質問主意書

第87回国会(常会)

答弁書


答弁書第二一号

内閣参質八七第二一号

  昭和五十四年六月十五日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員安恒良一君提出カネミ油症事件の処理に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員安恒良一君提出カネミ油症事件の処理に関する質問に対する答弁書

一について

(1) PCB(ポリ塩化ビフェニル)のメーカー別、年別生産量は別表一のとおりである。
(2) 通商産業省の調査によるとPCBを製造工程に使用していた事業所の数は、約千二百である。これを用途別にみると、電気機器約五十事業所、熱媒体約千事業所、ノーカーボン紙六事業所、塗料、接着剤等約百四十事業所となつている。
 PCBの用途別使用量は、次の表のとおりである。

図 表 1/2

図 表 2/2

(3) PCBによる環境汚染問題に対処するため、昭和四十六年から昭和四十七年初頭にかけて、ノーカーボン紙等の開放系用途へのPCBの使用を中止するよう指導し、更に、昭和四十七年三月から四月にかけて、トランス、熱媒体等の閉鎖系用途についてもPCBの使用等の自粛を指導した。
 また、第六十八回通常国会における決議もあり、関係九省庁からなる「PCB汚染対策推進会議」を昭和四十七年四月に設置し、汚染防止対策の総合的かつ効果的な推進を図ることとした。
 こうした情勢の中で、三菱モンサント化成株式会社は昭和四十七年三月に、鐘淵化学工業株式会社は同年六月にPCBの生産を中止した。
(4) PCBの回収については、PCBメーカー及びPCBを使用する事業者の団体を指導し、回収の徹底を図つた結果、昭和五十四年四月末現在合計六千七百五十三トンが回収されている。
(5) 国内に供給されたPCBは、熱媒体、電気機器、ノーカーボン紙、塗料、接着剤等に使用された。
 熱媒体として用いられた液状PCBは、他物質による代替が進められ、PCBメー-カーにより可能な限り回収され、保管されている。
 電気機器については、当該電気機器が使用済みとなつた段階で、厳重に保管されている。
 ノーカーボン紙については、可能な限り回収され、焼却又は保管されている。
 塗料、接着剤等については、使用後はその性格上回収が不可能であるが、未使用在庫については、回収され、保管されている。
(6) PCBについては、昭和四十六年以降の政府の使用中止、回収等の指導を受け、PCBメーカーにより回収が進められており、現在、PCBメーカーの屋外タンク貯蔵所及び倉庫に約六千六百十八トンが貯蔵されている。
 PCBの貯蔵については、不測の事態の発生に備え、常時点検を実施する等PCBメーカーによる厳重な管理が行われている。
 液状PCBの最終処理については、現在、欧米諸国で実施されている廃有機塩素化合物の洋上焼却処理が実現性の高いものと考えられるが、その処理に当たつては、環境に与える影響について十分配慮する必要があるため、現在、学識経験者等から成る液状廃PCB洋上焼却処理研究委員会において、海外調査団を派遣する等洋上焼却処理の安全性と技術的な問題について検討を続けているところである。
(7)[1] PCBを使用したノーカーボン紙のメーカー別、年度別生産量は別表二のとおりである。
   [2] PCBに換算すると約五千トンである。
   [3] ノーカーボン紙については、製品自体の性質から未使用、既使用を区別しては握することは困難であることもあり、既使用量については、正確には握できない。用途としては、各種伝票類、テレタイプ用紙等がある。
   [4]及び[5] 未使用のものを含め事業者等において保管されていたノーカーボン紙は、通商産業省の調査によれば約三千五百トンあり、このうちノーカーボン紙メーカーにおいて保管されていたものについては、その大部分が既に焼却されている。

(8)及び(9)ア 現在使用されているPCBを含む製品としては、電気機器がある。
 トランス及びコンデンサーについては、使用済みとなつた段階で当該事業所において、厳重に保管している。財団法人電気絶縁物処理協会の調査によれば、その数は、トランスについては約四百五十事業所において約二千台、コンデンサーについては約五千事業所において約二万台となつている。
 家庭用電気製品に組み込まれたPCB使用部品については、家庭用電気製品を廃棄する際、メーカーが抜き取り、保管している。
   イ 塗料、接着剤等の未使用在庫については、メーカーにより保管されている。

(10) 以上に述べたほか、電気機器の処理については、工業技術院公害資源研究所における研究により、無害化処理が可能であることの証明がなされている。この処理技術に基づいて、財団法人電気絶縁物処理協会で一元的に処理を行うこととしており、現在、処理工場の建設を行うべく努めている。

二について

(1) 環境中に存在するPCBの総量を正確には握することは困難である。
(2) 我が国において、PCB の環境中における存在は昭和四十六年に指摘されている。
 また、全国の河川、海域等の水質の調査結果によれば、昭和五十二年度において、PCBについて水質汚濁に係る環境基準に適合しないのは、三千九百二十七検体中四検体であつた。
(3)[1] 食品中に残留するPCBについて、都道府県市で実施した調査の結果のうち、現在承知しているものをとりまとめると、次の表のとおりである。

図 表

   [2] 昭和四十八年度に実施した委託研究「PCB等の体内蓄積濃度の分布に関する研究」の結果によれば、剖検例の主要臓器組織に含有されるPCBの濃度は次の表のとおりとされている。

図 表 臓器別凍結臓器PCB平均濃度(四〇歳以上)

三について

(1)及び(2) PCBは、食用油脂製造企業において、食用油脂の脱臭工程における熱媒体として、昭和三十二年頃から使用され始め、昭和四十三年十一月から昭和四十六年十二月までの間に使用が停止され、この間に約二十五トン使用されたと聞いている。
(3) PCBは、自然的作用による化学的変化を生じにくく、かつ、生物の体内に蓄積されやすいとともに継続的に摂取された場合には人の健康をそこなうおそれがある性質を有することから、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく特定化学物質に指定され、昭和四十九年六月から、特定の用途に使用する場合を除いてその使用が禁止されることとなり、食品製造用の使用も禁止されたものである。
(4) 食品製造に使用されている熱媒体には、次のものがある。

図 表 1/2

図 表 2/2

(5) 昭和四十七年の食品衛生法の改正において新たに設けられた同法第十九条の十八の規定に基づき、営業者の遵守すべき基準として、昭和四十九年十二月、「食品又は添加物の製造又は加工の過程における有毒な又は有害な熱媒体の混入防止のための措置の基準」を設定し、熱媒体を使用する食品製造業者に対する規制を強化したところであり、当該基準の遵守について必要な監視指導を行つている。

四について

(1) 昭和五十三年末現在で国がは握している患者数は、千六百八十四名である。都府県別では、福島県三名、茨城県一名、埼玉県五名、千葉県九名、東京都八名、神奈川県六名、長野県一名、岐阜県五名、愛知県三十一名、三重県一名、京都府二名、大阪府五十名、兵庫県十三名、奈良県二十一名、鳥取県二名、島根県五名、岡山県五名、広島県九十七名、山口県四十七名、愛媛県十三名、高知県四十五名、福岡県六百九十六名、佐賀県十九名、長崎県五百六十六名、熊本県三名、大分県二十名、宮崎県五名、鹿児島県五名である。また、性別では、男八百七十五名、女八百九名である。
 なお、中毒事件の発生当時から昭和四十四年七月までの間における届出者数は一万四千三百二十名であつたが、このうち、カネミ製品を摂食していなかつた者は九百八十六名であり、カネミ製品を摂食した者一万三千三百三十四名について健康診査その他必要な調査を行つた結果、カネミ油症患者とされた者は九百十三名であつた。その後においても、受診を希望する者に対しては検診を行い、患者の的確なは握に努めてきたところであり、昭和五十三年末現在における患者数は前記のとおり、千六百八十四名である。
(2)[1] 油症の治療法等に関する研究は、昭和四十三年度から現在まで引き続き実施してきているが、昭和四十三年度から昭和五十二年度までに実施した研究項目及びその支出額は、次の表のとおりである。

図 表 1/2

図 表 2/2

   [2] カネミ油症患者の診療については、九州大学の例のようにカネミ油症患者のための外来窓口を開設し、あるいは、各府県において国立、県立、大学病院等で随時受診ができるような方法を講じる等、患者の受診の便宜を図る措置が採られているところである。
 なお、カネミ油症患者に対しては、カネミ倉庫株式会社が、医療費、通院のための交通費、介護手当等を支払つているところであり、これらの総額は、昭和四十三年から昭和五十三年十二月までの合計で約六億二千万円となつている。
   [3] カネミ油症患者のは握については国の委託により九州大学等を中心とした油症治療研究班が作成した油症診断基準に基づき、関係府県において大学病院、県立病院等の医師による患者の診定及び追跡検診を行つているところである。
   [4] 生活に困窮しているカネミ油症患者については、申請により特例措置として世帯更生資金の福祉資金等の貸付けが実施されているところである。
   [5] 食品事故による健康被害者の救済対策の問題については、昭和四十八年四月から、食品事故による健康被害者救済の制度化研究会において検討が行われているところであるので、その結論を参考にして検討いたしたい。
   [6] 油症事件後、昭和四十四年七月には、食品衛生法施行令を改正し、食用油脂製造業については、都道府県知事等の許可を受けなければ営業できないこととするとともに、食用油脂(脱色又は脱臭の過程を経て製造されるものに限る。)の製造又は加工を行う営業者は、食品衛生管理者を置かなければならないこととし、当該営業の規制を強化した。
 更に、昭和四十七年の食品衛生法の改正において同法第十九条の十八の規定が新たに設けられ、厚生大臣は、食品等の製造加工過程における有毒な又は有害な物質の混入防止のための必要な措置に関し、また、都道府県知事は、公衆衛生上講ずべき措置に関し、それぞれ営業者が遵守すべき必要な基準を定めることができることとされた。これに伴い、当該規定に基づき、食用油脂製造業の規制のために必要な基準を設定し、その遵守について監視指導を行つている。
 このような措置により、食品による健康被害の発生の防止に努めているところである。

(3) 国は、カネミ油症事件の特殊性にかんがみ、研究費を支出して治療方法の開発や患者の追跡検診を継続して行つているほか、生活に困窮しているカネミ油症患者に対しては世帯更生資金の貸付けにつき特例措置を設けているところである。
 民事上の責任については、カネミ油症患者とカネミ倉庫株式会社、鐘淵化学工業株式会社、国、北九州市等との間の民事訴訟が係属中であるが、先の第一審判決においては、国及び北九州市の責任を否定する判断が示されたところである。なお、国は昨年七月、訴訟を提起していない患者と関係企業との間の話合いを仲介し、一応の成果をみたところである。
(4) 生活保護法による保護は、同法第八条の規定により、要保護者の収入がその者の最低生活費に不足する部分について行われることを原則としている。
 本件の補償金については、被保護者が損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金等の場合の取扱いに従い、支払を受けた金銭のうち当該世帯の自立更生のために当てられる金額を超える部分を収入として認定し、生活保護法第二十五条の規定による扶助費の減額変更又は同法第二十六条の規定による保護の停止若しくは廃止の決定を行うこととしている。

別表一 PCBメーカー別、年別生産量(単位トン) 1/2

別表一 PCBメーカー別、年別生産量(単位トン) 2/2

別表二 PCBを使用したノーカーボン紙のメーカー別、年度別生産量(単位トン)