質問主意書

第85回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一〇号

福田内閣による成田空港の強行開港に係わる諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十三年十月二十一日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   福田内閣による成田空港の強行開港に係わる諸問題に関する質問主意書

 福田内閣がその成立直後から進めてきた成田開港強行策は、昨年十一月末に田村元運輸相(当時)が発出するはめになつた「開港宣言」どおり、去る三月三十日に供用開始という一応の結末を迎えることになるやにみえたが、しかし「三軍可奪師也、匹夫不可奪志也」という中国の故事を連想させるような事態発生の中で、結末は五月二十日に延期されることとなつた。
 ところで、福田内閣の出直し開港強行策により名目的な開港を余儀なくされた成田空港の実態は、現実にはそれこそ「暫定滑走路、暫定航空保安施設、暫定進入方式、暫定騒音対策、暫定運行時間、暫定燃料輸送、暫定アクセス、暫定空域、暫定飛行コース、暫定ダイヤ、暫定料金」といつた何もかも皆暫定ずくめの極めて異常な、設置者にとつては極めて不名誉な暫定開港でしかないことは、すでに広く国民の知るところとなつた事実である。この限りにおいて、報道機関は国民の知る権利に応えているようである。
 わざわざ暫定措置の積み重ねまでして成田暫定開港をしやにむに強行しなければならない理由として福田赳夫首相の挙げておられたのは、要するに羽田空港が航空需要に対応しきれなくなつているが、危険ではないという「現実」及び成田空港への既往の投資が長い間、活用されるに至つていないという「現実」の二つの事態の存在であつた。暫定開港がこれら二つの「現実」にどのように応えているのか、また国民総体に対し何をもたらすのかは検証に値する、いや検証されなければならない問題である。
 ともかく、国家が昭和三十七年以降十五年を超える歳月と莫大な国費をかけ、不幸な犠牲を伴いながら総力を投入してなお、いわばつぎはぎだらけの暫定開港しか生みだせないのは、極めて奇異である。聞くところによれば、成田開港全体を規定する暫定措置の一切が、全て用地未取得を唯一の原因とするというではないか。公共事業は、所定の手続きさえ経れば、公権力により用地取得が保障されていたのではなかつたのか。たしかに運輸省・空港公団は、公権力を行使して強制収用により用地を手に入れることはした。しかし、それこそが成田問題の本質を顕在化させざるを得なくしたといえるのではないのか。
 強制収用ぬきに暫定開港したのであれば、事の是非は第一義的には我々国会レベルの問題で済む。何故なら、毎年度国会で承認を受けた予算を執行して、その結果が暫定開港というていたらくであつただけなのだから。あくまでも空港設置者側だけを対象とすればよい問題なのである。しかし、強制収用を実施し、なおかつ用地未取得があつて事業目的が達成できないのであれば、問題は極めて重大である。公権力の乱用という事態の発生ということであつて、ゆきつくところ、基本的人権と公共の福祉との問題につきあたるのである。
 成田問題は、暫定開港後も現在的課題であることに変りはなく、同時に歴史的検証にさらされる事件でもある。よつて、暫定開港を生むに至つた開港強行策の唯一・最高の責任者である福田首相の責任において、以下、御答弁を賜りたい。

一 「三軍可奪師也、匹夫不可奪志也」という中国の故事を連想させるような成田問題について

(1) 内閣法二条二項に鑑み、「教育勅語」にいたく心ときめかしているといわれ、さぞや古典に精通していると拝察される砂田重民文相の御見解を左記により賜りたい。

(イ) 文相の位置からして、成田問題の本質は、那辺にありやと思料されるか。
(ロ) 文相の位置からして、成田問題はどのような原理・原則により解決さるべき、また解決し得ると思料されるや。

(2) まさに「三軍」の将として新任で、フランス仕込みのエスプリに富んだ豊かな教養人であるといわれる山本鎮彦警察庁長官の御見解を左記により賜りたい。

(イ) 成田問題十三年の歴史を包括的に通してみて、数々の不幸な犠牲をいわば「強いられた」一方の立場から、何が問題であつたと現在の位置から思料されるのか、成田問題の微妙な推移が予想される中で、あらかじめお伺いしておきたい。
(ロ) 地元農民をして、これまで空港建設反対に走らしめ、つまり、いわば「匹夫」をしてふるいたたしめた源泉は、何であつたと思料されるや。

二 成田開港強行策の結末たる暫定開港について、運輸行政、とりわけ、空港行政の最高責任者である福永健司運輸相の御見解を左記により賜りたい。

(1) 成田開港強行策の必要事由とされた二つの現実、即ち「羽田空港の現実」と「成田空港の現実」に暫定開港はどのように応えているか、項目別に定量的に明らかにされたい。
(2) 右は被収用者の基本的人権を侵害し、強制収用を行わしめた「公益性」を正当化するに足り得るものなりや。
(3) 「土地収用法の適用に当り、十分その効果を上げるためには、事業施行者・被買収者その他の関係者において、その解釈運用について十分理解していることが必要である」と建設省計画局総務課長佐土侠夫氏(当時)は述べられているが、

(イ) 空港公団に監督責任を有する運輸相は、右にいう「その他の関係者」に該当するとしてよいのではないのか。
(ロ) 成田空港建設にあたり、運輸省は土地収用法の解釈運用について十分理解していたといえるとすれば、その根拠は何か。
(ハ) 森雅史新東京国際空港課長(当時)は、最近になつて、土地収用法における強制使用の手続きは知らなかつたと「自供」されているが、当時運輸省・空港公団の中で土地収用法の解釈と運用に精通した人がいたのであれば、その氏名及び職名を明らかにされたい。

(4)「土地収用法は、非常に技術的な内容をもつうえ、被収用者の権利尊重を重要な柱としている法律である。したがつて、一見、小さな手続上の間違いがあつても、相手方の権利保護のため、手続全体の効力が左右されるおそれがある」と志村清一建設省計画局長(当時)は述べられているが、

(イ) 土地収用法は何故被収用者の権利尊重を重要な柱としているのか。
(ロ) 運輸省・空港公団による収用手続きが、手続き全体の効力が左右されない程に適正に行われたとするのであれば、その根拠は何か。
(ハ) 右において、大きなであれ、小さなであれ、手続き上の間違いはなかつたといいきれるか。しからば、その根拠を示せ。

(5) 土地収用法にいう起業地概念(位置と範囲)に関し、当時運輸省・空港公団が有していた認識について、

(イ) 起業地について、どのような認識をもつていたか。
(ロ) 起業地には、空港敷地以外を含めることはできないという認識であつたのか。
(ハ) カテゴリーIIの精密進入方式を受け入れる空港敷地は、どのようなものでなければならないとしていたのか、根拠を示して明らかにされたい。
(ニ) カテゴリーIIの精密進入方式では、少なくともファイナル・フェイズでは、電波高度計による高度の精密測定を行うということを知つていたか。
(ホ) 電波高度計は、電波による距離の測定により高度を指示するということは理解されていたか。
(ヘ) 空港整備法にいう空港用地は、施行令で「航空機の離着陸の安全を確保するため平らな空地として維持することを必要とするもの」と定義されていたのではなかつたのか。
(ト) 千葉地裁の仮処分決定で除去されたA滑走路南側の二基の鉄塔があつた附近の土地は、カテゴリーIIによる航空機の離着陸の安全を確保するため平らな空地として維持することを必要としていたのではなかつたのか。
(チ) 千葉港頭・空港間のパイプライン埋設用地が起業地に含められていなかつたが、道路など公共用地の地中を強制使用の手続きで確保する可能性は検討されたのか。
(リ) 右において、パイプライン用地を起業地に含めておけば、問題はなかつたのではないのか。
(ヌ) 右において、パイプライン用地を起業地に含めておき、事業損失を相殺するための補償として、千葉県知事の定める新東京国際空港周辺整備計画の中で、例えば、千葉市に対する十一億円を何らかの形で支出するようにしておけば、大蔵省としてもチェックすべきすじ合いのものではなかつたと思料されるがどうか。
(ル) 新東京国際空港周辺整備のための国の財政上の特別措置に関する法律は、成田空港建設に係る事業損失を相殺するため立法されたのではなかつたのか。その他立法趣旨を明らかにされたい。
(オ) 千葉港頭・空港間のパイプライン埋設用地には、取得すべき民有地はなかつたのか。
(ワ) 右において、取得すべき民有地は何件何筆あり、そのうち現在まで、何件何筆が取得できたのか。
(カ) 強制取得によるのと任意取得によるのとでは、取得価格及び取得時期にどのような差が出てくるのか。

(6) 土地収用法にいう起業地概念に対する建設省当局の認識に関する運輸省・空港公団の認識について、

(イ) 昭和四十二年の改正で、保留地という制度がもうけられたが、これは起業地概念をどのように規定したか。
(ロ) 右において、保留地とすべきところをあらかじめ起業地から除外してはいけない理由は何だつたのか。
(ハ) 当時建設省計画局総務課補佐官として、成田空港建設事業の審査にあたつた末沢善勝氏は、起業地の範囲について「事業の認定をすることのできる事業の単位としては、申請された事業計画にしたがつて事業が施行され、これによつてでき上つた施設等が供用された場合において、それ自体で一定のまとまつた効用を果たすことのできる範囲のものでなければならないとされ、未買収の土地だけを起業地としたり、起業者の便宜で起業地を細分化することは許されません」と断言しておられるが、成田空港建設事業それ自体で果たすことのできる一定のまとまつた効用とは何か。
(ニ) 右効用は、公団法二条を満たすか。

  右質問する。