質問主意書

第80回国会(常会)

質問主意書


質問第四三号

水俣病の認定業務促進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年六月八日

星野 力   
沓脱 タケ子   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   水俣病の認定業務促進に関する質問主意書

 熊本・鹿児島両県における水俣病の認定業務の遅延ははなはだしく、三月末現在、熊本県三、六四一人、鹿児島県四六七人の未審査者があり、新規認定申請者も後をたたない実情である。
 特に熊本県では現在の認定審査及びそれに基づく行政処分のペースで推移すると認定申請者全員の処理が終了するのは約二〇年も先のことになると言われている。
 このような認定業務の著しい遅延について、熊本地方裁判所は「不作為の違法確認」の判決を出している。したがつて、水俣病の認定業務を促進させ、一日も早く「不作為の違法」状態を終結させることは「迅速かつ公正な救済」を目的とする法の趣旨からしても緊急課題である。
 以下、この点につき具体的に質問する。

一 検診及び認定審査について

 熊本県における水俣病の検診は、通常は水俣病検診センターで実施されているが、その検診能力は一ケ月四〇名から五〇名程度であり、毎月の認定申請件数及び後述する認定審査会の六〇件にものぼる答申保留件数の増加速度に追いつけず、ますます未処理件数を増加させてゆく原因となつている。
 また、熊本県認定審査会の一ケ月当りの開催回数は二回で、審査件数は一ケ月八〇件である。右審査件数八〇件中、行政処分の対象となる答申件数は二〇件前後で残りの六〇件は保留となる。しかも、答申保留者の審査と順番待ちの「新規」認定申請者の審査とで一ケ月八〇件の審査件数が構成されるのであるから、未処分累計は一向に減らない状態である。
 この事態の早期解決にとつて必要不可欠な施策につき国は真剣に検討すべきである。

(一) 水俣病検診センターの充実強化について

(1) 現在、常駐専門医は一名(耳鼻科)にすぎず、認定審査会の医師が非常勤で参加して検診業務にあたつている実状であるが、同センターの検診能力を大幅アップさせるため、神経内科、眼科、耳鼻科、神経精神科の専門医を常駐又は増員することが緊急に必要である。政府においては、右要請に答えるため、検診医となる医師の研究、給与、身分保障、その他必要な待遇条件を速やかに整備し、その実現に最大限の努力をすべきではないか。
(2) 右検診医の確保につきこれまでどのような措置を講じてきたか、具体的に示されたい。

(二) 認定審査会の開催回数の倍増について

 現在、毎月二回の開催回数を四回程度とし、うち二回を答申保留者八〇名程度の審査にあて、残り二回を順番待ちの「新規」認定申請者の審査にあてることにより、審査件数をこれまでの二倍に増加させるよう、認定審査会の各位に要請すべきではないか。

(三) 夏期の認定申請者一斉検診の実施について

 認定業務の遅滞の深刻な実態にかんがみ、夏期の一斉検診及び認定審査会の特別な審査体制を取り、未処分件数の大幅な減少を図るべきではないか。現在、その体制をとることを検討しているか。

二 水俣病の認定基準について

 そもそも現在のような水俣病認定業務の遅延が累積してきた主原因は、認定審査会における水俣病の認定基準の不徹底にあると考えられる。
 水俣病の認定基準については、昭和四六年八月七日付の環境庁事務次官から関係各都道府県知事あて「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法の認定について」(以下単に「事務次官通知」と呼ぶ)において明確にされている所であり、水俣病認定審査会が同通知に明示された認定基準をそのまま適用した審査方法をとつていないことから前述認定業務の遅延が生じていると考えざるを得ない。
 熊本県及び鹿児島県認定審査会の審査方法の特徴は、
 第一、知覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、難聴、言語障害、振戦など、いわゆる「定型的ハンターラッセル症候群」の臨床症状を備えた典型的症例のみを水俣病として認定していること、
 第二、疫学条件との関連を捨象し、被害者の臨床症状をそのものの目、鼻、口、耳等に分解し、その各々について、眼科所見で求心性視野狭窄、視野沈下又は眼球運動障害が認められても、当該症状は「視神経萎縮症」または「網膜色素変性症」で「説明できる」とか、耳鼻科所見で難聴(聴力障害)が認められても、当該症状は「老人性難聴」あるいは「騒音性難聴」で「説明できる」とか、さらにはまた知覚障害、運動失調が認められても、当該症状は「変形性脊椎症」、「脳動脈硬化症」等で「説明できる」とか、およそこのようにして当該疾患に係る症状の一つ一つを除外していく診断法を採用していること、--このことのために、例えば「変形性脊椎症」患者が、そのミエロパチーの病型において、当該地域においてのみ異常に高い出現頻度となつてあらわれているという、説明不能の事態を造り出している程である。
 したがつて、熊本県及び鹿児島県の水俣病認定審査会については、前述「次官通知」に明示された水俣病の認定基準を遵守するよう徹底させることがまず何よりも重要である。水俣病の主要症状と同じ臨床症状を有する症例につき、疫学的条件と切り離してその症状が水俣病によるものか、他疾患によるものかを論議しても、容易には鑑別がつかないと思われる。このような場合環境庁は、「その者の生活史および家族における同種疾患の有無」等、あるいは過去に測定した毛髪水銀データ、血中水銀データ等が保存されているものについてはそれを参考にし、汚染魚介を多量に摂取したことが確認される者については、当該疾患の臨床症状は水俣病によるものであると判定されるよう、両県認定審査会に徹底させるべきではないか。

  右質問する。