質問主意書

第77回国会(常会)

答弁書


答弁書第一二号

内閣参質七七第一二号

  昭和五十一年五月十四日

内閣総理大臣 三木 武夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員小野明君提出ロッキード事件調査のための国政調査権と守秘義務ならびに刑事訴訟法四十七条但し書きの「公益上の必要」等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員小野明君提出ロッキード事件調査のための国政調査権と守秘義務ならびに刑事訴訟法四十七条但し書きの「公益上の必要」等に関する質問に対する答弁書

一について

 ロッキード問題について捜査が続行されている現段階において、捜査の内容を明らかにすることは、本件関係人の出頭や供述をしゆん巡させる結果を招来し、あるいは証拠隠滅を招くなど、捜査活動に悪影響を及ぼし、事案の真相解明に重大な支障を生ずるおそれがあることが明らかであるので、報告書の提出や担当検察官の証言等の方法による協力はできない。
 もつとも、政府としては、国会の国政調査活動を十分尊重し、政府の立場から許される最大限の協力をすべきものと考えるから、捜査機関による真相解明に支障のない限度において、国会における政府当局者の答弁等を通じてできる限りの協力を行いたいと考える。

二について

 ロッキード問題について捜査が続行されている現段階において、今から捜査の結果を想定し、捜査資料や捜査の内容の公表の可否について言及することは、将来の捜査活動に悪影響を及ぼし、事案の真相解明に重大な支障を生ずるおそれがあるので相当でない。したがつて、現段階で将来の協力の具体的方法を明らかにすることはできない。

三について

 刑事訴訟法第四十七条本文が訴訟関係書類の公判開廷前における非公開の原則を定めているのは、訴訟関係人の人権を保護し、また、捜査及び裁判に対し不当な影響が及ぶことを防止しようという公益上の必要によるものである。
 同条ただし書が、公益上の必要その他の事由があつて相当と認められる場合に訴訟関係書類の公開を認めているのは、非公開とすることによつて保護される公益に優先する他の公益上の必要があると認められる場合に例外的取扱いを許したものと解される。したがつて、議院の国政調査権に基づく資料提出の要求があつた場合は、公益上の必要がある場合に当たるが、これに応じて不起訴記録等の訴訟関係書類を公開できるのは、刑事訴訟法第四十七条本文によつて保護されるべき公益より国政調査権の行使によつて得られるべき公益が優先する場合に限られるものと考える。

四について

 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(以下「議院証言法」という。)第五条第一項にいう「職務上の秘密」とは、一般に知られていない事実であつて、行政自体の要請から、秘匿することにつき公の利益があると客観的に認められるものをいうと解される。
 不起訴処分に付された者に対する捜査関係書類は、職務上の秘密に関するものに当たると考える。

五について

 議院証言法第五条第三項によれば、議院等は「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができる。」とされているが、「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」場合の例をあげれば、外交上あるいは防衛上の重要な秘密を公にする場合とか、国の重要な行政の運営に重大な支障をきたすような秘密を公にする場合等がこれに該当すると考える。
 過去の例としては、昭和二十九年にいわゆる造船疑獄事件の国政調査に関連して、検察の目的を達成することが困難となるほか、司法権の公正な運用を期することができなくなるおそれがある場合に、国家の重大な利益に悪影響を及ぼすとして内閣声明が出された例があることは、御承知のとおりである。
 なお、公務員の職務上の秘密に関する書類の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼすかどうかは、内閣声明が求められた場合に、内閣がその時点で、提出を求められた個々の具体的な書類の内容との関連において、諸般のあらゆる事情を総合して判断することであつて、現時点で判断することはできない。