質問主意書

第89回国会(特別会)

質問主意書


質問第四号

建設省計画局総務課編「土地収用法実務提要」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年十一月六日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   建設省計画局総務課編「土地収用法実務提要」に関する質問主意書

 建設省計画局総務課編「土地収用法実務提要」(以下「実務提要」という)が、土地収用関係法令の適正な解釈運用のための指導書として実務担当者の便宜に供することを目的として編集・発行されてから、十五年目を迎えている。しかるに、土地収用法の特別法たる公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という)に基づく特定公共事業に必要な緊急裁決申立書に係る様式第五号の記載内容の誤り、手続的要件に係る重大な誤りが、この期に及んで、昭和五十四年七月二十五日発行の追録第四〇・四一号(以下「追録」という)により、「補正」された。
 これは一体どうしたことか。
 志村清一計画局長(当時)は、実務提要の「推せんのことば」の中で「土地収用法は、非常に技術的な内容をもつうえ、被収用者の権利尊重を重要な柱としている法律である。したがつて、一見、小さな手続上の間違いがあつても、相手方の権利保護のため、手続全体の効力が左右されるおそれがある」と述べ、正しい土地収用法の運用がすすめられるべく、実務上必要なことがらをすべて盛り込んだ実務提要が、関係各位に利用されるよう推せんさえしているのである。また、佐土侠夫総務課長(当時)も、同じく実務提要の序の中で「土地収用法の適用に当り、十分その効果を上げるためには、事業施行者・被買収者その他の関係者において、その解釈運用について十分理解していることが必要である」と指摘し、そのため実務提要こそが、土地収用法を活用せんとする実務担当者の資に供され得るものとまで述べている次第なのである。
 このような使命を担う実務提要に誤りがあるとなつたら何んとする。まして誤りのまま、その誤りに基づき現実に収用権が執行され、身寄りのない老農婦が、生活の場・生存の場から着のみ着のまま放逐されているとなつたら、その罪万死にあたると糾弾されてもやむをえまい。
 そこで、実務提要(以下追録による補正前のものをいう)及び追録について、成田空港建設に係り、現実に発生した問題に関し、運輸省・空港公団、千葉県収用委員会及び建設省計画局に係る事実に関し、大平正芳首相の責任において、以下、御答弁を賜りたい。

一 運輸省・空港公団は、昭和四十六年二月三日、特措法第二〇条に基づくと称し、成田空港建設に係る緊急裁決の申立てを、起業者空港公団名儀で千葉県収用委員会に行つた。運輸省・空港公団による「緊急裁決申立書」には、特措法第二〇条・同法施行規則第四条による別記様式第三に規定される要件のうち、四号要件たる「緊急裁決を申し立てる理由」の記載が欠けていた。
 運輸省・空港公団は「緊急裁決申立書」作成にあたり、

(1) 特措法施行規則別記様式第三を参照したか。

(イ) したのであれば、それにもかかわらず、あえて、「緊急裁決を申し立てる理由」の記載を削除した理由は何か。
(ロ) しなかつたのであれば、その理由は何か。

(2) 建設省計画局総務課と協議をなし、ないしは指導を受けたのであれば、その年月日及び内容を明らかにされたい。
(3) 実務提要を参照したか。

(イ) しなかつたのであれば、その理由は何か。
(ロ) したのであれば、その理由は何か。志村局長の推せんのことばや佐土課長の序を信じたからなのか。
(ハ) (ロ)において、実務提要にある誤りに気がつかなかつた理由は何か。

二 千葉県収用委員会は、法定要件を欠いた運輸省・空港公団の提出に係る「緊急裁決申立書」を受理するにあたり、

(1) 運輸省・空港公団との間に「緊急裁決申立書」の方式につき協議が行われたのであれば、その年月日及び内容を示されたい。
(2) 特措法令に規定される方式を欠いた「緊急裁決申立書」について、方式の欠陥の補正を命じなかつた理由は何か。
(3) 特措法施行規則別記様式第三を参照したか。

(イ) したのであれば、それにもかかわらず、あえて、「緊急裁決を申し立てる理由」の記載のない、つまり方式を欠いた「緊急裁決申立書」を受理した理由は何か。
(ロ) しなかつたのであれば、その理由は何か。

(4) 建設省計画局総務課と協議をなし、ないしは指導を受けたのであれば、その年月日及び内容を明らかにされたい。
(5) 実務提要を参照したか。

(イ) しなかつたのであれば、その理由は何か。
(ロ) したのであれば、その理由は何か。志村局長の「推せんのことば」や佐土課長の序を信じたからなのか。
(ハ) (ロ)において、実務提要にある誤りに気がつかなかつた理由は何か。

三 昭和四十六年九月のいわゆる第二次代執行で生前の小泉よねさんが、生活の場・生存の場から追い出されている。この代執行を導いた緊急裁決は、同年六月十二日、千葉県収用委員会により行われているが、この緊急裁決に係る運輸省・空港公団の「緊急裁決申立書」について、大平首相から寄せられた答弁書(内閣参質八七第一三号)による御答弁について、

(1) 「緊急裁決を申し立てる理由」の記載のない「緊急裁決申立書」を千葉県収用委員会が受理するのは、誠実な法令の執行といえるのかと問うたのに対し、緊急裁決の効力には影響を及ぼさないと答弁されている。

(イ) 瑕疵ある「緊急裁決申立書」の受理の是非についての御答弁がないが、特措法令に規定された方式を欠く「緊急裁決申立書」を、その欠陥の補正を命じることもなく受理するのが、違法ではないのであれば、その理由を示されたい。
(ロ) (イ)に対する答弁を回避され、問うてもいない緊急裁決の効力について答弁された理由は何か。
(ハ) それとも、効力に影響を受けない行政権の行使である限り、常に誠実な法令の執行であるという趣旨か。また誠実な法令の執行についての概念規定の内容を示されたい。
(ニ) 特措法令に規定された方式を欠く「緊急裁決申立書」に基づく緊急裁決が、何故無効たるの要件を具備するとはならないのか。
(ホ) 「緊急裁決申立書」が特措法令に規定された方式を欠くことが明白であつても、明白な瑕疵とはならないのであれば、その理由は何か。
(ヘ) 「緊急裁決申立書」が特措法令に規定される方式を欠くこと自体が、重大な瑕疵とはならないのであれば、その理由は何か。
(ト) 「緊急裁決申立書」に特措法令で規定される方式を欠くことが、現在、宅地開発公団総裁の職にある志村局長の「相手方の権利保護のため、手続全体の効力が左右されるおそれがある、一見、小さな手続上の間違い」でさえない理由は何か。
(チ) 右について、志村宅地開発公団総裁の御見解如何。

(2) 「緊急裁決申立書」に記載されている「はず」の「緊急裁決を申し立てる理由」の全文を示されたいと問うたのに対し、「記載されていない」との御答弁である。記載されていないからこそ、本来記載されている「はず」の、いいかえると、記載されるべき「緊急裁決を申し立てる理由」の開示を求めたのである。記載されるべき「緊急裁決を申し立てる理由」の全文を示されたい。
(3) 「緊急裁決を申し立てる理由」を「緊急裁決申立書」に法定要件として記載すべきと規定した理由を問うたところ、「……事業の施行に支障を及ぼすおそれがあることを明らかにさせるためである」と記載すべきとした目的を答弁されている。特措法令で規定される様式でもつて、「………及ぼすおそれがあることを明らかにさせる」必要があるのか、その理由を明らかにされたい。他のやり方では何故いけないのか。

四 土地収用法では、裁決申請書や明渡裁決申立書、あるいはそれらの添付書類が、建設省令に規定される方式を欠くときは、その欠陥の補正を命じ、また欠陥の補正を命じられた起業者が、所定の期間内に補正に応じないならば、申請や申立てを却下すべきことを収用委員会に義務づけている。土地収用法による事業認定申請や特措法による特定公共事業認定申請に対しても、同様の手続的要件が課されている。
 しかるに、特措法による緊急裁決申立書については、そのような規定がない。

(1) 土地収用法や特措法では、理由を明示して受領を拒否すればすむところを、右のような欠陥の補正及び却下の条項をことさら置いた理由は何か。
(2) 裁決申請や明渡裁決の申立てにおいて、命ぜられた補正に起業者が応ぜず、したがつて、却下すべき申請や申立てについて、収用委員会が裁決したとき、この裁決は無効たるの要件を具備することになるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(3) 裁決申請や明渡裁決の申立てに対し、本来、補正を命ずべき欠陥を放置したまま、収用委員会が行つた裁決は、やはり、無効たるの要件を具備することになるのではないのか。そうでないなら、その理由は何か。
(4) 土地収用法第四七条により却下の裁決をなすべき申請や申立てに対し、収用委員会が行つた収用又は使用の裁決は、無効たるの要件を具備することになるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(5) (4)は緊急裁決の申立てに係る申請や申立てに対しても同様ではないのか。区別する必要があるのなら、その理由は何か。
(6) (5)において、緊急裁決の申立てに係る申請や申立てについては、土地収用法第四七条中の「この法律の規定に……」の「この法律」の中には、特措法も含められるべきではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(7) 緊急裁決の申立てに対し、特措法に欠陥の補正及び却下の条項をことさら置かなかつた理由は何か。
(8) 特措法令に規定される方式を欠く「緊急裁決申立書」が提出された場合、収用委員会はどのように対応すべきものなのか。またその法令上の根拠規定は何か。
(9) (8)において、理由を明示して受領を拒否してはならない法令上の根拠があれば、それは何か。
(10) (8)において、そのまま受領してよいとする法令上の根拠があれば、それは何か。

五 特措法第二〇条第一項は、収用委員会に緊急裁決権(裁量権)を付与している。しかし、起業者からの特定公共事業に係る緊急裁決の申立ては、この事実をもつて、直ちに、収用委員会に右裁量権行使の権能を発生させるわけではない。

(1) 法令が一定の事実の存在を前提ないし要件として裁量権行使を認めている場合、前提となる事実が存在しないのにもかかわらず処分を行い、またその要件事実の認定がまつたく条理を欠くような場合の裁量権行使は違法ではないのか。違法でないとするなら、その理由は何か。
(2) 裁量権は法律によつて行政権に付与されるのであるから、その権限付与の目的に沿つてのみ行使されねばならず、この目的違反は、根拠法との関係で裁量権行使を違法ならしめるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(3) 行政は公益目的のためにのみその権限を行うのであるから、不正な動機や恣意的独断ないし他事考慮に基づく裁量権行使は違法ではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(4) 収用委員会が緊急裁決権を行使できるのは、少くとも「特定公共事業に係る明渡裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがある」という事実、要件事実が存在する場合に限られるのではないのか。
(5) 各都道府県収用委員会会長宛の昭和三十六年八月二十九日付建設事務次官通知(建設省発計第五〇号)にある「緊急裁決は、裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがあるときにのみ認められるべきものであるので、緊急裁決の申立てがあつたときは、これらの要件に該当するかどうかを具体的に審理したうえ慎重に処理されたい」は、右(4)を明らかにしたものではないのか。
(6) したがつて、右要件事実が存在しない場合に行われた緊急裁決は、違法であり、また無効たるの要件を具備することになるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(7) 「裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがある」かどうかの要件事実の収用委員会による認定には、「緊急裁決申立書」に記載されるべき「緊急裁決を申し立てる理由」が援用されるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(8) 右「緊急裁決を申し立てる理由」の内容如何によつて、緊急裁決権行使の権能が消滅するのであるから、「緊急裁決を申し立てる理由」は、緊急裁決権行使に重大な影響をもつことになるのではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(9) 「緊急裁決申立書」に「緊急裁決を申し立てる理由」の記載を欠くことは、緊急裁決権に重大な影響を及ぼすことにならないか。そうでないのなら、その理由は何か。
(10) 「緊急裁決申立書」に「緊急裁決を申し立てる理由」が記載されないことは、重大な瑕疵ではないのか。そうでないのなら、その理由は何か。
(11) 千葉県収用委員会は、昭和四十六年六月十二日の緊急裁決をなすにあたり、「裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがある」かどうかの要件事実の認定を、どのような手続きにより、どのように具体的に審理し、どのように慎重に処理されたのか。
(12) 現実に成田空港が開港したのは、昭和五十三年五月である。成田開港の時期と右緊急裁決との間にどのような相当因果関係があつたのか。
(13) (11)の要件事実の認定に誤りがなかつたのであれば、その理由は何か。

六 昭和四十六年二月三日に行われた運輸省・空港公団による緊急裁決の申立ては、仮補償金による収用の裁決を求めることにあるよりも、むしろ、第一次から第七次と分割されていた権利取得裁決の申請のうち、すでに行われていた第一次申請に係るものにつづく第二次から第四次までの申請(明渡裁決の申立ても含む)に対し、一括して一期工事関係分の収用の裁決を求めることにあり、したがつて、「裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがある」ことを「緊急裁決申立書」の「緊急裁決を申し立てる理由」に記載する主観的動機・理由がなかつたのではないかとも客観的状況からは推認されるやにみえる。

(1) 運輸省・空港公団が、空港公団名儀で千葉県収用委員会宛に行つた権利取得裁決の申請について、第一次より第七次までの申請毎に、[1]申請の年月日、[2]件数及び筆数、[3]そのうち一期工事に係る件数及び筆数、[4]現況地目別の実測地積、[5]千葉県収用委員会により、昭和四十五年十二月二十六日に事業認定時価格と認定された運輸省・空港公団の「地目別統一価格」による補償額をそれぞれ明らかにされたい。
(2) 運輸省・空港公団は、千葉県収用委員会に対し「昭和四十五年九月までに四次にわたつて四十一筆面積合計約三、六ヘクタールの土地について裁決の申請を行つたのであるが、これらの土地は第一期工事にかかる土地である」と事実に反する虚偽の申立てをなした。ちなみに、たとえば、第三次申請には、二期用地関係が二件二筆含まれている。

(イ) 右虚偽の申立てをなした理由は何か。
(ロ) 第二次から第四次までの申請に含まれる二期用地関係について、その所在、地番、現況地目、実測地積、土地所有者名及び現在までの取得状況を筆毎に示されたい。
(ハ) 昭和四十五年十二月二十六日付裁決書(千収委第二六〇号)の六頁に右記載があるが、これは運輸省・空港公団と千葉県収用委員会の通謀虚偽表示か。
(ニ)その他、右裁決書及び昭和四十六年六月十二日付の緊急裁決書(千収委第七一・七二・七三号)の中で、運輸省・空港公団の申立てにある虚偽表示の全てを明らかにされたい。

(3) 昭和四十五年十一月三十日付第五次申請や同年十二月十二日付第六次申請にも、一期工事関係分が含まれていたと聞く。これらを取り残したまま、第二次から第四次までの申請に係る一期工事関係分のみに対し緊急裁決の申立てをなしたのは、仮補償金による緊急裁決を求めるよりも、むしろ、これらについて一括裁決を求めることに主観的動機・目的・必要があつたのではないのか。その他、一部一期工事関係分を放置したまま、緊急裁決を申立てた真の理由を示されたい。
(4) 一期工事関係分よりも、二期工事関係分に係る収用の裁決を一部分割して先に申請した理由は何か。二期工事関係分でも一期工事関係分よりも「緊急性」があるものがあつたということなのか。
(5) 「緊急性」があつたはずの一期工事関係についても、まだ未収用地が残つているとも聞く。その所在、地番、現況地目及び実測地積を筆毎に明らかにされたい。
(6) 土地所有者代理人からの「本件の実質的な審理に応ずる意思があるかどうか」という意見について、運輸省・空港公団は、千葉県収用委員会に対し、「収用委員会において十分な審理を尽されることを期待していることはもちろんである」と申立てた(千収委第七二号八頁)。

(イ) 運輸省・空港公団は、緊急裁決が、審理がつくされないがゆえの概算見積りによる仮補償金(特措法第二一条)を定めることであり、仮補償金によらない裁決、即ち、確定裁決は緊急裁決たりえないことを知つていたか。
(ロ) 運輸省・空港公団による緊急裁決の申立ては、概算見積りによる仮補償金に基づく裁決を求めるために行われた。いいかえれば、「十分な審理が尽されないことを期待して」行われたのではないのか。
(ハ) しかるに、千葉県収用委員会への運輸省・空港公団の申立てによれば、「十分な審理が尽される」、もつて、確定裁決が行われることを期待しているようにもみえる。緊急裁決の申立て自体と右申立てが矛盾しないのであれば、その理由は何か。
(ニ) 緊急裁決の申立てはしたものの、運輸省・空港公団は、実際には、確定裁決が行われることを期待していたのではないのか。

(7) 昭和四十六年六月十二日付の緊急裁決(千収委第七一・七二・七三号)は、内容的にはそのまま確定裁決とすべきものではなかつたのか。土地に対する損失の補償とそれ以外の損失の補償に分けて、算定根拠の概算性を、昭和四十五年十二月二十六日付裁決(千収委第二六〇号)との比較により示されたい。

七 追録により実務提要が補正されることとなり、特措法施行規則別記様式第三が、実務提要の土地収用手続関係様式例・様式第五号に係る緊急裁決申立書に反映されることとなつた。

(1) 実務提要発行後十五年近くも経過した時期に追録による補正が行われた契機は何か。また補正を十五年近くも放置した理由は何か。
(2) 「緊急裁決を申し立てる理由」の記載のない「緊急裁決申立書」でも効力に影響を及ぼさないはずである(内閣参質八七第一三号八頁)のに、特措法施行規則別記様式第三を変更して、実務提要にある様式に合致させなかつた理由は何か。
(3) 運輸省・空港公団及び千葉県収用委員会が実務提要にある「緊急裁決申立書」の様式に係る記載の誤りを知つた年月日、契機をそれぞれ明らかにされたい。

  右質問する。