質問主意書

第87回国会(常会)

質問主意書


質問第六号

成田空港二期用地に係る権利取得裁決などを千葉県収用委員会が行わないことにある合法性・正当性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十四年二月十六日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   成田空港二期用地に係る権利取得裁決などを千葉県収用委員会が行わないことにある合法性・正当性に関する質問主意書

 成田空港の暫定開港が昨年五月に強行される以前は当然のこととしても、強行された後も現在に至るまで、同空港二期用地内の未収用地について、千葉県収用委員会は土地収用法第四八条に係る権利取得裁決、したがつて後続の同法第四九条に係る明渡裁決を行いもせず、また行おうとさえしていない。
 しかし、権利取得裁決などを行おうとしないことの方に合法性・正当性があると思料されるので、以下、大平正芳首相の御見解を賜りたい。

一 千葉県収用委員会が権利取得裁決を行う場合、土地収用法第七一条の規定に違反して収用価格(土地に対する補償金の額)を決定することは、地方自治法第二条第一五項により禁止されており、またあえてそれを強行しても、違法裁決は無効であると同第一六項が規定しているということについて、次により理由を付して説明されたい。

(1) 千葉県収用委員会は、地方自治法第一三八条の四第一項、同第一八〇条の五第二項、および土地収用法第五一条第一項により、普通地方公共団体である千葉県の執行機関ではないのか。
(2) 千葉県収用委員会の行う事務処理は、地方自治法第二条第一五項、および同第二〇二条の二第五項により、土地収用法の諸規定に違反してはならず、また違反した事務処理が無効であると地方自治法第二条第一六項が規定しているのではないのか。
(3) 収用価格を事業認定時価格の物価修正値と規定する土地収用法第七一条が、千葉県収用委員会が決定する収用価格の根拠規定ではないのか。
(4) 千葉県収用委員会が権利取得裁決を行う場合、土地収用法第七一条の規定に違反して収用価格を決定することは、地方自治法第二条第一五項により禁止されており、またあえてそれを強行しても、違法裁決は無効であると同第一六項が規定しているのではないのか。

二 千葉県収用委員会が権利取得裁決を行う場合、最高裁判所の判示でその内容が確定される憲法第二九条第三項の「正当な補償」を実現しない収用価格を決定することは、憲法第九九条により禁止されており、またあえてそれを強行しても、違憲裁決は無効であると憲法第九八条第一項が規定しているということについて、次により理由を付して説明されたい。

(1) 千葉県収用委員会は、憲法第九九条により、憲法を尊重し擁護する義務を負わされているのではないのか。
(2) 憲法を尊重し擁護しなければならないということは、千葉県収用委員会が憲法に違反して権利取得裁決を行うことを禁止していることではないのか。
(3) 千葉県収用委員会が行う違憲な権利取得裁決は無効であると憲法第九八条第一項が規定しているのではないのか。
(4) 土地収用法の主たる憲法上の根拠規定(授権規範)は、憲法第二九条、とりわけ、同条第三項にあるのではないのか。
(5) 国民の財産が土地収用法により「公共のために」収用される場合は、憲法第二九条第三項により「正当な補償」の下でなければならないのではないのか。
(6) 右について、明治憲法(大日本帝国憲法)下ではどうだつたのか。明治憲法、明治憲法下での土地収用法、および大審院判例について明らかにされたい。
(7) 憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」の内容の確定は、憲法第八一条により最高裁判所にあるのではないのか。
(8) 千葉県収用委員会が権利取得裁決を行う場合、最高裁判所の判示でその内容が確定される憲法第二九条第三項の「正当な補償」を実現しない収用価格を決定することは、憲法第九九条により禁止されており、またあえてそれを強行しても、違憲裁決は無効であると憲法第九八条第一項が規定しているのではないのか。

三 千葉県収用委員会が成田空港二期用地内の未収用地につき、土地収用法第七一条により権利取得裁決に係る収用価格を決定すれば、この収用価格は最高裁判所の判示する憲法第二九条第三項の「正当な補償」を実現し得なくなつているということについて、次により理由を付して説明されたい。

(1) 憲法第二九条第三項の「正当な補償」を実現すべき土地収用における収用価格の決定についての最高裁判所の判示は、倉吉上井停車場線街路改良事業土地収用補償金請求事件(昭和四十六年(オ)一四六号)に対する昭和四十八年十月十八日付判決にあるとおり、「被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地を取得することを得るに足りる金額の補償を要する」ことではないのか。
(2) 運輸省が千葉県(吉田厳企画部長)などと検討を終えた「農業振興のための基本となる考え方」が昨年十二月一日に閣議了承されたが、その末尾には、関係閣僚協議会決定により、従前、空港敷地内と同一価格とされてきた「第二種騒音区域内の農業者の宅地及び宅地と一体となつた農地の買入れ価格は、近傍類地価格による」があり、この価格決定方式の変更について、松本操運輸省航空局長は、現在の収用価格、つまり空港敷地内の土地の買収価格が畑反当たり二百八十万円なのに対し、近傍類地価格(時価)が九百万円前後に上昇しており、この価格のバランスがくずれたことによる措置と記者会見で説明している(同日付夕刊各紙)。また二月上旬、私が、大塚茂空港公団総裁の申し出に応じ、角坂仁忠同公団理事(用地担当)らの同席下で会見した際、時価が現在収用価格のおおむね二・八~三・二倍程度であるという空港公団側の見解が明らかになつた。
 右に鑑みるまでもなく、現在の成田空港二期用地内の未収用地についての土地収用法第七一条の規定で算出される収用価格は、土地収用法第二六条第一項の規定による昭和四十四年十二月の事業認定の告示以降、十年を経んとする、流れ過ぎ、移ろい行く時の経過からいつても、「被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地を取得することを得るに足りる金額」など全く保証し得ず、したがつて、最高裁判所の判示する憲法第二九条第三項の「正当な補償」をいささかも実現し得なくなつているのではないのか。
(3) 千葉県収用委員会が成田空港二期用地内の未収用地につき、土地収用法第七一条により権利取得裁決に係る収用価格を決定すれば、この収用価格は最高裁判所の判示する憲法第二九条第三項の「正当な補償」を実現し得なくなつているのではないのか。

四 成田空港の暫定開港が、予定より七年以上も遅れ、昨年五月に強行されたが、その後も現在に至るまで、同空港二期用地内の未収用地について、千葉県収用委員会が土地収用法第四八条の規定に係る権利取得裁決を行わないことに合法性・正当性があるということについて、次により理由を付して説明されたい。

(1) 千葉県収用委員会には、土地収用法における立法の瑕疵(違憲条項)の存在については、全く責任はなく、ましてやその結果発生した事態について負うべき一片の法的責任もないのではないのか。
(2) 千葉県収用委員会には、起業者や事業認定権者の犯した収用権の乱用については、全く責任はなく、ましてやその結果発生した事態について負うべき一片の法的責任もないのではないのか。
(3) 千葉県収用委員会には、地方自治法第一三八条の二および土地収用法第五一条第二項により、収用権の乱用に加担することを拒否する権限が与えられ、また義務が負わされているのではないのか。
(4) 用地取得の実務に精通し、かつ事業認定権のあつた建設省の指摘に反逆して、運輸省・空港公団は、成田空港建設に係る起業地に二期用地を含めてしまつた(昭和四十四年三月五日付千葉日報)が、このことに千葉県収用委員会は何の責任もなく、ましてやその結果発生した事態について負うべき一片の法的責任もないのではないのか。
(5) 運輸省・空港公団は、成田空港の開港が七年以上も遅延した理由として、(イ)成田空港・千葉港頭間の本格パイプラインの建設の失敗を暫定措置で代替すること、(ロ)空港敷地外の航空保安施設設置予定地に空港反対派により建設された二基の鉄塔に対処すること、この二つの手続に手間どつていたことを一貫して主張し続けてきたが、千葉県収用委員会には、これらの開港遅延事由には全く責任はなく、ましてやその結果発生した事態について負うべき一片の法的責任もないのではないのか。
(6) 右二つの開港遅延事由の原因は、本格パイプラインの建設の失敗であり、二基の鉄塔の存在であるが、これらはいずれも、運輸省・空港公団が「適法な権利を正当に行使して自由に本格パイプラインを埋設し、航空保安施設を設置することができる用地」の取得(必ずしも、所有権の原始取得を意味しない)に失敗したことにあり、他に理由はないのではないのか。
(7) それとも、運輸省・空港公団には、所定の時期までに安全な本格パイプラインを建設し、適正な航空保安施設を設置する意思もなく、技術的・経済的能力もなかつたのか。
(8) 地権者等に反対があり、あるいは地権者等と補償についており合わず、手間どつている場合に、公共事業者に「適法な権利を正当に行使して自由に所定の公共施設が設置できる用地」の確保を公権力により保障したものが、土地収用法などの法律ではなかつたのか。
(9) 運輸省・空港公団が成田空港建設に係る起業地に二期用地を含め、逆に空港敷地外の本格パイプライン用地および航空保安施設用地を含めなかつたことに、千葉県収用委員会は全く責任はなく、ましてやその結果発生した事態について負うべき一片の法的責任もないのではないのか。
(10) 開発利益の帰属をめぐつて行われた昭和四十二年の土地収用法の大改正は、被収用者等(当然のことながら、地方自治体等の公共事業者も含む)のゴネ得を防止して、早期にかつ安価に公共用地の確保を図ることにあつたのではなかつたのか。
(11) 昭和四十六年九月のいわゆる第二次代執行で生前の小泉よねさんを生活の場・生存の場から追い出しているが、何故あの時期に彼女だけがあのような目にあわねばならなかつたのか。
(12) 航空燃料暫定輸送の実施、あるいは現下の本格パイプライン建設に係る沿線の住民やこれと一体となつた地方自治体には、ゴネ得を容認し、小泉よねさんにはゴネ得さえ認めなかつた理由は何か。
(13) 土地収用に係り認定された起業地計画に明白かつ重大な瑕疵をもつ収用権の行使、そしてそのための公権力の行使は、国権の乱用ではないのか。
(14) 千葉県収用委員会が土地収用法第四八条の規定に係る権利取得裁決を行う場合、土地収用法の諸規定に従わねばならず、従わないことは地方自治法により禁止され、土地収用法第七一条の規定に従つて、成田空港二期用地内の未収用地について、権利取得裁決を行うとすれば、憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」が実現できず、憲法を尊重し擁護しなければならない千葉県収用委員会としては、全く動きがとれなくなつており、この動きがとれないこと(権利取得裁決の不作為)については、一片の法的責任もないのではないのか。
(15) 成田空港の暫定開港が、予定より七年以上も遅れ、昨年五月に強行されたが、その後も現在に至るまで、同空港二期用地内の未収用地について、千葉県収用委員会が土地収用法第四八条の規定に係る権利取得裁決を行わないことに合法性・正当性があるのではないのか。

  右質問する。