質問主意書

第78回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六号

北富士演習場返還国有地払下げ問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十一年十月二十日

鈴木 力   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   北富士演習場返還国有地払下げ問題に関する質問主意書

一 さきに神沢浄議員が提出した「北富士演習場返還国有地払下げを決めた閣議了解に関する質問主意書」に対する答弁書(内閣参質七七第七号、昭和五十一年四月九日)と関連して、つぎの点をあきらかにされたい。

(1) 右答弁書第一項では、閣議了解の払下げ目的は地元民生安定のためであるとしている。ところで、閣議了解以降本年春ごろまでは、富士吉田市外二ケ村恩賜県有財産保護組合(以下「吉田恩賜林組合」という。)を払下げ対象として、同組合と国との間で話しあいが進められてきたが、現在は山梨県への払下げの方向で、県と国との間で話しあいが進められている。
 吉田恩賜林組合が直接払下げの対象にされなくなつたことについて、本年六月二十二日山梨県議会において、田辺知事はつぎのように答弁している。
 「本年二月には、おおむね払下げに伴う事務的作業を完了いたし、残すは国有財産中央審議会等の審議を願う段階にまで至つたのであります。しかしながら、国会審議が空転し、異常な状態が長らく続きました。この間に、払下げ先についての幾多の論議が各方面から出されてまいりました。その上、この間、地元で幾つかの事件が続いたのであります。これらの諸般の事情が微妙に各審議会等に反映をし、そこでの了解を得ることが経過的にも技術的にも非常に困難になつてまいつたというのが、大蔵省の見方であります」(定例山梨県議会会議録第二号)。
 そして本年九月二十二日山梨県議会において、田辺知事がおこなつた「担当職員をもつて『北富士国有地払下げ問題処理プロジェクトチーム』を編成し、大蔵省をはじめ関係方面と払下げにかかる諸般の問題について数次に及ぶ協議を重ねている」という趣旨の上程議案説明にみられるように、現在は山梨県への払下げの方向で話しあいが進められている。
 このように、吉田恩賜林組合が直接払下げの対象にされなくなつたことと関連して、同組合を直接払下げの対象からはずさざるをえなかつた理由と考えられるつぎの各項目について、その合否をそれぞれ各項目ごとにあきらかにされたい。

イ 同組合への払下げは、地元民生安定という閣議了解の払下げ目的にそわない疑いがある。
ロ 同組合への払下げは、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号に規定する「公用」性の要件を欠く疑いがある。
ハ 同組合への払下げは、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号に規定する「必要」性の要件を欠く疑いがある。
ニ 同組合への払下げは、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号に規定する前記以外の要件を欠く疑いがある。

 なお、右以外に理由があるならば、その理由を具体的に、かつ関係法令がある場合はそれを付してあきらかにされたい。

(2) 右答弁書第二項では、地元民生安定策としての林業整備事業が、地元民生安定に寄与する効果は、具体的な数字をもつて示すことは困難としている。しかし地元民生安定に寄与すると判断するからには、数字では示せないにしても、何らかの具体的根拠があるはずであり、それは当然、地元民の生業・生活条件を、払下げ以前の状態よりもよくする効果があるということだと思うがどうか。
(3) 右答弁書の内容と関連して、こんにち林業経営が、山梨県下の恩賜林経営の現状や、さきに吉田恩賜林組合が国に提出した「北富士地域林業再建整備計画説明書」の内容からもあきらかなように、きわめて困難な状況にあることは周知の事実である。にもかかわらず、閣議了解が地元民生安定のための国有地利用の具体策として、林業整備事業を特定したからには、林業整備事業といえども、その方策いかんでは、確実に地元民生安定策となりうると判断してきめたはずである。そうでなければ、赤字経営が一般的傾向である林業整備事業を、演習場使用と両立する地元民生安定策として特定できるわけがない。したがつて、閣議了解がなされるにあたり、担当閣僚から、林業整備事業が地元民生安定に寄与する所以について、少なくとも何らかの合理的な説明がなされ、その結果、閣議了解にいたつたものと考えられる。その説明要旨が示されれば、国の方針の意図および理由等をある程度うかがい知ることができると思われるので、右説明要旨をあきらかにされたい。

二 北富士演習場返還国有地の払下げについては、周知のように、山梨県選出国会議員の県への払下げを内容とする「あつせん案」によつて山梨県側の意見がまとまり、現在、山梨県への払下げの方向で、県と国との間で話しあいが進められている。
 ところで、田辺知事は県が払下げを受ける理由について、本年六月二十三日山梨県議会において、つぎのように答弁している。
 「県といたしましては、国有地を決して欲しているものではありません。また県への払下げに協力を求めているものでもありません。私は先日も申し上げましたとおり、林業整備計画が定着いたしますれば、一日も早く地元保護組合に払下げたいと考えております」
 「あつせん案の内容といたしまして、『払下げ先は山梨県とする』とは、保護組合への払下げを前提とした県の一時あずかりと解してよいかとのことでありますが、県の一時あずかりと御理解をいただいてもけつこうでございます」(以上、定例山梨県議会会議録第三号)。
 また「あつせん案」の中にある「県の事情変更の申請」について、同じ日の県議会において、望月企画調整局長は「県の事情変更とは、保護組合に払下げることを大蔵省に了解させることかという御質問があつたわけでございますが、これはまさにそのとおりであると思うわけでございます」と答弁し、事情変更の時期についても、田辺知事は「その時点といたしましては、約二年後の使用協定の更新時、また植栽計画が完了した時点等、幾つかの時点が想定されるわけであります。私といたしましては、それぞれの時点を事情変更の時期として考え、十分な吟味を加え、誤りのない判断をいたしてまいる所存であります」と答弁している(以上、定例山梨県議会会議録第三号)。
 さらに本年七月二十八日、地元一市二村(富士吉田市、山中湖村、忍野村)および吉田恩賜林組合が、県に提出した「国有地二百十ヘクタールの払下げに係るあつせん案の運用及び解釈について(照会)」のなかで、
 あつせん案第一項に「払下げ先は山梨県」とあるが、これは、あつせん案第五項により富士吉田市外二ケ村恩賜県有財産保護組合への払下げを前提とした県の一時預りと解してよいか。
と質問したのに対し、翌七月二十九日、山梨県および北富士演習場対策協議会(以下「演対協」という)は、「国有地二百十ヘクタールの払下げに係るあつせん案の運用及び解釈について(回答)において、
 「県の一時預り」と理解してよい。
 しかし、地元保護組合への再払下げには、林業整備事業の実績が積み重ねられることが必要であると理解願いたい。
と回答している。
 右に関連して、つぎの諸点を各項目ごとにあきらかにされたい。

(1) 県議会における右答弁および地元への右回答において、山梨県は国有地払下げについて積極的希望を持たず、「一時預り」の考え方を公式に表明しており、窮極においては、吉田恩賜林組合への再払下げを意図していることはあきらかである。国は山梨県知事および関係局長の答弁内容を是認するのかどうか。
(2) 一般的に事情変更の原則が適用される場合とは、契約締結の基礎が、予見しえない社会的事情等によつて変更してしまい、変更前に締結された契約を強制することが、法的正義ならびに信義に反するものとなつたと認められる場合に限つて、それを是正するためにこそ適用されるものと解されている。ところで、右県議会の答弁において明らかなように、山梨県は、払下げ契約を締結する以前において、すでに再払下げを予定し、林業整備計画の定着等を事情変更として国に申請するとしているが、国はかかる申請を法的に事情変更として承認できるのか。
(3) もし県知事および関係局長の答弁を是認するとすれば、当該払下げは契約の相手方が特定されているから、結局は随意契約によるほかはないが、その場合、適用できる会計法および予算決算及び会計令の条項があるのかどうか。あるとすればその条項をあきらかにされたい。
(4) 随意契約は競争入札の原則に対する契約の特例方式として、会計法第二十九条の三第四項および第五項に根拠規定を有し、さらに予算決算及び会計令第九十九条等に具体的な規定がある。代表的なものは予算決算及び会計令第九十九条であるが、同規定は厳格を期して限定列挙されているものと解され、かつ、契約の相手方をそれぞれの規定によつて、個々具体的に特定することができることとしているものと解される。
 ところで、本件払下げにおいて、右にみられるごとく県が「一時預り」をする場合も、これらの規定を適用する余地があるものかどうか。
 もしかりに可能なりとすれば、会計法、予算決算及び会計令の随意契約の規定は濫用され、果ては契約制度の素乱を招くこととなると思うがどうか。
(5) 一般的に国有財産の払下げにおいて、「一時預り」は、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号に規定する「公共用」、「公用」、「公益事業の用」のいずれにもあたらず、また同号の要求する「必要」性にもあたらないと解するがどうか。
 なお、あたる場合も例外的にあるならば、その理由およびそのような具体的事例をあきらかにされたい。
(6) 国有財産の売払いは原則として競争入札であり、随意契約は、会計法第二十九条の三第四項による場合のほか同第五項による場合においても、予算決算及び会計令第九十九条各号に規定するものに限つて、極めて厳格な要件のもとに、特殊例外的にしか許されていない。したがつて、山梨県が当該返還国有地の払下げを随意契約によつて受けるとすれば、地方公共団体である山梨県といえども、当然、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号に規定する「公用」性等ならびに「必要」性の要件を具備していなければならないと解するがどうか。
(7) 公共団体を相手方とする随意契約において、法が払下げ申請人に対し、右の要件を必要としていることは、たとえば申請人がその土地を「公用」として自らの用に供する「必要」があることを、当然の前提にしているのであり、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号も、「公共用、公用又は公益事業の用に供するため必要な物件を直接に公共団体に売り払」うときとして、「直接」性をその要件としている。したがつて、山梨県が当該返還国有地の払下げを随意契約によつて、第三者の用に供するために、すなわち「一時預り」として受けようとする場合は、この「直接」性の要件を充足するものではないと思うがどうか。
(8) 国有財産法第二十九条は、国有財産払下げにあたつては、政令で定める場合を除き、「用途指定」をしなければならないとしている。本件払下げにおいても当然必要な指定がなされることになるが、右にみられるような山梨県当局の方針から、将来吉田恩賜林組合に対し再払下げがなされる場合を考慮して用途指定をすることが可能かどうかをあきらかにされた。
(9) 右にみられるごとく、山梨県は、県への払下げは「一時預り」であり、かつ吉田恩賜林組合への再払下げを前提にして県への払下げを受けることを、県議会答弁や公式文書であきらかにしている。したがつて、このような事実が存する限り、法令上の要件を欠くものと解せるから、県への払下げが、予算決算及び会計令第九十九条第二十一号に規定する「公用」性等ならびに「必要」性の要件を法的に具備するためには、払下げにあたつてつぎの措置が必要不可欠であると思われる。

イ 本件国有地払下げ契約は、要式契約でおこなわれる(会計法第二十九条の八第二項)ほど厳格なものであるから、県が払下げ契約に署名する以前において、「用途指定義務の履行の確実性」を裏づけるために、公式文書で前記の地元への回答を否定し、払下げを受けるのは、地元民生安定のために県自らが林業整備事業をおこなうためであつて、「一時預り」のためでも、吉田恩賜林組合への払下げを実現するためでもないことを、公式にあきらかにすること。
ロ 契約にあたつては、「公用」性等ならびに「必要」性の要件を具備するに必要な二〇年間の用途指定(「普通財産にかかる用途指定の処理要領」別表)にとどまらず、さらに、地方公共団体とはいえ前述の経過もあるので、買戻しの特約及び登記、その他解除権の特約等の明記を承諾すること。

 右のとおりと考えてよいのかどうか。それぞれについて、その当否およびその場合の理由をあきらかにされたい。
(10) 吉田恩賜林組合への直接払下げはやめたが、しかし実際は、県を「トンネル」にしてやはり同じ組合に払下げられるということでは、法令的に大いに疑義があり、かつ、世間の常識からいつても、まつたく納得しがたいことである。そこで国の見解として、もしかりに、「トンネル」であつても合法的なものとして措置できるものがあるとすれば、どのようなものであるかを、国側の措置、県側の措置および組合側の措置別に、具体的にあきらかにされたい。

三 地元一市二村および吉田恩賜林組合は、県に提出した前記「国有地二百十ヘクタールの払下げに係るあつせん案の運用及び解釈について(照会)」のなかで、当該地域に対する入会権を主張して、つぎのように照会した。
 当該地域における従来からの地元住民の入会権益は、県の一時預りとなつても継承されるものと解してよいか。
これに対し、県および演対協は、前記「国有地二百十ヘクタールの払下げに係るあつせん案の運用及び解釈について(回答)」において、
 当該地域に対して従来から地元住民が使用、収益してきた入会慣行は、所有権者が変つても承継されるものと考える。
と答えている。つまり、この回答によつて、県は地元入会集団の有する入会慣行が、たんに天然自然の産物の採取ばかりでなく、同地を使用して生産的に収益することのできる内容をもつ、強力な用益物権であること、いいかえれば、当該地域の所有者がたとえ誰になつても、その所有者は、本来的な所有権の内容をなす使用権、収益権、処分権の三つの権能のうち、たんに処分権のみをもつ観念的な所有権、いわゆる虚有権をもつにすぎないと解せる内容の回答を、県および演対協は地元にだしている。
 また当該返還国有地内通称なかざす・土丸尾地区の耕作地に対し永小作権を主張する農民たちは、同耕作地の自らへの払下げを国に請願する一方、その小作料を甲府地方法務局に供託し、また県議会にも、払下げ実現方の支援を求める請願をおこなつている。
 右の事実に関連して、つぎの諸点を各項目ごとにあきらかにされたい。

(1) 一般的に、国有地の払下げにおいて、当該土地に何らかの用益的権利が付着している場合は、その付着している権利を法的に処理してから、払下げの措置をとるべきであると思うがどうか。
(2) 普通財産取扱規則(昭和四〇・四・一大蔵省訓令二)第九条本文は、「財務局長は、普通財産の管理及び処分をしようとする場合には、当該財産を実測計量して、その数量を確実には握するとともに、当該財産に係る権利関係を明確にしておかなければならない」と規定している。したがつて、前記の事実が存在している本件払下げにおいては、当該財産に係る用益物権としての入会慣行及び永小作権等の権利関係を明確にしたうえでなければ、財政法第九条、予算決算及び会計令第九十九条の五等にもとづき、「取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等」を考慮した適正な価格を定めえないと思うがどうか。もし定めうるとすれば、その理由および前記事実に対する法的または行政的処理のしかたをあきらかにされたい。
(3) 判例および学説は「売買契約の成立により、売主は、売買の目的たる財産権を買主に完全に移転する義務を」負うから、その具体的内容の一つとして「目的物の占有も対抗要件でないときにも-移転しなければならない。不動産を売つた場合には、特約のない限り、借地人または借家人を立退かせて引き渡す義務を負う」(我妻、民法講義V2〔四二一〕)としている。したがつて、本件のごとく、国が林業整備の用途指定までして、当該返還国有地を売り払おうとする場合、当然この債務の本旨に適つた履行の提供(民法第五百五十五条)として、林業整備ができる状態で同地の引渡しをなす義務を負うものと解するがどうか。そうでなければその理由は何か。
(4) 前記の事実が存在している本件払下げの場合、売買の目的物たる当該土地の上に用益的権利を主張する者があるため、買主たる県が、その買受けた権利の全部または一部を失うおそれがあるので、売主たる国が相当の担保を供するか(民法第五百七十六条但書)、契約書において特約をもつて排除しない限り、買主たる県は、民法第五百七十六条本文の規定によつて、その危険の限度に応じ代金の全部または一部の支払いを拒むことができると解するがどうか。そうでなければその理由は何か。
(5) 右(4)項に述べたおそれが現実となり、買主たる県がその買受けた権利の全部または一部を失つたときは、買主たる県は、売主たる国に対して、民法第五百六十六条の売主の担保責任を問うことができると解するがどうか。そうでなければその理由は何か。
(6) 右(5)項にのべた事態が払下げ後におきたとしても(そうなる可能性は濃厚と思うが)、それでもなお、国としては売主の担保責任を負わない旨の特約をして処理した以上は、その責任をとらない、というのが国の見解であると思わざるをえないが、そのように解してよいか。
(7) 売主たる国が民法に規定する「担保の責任」を負わない旨の特約をした場合でも、国は昭和三十一年五月、いわゆる国管法(昭和二七・四・二八法律一一〇号)第四条にもとづき、本件売買物件の一部である檜丸尾および土丸尾・なかざす地域に対し、植林および耕作の権原を「自ラ第三者ノ為メニ設定シ」たのであるから、たとえその後、この権利が消滅したと主張しても、その第三者によつて今なお現実にその土地が使用、収益の用に供されているとすれば、売主たる国は民法第五百七十二条の規定によつて、なお担保責任を免れることはできないと解するがどうか。そうでなければその理由は何か。
(8) 本件払下げにおいて、国は買主たる県が、右(4)(5)(7)項でふれたような行為にでることは、およそおこりえないと判断しているのならば、その具体的根拠をあきらかにされたい。

四 北富士演習場返還国有地の払下げについて、大蔵当局はくりかえし国会において、国有財産中央審議会にかけると言明しており、山梨県知事も県議会において、返還財産処理委員会、国有財産中央審議会、あるいは地方審議会等の議を経なければならぬと答弁している。したがつて、県への払下げは、本件払下げにまつわる複雑な経緯からみても、当然、返還財産処理委員会、国有財産中央審議会、あるいは地方審議会等にかけられるものと考えるがどうか。

  右質問する。