質問主意書

第87回国会(常会)

答弁書


答弁書第一三号

内閣参質八七第一三号

  昭和五十四年五月二十九日

内閣総理大臣 大平 正芳   


       参議院議長 安井 謙 殿

参議院議員秦豊君提出成田空港二期用地に係る権利取得裁決などを千葉県収用委員会が行わないことにある合法性・正当性に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員秦豊君提出成田空港二期用地に係る権利取得裁決などを千葉県収用委員会が行わないことにある合法性・正当性に関する再質問に対する答弁書

一並びに二の(1)、(5)、(6)及び(8)について

 千葉県収用委員会は、その権限を行使するに当たつて、憲法及び土地収用法その他の法令を遵守すべきことは、現行憲法の下において当然であり、同委員会は憲法、土地収用法等に適合する裁決を行わなければならない。
 また、同委員会が新東京国際空港建設事業に関し、違憲又は違法の裁決をしたという事実は認められない。
 なお、地方自治法第二条第十五項及び第十六項は、地方公共団体の事務が法令に従つて処理されるべきことを注意的に規定するとともに、市町村及び特別区の事務が都道府県の条例に従つて処理されるべきことを規定するものである。

二の(2)から(4)まで及び(7)について

 憲法第九十八条第一項の規定は、憲法が国の最高法規であることを明確にするため設けられたものであり、また、第九十九条の規定は、国家の機関として国家の作用を担当する公務員等の憲法の尊重擁護の義務を強調するため設けられたものであると考えられる。
 なお、千葉県収用委員会の委員及び同委員会の事務を整理する職員は、憲法第九十九条の「その他の公務員」に含まれると解する。

三について

(1)から(4)まで 最高裁判所がその判決の理由において述べた見解については、行政庁はこれを尊重すべきものと考える。
(5)から(8)まで 御指摘の図書は、土地収用実務の参考に供するための裁判例を掲載しているもでる。
(9) 判決例という表現が適切でないとする理由は見当たらない。
(10) 一般に判例という用語は、判決のほかに仮処分決定等の決定及び命令も含む裁判例という趣旨で用いられることがあり、御指摘の場合における判例も、この趣旨で用いられたものである。

四について

(1)、(7)から(9)まで及び(13)から(19)まで 昭和四十二年法律第七十四号による改正後の土地収用法の体系の下で同法第七十一条の規定によつて算定される補償金の額は、憲法第二十九条第三項に規定する正当な補償であり、正当な補償の下に土地を収用することは同条第一項の規定に違反しない。
 また、右改正前の土地収用法第七十一条の規定は、土地等に対する損失の補償を裁決の時の価格によつて算定することとしていたが、同改正によりこれを事業の認定の告示の時を基準として算定することとし、公共の利益となる事業の施行に伴う開発利益の帰属の適正化を図つたものである。
(2)から(5)まで 公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱は、土地等の取得又は土地等の使用に伴う損失の補償の基準を定め、損失の適正な補償の確保を図ることを目的とするものである。
 また、近傍類地の取引価格を土地の正常な取引価格としたのは、評価の方法として広く用いられ、かつ、現実的であると考えられたからである。
(6) 近傍類地の選定は、土地の位置、地目、環境等を総合的に勘案して行うべきである。
(10)及び(11) 公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に伴う損失の補償は、土地の所有者等が被る特別の犠牲の回復を図るためのものであり、当該補償は、正当な補償でなければならない。
(12) 土地を収用するときは、起業者は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期において、土地の所有権を取得する。

五について

 千葉県収用委員会は、独立してその職権を行うが、その権限を行使するに当たつて憲法及び土地収用法その他の法令の規定を遵守しなければならない。
 なお、建設大臣は、千葉県収用委員会の行政不服審査法第五条第一項第一号に規定する上級行政庁ではない。

六について

(1)から(3)まで 行政代執行法による代執行をする必要性の有無については、代執行権者である千葉県知事の判断するところであるが、御指摘の三者については、同知事において、直ちに代執行をする必要があるとは考えなかつたと聞いている。
 なお、その後明渡義務は義務者により履行されている。

(4) (イ) 特定公共事業に係る明渡裁決が遅延することによつて事業の施行に支障を及ぼすおそれがあることを明らかにさせるためである。
    (ロ)及び(ハ) 昭和四十六年二月三日付けで新東京国際空港公団が千葉県収用委員会に提出した緊急裁決申立書には、「緊急裁決を申し立てる理由」が記載されていないが、同年六月十二日付けで行われた緊急裁決の効力には影響を及ぼさない。