質問主意書

第80回国会(常会)

答弁書


答弁書第二三号

内閣参質八〇第二三号

  昭和五十二年六月三日

内閣総理大臣 福田 赳夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員沓脱タケ子君提出聴覚障害者の教育、生活等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員沓脱タケ子君提出聴覚障害者の教育、生活等に関する質問に対する答弁書

一について

(1) 心身障害児の早期教育の必要性にかんがみ、昭和四十七年度から計画的に聾学校に幼稚部を設置することを促進しているところである。
(2) 聴覚障害児のための教育器材については、聾学校の集団補聴設備及び聴力適応式学習設備並びに小・中学校の難聴特殊学級の集団補聴設備に対する国庫補助を行い、その整備を図るとともに、国立特殊教育総合研究所において教育機器、訓練器具等の総合的な開発研究を行つているところである。
(3) 聾教育における指導法については、国立特殊教育総合研究所において現在行つている「ことばのない子どものコミュニケーション能力の開発に関する研究」や文部省研究指定校における研究の成果等を踏まえつつ、その改善に努めてまいりたい。

二について

(1) 児童福祉法又は身体障害者福祉法の規定により補装具として補聴器を交付するに当たつては、可能な限り聴覚障害児・者の障害の現症等に適合するものを交付するよう、指導している。
(2) 聴覚障害者用の日常生活器具のうち、現在、ベビーシグナル(サウンドマスター)は、既に実用化されている。また、聴覚障害者用の電話機器は、従前から日本電信電話公社において、福祉用電話機器として研究開発され、既に「シルバーホン(めいりよう)」(難聴者用)の提供がなされている。更に、難聴者用の「骨伝導電話機」についても、同公社において目下開発を進めている。
 なお、現在提供中の「電話ファクス」も聴覚障害者の通信手段として有効であると考える。
 字幕入りテレビ(多重放送によるテレビジョン文字情報放送)については、日本放送協会等において実験が行われ、技術開発が促進されているとともに技術基準の設定等につき電波技術審議会において調査審議している。
(3) 字幕入り映画フイルムは、昭和五十年度以降福祉の観点から教育映画、文化映画等について作成し、聴覚障害者の利用に供しているが、今後ともこの充実に努めてまいりたい。
(4) 聴覚障害者自動車安全運転器具(警報音感装置)は、国立聴力言語障害センターにおいて研究した装置であるが、警音等の検出、その方向性等についてなお性能に問題が認められるので、現段階での実用化には交通安全上問題があると考える。
 なお、聴覚障害者については補聴器使用の条件付きで運転免許を受けることが認められているので、聴覚にかなりの程度の障害のある者でも免許を受けることが可能であり、昭和五十一年末で四、八六一人が右の条件付きの運転免許を受けている。
(5) 聴覚障害者にとつて手話の果たす役割の大きいことにかんがみ、現在、身体障害者地域福祉活動促進事業の一環として、手話奉仕員養成事業、手話通訳設置事業、手話奉仕員派遣事業等を国庫補助の対象としており、毎年予算の増額を図つているところである。これらの事業は、各都道府県等が地域の実情に応じて実施しているものであるが、今後ともこれらの事業の推進について指導してまいりたい。また、手話通訳者の常勤職員化等については、現段階では考えていない。

三について

(1) 身体障害者の雇用の促進については、昨年、身体障害者雇用促進法の抜本改正が行われ、その対策の強化が図られたところである。今後は、(イ)大企業を含め身体障害者雇用率を達成していない企業に対する指導の強化、(ロ)雇用率未達成の大企業からの身体障害者雇用納付金の徴収、(ハ)徴収した納付金を財源として行う身体障害者雇用調整金や各種助成金の支給など改正身体障害者雇用促進法の適切な運用を軸として、身体障害者の雇用の促進に努めてまいりたい。
(2) 身体障害者に限らず、労働者の賃金等の労働条件については、労働基準法等の定める最低基準が遵守されなければならないことはいうまでもなく、労働基準監督機関において、その履行の確保に努めている。
 法定の最低基準を上回る労働条件の問題については、原則として労使間の話合いによつて労働者個々人の能力に見合つて決定されるべきであると考えるが、政府としても単に障害者であることを理由として不当な労働条件が強いられることのないよう広く社会に対して啓発指導に努めてまいりたい。
(3) 最低賃金法第八条第一号の最低賃金の適用除外制度は、著しく労働能力の低い心身障害者について、その雇用の場が最低賃金の適用により、かえつて狭められることとならないようにするため設けられているものである。
 この適用除外は、心身障害者であればすべて認められるものではなく、行政庁の許可があつてはじめて認められるものであり、しかもこの許可は、障害の程度が著しく業務の遂行に直接支障のあることが明白な場合に限り、個別に行われることとなつており、今後ともその慎重な運用に努めてまいりたい。
(4) 聴覚、視力障害者等の障害者に対して職業訓練を行うための施設として、現在、埼玉県所沢市に、国立職業リハビリテーションセンターを昭和五十三年度完成を目途として建設中である。
(5) 身体障害者の労働条件その他身体障害者の就業に関する実態をは握するため必要な調査の実施について検討してまいりたい。