆の土地の有機的な関係の中でのみ生活・生存をかろうじて成立させていた生前の老農婦・小泉よねさんに対し、ことさら、そのうち二筆のみを緊急裁決の対象となすなど、その生活・生存基盤を根底的に破壊するとしか思えない運輸省・空港公団・千葉県収用委員会による緊急裁決に関し、「簡易迅速」な行政救済を求めた本件手続に対し、担当事務局たる建設省計画局総務課の特別の事情による故意の放置は、実は、生前の小泉よねさんに対する極めて悪質な故意によるものと推認されてもやむを得ないのではないのか。

四 本件手続の放置に対する前記不作為違法確認等請求事件が提訴されるや、建設省計画局総務課は自ら不始末を糊塗隠蔽せんとすべく、一方で右訴訟事件の進行を法務省の指定代理人を通じ遅延させ、一方で本件手続を本年始めより外形上の体裁を整えんとするだけで、審査請求人の審査請求を受ける利益を実質的に侵害しながら強行させていると聞く。強行突破は「東京地方裁判所に係属中の不作為違法確認訴訟に負けたくないため」(林桂一補佐官)、「泥をかぶつてもやる」(石原孝収用係長)と審査請求人代理人・大谷恭子弁護士に明言したというのである。

(1) 行政権行使に係る権限は、権限付与の目的の範囲内で、かつ公共の福祉実現のためにのみ行使されねばならないのではないのか。
(2) 専らその不作為の違法の司法権による確認回避のみを目的とした行政権行使は、外形上法令にのつとつてはいても、濫用となるのではないのか。
(3) 右訴訟事件が提訴されるや、一方で右事件の進行を遅延させ、一方で審査請求人の裁決を受ける権利を侵害してまで強行せんとする建設大臣、つまり、建設省計画局総務課による行審法に基く審理権及び裁決権の行使は、濫用であり、したがつて、違法ではないのか。
(4) 本件請求に係る審査請求書及び審査請求補充書に対し、弁明書の送付を千葉県収用委員会に求めた理由は何か。
(5) 三月三十一日付右弁明書の受領印が四月十八日となつている理由は何か。
(6) 審査請求補充書は、小泉よねさんの包括承継人のみから提出されたにもかかわらず、事実上併合申請されていた本件請求を、行審法第三六条により職権で分離しなかつた理由は何か。
(7) 送付された右弁明書に対し反論書の提出を求めたことに、法令に従うこと以上に積極的な理由があれば、それは何か。
(8) 二回にわたり提出された右反論書に対し、しかも反論書には求釈明が含まれていたにもかかわらず、かつ、五月七日付質問及び申入書を無視までして、再度弁明書の送付を千葉県収用委員会に求めなかつた理由は何か。
(9) 五月二十九日付審査請求補充書(第二回)及び七月十二日付同(第三回)に対しては、審査請求人らの繰り返しの強い要求にもかかわらず、弁明書の送付を千葉県収用委員会に求めなかつた理由は何か。
(10) 行審法の運用にあたつては、審理手続における攻撃防禦を十分に尽させるべく、両当事者の納得のいく争点についての主張・立証をなさしめる必要があるのではないのか。
(11) 審査請求人にとつて審査請求の手続過程で処分理由を明確に了知するのでなければ、十分に自己の主張・攻撃をすることができず、したがつて、裁決を受ける利益が侵害されることになるが、本件手続ではこのことにどのような配慮が払われたか。
(12) 建設省設置法第三条第三〇号には、建設行政に関する啓発・周知宣伝が所掌事務として規定されているにもかかわらず、七月十二日付教示依頼書には何ら応じようとしない理由は何か。
(13) 本件手続に係り、行審法第二八条により職権で提出を求めた書類その他の物件の全てについて、提出請求年月日、提出者名、提出年月日、提出物の標目、提出物の作成者名及び同作成年月日をそれぞれ示されたい。
(14) 本件手続に係り、行審法第三三条第一項により千葉県収用委員会が提出した処分理由となつた事実を証する書類その他の物件の全てについて、提出年月日、提出物の標目、提出物の作成者名及び同作成年月日をそれぞれ示されたい。
(15) 八月十四日付で口頭による意見陳述の機会の付与を一方的にかつ突然に通告したというが、

(イ) 千葉県収用委員会に弁明書の提出を求められたいという正当事由を付した七月十二日付及び同十九日付申入書を無視までして、審査請求人らに処分理由が十分了知されないまま、右機会を設定した理由は何か。
(ロ) 審査請求人らに処分理由が十分了知されたあと、右機会が設定されることにどのような不合理が存するというのか。
(ハ) 行審法第三三条第二項による閲覧請求権行使のために行われた七月十九日付問い合せ書まで無視して、審査請求人らに証拠物件等の閲覧が行われないまま、右機会を設定した理由は何か。
(ニ) 審査請求人らが証拠物件等を閲覧したあと、右機会が設定されることにどのような不合理が存するのか。

(16) 証拠物件等の閲覧等に関し、九月三日、林補佐官より大谷弁護士に電話連絡があり、閲覧に要する時間は一日はかかること、また全ての審査請求人代理人が同一期日かつ一期日ですませられたいという意向表明があり、九月五日付申入書で、審査請求人代理人の間で日程のやりくりをして、九月二十九日及び十月二日の両日が申し立てられた。ところが、建設大臣は九月十三日付書面で意見陳述の機会を九月二十九日、閲覧はそれまでの期日と指定し、あまつさえ、閲覧について石原係長は日曜日または夜間にでもされたいとコメントしたという。なぜ日曜日または夜間に証拠物件等を閲覧させられねばならないのか。
(17) 九月二十九日と指定された意見陳述の機会について、審査請求人の小泉美代さんが同月十九日出産のため出席不可能なことをあらかじめ通告され、かつ当日文書で当人の健康回復をまつて共に意見陳述をしたい旨申し入れられたにもかかわらず、同日意見陳述の機会を付与したとなし、建設大臣は十月十一日付で二度と意見陳述の機会を付与しないと回答した。一方的に指定され、かつあらかじめの通告どおり出産のため出席できなかつた期日の設定が、なぜ行審法上の意見陳述の機会を付与したことになるのか。
(18) 本件手続に係る建設省計画局総務課による行審法の運用に関し、審査請求人らから十月二十九日付で抗議書が提出されている。この抗議書の内容に対する反論(自らの行審法の運用が適正合理的であり、かつ誠実であつたとする論拠)を示されたい。

五 渡辺栄一・新建設大臣を迎えた建設省による本件手続に係る紛争の終結について

(1) 本件手続に係る紛争を、(イ)先に東京・大宮間の新幹線建設反対運動に対応した新運輸相と同様、不作為のまま長年放置したことについて新建設相が陳謝し、(ロ)前記不作為違法確認等請求事件を取り下げる、(ハ)行審法の運用は原点にたちかえり今後適正に行う、(ニ)右訴訟に係る法務省の指定代理人、林補佐官及び石原係長らの名誉回復等を基本的ワク組として和解する考えはないか。
(2) 必要なら両当事者間のあつせんを行う用意があるが、ともかく、右についてただちに内閣官房及び法務省と協議に入る考えはないか。

  右質問する。