質問主意書

第80回国会(常会)

質問主意書


質問第四四号

公害健康被害補償法の補償給付改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年六月八日

沓脱 タケ子   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   公害健康被害補償法の補償給付改善に関する質問主意書

 公害健康被害補償法に基づく補償給付は、本制度の基本的給付である障害補償給付額が全労働者の平均賃銀の八〇%に抑えられ、環境庁の説明にもかかわらず慰謝料が含まれているとは到底考えられず、また、発病時に遡つた過去分の補償がないなど、きわめて不十分な現状である。本制度は、大気、水質を汚染する原因物質を排出した汚染原因者が、汚染によつてもたらされた被害者の健康被害につき自らの加害責任に基づき損害賠償すべきことにつき、制度的な解決を図ろうとするものであつて、本質的には、汚染原因者の費用負担による民事責任を踏まえた損害填補の制度である。
 このような本制度の基本的性格からみて、汚染原因者の負担による損害の完全賠償が要請されるところであり、右実情はこの点で不十分かつ不満足な水準である。
 よつて、政府においては、右給付水準を被害者の被害実態により照応したものとするよう、必要な基準の改善を図るべきであり、以下そのことにつき具体的な質問をする。

一 障害補償給付について

(1) 現行の障害補償標準給付基礎月額は、労働省の「賃金構造基本統計調査報告」および「春闘による賃金引上げ状況調査報告」による全産業労働者の性別・年齢別・階層別平均賃銀の八〇%相当額を一〇〇とし、障害等級ごとに特級、一級は一〇〇%、二級は五〇%、三級は三〇%、「等級外」は〇%に相当する額とされている。標準給付基礎月額が、「全労働者の平均賃銀と社会保険制度の給付水準の中間になるような給付額」として設定され、平均賃銀の八〇%相当額に決められていることにつき、被害者は強い不満を持つており、四日市公害裁判での認容水準と同等の額にすべきことを要望している。
 本制度による給付は、実質的には汚染原因者による公害被害者に対する損害賠償であるとの趣旨を徹底させ、その額を労働者の平均賃銀の一〇〇%相当額に引上げるべきである。また、障害等級ごとの給付率も二級については現行の五〇%を七五%へ、三級については現行の三〇%を五〇%へそれぞれ引上げるべきである。右二つの点につき政府の見解を示されたい。
(2) 標準給付基礎月額を年齢別および性別の区分でみると、昭和五十一年四月一日実施のものでは、最も男女格差の大きい五〇歳以上五五歳未満の者で男子が一四万八、三〇〇円に対し女子が七万二、七〇〇円、三五歳以上四〇歳未満の者で男子が一三万七、七〇〇円に対し女子が六万八、四〇〇円、男子の給付額に対する女子のそれは四九%、四九・七%相当額である。公害被害者として同じ苦しみを受けているにもかかわらず、男子と女子という性の違いだけでその損害賠償額にこのような格差が設定されていることにつき被害者は強い不満を持つている。政府においては、本制度の給付が基本的には公害被害者に対する損害賠償であるとの特殊性を十分考慮され、男女格差を撤廃、またはできるかぎり少なくするよう格段の配慮をすべきではないか。
(3) 現行の補償は被害者が認定患者となつてから以降の補償に限定されており、過去分の補償が除外されている、被害者にとつては損害は発病の時点から始まつており、本法の認定患者となつたその時点から損害が発生したものでないことは明白であつて、この意味からも発病時に遡つて補償するのが当然ではないか。特に、旧法以来の認定患者に対しては、最小限旧法に基づく認定時に遡つて新法に基づく補償給付を実施すべきである。以上の二点につき政府の見解を示されたい。

二 遺族補償費、遺族補償一時金について

(1) 前述障害補償給付と同様に男女格差を撤廃、または縮小するとともに、支給総額についても、一時金の最高額で男子が四六七万二、八〇〇円、女子が二三七万六、〇〇〇円であり、最低額で男女とも一二六万円である現行の水準は他の死亡事故による損害賠償額と比較して余りにも低すぎるので、自動車事故及び医療過誤等における損害賠償額を下まわらない額に改めるべきではないか。
(2) 認定患者が苦しさのあまり自殺した場合につき指定疾病による起因死亡に該当させるべきではないか。医学的には指定疾病による起因死亡を認めることにつき難点があるとの指摘もあるが、少なくとも当該指定疾病に罹患していることそれ自体が自殺の動機となつた場合には、それ相当の起因性を認めることにより、その損害の償いとすべきではないか。

三 児童補償手当について

 本給付は慰謝料的性格のものとして一五歳未満の被認定患者の養育者に対して支給されるものであるから、労働能力喪失度に応じて支給される障害補償給付の水準とはそれ相応の開きがあるとされているが、特級、一級が二万六、〇〇〇円、二級が一万三、〇〇〇円、三級が七、八〇〇円、その他特級患者に介護加算二万六、〇〇〇円という現行の水準は、公害患者の子供を養育する家庭の実情に合わないので引上げられるべきである。少なくとも「健康回復と教育学習に支弁する費用を加算せよ」との被害者の要求を考慮し、患児を出した家庭における実質損害を十分償える額に改めるべきではないか。

四 療養の給付及び介護加算の支給について

 差額ベッド代の費用をつくれないため、入院加療が必要な時にも入院ができず、したがつて十分な治療が受けられない場合が生じているので、差額ベッド代を支給するようにすべきではないか。また、差額ベッド代、介護に係る費用は、立替払にする等事前に支給するようにすべきではないか。以上の二点につき考え方を示されたい。

五 慰謝料及び移転補償費の新設について

(1) 障害補償給付および遺族補償給付には慰謝料も含まれているとの環境庁の説明にもかかわらず、前述給付額には慰謝料が含まれているとは到底考えられず、独立の給付項目を設定して右給付を実施すべきではないか。
(2) 公害認定患者が指定疾病につき療養し、又は指定疾病によりそこなわれた健康を回復するため、大気の清浄な地域へ住所を移転したときは、当該認定患者の請求に基づき、所要の額の移転補償費を支給するようにすべきではないか。

六 公害補償給付の収入認定について

 補償法に基づく公害補償給付を受けている者であり、同時に生活保護費の受給者である者については、公害補償給付額が収入認定され生活保護費の全部又は一部の減額事由とされているが、本給付が公害被害者に対する損害賠償金であるとの特殊性、さらにまた自動車事故損害賠償金に対する租税特別措置法の除外規定等も考慮され、収入認定から除外すべきものではないか。
 政府においては、以上六項目の質問につきその趣旨を十分熟慮され、前向きな答弁を重ねて要望するものである。