質問主意書

第90回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

土地収用法第百三十一条第一項に係る公害等調整委員会の事務処理等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年十一月二十六日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   土地収用法第百三十一条第一項に係る公害等調整委員会の事務処理等に関する質問主意書

 土地収用法(以下「収用法」という)第一二九条は「収用委員会の裁決に不服がある者は、建設大臣に対して審査請求をすることができる」と規定し、また同法第一三一条第一項は「収用委員会の裁決についての審査請求に対する裁決は、公害等調整委員会の意見を聞いた後にしなければならない」と規定する。
 しかるに、意見の照会を受けた公害等調整委員会(以下「委員会」という)は、これに対し形式的及び実質的にどのように回答すべきかについて、収用法令には何ら規定するところがない。また公害等調整委員会設置法(以下「設置法」という)第一三条には「委員会は、その所掌事務について、法律若しくは政令を実施するため、公害等調整委員会規則を制定することができる」と規定されているにもかかわらず、収用法第一三一条第一項に係る事務処理については、委員会規則には、何ら規定するところがない。
 よつて、以下、現実に発生している問題を例にとり、大平正芳首相の責任において、御答弁を賜りたい。

一 収用法第一三一条第一項について、次により建設大臣の見解を示されたい。

(1) 収用委員会の裁決に係る審査請求について、建設大臣が裁決するには、他者の意見を聞いた後にしなければならないと規定しなければならなかつた理由(立法の趣旨)は何か。
(2) 行政不服審査法に係る審査請求に対する裁決の前提要件として、裁決権者以外の者(他者)の意見を聞いた後にしなければならないものは他にあるか。あれば、その全てを根拠規定とともに示されたい。
(3) 右(1)の他者が委員会でなければならない理由(立法の趣旨)は何か。
(4) 建設大臣が委員会に意見を聞くべき時期について規定するところがないが、建設大臣の審査のいかなる段階で意見が聞かれるべきものなのか、根拠を付して示されたい。
(5) 委員会が意見を述べるべき対象(範囲)を根拠を付して示されたい。
(6) 意見を求めるにあたり、建設大臣は自らの審査に要した全資料を委員会に送付するのか。それとも、一部分しか送付しないのであれば、その選択基準を示されたい。
(7) 右(6)において、資料の恣意的な選択により、委員会が建設大臣と同じ判断(結論)に至らしめられる危険性(弊害)は、どのようなシステムにより排除されるようになつているのか。
(8) 建設大臣が、委員会の意見に反した裁決をなすことが、違法でないのであれば、その理由は何か。
(9) 委員会発足後、委員会の意見に反した裁決が行われたことがあれば、それに係る審査請求の事件名及び裁決の年月日を全て示されたい。
(10) 委員会発足後、建設大臣の審査手続きの瑕疵のため、委員会が審査のやり直しを意見としたことがあれば、それに係る審査請求の事件名、手続きの瑕疵の内容、それに対する建設大臣の措置の内容及び裁決の年月日を全て示されたい。
(11) 右(10)においてやり直しの場合、再度、委員会の意見を聞くことになるのかどうか、理由を付して示されたい。
(12) 委員会発足後、「棄却相当」以外の意見が回答された事件が、右(10)の事件以外にあれば、それに係る審査請求の事件名、意見の要旨及び裁決の年月日を全て示されたい。

二 収用法第一三一条第一項に係る委員会の事務処理について、次により委員会の見解を示されたい。

(1) 設置法第一三条に規則制定権が規定されているにもかかわらず、収用法第一三一条第一項に係る事務処理規則が制定されない理由は何か。
(2) 右(1)において、公正・厳格な事務処理を委員会としてどのように確保せんとしているのか。
(3) 設置法第五条に、わざわざ「委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う」と規定しなければならなかつた理由(立法の趣旨)は何か。
(4) 右(3)の「独立して職権を行う」という規定がなければ、どのような弊害が起こり得るのか。
(5) 現在の委員会の委員長及び全委員の氏名を示されたい。非常勤の委員にあつては、他の主な役職名を併記されたい。
(6) 委員会の委員長及び委員が独立して職権を行使できさえずれば、収用法第一三一条第一項に係る事務処理規則が無くても、委員会事務局による実務処理が、公正・厳格に行われるという根拠を示されたい。
(7) 独立して職権を行うということば、収用法令などの解釈も独自に行い得るということなのか。また行うべきものなのか。
(8) 委員会事務局組織令第三条には、審査官の分掌事務の一つとして「収用法第一三一条第一項の規定による意見の申出に関すること」と規定されているが、委員会事務局に存在する審査官、審査官補佐及び主査について、

(イ) 収用法第一三一条第一項の事務に係る実務処理を審査官、審査官補佐及び主査の間でどのように分掌するのか。
(ロ) 審査官補佐及び主査の存在を規定した組織法令上の根拠条項は何か。

(9) 委員会の審査官、審査官補佐及び主査の氏名を全て示されたい。このうち、関係のある他の職を同時に占めている者にあつては、その役職名を併記されたい。
(10) 右(9)のうち、かつて建設省に籍を置いたことのある者及び裁判官であつたことのある者はそれぞれ誰れか。
(11) 委員会組織令第一条は、審査官九人のうち三人は、関係のある他の職を占める者をもつて充てられるものと規定した。何故、このような規定が必要なのか。九人のうち三人とした理由も併せて示されたい。
(12) 収用法第一三一条第一項に係る事務処理が、委員会内で現実にどのような手順・手続きにより行われているのか。
(13) 右(12)に係る委員会による事務処理は、建設省から任意に送付を受けた資料・情報の範囲内で行わなければならないのか、また行われているのか。その他委員会の判断根拠とすべき資料・情報は、どのようにして収集しているのか、根拠規定とともに示されたい。
(14) 右(13)において、建設大臣から送付を受ける資料・情報が、委員会の意見を誘導するよう恣意的に選択されることによる弊害を排除するため、委員会としてどのような対策を用意しているのか。
(15) 右(13)において、建設大臣から送付を受けた資料・情報のうち、裁決の証拠となるべきもののいわゆる成立について、審査請求人や収用委員会に諮ることもなく、どのようにして判断しているのか。
(16) 収用法第一三一条第一項に係る委員会の意見は、どのような形で審査請求人または収用委員会の批判・検証にさらされるのか。
(17) 右(16)において、それとも、委員会は意見のいいつぱなしなのか。となれば、仮に無責任な、あるいは、建設大臣に誘導された意見が出されたときの更正措置はどうなるや。

三 委員会と公共用地審議会(以下「審議会」という)の権能の違いについて、次により建設大臣の見解を示されたい。

(1) 収用法の特別法たる公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という)第七条には、建設大臣が特定公共事業の認定をするには、審議会の議を経てとある。「議を経る」ということと収用法第一三一条第一項の「意見を聞いた後にする」とは、法概念上どのような違いがあるのか。
(2) 特定公共事業の認定について、「審議会の議を経て」と特措法で規定しなければならなかつた理由(立法の趣旨)は何か。
(3) 特措法第七条に係り建設大臣が審議会の議に付すべき時期については、特措法に規定するところがない。審査のいかなる段階で審議会の議に付されるべきものなのか、根拠を付して示されたい。
(4) 右(3)に係る審議会の議の対象(範囲)は何か。
(5) 右(3)に係る審議会の議は、どのような形で起業者または被収用者の批判・検証にさらされるのか。
(6) 右(5)において、それとも、審議会の議は出されつぱなしなのか。とすれば、仮に無責任な、あるいは、事務局により誘導された審議会の議が出されたときの更正措置はどうなつているのか。
(7) 審議会の委員の任命については、委員会の場合と異なり、衆参両議院の同意が必要であると特措法で定められなかつた理由(立法の趣旨)は何か。
(8) 審議会の委員については、委員会の場合と異なり、独立して職権を行える権限を特措法で付与しなかつた理由(立法の趣旨)は何か。
(9) 審議会における公正・厳格な審理及び事務処理は、どのようにして確保されているのか。
(10) 審議会の事務局は、建設省計画局総務課が担当するのか。その他建設省内のどの所部が担当するのか。
(11) 特措法第七条に係る建設大臣の行うべき事務処理は、建設省計画局総務課が担当するのか。その他建設省内のどの所部が担当するのか。
(12) 右(3)に係る審議会の議は、事務局が用意した資料・情報の範囲内でのみ行われるのか。その他審議会の判断根拠となる資料・情報は、どのようにして収集されているのか。
(13) 右(12)において、事務局から提出される資料・情報が、審議会の議を誘導するよう恣意的に選択されることによる弊害を排除するため、審議会としてどのような対策を用意しているのか。
(14) 最後に行われた特定公共事業認定(昭和四十五年十二月二十八日付)に係る審議会委員の氏名を示されたい。非常勤の者にあつては、当時の他の主な役職名を併記されたい。

四 昭和五十二年度及び同五十三年度に委員会が建設大臣に回答した収用法第一三一条第一項に係る事案の委員会における事務処理について、次により委員会の見解を示されたい。

(1) 設置法第一七条による委員会の年次報告によれば、昭和五十二年度に委員会に係属した意見照会事案は、翌年度回答を含め十八件あり、そのうち三件が照会受理から回答までに四ケ月前後を要し、七件が六ケ月前後、一件が七ケ月前後、六件が八ケ月前後、そして一件が九ケ月前後をそれぞれ要している。各事案につき委員会内で処理に要した期間が、それだけを合理的に必要とするいわゆる相当期間であるとする根拠を、各事案毎にそれぞれ示されたい。
(2) 昭和五十三年度に回答した事案のうち、事件名「日本鉄道建設公団起業岡多線猿投・瀬戸間鉄道建設工事に関する愛知県収用委員会の権利取得裁決及び明渡裁決に対する審査請求」(事件番号[5])の事案にあつては、建設大臣の審査手続きに二年三ケ月近くも要しているのにもかかわらず、委員会はわずか二ケ月で棄却相当の意見を建設大臣に回答した。委員会の内部でいい加減な事務処理が行われたのではないのであれば、建設大臣による二年三ケ月の審査に対して、わずか二ケ月間で回答できた理由を、他の事案に係る相当期間との比較において、具体的かつ詳細に示されたい。
(3) 同じく昭和五十三年度に回答した事案のうち、事件名「箕面市起業箕面都市計画道路事業二等大路第二類第一号千里二号線に関する大阪府収用委員会の権利取得裁決及び明渡裁決に対する審査請求」(事件番号[1] )の事案にあつては、棄却相当の意見を回答するのに、委員会が九ケ月に近い期間を必要とした理由は何か。

五 「成田市駒井野字天並野二二一二番の二九外九筆の土地収用事件につき、公共用地の取得に関する特別措置法第二〇条に基づく千葉県収用委員会による緊急裁決(千収委第七一号)に対する審査請求事件」を事件名とする審査請求が、昭和四十六年七月十三日付で行われていたが、建設大臣から最近になつてようやく、この事案(以下「本件事案」という)について、委員会に意見の照会が行われたと聞く。これに関し、次により委員会の見解を示されたい。

(1) 本件事案を委員会が受理した年月日を示されたい。
(2) 委員会及び委員会事務局にあつて、本件事案の審査事務を担当する委員、審査官、審査官補佐、主査及び事務官の氏名を全て示されたい。
(3) 本件事案を受理するにあたり、建設大臣から委員会に提出された全資料の標目、作成年月日及び作成者の氏名をそれぞれ示されたい。
(4) 右(3)に係る資料だけで本件事案に係る建設大臣の審査が行われたことになつているのか。
(5) 建設大臣は、本件事案の自らの審査にあたり、緊急裁決申立書、権利取得裁決申請書、土地調書、明渡裁決申立書、物件調書、千葉県収用委員会による現地調査に関する調書、緊急性を疎明する資料、及び審査請求人らの権利関係を疎明する資料を参照しなかつたと聞くが、委員会による審理及び委員会事務局による審査でも、これらの資料が不要であるというのであれば、それぞれについて、不要とする理由を示されたい。
(6) 権利取得裁決に係る収用法第四八条第四項にいう土地所有者は、農地買収に関する昭和二十八年二月十八日付の最高裁判所の判決により、真実の権利者でなければならないのではないのか。
(7) 本件事案に係る緊急裁決には、起業者たるべき運輸省・空港公団が、真実の権利者の追求を故意に怠り、単なる公簿上の権利者を土地所有者とみなし、千葉県収用委員会もこれを追認した結果、真実の土地所有者に補償金が払渡されない、または供託されない事態が起つているということはないのか。
(8) 本件事案に係るいわゆる請求人適格について、どのような手続き・要件により判断するのか。
(9) 行政不服審査法第二五条第一項による意見陳述の機会を審査庁が審査請求人らに付与するかしないかは、裁決の効力を左右する法定要件ではないのか。そう委員会として解釈できないなら、その理由は何か。
(10) 本件事案については、全ての審査請求人らに意見を陳述する機会を与えたとはいえないが、委員会としては、たとえば設置法第一四条を援用して審査請求人らの意見をあらためて聞くのか、それとも建設大臣に意見陳述の機会を設定するよう意見するのか、その他どうするのか。
(11) 本件事案に係る審査請求書には、審査請求の理由の中に、審査請求人らの個別権利に基づいた主張が記載されていない。当然意見陳述の機会等別の形で主張されることになると思われるが、審査請求人らの個別権利に基づく取消し事由について、その是非を委員会としては、どのような手続き・要件により判断するのか。
(12) 右(11)において、また千葉県収用委員会が緊急裁決書で認定した審査請求人らの個別権利の是非については、どのような手続き・要件により判断するのか。
(13) 建設大臣が、審査請求人や同代理人と協議なく指定した意見陳述のための機会の期日が、審査請求人の出産日の直後であつて出席できないとあらかじめ通知されていて、かつ変更されることがなかつた当日に、通知した理由で出席できなかつた場合は、行政不服審査法第二五条第一項にいう意見陳述の機会を与えたことにはならないのではないのか。
(14) 特措法第二〇条第一項は、「特定公共事業に係る明渡裁決が遅延することによつて事業の施行に支障をおよぼすおそれがある場合」、緊急裁決権を収用委員会に付与しているが、支障を及ぼすおそれがない場合に行われた緊急裁決でも、取消されるべきでないのであれば、その理由は何か。
(15) 右(14)において、支障を及ぼすおそれがない場合に行われた緊急裁決でも、無効ではないのであれば、その緊急裁決を有効ならしめる根拠規定は何か。
(16) 本件事案に係る緊急裁決について、千葉県収用委員会は、右(14)にいう「支障を及ぼすおそれがある」やなしやの判断を行わなかつたと聞くが、千葉県収用委員会が行うべき右判断の存否について、また行われていた場合の判断内容の適否について、委員会はどのような手続き・要件により判断するのか。
(17) 本件事案については、少くとも結果的にみて、右(14)にいう「支障を及ぼすおそれ」がなかつたといえるのではないのか。
(18) 起業者たるべき運輸省・空港公団は、右(16)に係り「支障を及ぼすおそれがある」ことを疎明する資料を、千葉県収用委員会に提出しなかつたと聞くが、この事実につき、委員会はどのような手続きにより判断するのか。
(19) 起業者たるべき運輸省・空港公団の本件事案に係る緊急裁決申立書は、特措法令で規定される法定要件を欠き、「緊急裁決を申し立てる理由」の記載がないと聞くが、この事実につき委員会はどのような手続きにより判断するのか。
(20) 右(19)に係る「緊急裁決を申し立てる理由」に記載されるべき内容及び記載すべきとした理由(立法の趣旨)はそれぞれ何か。
(21) 一般に、仮補償金とすべきではないのに、わざわざ仮補償金とすべく行われた緊急裁決(必然的効果として補償裁決が行われるまで、損失の補償に関し司法救済の道が閉される)が、取消されるべきではないのなら、その理由は何か。
(22) 右(21)に係る緊急裁決が無効でないのなら、その根拠は何か。
(23) 本件事案に係る土地に対する補償金は、概算見積りによる仮補償金とすべきものなのか。とすれば、その理由は何か。
(24) 本件事案に係る土地に関するいわゆる事業認定時価格は、昭和四十五年十二月二十六日付の権利取得裁決(千収委第二六〇号)で、起業者たるべき運輸省・空港公団が決定した地目別統一価格であると千葉県収用委員会が認定していたのではなかつたのか。
(25) 委員会は、本件事案に係る審査請求人や千葉県収用委員会の主張の真偽・是非の判断を、当事者相互に検証させるでもなく、どのような手続き・要件により、公正・厳格に行おうとするのか。

  右質問する。