質問主意書

第87回国会(常会)

質問主意書


質問第二四号

農業協同組合等における婦人差別定年制の撤廃に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年六月十三日

下田 京子   


       参議院議長 安井 謙 殿


   農業協同組合等における婦人差別定年制の撤廃に関する質問主意書

 本年三月十二日、東京高等裁判所は男子五十五歳、女子五十歳とした五歳差の男女差別定年制を違法、無効として、日産自動車の中本ミヨさんに勝訴の判決をくだした。判決は「本件定年制は労働力の需給の不均衡に乗じて女子労働者の生活に深刻な影響のある定年年齢について理由もなく差別するもので、企業経営上の観点からの合理性は認められず、また社会的な妥当性を著しく欠くものであるから、法秩序の基本である男女の平等に背反するものであり、公序良俗に違反するものといわなければならない」と明快に男女差別定年制の不当性を裁断している。
 ところで私は昨年五月、参院農林水産委員会において農業協同組合にもこうした問題のあることを指摘し、実態調査を求めるとともに、一例として、男子五十八歳、女子五十三歳定年とした就業規則を、何ら合理的理由なく、もつぱら労働者の性別だけを理由としたもので憲法違反であると秋田県厚生農協連合会を相手に秋田地裁に提訴してたたかつていた清野イネさんのことを紹介した。清野さんの場合もまた、本年五月十五日、清野さんの主張を全面的に認める和解が成立、就業規則もそれと同一日をもつて「従業員の定年は満五十八歳とし」と男女同一の定年制に切換えられるという全面勝利となつた。「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と憲法にかかげられた基本的人権は何人といえども妨げることは出来ないと私は深い感動をもつてこの事実を受けとめた。
 これまでにも農協の差別定年制について、法廷はいずれも無効の判断をくだしてきた。岩手経済連の女子若年定年制、山形の鶴岡市農協および秋田の男鹿市農協の十歳差の差別定年制いずれもしかりである。
 しかし裁判での判決も当該農協には及んでも、なかなか他農協にまでその効力は及ばず、いまも各地で差別定年制による退職が婦人に対して強制されている。このことを聞き及ぶにつけても強い怒りの念を禁じ得ない。
 以上、今回の高裁判決と清野事件の全面勝利が示したところによつて、農協等における婦人差別定年制問題は新たな段階にたたされたと判断されるので、以下所要の質問をする。

一 昭和五十年六月、衆・参両院は「国際婦人年にあたり、婦人の社会的地位の向上をはかる決議」を行い、政府に対し婦人に対する差別撤廃、婦人の地位向上に関する行動計画の策定と実行を求めた。政府はこれに対して昭和五十二年六月、「若年定年制、結婚退職制等改善年次計画」を発表して、実態調査や改善指導にあたつてきたと聞く。

(1) これによれば、農林漁業団体ではどのような男女差別定年制の実態と特徴がみられるか。
(2) 改善指導の結果はどうか。

二 私どもの調査によれば、山形県では六十七農協中、四十四の農協で男女差別定年制があり、男子の五十五~六十歳に対して、女子は四十歳が四、四十五歳が二十六、四十七歳が一、四十八歳が三、五十歳が八そして五十五歳が二となつている。
 秋田県でもわかつただけで七十一の農協に男女差別定年制があり、男子の五十五~六十歳に対して、女子は四十歳が二、四十五歳が九、四十六歳が二十二、四十七歳が十三、四十八歳が十四、四十九歳が一、五十歳が一、五十四歳が一、五十五歳が二となつている。このほかにも結婚退職制をもつところ三、十歳差の男女差別定年制を新たに導入しようとしているところ一など、婦人に対する差別定年制は決して特殊なケースではなく常態化している。

(1) 政府にあつてはこの実態を把握しているか。
(2) これらのものについて労働省からの「改善勧告書」は送付されているか。
(3) これらのものに対して今後、一般的行政指導だけでなく、個別に行政指導を強化すべきだと思うが、どうか。
(4) 農協のような全国的組織の場合、その上部団体の動向が大きな影響を与えるものと思われる。ついては全国農業協同組合中央会および両県中央会から事情聴取を行う考えはないか。

三 農村地帯では町役場とならんで農協は農民の生活に大きな比重を占めている。それは農協が農業生産力の発展と農民の経済的社会的地位の向上につながる仕事をすすめる任務をもつているからであり、したがつて農協職員の責任もまた重い。このような農協の、そのなかにあつての婦人差別定年制が農村社会における公序良俗に否定的な影響を及ぼしている点は、はかり知れない。このような状態はすみやかに解消されるべきものと思うが、政府の決意を聞きたい。

四 次にその決意を実行するうえで行政指導を担当する地方の婦人少年室員は、全国で百七十五名で、山形県では三名が、秋田、福島県ではいずれも四名が配置されているに過ぎない。山形県を例にとるとこの三名ですでに指導対象にあがつている事業所を担当するだけで、一人あたり二二〇か所となる。これではとても個別指導は大変ではないか。指導体制を強化すべきだと思うが、どうか。
 いまひとつは行政権限の強化の問題である。労働行政の一貫性をつらぬくために、行政指導に対して誠意をみせない企業・事業所に対しては、行政制裁をかけるべきである。企業・事業所名の公表等があつてしかるべきである。どうか。

五 最後に農林年金との関係でただしたい。
 従来からも四十歳台で退職のやむなきに至つたため、退職年金の受給資格の二十年に満たないという例が女子には多くみられた。それに加えて今回の農林年金改正案では退職年金の支給開始年齢も六十歳に引上げるなど、婦人にとつて中高年はますます厳しいものになろうとしている。中高年者の再就職がいかにむずかしいかは政府の統計にも出ているとおりである。四十歳台の差別定年から年金支給までの十数年間をどのように生きてゆけというのか。再就職できなければ、最後は「生活扶助」の道しか残されていない。女性であるというただそれだけの理由で「労働権」を奪う差別定年制を残したままでの農林年金の支給開始年齢の引上げは、婦人の立場からいえばますますもつて許すことができないものといわねばならない。政府の見解を求める。

  右質問する。