質問主意書

第75回国会(常会)

答弁書


答弁書第一三号

内閣参質七五第一三号

  昭和五十年七月一日

内閣総理大臣 三木 武夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員三木忠雄君提出羽田国際空港内における土地所有権に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員三木忠雄君提出羽田国際空港内における土地所有権に関する質問に対する答弁書

一、について

 国が東亜港湾工業株式会社から御指摘の各土地を正規の手続を経て購入し、所有権移転登記を受けていること及びその保存登記の登記名義人が内務省とされていたことは、いずれも御指摘のとおりである。
 右の各土地の内務省名義の保存登記は実体的権利に合致しないものであつたが、昭和四年に東亜港湾工業株式会社は、右各土地の真実の所有者であり、国との間で判決をもつて所有権が確認されていた武田太郎から右の各土地の所有権を取得するとともに、当時の右各土地の登記名義人から所有権移転登記を受けたものであつて、これにより登記は実体的権利に合致する有効な登記となつたものである。

二、について

 昭和十五年六月二十日の落雷により航空局庁舎と共に御質問の土地購入費に関する書類が焼失し、また、日本銀行にも右土地購入費の支出に関するマイクロフィルム資料は存在しないため、右土地購入費の支出の詳細に関しては今日直接証明する資料はないが、国有財産台帳、昭和四年度国有財産増減報告書等により国が右土地十六万坪を二百一万六千円で飛島文吉より購入していることは明らかである。

三、について

 本件嘱託書には「不動産登記法第百五条に依り」との記載があるが、不動産登記法第百十条によると、官庁が未登記不動産の登記を嘱託する場合には同法第百五条の規定によることを要しないと定められているので、右記載は無意味な記載と認め、登記所において嘱託を受理し登記したものである。
 なお、同法第三十条及び第三十一条は、本件の場合には、いずれも適用がない。

四、について

 東京国際空港拡張に要する埋立てについて、国は、東京都側において当該水面を埋め立てること自体には別段異議がないとの見通しを持つたので、埋立てに着手したものであるが、承認をまたずに埋立てに着手したのは遺憾である。
 なお、その後東京都から本件埋立ての承認を得ており、公有水面埋立法上の所要の手続はすべて終了している。

五、について

 御指摘の確認書は、六において述べる連合国軍からの接収地の返還後、国が借上土地の位置、範囲及び面積を再調査するため、東京調達局が、関係者の申出及び現況に従い羽田空港調査図を作成し、昭和二十八年三月その段階での土地所有申告者の主張を確認するために作成したものであつて、国との相互間で土地所有権の帰属関係を最終的に確認したという意味合いのものではなく、また、国はこれを無効としているわけではない。

六、について

 現在の東京国際空港の前身である東京飛行場及びその付近一帯の土地は、昭和二十年九月連合国軍に接収され、住民の立退き及び全面的立入禁止のもとに連合国軍命令による飛行場拡張工事が実施された。
 これに伴い国としては、当該地域に所在した民有地について、その所有者との間に借上契約を締結する必要に迫られたが、全面的立入禁止(政府職員も例外ではなかつた。)、建設工事による形状変更、住民の立退きによる離散並びに戦災による公図及び公簿の焼失及び散逸によつて所有者及び所有土地の範囲の調査確認が至難であつた。
 そこで、東京都(当時担当)は、新聞広告等を利用して所有者の申告を求め、その申告と提示する資料により、所有土地が接収地に包含されていると認められた者について遂次借上契約を締結した。
 野本治平は、昭和二十五年三月土地所有者の一人として特別調達庁(当時担当)に申告をし、昭和二十五年二月四日付け蒲田税務署の作成に係る東京都大田区羽田江戸見町一六〇八番及び一六〇九番の各土地の土地台帳謄本を提示し、同土地が接収地の中(現東京国際空港の東南端付近を指示。)に位置する旨を説明したので、特別調達庁は、これを信じ昭和二十年九月二十一日にさかのぼつて借上契約を締結したものである。
 しかしながら、昭和二十七年に至り接収地の大部分が返還され、借上土地の位置、範囲及び面積の調査が可能になつたので、東京調達局(当時担当)が、そのころ連合国軍から提供された航空写真に基づいて計算した接収地全体の総面積と国有地及び借上契約上の民有地の総面積とを比較したところ、相当な差異があることが認められた。
 そこで、改めて現地調査を実施したところ、同年十月ごろに至り、野本治平は従前東京飛行場として国が所有管理してきた土地(大田区羽田江戸見町一五九二番の一 )を指示して、自己所有地であると主張するに至つたので、国において更に調査をすすめたところ、二重登記の事実及び野本は国が従前から東京飛行場用地として所有管理してきた土地(大田区羽田江戸見町一五九二番の一)について、もともと所有権を有しなかつたことが判明した。
 国が、借上契約締結当時この事実を知つていたならば契約を締結するはずはなく、右借上契約締結についての国の意思表示は法律行為の要素に錯誤があり、したがつて右借上契約は無効である。

七、について

 国が京浜電気鉄道株式会社から購入した土地は、御指摘の十六万坪の土地とは別の土地であり、二重に購入した事実はない。

八、について

 御指摘の各土地については、昭和四十七年五月九日運輸省航空局長から東京法務局大森出張所長に対し、その表示の登記を抹消するよう申出があつた。
 そこで、右出張所登記官において調査したところ、右各土地は、登記された当初から海面下にあり、土地としては存在しないものであつたにもかかわらず、土地台帳に登録され、これに基づき登記されたものであることが判明したので、登記官は不動産登記法第二十五条ノ二の規定に基づき、その表示の登記を抹消し、当該登記用紙を閉鎖したものである。