質問主意書

第89回国会(特別会)

質問主意書


質問第五号

成田空港建設に係るいわゆる第二次代執行に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年十一月九日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   成田空港建設に係るいわゆる第二次代執行に関する質問主意書

 昭和四十六年九月に行われたいわゆる第二次代執行について、これは「千葉県収用委員会の昭和四十六年六月十二日付け緊急裁決に基づく明渡義務を履行しない者に代つて、新東京国際空港公団の請求を受けた千葉県知事が、土地収用法第百二条の二第二項の規定に基づき、行政代執行法の定めるところに従い、行つたものである」との御答弁(内閣参質八七第六号)を賜つたが、しかし、これでは小泉よねさんだけが何故あの時期に生活の場・生存の場から追い出されねばならなかつたのかという問いの回答にはなつていない。
 そこで、小泉よねさん同様、運輸省・空港公団から千葉県知事に行政代執行の請求がなされた小川明治さん(墓地)、藤崎恒次さん(宅地、農地等)及びいわゆる平和の塔について、行政代執行が行われなかつた理由を問うたところ、右代執行の必要性の有無については、同知事の判断するところであり、右三者については、直ちに代執行する必要がなかつたと判断されたとの御答弁(内閣参質八七第一三号)を賜わつた。しかし、同知事の判断、したがつて、それに基づく代執行の実施には、法の下の平等を規定した憲法第十四条に違反する疑いがある。
 よつて、以下、大平正芳首相の責任において、改めて御答弁賜りたい。

一 行政代執行法による代執行について

(1) 行政代執行法による代執行は、いわゆる国の機関委任事務ではないのか。
(2) 右において、建設大臣が都道府県知事に機関委任したことになるのではないのか。
(3) 上級行政庁としての建設大臣は、いわば行政代執行部局長たる都道府県知事による代執行に、どのような指揮監督権を有しているのか。
(4) 逆に、建設大臣は、都道府県知事による代執行に、右指揮監督権にみあう、どのような法的責任を負うているのか。
(5) 代執行の必要性の有無の判断が、思想信条により差別されるのであれば、これは憲法第十四条違反の要件を具備するのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(6) 行政代執行法に係る事務を所管するのは、建設省計画局総務課か、その他どこの部局か。

二 小泉よねさん、小川明治さん、藤崎恒治さん及びいわゆる平和の塔が関係する土地に係る運輸省・空港公団の空港公団名儀による代執行請求について

(1) 代執行請求に係る右四者が関係する土地について、所在・地番、公簿地目・現況地目、公簿地積・実測地積、公簿上の所有権者氏名・真実の所有権者氏名、緊急裁決に係る所有権移転の時期(年月日)、補償項目による移転対象物件名、同物件の所有権者氏名・同移転義務者氏名、物件移転(土地明渡)期限をそれぞれ筆毎に示されたい。
(2) 運輸省・空港公団が右四者が関係する土地について、代執行請求をなした理由を、それぞれ示されたい。

三 小泉よねさんが関係する土地に代執行を強行させた千葉県知事の判断及び手続きについて

(1) 運輸省・空港公団から代執行請求を受けて千葉県知事がとつた土地収用法、公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という)及び行政代執行法上の手続きについて、その年月日と内容を示されたい。
(2) 小泉よねさんに対し、直ちに代執行が必要であると判断した理由及び根拠を示されたい。
(3) 右判断において、千葉県知事は、成田空港・千葉港頭間の航空燃料輸送に係るいわゆる本格パイプライン建設が予定どおりいかないということを知つていたのではないのか。それとも予定どおり建設されると判断していたのであれば、その根拠を示されたい。
(4) 小泉よねさんは、成田空港建設反対という思想・信念を有していると判断したのか。とすれば、その根拠は何か。
(5) 小泉よねさんについて、運輸省・空港公団は千葉県知事にどのような情報を提供していたのか、併せてその内容も示されたい。
(6) 千葉県知事は、代執行以前に小泉よねさんと成田空港建設の是非について、また彼女が関係する土地の明渡しについて話し合つたことはあるのか。あるとすれば、その年月日、場所、立会人の氏名及び結論を示されたい。
(7) 小泉よねさんが関係する土地の明渡しが、いわゆる平和の塔が関係する土地の明渡しの完了まで遅延させてはいけないと判断した理由は何か、根拠とともに示されたい。
(8) 小泉よねさんに対する代執行は、空港建設反対運動に対するいわば懲罰、あるいはみせしめとして行われたのではないのか。
(9) 丸居幹一空港公団筆頭理事(当時)は、千葉地方裁判所に寄せた陳述書の中で「きわめて政治的色彩の濃い事柄は、概して、ある種のきつかけにより急進展する場合が多い」とまで述べている。小泉よねさんを生活の場・生存の場から追い出すことにより、成田空港建設に係る用地取得業務の急進展が期待されていたのではないのか。

四 代執行請求されているにもかかわらず、小川明治さん、藤崎恒治さん及びいわゆる平和の塔関係については、代執行を行わなかつた千葉県知事の判断について

(1) 明渡義務が明渡期限までに履行されなかつたにもかかわらず、代執行は不必要と判断した理由及び根拠を示されたい。
(2) 右の根拠が小泉よねさんの場合に該当しないと判断した理由は何か。
(3) 右三者について、代執行請求後の運輸省・空港公団と土地明渡しについて、具体的な協議に入つた年月日、協議に入らせた仲介者の氏名、協議立会人の氏名、協議が成立した年月日及び土地明渡義務の履行が完了した年月日を示されたい。
(4) 右において、土地明渡しに係る協議を成立させるために必要となつた解決金の額は、それぞれどれ程か、内訳とともに示されたい。ちなみに、小川明治さんの場合については、戸村一作著「野に起つ」(一五九頁)によれば、一人二百万円、コンクリートの補償金として三十万円が支払われたとある。
(5) 右三者は、特措法第四十六条に係る現物給付の要求を出したか。出した者がいれば、その年月日、内容及び運輸省・空港公団による措置の内容を各人別に示されたい。
(6) 右三者のうちに、特措法第四十七条に係り千葉県知事にあつせんを申し出た者がいるか。いるとすれば、その年月日、内容及びとられた措置の内容を各人別に示されたい。

五 成田市駒井野字天並野二二一二番の二九を所在・地番とする土地に対する代執行について

(1) 右土地の所有権者に対する中で、土地収用法第九十五条第二項による補償金の供託が行われていない者が一名いる。右供託が行われなかつた理由は何か。
(2) 右一名に対する同条第一項の補償金が払渡されていたのであれば、その年月日、場所及び方法を示されたい。
(3) 右補償金の払渡しが持参債務であるということを運輸省・空港公団は知つていたか。
(4) 右が持参債務とされた理由を運輸省・空港公団は知つているか。とすれば、その内容を示されたい。

  右質問する。