質問主意書

第74回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質七四第二号

  昭和四十九年十二月二十日

内閣総理大臣 三木 武夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員峯山昭範君提出当面する中小企業の不況対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員峯山昭範君提出当面する中小企業の不況対策に関する質問に対する答弁書

一、について

 最近の経済情勢をみると、総需要抑制策の効果の浸透等により、物価は鎮静化の方向にある一方、経済活動は、生産、出荷、在庫の動向にみられるように停滞傾向が続いている。
 しかし、エネルギー・コストや賃金コストの大幅な上昇等コスト要因の波及的影響も懸念されるため、物価の先行きには、依然として警戒を要するものがある。このようなコストの上昇が安易に価格に転嫁されることのないよう当分の間引き続き総需要抑制策を堅持する必要がある。
 ただ、失業、倒産の急増等を回避するため、総需要抑制策の枠内で、個別的に、きめ細かい配慮を払つてまいりたい。
 今後の景気動向の見通しについては、現在の総需要抑制策を前提としても、本年度後半には、在庫調整が進展する中で、消費需要、公害防止関係・基礎資材関連を中心とする投資等が増加し、経済は緩やかな回復を示すものと思われる。
 また、五十年度の経済見通しについては、現在政府経済見通しを作業中であり、現時点では、まだ最終的に固まつていない。より具体的な経済の姿については来年度予算の政府原案を作成する段階で固めてゆくこととしたい。
 なお、政府としては、次のような基本的な考え方にたつて、当面の経済政策の運営に当たつており、五十年度経済見通しの作成においても事態の推移を見守りつつ、このような事情に充分配慮してまいりたい。

(1) 総需要抑制策を堅持し、物価安定を政策の最優先課題とする。
(2) 石油問題をはじめとする国際情勢に注目しつつ、失業・倒産等の産業活動の停滞に伴う社会的摩擦に対しては機動的に対処する。
(3) 供給力制約の下にあつて、できるだけ早期に経済を長期安定路線にソフト・ランディングさせるため、慎重な経済運営に努力する。

二、について

 総需要抑制策の浸透に伴う中小企業の現状にかんがみ、従来から政府関係中小企業金融機関について貸出枠の拡大、中小企業信用保険法による倒産関連保証の特例制度の活用等の金融措置と併せて下請中小企業については、親企業に対して、代金支払の適正化等の指導を徹底するなど所要の措置を講じてきたところであるが、今後とも適切な措置を講じてまいる所存である。

三、について

1 政府関係中小企業金融三機関の下期貸出枠に対しては、先般(十一月八日)貸出規模で七、〇〇〇億円と極めて大幅な追加を行つたところであり、この措置により、中小企業向け資金の融通の円滑化を図つてまいりたい。
2 政府関係中小企業金融三機関においては、これまでにも経営状況が著しく悪化している中小企業に対し、個別企業の実情に応じ必要と認められる場合に、適宜弾力的に償還猶予措置を講じてきたところであるが、更に先般(十一月八日)、年末を控えて中小企業の資金繰りが一段と厳しさを増している実情にかんがみ、なお一層弾力的に配慮するよう指導したところである。
3 民間金融機関による「中小企業救済特別融資制度」は、本年一月に設定以来積極的に発動されており、これまでにネオン・都市ガス・繊維・建設・機械・木材の各業種に対して融資が行われているほか、連鎖倒産防止のためにも機動的に活用されている。今後とも制度創設の趣旨に即して積極的に運用するよう指導してまいりたい。

四、について

1 繊維輸入に関する統計については、現在、次の二点について統計の改善を図つている。
 第一は、輸入インボイス統計の拡充である。この統計の目的は、繊維輸入の細分類の統計を整備することである。現在、四十九年一月以降の統計の整備及び分析をさかのぼつて行つているところであり、今後とも継続的に統計を整備していく所存である。
 第二は、輸入成約統計の創設である。この統計の目的は、外国企業と我が国輸入業者との繊維品の輸入契約状況を早期に把握することにある。本制度は、四十九年十二月以降、関係輸入業者、約三百社を対象に実施しており、対象品目に係る全輸入に対する調査対象企業の輸入の割合は、品目によつても異なるが、輸入金額の実績からみて、七十~八十五パーセントに達しており、成約の翌々月初めまでに統計が作成されるので、有力な先行指標になりうると判断している。
2 秩序ある輸入とは、長期的にみれば、産業構造の望ましい方向への変化に即応して安定的に増加する輸入をいい、短期的にみれば、国内の需要動向に見合つた適正な輸入をいうものと考えられる。
 無秩序な輸入は、国内関連業界、ひいては消費者にも大きな影響を及ぼすこととなるので、政府としては、従前から前記の輸入統計の拡充、整備に加え、問題のある品目については、輸入業者等に対し、所要の指導を実施するなど秩序ある輸入体制の整備に努めてきている。最近の輸入動向は、国内不況を反映して、沈静化の傾向を強めてはいるが、今後とも輸入動向を迅速に掌握する体制を一層強化し、要すれば、行政指導を強化することを検討することとする。
3 輸入貿易管理令又は関税定率法の運用による輸入規制措置の発動については、(1)現在の国際経済情勢下では、他国の輸入制限導入の続発等のひきがねになるおそれが多分にあること、(2)それでなくてもOECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)等におけるこれまでの経緯との関連で、国際関係上非難を受け、あるいは、対抗的措置を受けるおそれがあること、(3)輸入制限の連鎖反応が生じた場合、それにより最も強い打撃を受けるのは、ほかならぬ貿易立国の立場にある我が国自身であること、(4)主たる輸出国である近隣の発展途上国との政治的、経済的関係の悪化が予想されること等、我が国の通商貿易政策上極めて重要な問題を生ずることとなる。また、我が国繊維産業自体としても、輸入規制措置が及ぼす利害得失を、その長期構造的観点から十分検討する必要がある。したがつて、輸入規制については、他の国内措置により対応しうるか否か等も含めて総合判断のうえ慎重に行う必要がある。

五、について

 下請代金支払遅延等防止法の運用については、これまでも支払の遅延、割引困難な手形の交付等を防止するため、親事業者に対する監視を強化してきたところであるが、今後とも親事業者の下請代金の支払状況調査の増強等同法の厳正なる運用を図ることとしたい。

六、について

 小企業経営改善資金については、昭和四十九年度において、貸出規模の大幅拡大(昭和四十八年度三〇〇億円→昭和四十九年度一、二〇〇億円)、貸出限度額の引上げ等その改善を図るとともに、貸出金利についても、一般金利の大幅な引上げの中にあつて、その引上げ幅を小幅に止める等特段の配慮を払つてきたところであるが、今後とも、その実態を見極めながら十分検討してまいりたい。