質問主意書

第80回国会(常会)

質問主意書


質問第四二号

公害保健福祉事業の促進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年六月八日

沓脱 タケ子   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   公害保健福祉事業の促進に関する質問主意書

 公害被害者の健康回復を目的とした公害保健福祉事業はきわめて不十分な現状にある。例えば、年度ごとの全予算額に対する事業実施額をみても、昭和四十九年度の予算額は四億円、実施額は三、九〇〇万円、昭和五十年度の予算額は八億円、実施額は一億七〇〇万円と約一割前後しか実施されていない。環境庁が「本事業が円滑にいくよう最大の努力をする」と約束した昭和五十一年度の実施状況も、見るべき改善は図られていない。
 健康回復を目的とする本事業によせる被害者の期待は強く、これまでの実施状況はこの期待にこたえるものとはなつていない。以下、事業の促進にあたつて改善を要する問題について質問する。

一 健康回復事業のための施設の整備について

(1) 必要なベッド数、空気清浄室も完備し、十分な治療と健康管理が受けられる専門病院の建設
(2) 夜間、朝方のぜん息発作をはじめ病状急変に対応できる救急医療体制の確立
(3) 大気の清浄な所に、専門医、指導員等が配置された、いつでも無料で治療と健康回復のための指導、訓練が受けられる保養所、または療養所の建設
(4) 恒常的な健康管理、認定・見直しのための定期的な医学検査が受けられる公害医療検査センターの建設
(5) 児童に対する治療、訓練、教育を備えた施設の建設
(6) 被害者の健康を回復させ、職場復帰をはかるための職業訓練施設

 以上のような健康回復に不可欠な諸施設の建設に対しては、被害者の要望は非常に強いが、国が公害保健福祉事業として承認していないため、地方公共団体や医師会が独自に資金を集めて建設したものが数ケ所あるにすぎない。国は、右のような施設の建設に対しても本事業の一部として承認し必要な予算をつけるべきではないか。

二 公害保健福祉事業を地方公共団体の決定事項にすることについて

 現在、公害保健福祉事業は環境庁長官の承認事項とされているが、各指定地域の実情に応じた事業実施が可能となるよう、都道府県知事又は政令で定める市の長の決定事項とすべきであると思うがどうか。

三 事業の内容、実施方法等の基準について

(1) 転地療養事業について

 転地療養事業は、「医学的に健康回復効果が認められる程度の期間」との理由で五泊六日とされているが、地方公共団体や患者会等が独自に実施している二泊三日、一泊二日程度の期間のものでも法に定める事業として承認し、予算をつけるようにすべきではないか。

(2) 大気清浄器の支給事業について

 大気清浄器の支給事業は、特級・一級の在宅療養者に限定され、二級以下の患者は在宅時及び就寝時だけでも清浄な大気を吸いたいと思つても支給されない。二級以下の患者に対しても希望者には支給できるように改善すべきではないか。

(3) 家庭療養指導事業について

 国が基準として定めている費用単価では、保健婦の交通費、日当程度で専任の保健婦を雇用する費用は確保されない。多くの県市は通常の保健婦数で日常業務を消化しながら、公害患者の家庭療養指導も実施しており、保健婦不足のため十分な事業が行えない。したがつて、必要な人数の保健婦を増員できる基準単価に改めるべきではないか。

(4)リハビリテーション事業について

 大阪市については、事業実施主体が市であるので、事業を保健所段階に降して実施した方が医師や会場の確保もやりやすい。また、各区の医師会に事業委任ができるような措置も必要である。このような各地域の実情に応じた実施方法がとられるよう配慮すべきではないか。

四 公害保健福祉事業の実施での地方公共団体の費用負担について

 公害保健福祉事業の種類ごとに環境庁が定める基準単価に基づいて地方公共団体が事業を実施すると、

(イ)その事業につき環境庁が承認した全費用のうち規定により四分の一を無条件に負担するほか、
(ロ) 事業ごとに定められる費用の項目、基準単価そのものが実際にかかる費用を下まわるなど実情に合わない場合が多く、超過負担を強いられることになる。
(ハ) また、公害保健福祉事業は全認定患者を対象に実施されなければならないが、そうなると実施主体の県市は補償給付事業とあわせて相当の人員を増員せねばならない。現状では、全認定患者のたかだか五%前後しか実施されていないが、それでも人件費の圧迫が強まつている。

(1) 公害被害者の健康回復のための事業は、本来、自らの加害行為で被害者に重大な健康被害を及ぼした汚染原因者が、被害者の健康を原状に回復させることによつてその損害を償うべきであるところを、加害者になりかわつて地方公共団体が制度的に実施するものであるから、当該事業に要した経費の全額につき汚染原因者に負担させることは当然である。国は、地方公共団体の費用負担を廃止し全額汚染原因者負担とするよう所要の法改正をすべきであると思うがどうか。
(2) 右(イ)~(ロ)に記載した地方公共団体の費用負担は、当該地方公共団体の財政を圧迫し、公害保健福祉事業を全認定患者を対象とした事業として全面的かつ円滑に実施する上での重大な障害となつている実情にかんがみ、国はすみやかに実態調査を行うべきではないか。
(3) 右二点が実行されるまで、当面の措置として、各指定地域の自治体の事情と要望をくみあげ、各事業ごとに定めている基準単価の水準を、実施自治体に超過負担が生じないように改善していくべきではないか。

  右質問する。