質問主意書

第76回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

羽田国際空港内における土地所有権に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十年九月二十二日

三木 忠雄   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   羽田国際空港内における土地所有権に関する再質問主意書

 昭和五十年六月十一日付にて同件に関する質問主意書を提出し、同年七月一日付にて答弁書を送付せられたが、右答弁書には質問の主旨を充分に理解せられない点もあり、当方が調査を重ねた事実からみても右答弁書に幾多の疑点があるのでここに再質問する。

一、答弁書一によれば、東亜港湾工業株式会社所有地の登記は実体的権利に合致する有効なる登記であることを主張し、従つて国が同社から購入した土地については不当でないことを認めている。さらに、国が東京都大田区鈴木御台場一六〇七番の二外七筆を昭和二十八年六月三十日に、同じく一六〇五番外二筆を昭和三十四年七月二十五日の二回にわたつて同社より購入した土地の登記を、実体的権利に合致する有効なる登記と認め、東亜港湾工業株式会社の所有地に正当なる所有権を認めているのである。
 しかしながら、野本治平は国が正当なる所有権を認めている東亜港湾工業株式会社(旧東京土地埋立株式会社)より、昭和十七年四月十六日に前記の国が購入した隣地である一六〇八番(三十三町三反二畝六歩)一六〇九(三十五町一反二十五歩)を購入した。これが登記簿に明記されていることは東京区裁蒲田出張所も証明し、蒲田税務署は昭和十七年六月五日野本治平所有地として認めているのである。従つて、国が同社から購入した土地の所有権を正当と認めながら同じく内務省登記であるところの野本治平が同社から購入した土地を何故不当と認めるのか、具体的な根拠を示し明解なる御回報を頂きたい。

二、答弁書二には、昭和十五年六月二十日落雷により当該土地購入に関する書類が焼失し、また日本銀行にも資料は存在しないため右土地購入費の支出に関し証明する資料なく、唯国有財産台帳、昭和四年度国有財産増減報告書をもつて、当時国は右土地十六万坪を二百一万六千円で飛島文吉より購入した根拠としているが、右購入費用に関しては昭和四年度及び五、六、七年度(継続事業費)予算より検討して右土地の購入費は当時の公文書である予算書に計上されてなく、昭和四、五、六、七年度の決算上にも表われていないことは明確なのである。故に当時の国の予算なくして購入したとすればいかなる財源によるものか、このような予算外に国費を支出する財源が国に存在したものか、右支出金の根拠を示されたい。

三、答弁書三によれば、国が飛島文吉より購入したとする土地購入費の支出に関する資料は存在しない旨述べられているが、過日大蔵省を通じて日本銀行の原簿複写資料を当方に提出せられた事実がある。
 その資料によると昭和四年度、五、六、七年度までの航空路設置費の現金支出状況の中には、何ら飛島文吉に支払れた二百一万六千円の費用が見い出されないのである。更に、大蔵省からの見解によれば「この資料に記載されている支払額については、直接飛島文吉に支払れたかどうか不明である」とされている(四、五、六、七年度の四ケ年継続費合計各百五十万円余)。このことは飛島文吉に支払れたとする二百一万六千円は支払れていないと証明されるものであるが、政府の責任ある見解を賜りたい。

四、答弁書三は、昭和二十八年九月九日付運輸省航空局長荒木茂久二より不動産登記法第百五条により登記を嘱託したことに対して、右は同法に違反するに拘らず単に無意味な記載と認め、唯羽田町江戸見崎町一五九二番の一外五筆を国の所有として右の嘱託を受理したものであるとし、然も同法第三十一条は本件の場合に何れも適用がないと断定しているのである。もし国がかかる登記手続きを敢てとるとすれば登記所としてはこの物件取得の経過なり、この物件に関する利害関係者の関係を調査確認をすべきであり、もしその土地に所有権者が居た場合は国は重大なる責任を負わなければならなくなるのであつて、同法はこれらの点を考慮して国が右物件を取得するに至つた原因を証する書面や、登記義務者の承諾書等を添付すべきことを定めているのである。しかるに答弁書によれば、唯右土地の所在と面積のみを示して登記を嘱託するが如きは無謀もはなはだしく、仮にこの物件を第三者が所有していたとすれば個人の所有権を侵す重大な暴挙である。同法はかかる場合登記官は右申請を拒否すべきことが定められているのであつて、現に本件の実際の場合これを拒否したのであるが、再びこれを強要してかかる違法なる登記がなされた趣きである。答弁書は、いずれもこれらの規定の適用がないとしているが、然らば如何なる法規に基づきたるものなのか、根拠となる法規を明確に示されたい。
 尚、国は飛島文吉から購入と同時に登記し、右登記簿がたとえ焼失したとしても所要の法規の命ずる手続きによつて回復すべきであり、何等の証拠も示さず登記せられるべきでないのである。よつてこれらの点に関し政府の詳細なる見解を明かされたい。

五、答弁書五には、東京調達局が関係者の申し出及び現況に従い、羽田空港調査図を作成しとあるが、右は調査図ではなく、実地にそれぞれの専門員によつて構成される調査団を組織して利害関係人立会いの上、東京調達局の職員を班長として実地測量の上その所有権を確認し、所有の面積を登記簿等の根拠によつて算定したのである。これにより昭和二十八年三月二十日太田区役所蒲田支所に東京調達局と航空局は所有権者六十七名の参集を求めて所有地の区画、面積を確認し、これを確認書として東京調達局不動産部長に提出し、国はこれを認め各所有者はそれぞれの登記を完了するなど、行政上は素より民事上においても各所有地として関係各省の管轄地域も明確にされたのである。よつて右答弁書においても「国は無効としているわけではない」としてこの事実を認めざるを得ないのであり、地図に載つている野本治平所有地をどのような形で認められるのか、政府はこの点に関しどのような扱い方をされるのか明解なる御回報を願いたい。

六、答弁書八によれば、羽田江戸見町一六〇八番の六、一六〇九番の六の土地については、昭和四十七年五月九日運輸省航空局長より東京法務局大森出張所に対する右土地の土地表示抹消の依頼により、登記官はこれを調査したところ右土地は登記の当初から海面下にあり、土地としては存在しないものであつたにもかかわらず土地台帳に登録され、これに基づき登記されたものであることが判明したので不動産登記法二十五条の二項に基づき、その表示の登記を抹消し登記用紙を閉鎖したものであると答弁されているが、右の土地が海面下にあつたとの主張は事実の歪曲も甚だしいことは次項の各証拠によつて立証されるが、そこで、登記官は如何なる調査によつてこの公知の事実を否定したかを明確にされると同時に、実測もせず、境界線の立会いもなく、所有者の承認も得なかつた訳であるが、政府として個人の財産権を侵害するが如き行為を明瞭にするため、所有者の立会いの上、実測確認をすべきと考えるが政府の御見解を賜りたい。

七、右記の羽田江戸見町一六〇八番の六、一六〇九番の六の土地に関し、次に掲げる各項について明解なる御回報を願いたい。

1 大日本帝国陸地測量部によつて大正十一年測量、昭和十三年空中写真及び測量を併用して修正測量し、これによつて作成せられた地図「穴守」によれば、当該地は陸地とされていることは明確であるが、右地図を照合せられ確認後、明瞭なるお答えを頂きたい。
2 鈴木新田江戸見崎耕地一六〇九番の一寄洲三十五町一畝二歩は明治三十九年五月二十二日受付九八九号内務省ノ為メ所有権ヲ登記スの旨、東京区裁蒲田出張所は登記簿と相違なきことを認証しているが、これに相違がないかどうか御確認の上御回報願いたい。
3 東京都太田区羽田江戸見町一六〇八ノ六雑種地七町八反一畝十三歩、同一六〇九ノ六雑種地七町二反八畝八歩昭和二十七年十二月十六日受付第八二二七号太田区田園調布三丁目一ノ十六野本治平ノ為所有権ヲ登記スとある。右記は登記簿謄本である旨登記官は証明し、雑種地とされているものを如何なる根拠をもつて海面下として否定されるのか見解を賜りたい。
4 昭和三十九年十一月三十日当該地が東京都固定資産評価委員より大田税務事務所長に対して、東京空港としての公共用地に該当するとの理由で非課税にすることを通知している。また東京都は昭和二十八年から三十八年まで課税しており、海に課税するはずがないことからして、国の主張する「登記された当初から海面下」との主張は出来ないと考えるが政府の見解を頂きたい。
5 当該地は登記簿上も寄洲であり、後の昭和二十五年四月正式に雑種地として所有権の存在は確認せられ課税までされているのである。また飛行場とするには盛土等により整地する必要があり航空局は公有水面埋立法により東京都知事の承認を求めたが、右地内に民有地ある理由により承認されなかつたに拘わず、航空局は右承認なくして工事を施行したことについて、政府はさきの答弁書で遺憾の意を表した通りであるが、たとえ寄洲といえども所有権の存在は認められていたものである、ましてや雑種地として変更する際に東京調達局より所有者が地目変更届の通知を受けている事実がある。しかしながら政府は不存在として抹消されたがいかなる理由によるのか明確にされたい。
6 昭和四十二年五月一日施行の太田区が作成した「太田区羽田空港一丁目、二丁目街区図」によれば、当該土地についてはすでに埋立は完了しているが埋立手続未了のため、これが完了するを待つて羽田一丁目に編入する旨、右図面中に明記しているように古くより海面でないことは明らかである。さらに昭和四十三年五月運輸大臣が埋立て承認方を認可し、知事は同年八月十日これが竣功を告示しているに拘わらず、航空局長が右告示四年後に右土地が海面下にあると主張し、登記を抹消する申し出をしたのはいかなる理由か明解なる論証を示されたい。

八、答弁書四には、東京国際空港拡張に要する埋立てについて公有水面埋立法に基づき、当該地の埋立て承認方申請を運輸大臣から東京都知事に提出したことに対し、東京都側において当該水面を埋立てること自体には別段異議がないとの見通しを持つたので埋立てに着手したとある、これは明らかに知事の承認なくして埋立てを強行したのであり、公有水面埋立法に違反する行為である。
 答弁書にある別段の異議がないとの見通しを持つたのでとの見解であるが、これは如何なる根拠に基づいたのか、またいかなる官吏の責任のもとに埋立て着手の判断をされたのか明確にお答え願いたい。
 尚、国からの申請に対し、東京都副知事より当該地域に民有地がある理由により承認せずとの回答があつた筈であるが、この内容についても詳細に御回報願いたい。

九、羽田江戸見町一六〇八番の六、一六〇九番の六の土地は前記した如く、東京調達局、航空局、大田区役所と共同主催の調査団により、昭和二十八年三月二日陸地として調査され面積も算出せられた公図が作成されている。

 右図面中

一六〇八番地(合筆)             九九、九六六坪
一六〇九番地(合筆)            一〇五、三二五坪
合計                    二〇五、二九一坪

 また、野本治平所有地と明記され分筆された折は十六万坪を除き

一六〇八ノ六                 二三、四四三坪
一六〇九ノ六                 二一、八四八坪
合計                     四五、二九一坪

と明記されている。しかるに国は飛島文吉より十六万坪を購入したと主張しているが、公図に示されている十六万坪を除く四万五千二百九十一坪を購入した事実はなく、さらに右公図は当該地四万五千二百九十一坪を陸地として認め示されているのである。しかるに先の答弁書五で右公図に対し「無効としているわけではない」とするならば当然国として陸地として認めていることになり、海面下との主張は虚偽の報告となるが、この点に関し政府の責任ある御回答を賜りたい。

  右質問する。