質問主意書

第81回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五号

福田内閣による成田空港の強行開港をめぐる諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年八月三日

秦 豊   


       参議院議長 安井 謙 殿


   福田内閣による成田空港の強行開港をめぐる諸問題に関する質問主意書

 先に提出した成田空港の強行開港をめぐる諸問題に関する質問に対し、昭和五十二年六月二十八日付で内閣答弁書(内閣参質八〇第五一号)の送付を受けた。この内閣答弁書(以下「答弁書」という)の内容を検討している過程で、福田内閣の経済政策、とりわけ交通政策には整合性がないのではないか、そして交通システムの構成因子には内部連関性があるのをお気づきになつていないのではないのか、したがつて、現代交通経済学について重大な認識不足があるのではないかという疑念が発生するに至つた。しかも成田開港をしやにむに急ぐ理由として福田赳夫首相の挙げられた数千億円の投資を生かすこと及び「過密に起因する羽田空港の非常事態」の解消という二つの要因が政策として妥当であるかどうかについて依然として不明確のままである。
 そこで以下、先の答弁書を前提として、成田空港と羽田空港の供用条件等に係わる諸点に関し、再度福田首相の御見解を賜りたい。

一 成田空港建設のため投下された数千億円を生かすという名目で福田内閣がしやにむな開港強行策を正当化しようとしているが、それには先ず、成田空港建設に投下された公共投資の実態を解明する必要がある。

(1) 新東京国際空港公団(以下「公団」という)は、公団法二十七条により財務諸表を当該事業年度の終了後三ケ月以内に運輸大臣に提出しなければならないとされている。公団が提出した昭和五十一年度の財務諸表に係る決算を含めて、各年度の決算にもとづき、昭和四十一年度から昭和五十一年度に至る公団の各年度毎の投下資金総額、同じく欠損金(単年度)、各年度末における累積欠損金及び同じく長期負債に係る債務残高は、それぞれどれ程か。
(2) 成田空港建設に係わり国が直轄事業のため昭和四十一年度から昭和五十一年度までに投下した資金は、各年度毎にそれぞれどれ程か。またこれら投資に係わる財源は何か。
(3) 成田空港建設に係わり国及び公団が投下した資金(以下「空港建設資金」という)は、それぞれ資産となつて蓄積されていると思料されるが、これら空港建設資金のうち資産として蓄積されていないものがあれば、その使途及び総額をそれぞれ明らかにされたい。
(4) 昭和四十一年度から現在迄に投下されてきた空港建設資金は、公共投資としてそれぞれが有効需要を創出し、国及び地方の経済活動に貢献していると思料される。福田内閣が、現下の不況対策として金融政策の他、公共投資を積極的に活用せんとしているのも故なしとしない。ところで公共投資を不況対策として適確に行うには、実施される公共投資が、国又は地方の経済活動にどのように貢献するかをあらかじめ具体的に検証しておかねばなるまい。
 優れた官庁エコノミストがひかえている福田内閣にあつては、どのような公共投資が例えば国民総生産にどのように寄与するかの定量的な検討、未来予測は容易であろう。空港建設資金(公共投資)が国民経済及び千葉県経済にどのように貢献したかを明らかにすることは、過去に行われた公共投資に係わることだけに更に容易であろうと思料される。
 そこで昭和四十一年度から昭和五十一年度に至る空港建設資金が創出した有効需要の総額またはその見込み額は、それぞれどのように見積ることができるのか、根拠を添えて明らかにされたい。
(5) 右に鑑みれば、空港建設資金には投資効果がなかつたとはいえないのではないか。現下の不況対策として公共投資が有効性をもち得るとして福田内閣が、公共投資を活用するのであれば、空港建設資金といえど投資効果があつたとしてよいのではないのか。なおも投資効果がないと主張されるのであれば、その理由を経済学的な根拠を付し明確に示されたい。
(6) 公共投資は投下されることそのことに意義があるにしても、空港建設資金の場合、これが空港資産として蓄積されているはずである。日本住宅公団の投資が、昭和五十一年度決算で住宅建設仮勘定が一兆五千億円もあり、このうち総額五千億円程度が不良資産化するとみられているのと同様に、「年内開港」または「年度内開港」が不可能となれば、空港資産はただちに不良資産化するとでも考えているのか。そうであるのなら、その理由を示されたい。
(7) 空港建設資金が適正に配分されず、空港敷地内の諸施設の建設に集中的に投下され、そのため周辺整備、とりわけアクセス対策や騒音対策が決定的に遅れているようである。万全のアクセス対策の欠如は、処理能力を低下させ、万全の騒音対策の欠如は、運行時間制限となり、そのいずれもが空港機能を阻害し、新東京国際空港としての要件を失なわせることになるが、何故、空港建設資金は限られた資金を有効に費消するよう、時間的にも空間的にも調和のとれた適正な配分のもとに投下されなかつたのか。
(8) もともと時間的にも空間的にも適正な配分を欠いていた空港建設資金に対し、空港敷地内の諸施設建設に集中するというような不完全な投資のみの投資効果を心配するのは、周辺住民の切り捨てとなり、公正さに欠けるのではないのか。そうでないとするなら、その理由を示されたい。
(9) アクセス対策や騒音対策を含む万全の周辺整備を先行させ、例えば滑走路の建設が最後となるような資金の時期的な配分が何故行われなかつたのか。
(10) 空港とは周辺住民との犠牲の上に成立するものであるという空港観をもつていられるのか。その他周辺住民と空港との関係につき、どのような認識をもつていられるのか。
(11) 何故、地元農民や周辺住民、更には国民に真に喜ばれる中で成田空港の開港を迎えられるような施策を講じようとしないのか。これが本質的に不可能なことであれば、その原因は何か。
(12) 「過密に起因する羽田空港の非常事態」が仮に存在しないとしても、やはり投資効果が生かされていないという点から成田開港をしやにむに急ぐことになるのかどうかを理由を付して明らかにされたい。
(13) 成田開港をしやにむに急ぐ理由として、答弁書では一で投資効果の点を、二で羽田問題を言及したのに対し、それぞれ投資効果と羽田問題、および羽田問題から理由づけをしている。答弁書一であくまで成田開港の強行策を投資効果の点のみから正当化できないのは、投資効果の点は二義的であつて、つけたしの理由でしかないことを自ら認めているとしてよいのではないのか。その他答弁書の二で投資効果の点を言及しないにもかかわらず、答弁書の一で羽田問題を言及した理由を示されたい。

二 交通政策上無視できぬ最重要の問題は、公団による成田空港建設よりも日本国有鉄道(以下「国鉄」という)の経営の悪化ではなかろうか。何故ならば、例えば昭和五十年度決算の欠損金(単年度)や繰越欠損金でみるとき、公団は国鉄に比べどちらもが一千分の一以下の極めて低額なものに過ぎないからである。
 そこで、国鉄の経営及び再建等の実態が解明されなければならない。

(1) 国鉄は国鉄法三十七条二項により、毎事業年度の決算を翌年六月三十日までに完結しなければならないとされている。国鉄が本年六月三十日迄に完結したはずの昭和五十一年度の決算にもとづき、国鉄の同年度の欠損金(単年度)、同年度末における累積欠損金及び同じく長期負債に係る債務残高はそれぞれどれ程か。但し一般勘定と特定債務整理特別勘定とに分けて示されたい。
(2) 国鉄が欠損金を発生させる原因、つまり支出が収入を上まわる理由を歴史的な経過を添え経済学的な根拠を示し、項目別に明らかにされたい。
(3) 右原因に対し、現在迄にどのような対策が歴史的にもとられ、その効果はどのようであつたのか。
(4) 国鉄の運賃・料金と需要との関係につき、どのような認識をもつておられるのか。競合路線のある場合とない場合とに分けて回答されたい。
(5) 答弁書では「国鉄は依然として国内の基幹的交通機関としての役割を果している」とし、また果させるべき旨述べられているが、交通機関のもつ基幹性と競合路線の存在ということについて、どのような認識をもつておられるのか。
(6) 競合路線が存在し、なおかつ基幹性を維持するには、どのような条件が必要であるとしているのか。
(7) 新幹線が東京・新大阪間に開通したことによる東京・名古屋間及び名古屋・大阪間の航空旅客への影響について、開通後一年間の月別の変動(前年同月比)を示されたい。
(8) 新幹線が新大阪・岡山間に開通したことによる東京・岡山間の航空旅客への影響について開通後一年間の月別の変動(前年同月比)を示されたい。
(9) 新幹線が岡山・福岡間に開通したことによる東京・広島間、東京・宇部間、東京・福岡間、大阪・福岡間の航空旅客への影響について開通後一年間の月別の変動(前年同月比)を示されたい。
(10) 右(7)、(8)、(9)について、各区間の航空及び国鉄の運賃・料金を示されたい。
(11) 答弁書では国鉄の再建につき、福田内閣が「諸般の施策を鋭意推進している」と述べられているが、

(イ) 「諸般の施策」の内容を具体的に示されたい。
(ロ) 「諸般の施策」は、国鉄の再建にどのような効果をもつているか、具体的に示されたい。
(ハ) 「鋭意推進している」とあるが、単に推進するのに比べ、鋭意推進するのはどのように異なるか。

(12)現下の国鉄の再建は、運賃・料金を引き上げることにより可能であるとした根拠、つまり運賃・料金の引き上げは国鉄に収入増をもたらすとした根拠を経済学的に明確にされたい。
(13) 答弁書では総額四千四百五十七億円もの助成を講じたと述べられているが、これは公団の累積欠損金の一千倍以上もあるではないか。このような助成金の投資効果はどのようなものと見積つているのか。

三 「過密に起因する羽田空港の非常事態」の解消という名目で、福田内閣がしやにむな開港強行策を正当化しようとしているが、それには先ず、羽田空港の供用の実態を解明する必要がある。

(1) 昭和二十九年から昭和五十一年に至る羽田空港の定期便の発着回数及び同定期便旅客数を各年間毎に国内線と国際線とに分けて示されたい。
(2) 「過密に起因する非常事態」はあつたとしても、羽田空港は現在安全に供用されているとしてよいのか。また過去において「過密に起因する非常事態」により羽田空港が安全に供用されなかつたことがあれば、その時期を示されたい。
(3) 福田内閣が成田開港を早急に推進するのは、結局のところ、航空需要の増大に対応した増便、外国からの新規乗り入れ要請等が受け入れられないことにあるとしてよいのではないのか。
(4) 答弁書にある「新規乗り入れ要請等」の「等」は何を意味しているのか、その全てを明らかにされたい。
(5) 現在羽田空港に乗り入れている外国航空会社名と対応した定期便の週間乗り入れ便数の最近の認可実績を示されたい。
(6) 右各外国航空会社による増便要請がなされているのであれば、各航空会社毎に要請増便数(週間)を示されたい。但し、羽田空港に余裕があつて、なおも受け入れられない増便については除外されたい。
(7) 外国から新規乗り入れ要請がなされているのであれば、対応した外国航空会社名及び乗り入れ要請便数(週間)を示されたい。但し、羽田空港に余裕があつて、なおも受け入れられない新規乗り入れ要請は除外されたい。
(8) ところで、羽田空港に、例えば一日四十便の空きワクをつくれば、スケジュールはともかくとして便数の上からは外国からの新規乗り入れ要請及び増便要請は受け入れられるのではないのか、根拠を付して明らかにされたい。
(9) 羽田空港における国内線は、国際線の新規乗り入れ及び増便を一方的に排除しているが、この法律上の根拠規定は何か。
(10) 空港整備法による第一種空港は、国内線を受け入れることがあるにしても、第二種空港と異なる点は国際線を受け入れることにあつたのではないのか。要するに第一種空港は国際空港であることに意義があるのではないのか。
(11) 公共用地の取得に関する特別措置法が第一種空港を適用対象とするのは、それが国際空港であるということではなかつたのか。立法趣旨はどうだつたのか、併せて明らかにされたい。
(12) 国内線を減便して、例えば国際線のために一日四十便の空きワクをつくれば、少くとも国際線に関しては、「過密に起因する羽田空港の非常事態」は解消するとしてよいのではないのか。

四 成田開港が国鉄の経営に及ぼす影響について

(1) 国内線のため羽田空港を解放する成田開港は、国鉄の経営にどのような影響を及ぼすとしているのか。
(2) 答弁書では、成田開港推進と国鉄再建とが並記されていて、あたかも両者が独立の事態への係わりであるかの前提に立つているようであるが、何故独立の事態として対処しようとしたのか。
(3) 国内航空がジェット化大型化され、これらを受け入れられるよう順次地方空港が拡大整備されるようになつたとき、競合する新幹線鉄道はこれに対抗できるのか。また対抗すべきものとするのなら、それが現実に可能となる条件は何か。
(4) 新幹線の建設は、それに沿う在来鉄道の経営を悪化させ、最近の状勢は新幹線自体の建設コストの増大をもたらし、その健全経営の困難性が指摘されるようになつている。現在建設中の上越及び東北新幹線は、これと競合する国内航空と対抗できる要件をそなえているのか。対抗できるとするなら、その要件を示されたい。
(5) 国鉄の幹線系(新幹線や在来幹線)の健全経営が全体として不可能となる事態は、適正とはいえないのではないのか。それこそ非常事態ではないのか。
(6) 成田空港への投資は、欠損金等からみて、国鉄再建に必要な国家助成金からみればまことに微々たるものであるし、羽田空港の非常事態は国際線を根拠なく排除している国内線を減便すればかたづく問題であり、しかも国鉄の本質的な再建は、当面国内線の減便を要請しているのであり、減便に必要な航空需要の縮退は、現在の国鉄の需要減がそうであるように、航空運賃の増大により極めて容易である。この増益は、総合交通体系再生産税として徴収し、国鉄再建に用いればよいのではないのか。つまり、成田空港の強行開港の中止こそ国民的利益に合致するのではないのか。

  右質問する。