質問主意書

第76回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二四号

内閣参質七六第二四号

  昭和五十年十一月二十八日

内閣総理大臣 三木 武夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員内田善利君提出水俣病に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員内田善利君提出水俣病に関する質問に対する答弁書

一、について

 昭和五十年九月末現在の状況は、次のとおりである。

            新潟県   新潟市    熊本県   鹿児島県
1 検診者総数    四六九人  四二二人 一、五〇二人   四三三人
2 申請者総数    七七三人  六四七人 三、七七二人   六一八人
3 審査総数     四六九人  四二二人 一、〇四五人   三九七人
4 未審査数     三〇四人  二二五人 二、七二七人   二二一人
5 認定者総数    三〇七人  二八三人   七二二人   一〇七人
6 保留数        三人    九人   二四〇人   一三五人
7 棄却数      一五九人  一三〇人    八三人   一五五人
8 審査会の審査回数  四四回   四四回    二六回    二三回
(注) 新潟県分は、新潟市分を除いた数

二、について

 水俣病の病像については、昭和四十八年以来「水俣病に関する総合的研究」を財団法人日本公衆衛生協会に委託してその解明に努めているところであり、その研究においては、従来知られていた中枢神経系を主とする影響のほかに他の臓器への影響に関しても鋭意検討が加えられているところである。
 したがつて、認定要件については、この研究の促進を図りその結果を待つて、必要があれば検討を加えることとしている。

三、について

1 認定審査の遅れの理由については、昭和四十八年三月の熊本地方裁判所の水俣病に係る判決後、熊本県において申請者の急激な増加があり、一方、認定審査に必要な検診及び認定審査の審査能力に制約がある上、熊本県において昭和四十九年四月以降一年間にわたり認定審査会が開催されなかつたため、十分対応できなかつたことによるものと考えられる。
 その回復を図るため、熊本県においては認定審査会の再開に努力した結果、本年四月その再開をみ、以降既に五回にわたり延べ四〇〇人以上の認定審査が行われているところであり、今後とも、その促進を図るよう指導を行うこととしている。また、認定審査に必要な検診業務についても、熊本県と患者団体との間で再開のための話合いが行われているところであり、政府としても、早期に再開されるよう必要な助力を行うこととしている。
2 認定審査の遅れについては、認定審査のための検診及び審査業務の促進を通じてその改善が図られるよう指導することとしている。なお、審査委員の増員、審査会の開催回数の増加等による審査能力の大幅強化については、現状では、種々問題があるので、慎重に検討を行うこととしている。
3 熊本県における認定申請件数のうち、未審査分は、昭和五十年九月末現在二、七二七件であり、認定審査会の審査能力等を勘案すると、これら未審査分の審査終了には、数年を要するのではないかと考えるが、なお認定の促進が図られるよう十分な指導を行うこととしている。
4 熊本県における認定審査が遅れていることは被害者救済の観点から誠に遺憾なことと考えているが、一方、認定審査の適正な運用は、公害による健康被害救済制度の基本にかかわる問題であるので、今後とも認定審査が迅速かつ適正に行われるよう十分な指導を行うこととしている。

四、について

1 水俣湾の汚泥処理計画については、熊本県が設置した水俣港計画委員会及び同技術委員会において検討が行われ、その素案が昭和五十年六月にまとまつたので、現在、県ではその素案を踏まえ、県としての処理計画を作成するため地元関係者との調整及び漁業補償交渉を行つているところである。今後は、これらの調整及び交渉がまとまり次第、県は事業費の負担割合を決めるため公害対策審議会を開催するとともに、港湾計画を定めるため地方港湾審議会を開催し、更に、国は県から提出された港湾計画について港湾審議会を開催し、最終的にその計画が決定されることとなる。
 その後、あるいは、これと並行して公費の負担がある場合における公害の防止に関する事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和四十六年法律第七十号)に基づく公害防止対策事業の指定、県及び国による公有水面埋立法(大正十年法律第五十七号)の埋立免許等の手続を経て着工の運びとなる。現在、県においてこれらの調整及び交渉を速やかに終了するため種々の努力を重ねている段階であるので、着工の時間を具体的に示すことは困難であるが、政府においては、できるだけ早期に着工できるよう県を指導しているところである。
2 水銀汚泥の除去等を行うべき範囲については、中央公害対策審議会の答申を受けて環境庁が定めた「水銀を含む底質の暫定除去基準」に基づいて定めることとしており、これによれば、水俣湾においては、水銀含有濃度のメッシュ平均が二五ppm以上の汚泥について除去等の処理が必要であり、これに満たない汚泥については、処理する必要がないこととなる。
3 汚泥処理の工法の決定に当たつては、二次汚染の防止に配慮することが、是非とも必要である。そのため、従来からしゆんせつ地点及び埋立地からの汚染物質の拡散の防止について、慎重な検討が行われている。
 水俣港技術委員会の検討によれば、通常のポンプしゆんせつ工法を採用しても、二次汚染をもたらすおそれはないといわれているが、実際のしゆんせつに当たつては、北側湾口部の仮締切りを行い、カッターレスしゆんせつ船等新形式のしゆんせつ船を使用することとしており、又、埋立地の余水吐から排出する汚水については、汚染物質が拡散しないよう排出前に十分な余水処理を行うこととしている。更に、しゆんせつの実施に際しては、環境庁が中央公害対策審議会の答申を受けて定めた「底質の処理・処分等に関する暫定指針」に基づき、二次公害防止のための監視計画を作成し、監視することとしており、これらの方法によつて二次公害が発生しないよう万全を期すこととしている。
4 汚泥処理事業は、熊本県が実施主体となつて、公害防止事業費事業者負担法(昭和四十五年法律第百三十三号)に基づく公害防止事業として実施される予定であるので、これに要する事業費の負担関係については、県が汚泥処理計画をとりまとめた後、県の公害対策審議会に諮つた上で決められることとなる。したがつて、具体的な事業費負担がどのようになるかが確定するまでには、なおしばらく時間を要するものと思われる。

五、について

 不知火海(八代海)の環境中における水銀については、昭和四十八年度に行つた有明海・八代海環境総合調査結果によると、水俣湾を除き、魚介類、水質及び底質のいずれにおいても、それぞれにつき設定されている基準値を超えるものは検出されなかつたので、水銀による汚染はないと考えられる。
 なお、水俣湾については、政府の指導により、漁獲の自主規制が行われているほか、熊本県が実施主体となつて底質汚泥の処理事業が実施されることとなつている。政府としても、その早急な実施について、更に熊本県を指導し、一日も早く水俣湾をきれいな海にもどし、地元住民が安心できるよう努力していくこととしている。

六、について

1 水俣病センター(仮称)の建設に当たつては、従来から地元患者の意見を聴取し、できるだけその意向を反映していきたいと考えているところであり、昭和五十年十一月一日に現地水俣市において患者団体からの意見聴取を行つたところである。
2 水俣病センター(仮称)の機能については、現在、建設準備検討会を設け、その基本構想について検討を願つているところであり、更に、地元患者を含む関係者からも意見等を徴しているところである。これらの意見等をもとに、その構想を固めることとしている。
3 水俣病センター(仮称)については、昭和五十年度において土地購入費等として約一億五千万円が予算措置されているところであるが、その規模等については建設準備検討会における検討結果等を待つて構想を固めることとしている。

七、について

1及び2 カナダにおける水録汚染問題については、在外公館を通じ情報を得ており、昭和五十年十一月十七日カナダ国オンタリオ州政府調査団が環境庁を訪れた際も意見の交換を行つているところである。
3 無機水銀については、総水銀の水質に係る環境基準、排水基準等を設定し、規制しているところであり、昭和四十九年に科学的知見の拡大に伴つて改定をしたものであるが、今後とも、更に新しい科学的知見が得られた場合においては、これらの基準等の改定について検討することとしている。
4 患者の認定に当たり、患者が水俣病としての典型的諸症状を呈さない場合であつても、そのいずれかの症状がある場合において当該症状の発現又は経過に関し魚介類に蓄積された有機水銀の経口摂取の影響が認められる場合には、水俣病の範囲に含むものとしている。