質問主意書

第80回国会(常会)

答弁書


答弁書第三〇号

内閣参質八〇第三〇号

  昭和五十二年六月十四日

内閣総理大臣 福田 赳夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員星野力君提出西日本の漁業振興対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員星野力君提出西日本の漁業振興対策に関する質問に対する答弁書

一について

(1) 各種開発行為による漁場環境への影響としては、漁場及び卵稚仔の成育場の喪失のほか、潮流、水質、生物相の変化等が考えられる。
 このため、政府としては、従来から開発行為の漁場環境に与える影響につき、事前に調査を行うよう指導し、その結果をも踏まえて漁場環境保全が十分図られるよう措置してきたところであるが、今後ともこのような考え方の下に、沿岸漁場の維持保全との調整が図られるよう対処してまいりたい。
(2) 瀬戸内海、有明海等の内海漁場は我が国沿岸漁業の重要な漁場であり、公害等で汚染された海域の復旧を早急に図る必要がある。
 このうち、原因者の判明している海域については、原因者に浄化作業を行わせているところであるが、原因者が特定できない海域については、原因者の究明に努めるとともに、国、府県及び市町村が協力し逐次その浄化作業を実施しているところである。
(3) 公有水面の埋立てについては、従来から、計画策定、事業実施等の時点において漁業等の周辺環境に与える影響について事前に調査及び評価を行うよう指導するとともに、公有水面埋立法の免許基準の厳正な適用を通じて、漁場の汚染防止を含め、漁業との調整が十分図られるよう措置してきたところであるが、御指摘の埋立てについても、このような考え方の下に今後とも環境の保全が確保されるよう措置してまいりたい。
(4) 政府は、従来から水質汚濁等各種公害の防止を図るため、規制措置の強化、金融・税制上の措置による企業の公害防止装置の設置の促進等を講じているところであるが、今後とも、公害対策については、十分配慮してまいりたい。
 また、下水道の整備については、現在、第四次下水道整備五カ年計画に基づき、その促進を図つているところであるが、事業の実施に当たつては、地域の実情を勘案し措置してまいりたい。
(5) 公害による漁業被害については、本来、原因者が補償するのが原則であるが、原因者が不明の油濁に係る被害については、事業者等の拠出並びに国の補助及び地方公共団体の拠出に係る資金により財団法人漁場油濁被害救済基金が被害漁業者に対する救済金の支給、漂着油等の防除費の支弁を行つているところである。
 また、その発生が複雑な機構を有するため、原因を確定することが困難である赤潮による漁業被害については、漁業共済制度における赤潮特約事業等により救済を行つているところである。
(6) 沿岸漁場整備開発事業については、昭和五十一年四月に決定された「沿岸漁場整備開発計画」(計画期間七カ年、事業量二、〇〇〇億円)に基づいて鋭意事業を推進しているところであり、二百海里時代に対応した沿岸漁業振興施策の重要な柱として、本年度予算においても、国の一般公共事業全体の対前年伸び率をはるかに上回る大幅な増額を行つたところである。
 来年度以降においても、本事業の一層の促進に努めてまいりたい。

二について

(1) 二百海里時代の急速な到来に対処し、我が国遠洋漁業の実績をできる限り確保し、その円滑な操業の継続を図るため政府としては、関係国との友好関係を促進しつつ、これら諸国が二百海里水域の設定を行つた場合には、所要の漁業交渉に最善の努力を払う所存である。
 開発途上国との漁業面を含む諸般の経済・技術協力については、今後とも必要に応じ強化していく方針である。
(2) 各国の相次ぐ二百海里水域の設定等厳しさを加える国際環境の下で、政府は強力な漁業外交の展開を通じて極力従来の漁獲実績の確保に努めているところであるが、情勢によつては大幅な減船を余儀なくされる事態が生ずるものと考えられる。
 このような場合には、必要に応じ、関係漁業者等に対し、適切な措置を講ずることとしたい。

三について

(1) 北朝鮮周辺水域における安全操業等を確保するため、我が国民間漁業団体が北朝鮮側との間において民間漁業協定を締結しようとすることは、政府としては別段これに異存ない。
 ヴィエトナム社会主義共和国との間では、現在までのところ、特に安全操業の問題は生じておらず、また、民間漁業協定を締結しようとの動きがあることは承知していない。
(2) 我が国は既にヴィエトナム社会主義共和国との間に外交関係を有し、両国とも友好関係促進に努めている現状にあるので、本邦漁船が緊急に入港を求めた場合には、ヴィエトナム側は、人道的見地に立つてこれを取り扱うものと期待される。
(3) 海上演習場の問題については、従来から日米安保条約の目的遂行と漁民の利益保護の調和を図るべく努力をしており、御指摘のリマ水域についても、この方向で努力してまいりたい。

四について

 漁業は厳しい制度的規制の下で行われており、大手水産会社が優良漁場の操業を独占することはできないところであるが、いずれにしろ漁業法等漁業関係法令の適切な運用により、資源量等の状況に応じて漁業活動が関係漁業者により円滑に行われるよう指導してまいりたい。

五について

(1) 漁港整備については、新たな漁港整備計画について本年三月国会の承認を受けており、また、四月には、漁港法の一部改正により漁港修築事業についての国の負担率の一部が改められたところであり、鋭意その促進に努め計画の達成を期する所存である。
 また、離島の漁港については、離島振興法を適用し、その整備の促進を図ることとしている。
(2) 水産物の価格の安定については、漁業生産者団体が行う水産物調整保管事業に対し助成を行うとともに、この事業の円滑な推進に資するため、当該事業により当該生産者団体に損失が生じた場合に無利子貸付けを行う財団法人魚価安定基金(昭和五十一年十二月設立)に対し助成したところである。
(3) 世界各国の漁業水域設定に伴い我が国漁獲量が制約を受けることにより、今後ある程度輸入水産物が増加すると考えられるが、国内の生産に多大の悪影響を及ぼすような水産物の輸入については、十分これを監視し、必要な行政上の指導を行うとともに、これと並行して需給と価格の安定のための措置を講じているところである。
(4) 水産用諸資材等の価格について不当な値上げが行われているとは考えられないが、今後ともそのようなことが行われないよう十分見守つてまいりたい。

六について

(1) 漁業近代化資金及び農林漁業金融公庫資金(沿岸漁業構造改善資金等)については、今後も必要に応じ融資枠の拡大等を図るよう努力してまいる所存である。
 なお、「漁業経営維持安定資金」の貸付けについては、現下の中小漁業の経営の実態にかんがみ、昭和五十二年度限りとする考えである。
(2) 漁業共済においては、中小漁業者の共済掛金の負担軽減のため最高六十五パーセントの補助を行つており、また本年度においては、漁業の実態に応じて比較的安い掛金で必要な補償を行うことができる約定限度内てん補方式等の特約の適用範囲の拡大・掛金率の引下げ等を行い漁業者の負担の軽減を図つているところである。
(3) 漁船船員の職務上の災害補償保険として船員保険(小規模漁業の一部については、労災保険)があるが、災害補償は、本来、事業遂行上生じた事故に対するものであつて、その費用については、海陸を問わず事業主の負担において行われており、これに国が負担措置を講ずる考えはない。
 なお、船員保険においては、被用者である船員法上の船員を適用対象としており、また労災保険においては、船員保険法の適用のない漁船船員が従事する業務災害の発生のおそれの多い五トン以上の漁船による漁業については、従前から当然適用事業としている。
(4) 漁業者に対する技術・知識の研修については、現在、道府県等が行う漁村青壮年、漁村婦人グループ等を対象とする研修、教育事業や漁船乗組員に対し無線技術、漁船運航技術等を修得させるための修練会等の事業に対し助成を行つているところであるが、今後とも漁業後継者の育成のため所要の措置を講じてまいりたい。

七について

 我が国周辺海域における重要水産資源の調査、研究については、従来から国の水産研究所を中心とし、大学、都道府県水産試験場等と緊密な連携を図りつつ進めてきたが、これら調査、研究に加え昭和五十二年度から新たに我が国二百海里水域内における漁業資源について、未利用資源を含め更に詳細な調査、研究等を開始することとしているところであり、今後ともそれらの充実を図つてまいりたい。
 また、我が国周辺海域以外の水産資源の開発調査については、大型調査船による資源開発基礎調査等を行うとともに海洋水産資源開発促進法に基づき設立された海洋水産資源開発センターにおいて企業化調査等を実施しているところであり、今後ともその充実を図つてまいりたい。