質問主意書

第76回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一六号

本州四国連絡橋に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十年十月二十九日

塩出 啓典   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   本州四国連絡橋に関する質問主意書

 政府は、去る八月十五日および十八日の二回にわたる関係閣僚間の協議・決定にもとずき、四十八年十一月以来凍結してきた本州四国連絡橋建設工事を一部凍結解除し、まず、尾道・今治ルートの大三島橋から順次建設工事に着手する予定であるときくが、わが国経済が、高度成長から低成長への移行を余儀なくされ、本計画をめぐる経済環境が一変した現在、これまでに決定された本四連絡橋建設計画の全体を根本的に再検討すべき時期であると考える。
 加えて、連絡橋完成により、転廃業せざるをえない旅客船業界や多数の船員等に対する補償問題も未解決で、方針すら明示されていない。航行の安全を確保するためにも、政府は早急に納得のゆく方針を明示すべきである。
 かかる観点から若干の質問を行う。

一、本四連絡橋建設計画について

(一) 本年八月十五日および十八日の関係閣僚の協議・決定の内容をあきらかにされたい。
(二) (一)の決定は、四十四年の新全国総合開発計画決定以来、政府がとつてきた「本州四国連絡橋として、神戸・鳴門間、児島・坂出間、および尾道・今治間の建設を図る」との基本方針や、四十八年の建設・運輸大臣の工事に関する基本方針の指示および工事実施計画の認可等の変更を伴うものであるのか、あるいは、単に各ルートの着工および完成時期をずらすにすぎないものであるのか。
(三) (一)の決定では、当面一ルートにつき、早期完成をはかり、当該ルートは第三次全国総合開発計画で決定することになつているが、早期完成ルートの選定基準は何か。また、早期完成ルートの完成見込みは、いつ頃を予定しているか。
(四) 三ルートの建設をはかるとの方針は、四十四年の新全国総合開発計画の決定以前にまとまつたものであるが、その後の経済社会環境の変化は著しい。第三次全国総合開発計画の策定にあたり、従来の方針を根本的に再検討すべきではないか。
(五) 三ルートの建設をはかるとの方針決定の基礎となつた本四連絡橋の経済効果は、四十二年当時の計量モデルにもとずいて、算出されたものである。その後、多少の修正が加えられているといえ、当時から経済社会環境が全く一変した今日、現時点における新たな計量モデルによる再計測がなされて然るべきと考えるが、その用意があるか。
(六) 本四連絡橋の事業費は、四十八年価格で、三ルートの総計が、一兆三千三百億円と積算されているが、最近の建設資材の値上がり等を考えた上、現時点での事業費の概算額を各ルート別に明らかにされたい。また、現時点における事業費を基礎にした完成後の計画輸送量、計画交通量、建設資金計画およびその償還計画をあきらかにされたい。

二、旅客船業界・船員等に対する補償問題と航行の安全確保について

(一) 本四連絡橋の建設は、瀬戸内海の旅客船業者と多数の船員から職を奪うことになる。関係業界の調査では、四十五業者、七十六航路が、事業の廃止ないし規模の縮少を余儀なくされ、影響を受ける旅客船は、三百二十八隻、十七万総トン、関係従業員は、七千三百人を超えることがあきらかにされている。まず本四連絡橋建設に伴う航路補償について、どのような方針で臨んできたか、これまでの経緯を報告されたい。
(二) 本州四国連絡橋公団に「旅客船問題調査会」が設置され、目下実情を調査中ときくが、本調査会の目的・性格をあきらかにされたい。とくに、本調査が、航路補償を行うことを前提としたものであるか否かを明示されたい。
(三) すでに関係の旅客船業界において、先行不安から、若い労働力の雇用難や離職があいついでおこり、安全航行に大きな支障をきたしている。政府は、この問題にどう対処するか。具体的に示されたい。
(四) さらに旅客船の新改造についても、業界の意欲は減退し、一方船舶整備公団も、架橋完成時までに償還を完了する計画でなければ、融資をしない方針であり、そのため、船舶整備公団の今年度八十億円の建造枠も消化されない現状である。このことも、安全航行に対して大きな脅威となつている。政府の具体的な対策をききたい。
(五) 過去の架橋の事例において、旅客船業界に対して、どのような方針で、どのような補償措置がとられてきたか、説明されたい。
(六) 従来の事例から推察すれば、航路損失補償は認められず、涙金程度の見舞金の支払いですまされるおそれがあると、関係者は心配している。しかも、連絡橋開通のその日まで、その社会的責任を果さねばならない。
 このような点から考えるとき、連絡橋開通に伴う旅客船業界の転廃業による打撃を業界のみの責任で解決させることは、社会的通念から考えても酷といわねばならない。
 しかし、これらの補償についての法的裏付けは何もなく、これでは、関係者およびその家族を不安におとし入れ、関係航路一日あたり十二万二千人の人と、二万三千台の車の安全輸送に大きな支障をきたすことは必然である。
 政府は、速やかに、検討し、架橋に伴う航路損失補償について納得のゆく具体的方針をきめるべきである。政府の考えをききたい。
 また大三島橋の着工前に、この方針を明示すべきであると考えるが政府はどう考えるか。
(七) 現在、瀬戸内海は船舶交通が著しく輻輳しており、しばしば事故が発生している。架橋建設工事中および架橋完成後の船舶交通の安全確保について具体的にどのような方策を用意しているか。

  右質問する。