質問主意書

第85回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七号

心身障害者の雇用促進とリハビリテーションの充実強化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十三年十月二十一日

前島 英三郎   


       参議院議長 安井 謙 殿


   心身障害者の雇用促進とリハビリテーションの充実強化に関する質問主意書

 心身障害者の雇用促進対策は、昭和五十一年秋の身体障害者雇用促進法の改正により、制度的には大きく前進したとされているが、その後今日に至るまでの推移を見ると、必ずしも法改正による実効はあがつておらず、却つて、わが国のリハビリテーションに対する行政施策の立ち遅れ等新たな問題点を浮き彫りにした面も少なくない。従前から熱心に取り組んできたごく一部の企業に加えて、昨年六月一日現在の雇用状況報告では障害者の雇用率が低かつた業種の企業がそれなりに前向きに取り組む兆しが見え始めたこと、新規学卒身障者に対する雇用促進会が軌道に乗りつつあること等、新しい要素が生まれてきた点は一応評価する。しかしながら、これらによつて雇用の機会が開かれるのは障害の程度の軽度な者に限られる傾向が顕著であり、また障害の程度のほか職種、性別、地域性等との条件もからんで、求職と求人がかみあわず、心身障害者の雇用促進がムードのみに流れている傾向があることも見逃せない。さらに、障害者が適切な教育・訓練・リハビリテーションを受けて社会経済活動に参与するという本来一貫した施策のもとになされるべきものが、労働、厚生、文部等各省に所管がまたがつているため、一貫性、総合性を欠くきらいがある。こうした中で、より障害の重度な者はますますとり残されるという印象を深めているのである。私はこれまで、身体障害者雇用納付金の使途等につき政府の見解を質してきたが、それに対する答弁は到底満足できるものではなかつた。この際、当面する諸問題のいくつかと共に、長期的視野に立つて検討・研究すべき問題点をも含めて質問するので建設的かつ誠意ある答弁をされたい。

一 心身障害者の雇用状況の実態把握について

  現行の雇用状況報告は、単に、常用労働者となつている障害者の数のみを問題としており、障害の程度及び状態、賃金、職種、企業内における身分等の雇用の実態の詳細を把握することは困難である。雇用率を達成していても、障害者であるが故に補助的業務のみであつたり、低賃金であつたり、率だけでは決して問題が解決されないのは明らかである。より適切な施策の推進のためには、人数のみにとどまらない実態把握が必要であると考えるが如何。

二 雇用率未達成企業への指導について

  未達成企業に対しては雇入れ計画の作成を命ずることとなつているが、これまでにどのような基準にもとづき、どれだけの企業に命令したか。その根拠及び今後の方針を含めて伺いたい。

三 解雇の届出について

  事業主が心身障害者を解雇する場合、公共職業安定所に届出ることとなつているが、自己退職の形となるケースが多く、制度の意味が実質的に薄れてしまつている。職場環境の整備に問題があつたり、心身障害者に対する職場の人々の理解の不足が原因であつたり、自己退職の場合であつても放置すべきではない。解雇に限らず、退職者についても報告するよう義務づける等の改善をすべきではないか。

四 助成制度について

  法改正前の昭和四十年代から障害者を多数雇用し、先駆的な役割を果たしてきた企業がある。助成制度は新規雇用に対してのみ対象としているが、古くから貢献してきた企業に対してより一層の充実を図るため何らかの方策を講ずるべきと考える。今後検討する考えはないか。

五 職業訓練について

  現在実施されている障害者のための職業訓練は、職種が少なく、しかも時代の変化に即応していない。訓練科目や訓練期間は、それぞれの障害者の適性や残存能力に合わせて決められるべきであるが、現状ではむしろ逆であると言つても過言ではない。訓練校のあり方を抜本的に見直すべきであると同時に、民間企業への委託等多様な形態を採り入れるべきと考えるが如何。

六 特定職種について

  障害等級は、欠損した機能に着目するものであつて、その有する能力を評価するものではない。重度障害者であつても、職場環境の整備、補助器具の使用等によつて、健体者と全く同等あるいはそれ以上の労働能力を発揮できる職種は少なくない。こうした点に鑑み、特定職種の制度をもつと生かして活用すべきと思うが、その考えはないか。

七 福祉工場、授産施設等について

  厚生省所管のこれらの施設は、一般企業に雇用されることの困難な者を対象としているとされているが、その就労の実態を見ると、一般の労働者と変らない所も多く存在している。また、その目的は、自活に必要な訓練、技能の修得をさせ、職業を与え、自活させることであるはずでありながら、一般企業への雇用に結びつける施策は充分ではない。これらの施設に対しては、労働行政の立場から検討を加えるべき点が多いと考えるものであるが、政府の見解を伺いたい。

八 いわゆる保護雇用制度について

  障害があつても、適正なリハビリテーションにより、健体者と同等の職業に就くことができるし、そのような道を追求することが雇用促進の主軸となるべきであるが、障害によつては、労働能力において一定の限界のある場合も多い。前項の質問で触れた福祉工場、授産施設等は、おおむね、そうした人々を対象としていると見ることもできる。そこで、年金制度等をもその視野に含めながら、英国等に見られる保護雇用制度や勤労障害者を対象とした所得保障制度について、わが国においても検討すべき時期が来ていると考えるものであるが、政府にその意思はないか。

九 専門職員の養成等について

  心身障害者の雇用促進に関して、身体障害者雇用審議会の答申においても、専門職員による職業紹介体制の強化をうたつているが、マンパワーに対する要求はこの面ばかりにとどまらない。わが国におけるリハビリテーションは急速にその水準を高めているが、その各分野において従事者の量的質的な充実が求められている。しかしながら、リハビリテーションの医学的、教育的、社会的、職業的分野のいずれにも、養成制度、専門職制度、身分及び資格制度が整備されているとは言えない。一貫性、総合性が重要な問題であるだけに、政府は、関係各省庁の連絡調整を図るのは勿論のこと、学識経験者の意見をも充分に聴き、強力なプロジェクト・チームを作る等の方策をとるべきだと考える。その意思はあるか。
 心身障害者の雇用促進対策を長期的視野で考えた時、決定的に重要な問題点であると確信するので、政府の真摯なる答弁を求めるものである。

  右質問する。