質問主意書

第80回国会(常会)

質問主意書


質問第一号

公共用地の取得に関する特別措置法の運用の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十二年一月十七日

秦 豊   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   公共用地の取得に関する特別措置法の運用の実態に関する質問主意書

 公共用地の取得に関する特別措置法(以下「特措法」という)が昭和三十六年六月十七日に制定公布されてから、十五年余が経過した。そこで特措法の運用の実態に関する諸点について、建設大臣の御見解を賜りたい。

一 特措法が施行されて以来、現在に至るまで、同法第七条の規定により建設大臣が行つた認定処分(以下「特定公共事業認定処分」という)に係る特定公共事業(以下「事業」という)について。

(1) 右認定処分の件数を特措法第二条の各号毎に示されたい。
(2) 右において、同法第二十条の規定による緊急裁決の申立てが行われた事業名とその申立ての年月日を、特定公共事業認定処分が行われた年月日を付して、同法第二条の各号に分類して示されたい。
(3) 右において、各事業が必要とする起業地の全域の取得が完成した年月日をそれぞれ示されたい。
(4) 緊急裁決の申立てが行われた事業のうち、緊急裁決が行われた事業名、緊急裁決の年月日及び同裁決に係る用地の全域の取得が完成した年月日をそれぞれ示されたい。
(5) 右において、緊急裁決に係わる用地の取得が行政代執行法の手続きによつた事業は何か。
(6) 特定公共事業認定処分が行われたにもかかわらず、緊急裁決が行われていない事業があるが、これは如何なる理由によるか。

二 建設大臣による特定公共事業認定処分が行われたのは、新東京国際空港第一期建設事業(以下「本件事業」という)を除くと、昭和三十七年から昭和四十一年までの五年間であると聞く。

(1) 特措法が施行されて以来、現在に至る迄の特定公共事業認定処分の件数を年毎に示されたい。
(2) 本件事業を除くとして、最後に行われた特定公共事業認定処分に係る事業名と年月日を示されたい。
(3) 昭和四十年代といえば、高度経済成長政策のまつただ中にあつて、大々的に公共事業が行われたにもかかわらず、昭和四十一年八月以降、本件事業を除けば、特定公共事業認定処分がまつたく行われていないのは如何なる理由によるのか。
(4) 右において、特措法自体に問題があるとすれば、それは何か。
(5) 右において、特措法を所管し、維持管理に責任を負う計画局総務課では、どのような対策がとられたか。
(6) 右において、特措法の改正が行われなかつた理由は何か。

三 本件事業に係る特定公共事業認定処分(以下「本件処分」という)について、当局、建設省大臣官房文書課長として、事務局内部での再審査を担当した河野正三、国土庁官房長は、特措法について法律学者の間で憲法違反の疑いがあると指摘されていたのではないのか、という問いに対して、「元来が、できた当時から相当むずかしい法律ですから、反対の学者の方もおられるという話は聞いてはおりました」と答えている。

(1) 特措法が日本国憲法との間で問題が生ずる可能性があるとすれば、どのような点がどのような理由で問題となり得るのか。
(2) 法律学者の指摘した特措法に係る憲法違反の疑いとは、具体的にどのようなことだつたのか。
(3) 特措法が相当むずかしい法律であるとするのは、どのような点がどのようにむずかしいとされたのか。具体的かつ詳細に示されたい。
(4) 特措法に反対した学者の、反対の理由は何であつたのか。
(5) 右において、どのような対策がとられたのか。学者の反対は一方的に無視されたのか。
(6) 特措法に対する憲法違反という指摘と、本件事業を除き昭和四十一年八月以降特定公共事業認定処分が行われなかつた事実との間には、何か関係でもあるのか。どのような関係か。

四 特措法第四節は、土地収用法第二十条の規定による事業の認定(以下「事業認定処分」という)を受けている事業の特定公共事業認定処分については、特例を認めている。

(1) 現在迄に建設大臣により行われた特定公共事業認定処分のうち、特措法第四節の規定が発動された事業名、特定公共事業認定処分が行われた年月日及び事業認定処分が行われた年月日を、特措法第二条各号に分類して示されたい。
(2) 右において、特定公共事業認定処分に係る起業地と、先行した事業認定処分に係る起業地とで異る事業があれば、その事業名、異る内容及び異る理由を、それぞれ示されたい。

五 特定公共事業認定処分に対し、取り消し又は無効確認の訴え(行政訴訟)の提起された事業名、訴えの提起された年月日、結末につき、それぞれ示されたい。

六 昭和三十七年二月より始まつた一連の特定公共事業認定処分は、昭和四十一年七月で一応終了しているが、本件処分だけが、何故か昭和四十五年十二月と飛び離れ、孤立して行われている。どこか本件処分には無理があるのではないかと思われたので、質問主意書を提出したところ、内閣参質七八第一〇号なる答弁書(以下「答弁書」という)の送付を受けた。しかし答弁書の回答では不十分・不明確な点が多いので、以下、再度問題点を質したい。
 まず本件処分には何らの瑕疵がないと回答されているが、

(1) 本件処分の無瑕疵性についての判断は、本回答にあたつて、本件処分を再審査した上でのものか、それとも本件処分は、処分的に適正に行われたはずであるから、瑕疵がないとするのか、どちらか。
(2) 右において、再審査したのであれば、その事務を担当した事務局は、計画局総務課か。
(3) 右において、再審査を担当した総務課長、再審査を主査した総務課長補佐はそれぞれ誰か。氏名を示されたい。また再審査に要した時日はどれ程か。
(4) 本件処分に何らかの瑕疵があつた場合の措置については、回答がないが、回答を避けた理由は何か。
(5) 本件処分に何らかの瑕疵があつた場合の措置につき、次により示されたい。

(イ) 事務局内部で判明した場合。
(ロ) 事務局内部で判明したものが、外部に漏洩した場合。
(ハ) 外部から指摘された場合。

七 新東京国際空港建設事業に対する事業認定処分を担当した計画局総務課長は、河野正三氏であり、同処分を主査した同課長補佐は、未沢善勝氏とのことであるが、本件処分を担当した計画局総務課長及び同処分を主査した同課長補佐は、それぞれ誰か。その氏名を示されたい。

八 本件事業に係る起業地には、現在に至るもその所有権又は占有権の未取得のものが残されているが、

(1) これら権利の未取得に係る用地の広さ、未取得の権利の内容及び未取得の理由を権利者の氏名とともにそれぞれ示されたい。
(2) これら未取得用地の取得の予定時期、その予定を可能とする根拠及び取得の方法を、未取得用地毎にそれぞれ示されたい。
(3) ちまたでは本年十一月の成田開港が喧伝されているが、これら未取得用地を残したままで開港が可能なのか。
(4) これら未取得用地の右成田開港に及ぼす影響は、それぞれどのようなものか。
(5) これら未取得用地を本件事業の起業地に含めたのは誤りだつたのか。誤りでないとするなら、未取得用地を残したままで成田開港が可能となる事実を、起業地計画に関し特措法上どのように説明するのか。本件処分に係る起業地の範囲は何故適正であつたと言えるのか。
(6) これら未取得用地について、特措法第二十条の規定による緊急裁決の申立てを行わなかつた理由を未取得用地毎に示されたい。
(7) これら未取得用地について、土地収用法第三十九条の規定による裁決の申請及び同法第四十七条の三の規定による明渡裁決の申立ての行われた年月日を、未取得用地毎にそれぞれ示されたい。
(8) 右において、裁決の申請又は明渡裁決の申立てが現在行われているものがあれば、その理由をそれぞれ示されたい。
(9) 事実認定処分に係る起業地にしても、特定公共事業認定処分に係る起業地にしても、その範囲は必要最小限でなければならないのではないか。必要最小限でなくてもよいとするならその理由は何か。

九 答弁書では、本件処分に係る事業計画には、航空保安施設及び航空機給油施設は含まれていないとしているにもかかわらず、本件事業は東京地区における航空輸送及びその安全性を確保することになる旨回答している。本件処分をなすにあたり、

(1) 東京地区における航空輸送を確保するためには、航空機給油施設の設置が必要不可欠であるとの説明は、新東京国際空港公団(以下「公団」という)から受けなかつたのか。何故か。
(2) 東京地区における航空輸送を確保するためには、ジェット燃料(航空燃料)の安定供給が必要不可欠であるとの説明は、公団から受けなかつたのか。何故か。
(3) ジェット燃料の安定供給を確保するためには、航空機給油施設の設置が必要不可欠であるとの説明は、公団から受けなかつたのか。何故か。
(4) 航空輸送を確保する、或いは、航空機が飛行するにはジェット燃料が必要であるということを知つていたのか。それとも知らなかつたのか。
(5) 東京地区における航空輸送の安全性を確保するためには、航空保安施設の設置が必要不可欠であるとの説明を公団から受けなかつたのか。何故か。
(6) 東京地区における航空輸送の安全性を確保するためには、航空機の運航について、計器飛行方式が前提となつているという説明は、公団から受けなかつたのか。何故か。
(7) 計器飛行方式を確保するためには、航空保安施設の設置が必要不可欠であるとの説明は公団から受けなかつたのか。何故か。
(8) 航空機が安全な離着陸や安全な出発・到着・待機飛行を行うには、夜間など視界の無いときはなおさらであるが、航空保安施設の援助が必要不可欠であるということを知つていたのか。それとも知らなかつたのか。
(9) 昭和四十一年十二月十二日、運輸大臣の指示した基本計画の4の工事完成の予定期限では、四千メートル滑走路に対応する諸施設の中に航空保安施設が含まれているという説明は、公団から受けなかつたのか。何故か。
(10) 右基本計画では、四千メートル滑走路に対応する諸施設の中に航空保安施設が含まれていながら、四千メートル滑走路及びこれに対応する諸施設を建設する本件事業では、四千メートル滑走路に対応する諸施設の中に航空保安施設が含まれていないことについて、建設大臣はどのような認識を持つていたのか。

十 本件事業の公益性について、答弁書では、公団から「本件事業は、東京地区における航空輸送及びその安全性を確保し、同地区における社会的、経済的発展に寄与することとなるので、公益上重大な利害を有する事業である」との説明を受け、そのとおりであると判断したものである、と回答している。本件処分をなすにあたり、

(1) 本件事業が東京地区における社会的、経済的発展に寄与することになるものでないのならば、公益上重大な利害を有する事業にはならないということは判断できたのか。
(2) 本件事業が公益上重大な利害を有する事業とは判断できないのは如何なる場合か。その要件を具体的に示されたい。
(3) 本件事業が東京地区における航空輸送及びその安全性を確保するものでないのならば、同地区における社会的、経済的発展に寄与することにはならないということは判断できたのか。
(4) 本件事業が東京地区における社会的、経済的発展に寄与することになると判断できないのは、如何なる場合か。その要件を具体的に示されたい。
(5) 事業計画に航空保安施設及び航空機給油施設を欠く本件事業でも、東京地区における航空輸送及びその安全性を確保すると公団から説明を受けたのか。そして納得したのか。何故納得できたのか。
(6) それとも、公団に対し、本件処分に係る起業地計画に航空保安施設及び航空機給油施設を含めないよう指示していたのか。

十一 本件事業の緊急性について、答弁書では、公団から「近年めざましい増大を示している航空輸送需要に対応し得なくなつている東京国際空港の現状からみて、国際航空輸送需要に対処するため緊急に事業を施行することを必要とするものである」との説明を受け、そのとおりであると回答している。本件処分をなすにあたり、

(1) 東京国際空港が航空輸送需要に対応し得なくなつているとは、需要増に対して供給(空港容量)が限界に達していることと思料されるが、どのような空港容量により、その限界性が公団から説明されたのか。またそれにつきどのような判断をなしたのか。
(2) 供給に対する需要過多により空港容量が限界に達しているということに対し、長期にわたつての航空需要に応ぜしめることはともかくとして、現在の空港容量を増加せしめるべく、暫定的にしろ東京国際空港を拡張するということが考えられるが、あえてこれが行われなかつたことについて、どのような説明を受けたのか。またこれにつきどのような判断をなしたのか。
(3) 一方、東京地区における長期にわたつての航空需要に応じるためには、東京国際空港を拡張、再開発することでは不適切であるとの説明は受けたのか。どのような理由で不適切とされたのか。またこれにつきどのように判断したのか。
(4) 東京国際空港をとりあえず拡張し、現在のC滑走路から羽田沖二キロのところに三千メートルのD滑走路を建設するという暫定措置を講じ、その後の機種の推移に応じ同滑走路を三千五百から四千メートルへと拡張することにすれば、このような暫定措置により、少くとも本件事業に係る成田開港の予定時期を昭和四十六年四月よりも更に先に延ばすことができ、本件処分は緊急性の要件を欠くことになり、殊さら本件処分を発動しなくてもよくなる事態もあり得たと思料されるが、この件につき公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのように判断したのか。
(5) 航空審議会が新東京国際空港に関する答申を出した昭和三十八年十二月十一日に、東京国際空港に関する建議を行つている。この建議の中では「新空港の実現には、相当長期間を要するものと予想されるが、その間に増加する航空需要は、現在の羽田空港で処理せざるを得ない。そのためには、同空港を現在の侭で放置することは許されない」として、東京国際空港の使用効率の向上、即ち、空港容量の増大を建議している。本件処分の緊急性と右建議との関係につき、公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのように判断したのか。
(6) 友納武人千葉県知事(当時)が成田空港を受け入れるにあたり、佐藤首相が全面的に了承した四条件(昭和四十一年六月二十二日付)の一つ「不測の事態を避けるため、羽田空港の拡張を並行して行うべきこと」については、本件処分の緊急性との関係につき、公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのように判断したのか。
(7) 昭和四十一年八月以降、本件処分を除けば特定公共事業認定処分が行われていないが、特措法を所管するものとして、特措法の発動を求めることについて、起業者等関係者に対し、どのような指導をし、又は態度をとつたのか。次の(イ)(ロ)(ハ)のうちより選ばれたい。

(イ) 法定要件さえ充せば、公共用地の取得は特措法によりどんどん行え。
(ロ) 法定要件を充すものであつても、回避可能な限り特措法は避けよ。やむなく特措法の発動を求めるにしても、代替措置や暫定措置を可能な限り追求するなどして慎重に事にあたれ。
(ハ) その他
 但し(ハ)の場合は、その内容を具体的に示されたい。

(8) 右について、本件処分ではどのように対処したか。またその理由は何か。
(9) 航空輸送需要に対応し得なくなつているとする東京国際空港に対し、国内航空輸送需要に対処するための飛行場の建設が別途考えられなかつたことについて、公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのような判断をしたのか。
(10) 一般に国際空港では当然のことながら、国内便もジョイント便を含め運航しているが、国際空港における国際便と国内便との適正配分について、公団からどのような説明を受けたか。またこれにつきどのような判断をなしたのか。
(11) 東京国際空港では空港容量が限界に達しているとされる中で、国内便が同容量(便数換算)の七割近くを占め、国際線の増便及び新規乗り入れを排除している。国際便よりも国内便の方が公益性が高いとする法律上の根拠につき、公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのような判断をなしたのか。
 ちなみに国内線用の空港建設には、特措法の発動は認められていない。
(12) 東京国際空港における需要増の内容及び原因につき、公団からどのような説明を受けたのか。またこれの正当性につき、どのように判断したのか。

十二 答弁書では、新東京国際空港建設事業が、東京地区における長期にわたつての航空需要に応ずるとともに将来における主要な国際航空路線の用に供することを目的としていると回答している。本件処分をなすにあたり、

(1) 新東京国際空港建設事業が、東京地区における長期にわたつての航空需要に応ずることができるものであることの根拠につき、公団からどのような説明を受け、かつこれにつきどのような判断をなしたのか。
(2) 東京国際空港が航空輸送需要に対応し得なくなつているということと同じ意味で、新東京国際空港が所要の航空輸送需要に対応し得なくなる時期について、公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのように判断したのか。
(3) 本件処分に係る事業計画には横風用C滑走路が含まれていないが、これにつきどのような説明を公団から受けたのか。またこれに対しどのような判断をなしたのか。
(4) 右横風用C滑走路の使用状況はどのように予想されていたのか。どのような根拠にもとづいてか。
(5) B滑走路が二千五百メートルしかなく、A滑走路の代替とはなり得ないにもかかわらず、新東京国際空港建設事業が主要な国際航空路線の用に供することができるとする理由につき、公団からどのような説明を受けたのか。またこれに対しどのように判断したのか。
(6) 横風用C滑走路が必要となる状況とA滑走路が事故等により閉鎖(ランウェイ・クローズ)される状況との間の量的関係につき、公団からどのような説明を受けたのか。またこれにつきどのように判断したのか。

  右質問する。