質問主意書

第73回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第三号

内閣参質七三第三号

  昭和四十九年八月六日

内閣総理大臣 田中 角榮   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員上田耕一郎君提出緊急な諸問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員上田耕一郎君提出緊急な諸問題に関する質問に対する答弁書

一、について

 引用された「四十五カ国を相手にした戦い云々」に関する発言は、単に歴史的事実を述べたに過ぎず、過去の戦争を美化したものではない。
 我が国としては太平洋戦争で多くの国々に迷惑や損害を与えたという事実に対しては、深く反省しなければならないと思う。
 また、ポツダム宣言については、同宣言を受諾し、同宣言の条項を誠実に履行したが、現在我が国は、過去の事実に対する反省を踏まえて、世界の平和という理想に向かつて前進を続けることを基本理念として、平和と国際協調を基盤とする外交を展開しており、今後もかかる外交を続けることに変わりはない。

二、について

(1) 政府は、公共料金については従来から極力抑制的に取り扱つてきたところであるが、料金の抑制によりコスト上昇の吸収ができず企業の存続、維持が困難になると考えられるような場合、公共サービスの量的・質的水準の大幅な低下を招くような場合等真にやむを得ないものについては必要最小限度の改訂を認めてきたところである。今後とも公共料金については物価動向及び国民生活への影響や負担の適正化、合理化等に十分配慮し極力抑制的に取り扱つてまいりたい。
(2) 今後、改訂が予定されている公共料金として、国鉄運賃、政府売渡米価があるほか、現在改訂の申請の出ているものとして、東京民営バス、東京ガス、六大都市タクシー及び国内航空がある。
 申請中のものについては、現在、審査中であるため、現段階では国民生活にどの程度の影響を与えるか明らかにできないが、改訂幅を極力抑制的に取り扱う方針である。また、消費者物価の前年同月比二〇数パーセントという上昇率は、石油危機等やむを得ない面があつたとはいえ、国民生活に大きな影響を与えていることについては政府としても十分に認識しており、今後とも、物価安定を最優先施策として、総需要抑制策を堅持するとともに、諸般の対策を講じていく所存である。
 公共料金のうち、国会の議決を得ないものにあつても、その審査基準が法定されていたり、審査の過程で公聴会を開催する等公共性を重視しつつ公正な審査が行われるよう十分配慮が払われていると考える。

2 政府としては、国際的な原油価格について、常時、その動向のは握に努めているところであるが、特に、産油国とメジャーズとの原油取引に関する最近の交渉状況を勘案して、メジャーズの我が国精製業者等に供給する価格が妥当でないと思われる場合があれば、適宜事情聴取や内容の詳細説明を求めることとしている。
 また、国際的にもメジャーズの企業行動や企業収益の透明性を得ることの重要性が指摘されており、我が国としても、国際的な協力の下に、その実態究明に努めてまいりたい。
 間接諸税が物品の価格に転嫁されるからといつて物価対策のためこれを廃止ないしは大幅減税することは、間接諸税の本質を損うものであつて適当ではないと考える。
 特に石油関係諸税を設けている趣旨は道路整備等に要する財源を石油消費者の担税力に求めようとするところにあるのであつて、これを他の財源に振り替えることはできない。
3 今回の政府買入価格の大幅な引上げにより、両米価の逆ざやは一層拡大することとなるが、このような両米価の大幅な逆ざや関係は、財政上、食糧管理制度運営上種々問題を生ぜしめるので、早急にその是正を図る必要があると考えている。
 他方、今後の物価動向とその消費者家計に及ぼす影響についても、十分留意していく必要があるものと考えられる。
 このような理由から米の政府売渡価格については、物価動向、国民生活への影響及び食糧管理制度の運営等に十分配慮して適正な改定を行いたいと考えている。
 「生産者米価と消費者米価を連動させることは、食糧管理法違反ではないか」との意見については、食糧管理法においては、両米価の算定に当たつては、いずれについても「経済事情」を参酌すべきこととされており、両米価決定に当たつてその相互の関連を考慮することは許されるものと考えている。
 なお、現在検討中の政府売渡価格の改定は、当面末端逆ざやの解消を図る必要があるとする考え方に基づくものである。

三、について

1 繊維業、中小建設業等が当面している資金繰り難等の問題については、総需要抑制等が健全な経営を行う中小企業者の資金面に不当にしわ寄せされることがないよう、政府関係中小企業金融三機関の貸出枠の増額、貸出の円滑化を図るとともに、民間金融機関による中小企業救済特別融資制度の活用、信用補完面における倒産関連保証の特例措置の活用等所要の措置を講じているところであるが、今後とも事態の推移を見守りつつ機動的に対処していく意向である。
 また、公共事業等官公需の発注については、物価等への配慮から基本的には慎重な取扱いをすることとしているが、中小建設業をはじめとする中小企業の実情にかんがみ、これらの中小企業者の宮公需の受注の確保につき十分配慮してまいる所存である。
 また、中小企業製品と競合する商品の輸入規制については、種々の国際関係上の問題もあり慎重に対処していく意向である。
 小規模業者の経営改善を進めるための金融措置については、現在無担保、無保証人の小企業経営改善資金融資制度を実施しているところである。
2 四十九年度においても、生活扶助基準を対前年度比二十六パーセント引き上げたところであり、今後とも、情勢の変化に応じた対応措置を必要とするようなことがあれば、所要の措置を講じていくつもりである。
 福祉年金については、逐年その増額を図つており、四十九年度においても九月から老齢福祉年金は月額五千円から月額七千五百円に、障害福祉年金は、一級障害について月額七千五百円から月額一万一千三百円にする等約五十パーセントの引上げを行うこととしたところであるが、今後とも引き続きその改善充実に努力してまいりたい。
 また、御指摘の厚生年金、国民年金の「八万円年金」の実施については、先般の改正においていわゆる物価スライド制を導入したところであり、第一回目のスライドの実施により標準的な年金額は本年八月(国民年金は九月)以降六万円に増額されることとなるが、賃金、生活水準の向上による年金額の改定については、今後の社会、経済情勢の推移をみながら対処したい。
 更に、賃金スライドの導入については、厚生年金や国民年金については被保険者の賃金体系など所得の在り方がまちまちであり、景気変動の影響を受ける度合いが異なるなどの事情もあり、年金額スライドに賃金そのものを指標として用いることは適当でないと考えており、物価を指標とする自動スライド制にあわせ、従来どおり財政再計算期ごとに賃金や国民生活の水準等を総合的に勘案して改善を図ることによつて適正な年金額の水準が確保されると考えている。
 また、失業対策事業に就労する者に支払われる賃金は、民間の類似の作業に従事する労働者に支払われる賃金を考慮し、関係審議会の意見を聴いて労働大臣が定めることとなつており、本年度の賃金については、年度当初に四十八年度当初に比し十九・二パーセント引き上げたところであり、更に最近における失業者就労事業就労者の生活の実態等にかんがみ、特例の措置として本年六月に再引上げを行い、対前年度当初比二十五・二パーセント増しとたところであるが、今後とも就労者の生活実態等の推移に応じ適切に対処してまいりたい。
 次に、身体障害者が自由に行動できる町づくりについては、四十八年度から身体障害者福祉モデル都市設置事業を実施しているところである。身体障害者福祉モデル都市は、道路、交通安全施設の整備、公共施設の構造設備の改造、身体障害者用公衆便所の整備等により、身体障害者の生活圏の拡大を図るとともに、身体障害者福祉に対する一般住民の理解を深めることを目的とした施策であり、四十八年度は六市を、四十九年度は十七市を指定した。なお、身体障害者にとつて住みよい町づくりについては、今後とも引き続き推進してまいりたい。
3 食料は国民生活の基礎をなすものであり、その安定的確保を図つていくことは極めて重要なことと考えており、従来から生産、構造、価格政策等各般の施策を拡充実施してきているところである。
 農産物の価格政策については、農産物ごとの商品特性や生産、流通事情等に即して展開を図つてきているところであるが、今後ともその運営に当たつては、農産物ごとにそれぞれ定められた方式により賃金、物価、その他経済事情等を十分勘案し、適正な価格水準の形成に努め、農業生産者が安心して生産に専心出来るよう努力していきたい。
 最近における牛肉価格の低落に対処して、(イ)肉の調整保管事業に対する助成、(ロ)後継素牛の導入に対する低利融資等の緊急対策を実施している。また、卵価の低落に対しても、(イ)全国液卵公社の機能の拡充、(ロ)卵価安定基金に対する助成等各種の緊急施策を講じているところである。
 また、商社等の進出については、契約飼養あるいは直営等進出の方法によつても異なるが、生産の合理化、系統農家側の生産物の販路及び価格の安定等の利点のあることも否定しがたいが、農家側には一般的に経済的な力関係において商社等に劣つている面があるので、農家が対等の関係において商社等と取引できるよう、農業協同組合等生産者組織を通じて、農家の地位の強化、育成を図る必要があると考えている。
 国民生活の基礎的物資である食料については、その安定的供給を確保することが極めて重要であるので、今後とも、国内生産が可能なものについては、生産性を向上させつつ、極力国内で賄うとともに、国土資源の制約等から輸入に依存せざるを得ない食糧については、国内生産にも配慮しつつ安定的輸入の確保を図つてまいる所存である。

四、について

 政府は、台風その他の災害から国土と国民を守ることを政治の基本姿勢としており、このため、防災その他の諸施策を進めているところである。なお、災害が発生した場合には、迅速に災害応急対策及び災害復興のための諸措置を講ずることとしている。
 今次の災害に際しても、災害救助法の発動のほか、被災した中小企業者及び農林漁業者等に対して各種災害融資の措置を講ずるとともに、復旧事業の迅速化に努めている。なお、地方公共団体に対しては、その行う各種災害復旧事業について必要な財政援助措置を講ずることとしている。
 また、個人被害に対する救済については、昨年災害弔慰金の支給及び災害援護資金の貸付けに関する法律が制定されたところであり、今次の災害に当たつてもその適切な運用を指導しているところである。

五、について

 いわゆる企業ぐるみ選挙の実態は、千差万別であると思われるが、企業に属している個々人が、個人として適法な活動を行うことは許されるものであり、また、企業も相応の政治的行為をする自由を有するものと考える。具体的行為が公職選挙法その他の法規に抵触するかどうかは、個々の法規に照らし、その行為の実態によつて判断されるべきものであると考える。
 次に、今回の通常選挙を通ずる批判については、基本的には現行の選挙制度にも問題があると思われるので、金のかからない選挙、政党本位の選挙を実現するため慎重に検討を加えることといたしたい。
 政治資金規正法改正の問題は極めて重要な問題であるが、過去において幾度か改正法案が国会に提案され、廃案になつた経緯があることは周知のとおりである。これを今日の時点にたつてみると、金のかかる選挙制度をそのままにしてこれを具体化することにいろいろと無理があることを示しているように思われるが、今後、政党本位の金のかからない選挙制度の実現への動向も踏まえつつ、更に検討と論議を積み重ねてまいりたい。
 憲法問題については、自民党内部にいろいろの意見が存在し、議論が行われていることは承知している。
 なお、政府としては、国会法の改正を考えていない。

六、について

(1) 金大中氏事件については、昨年十一月田中総理大臣と韓国の金鍾泌国務総理との間で、「事件の真相究明については両国の捜査を今後とも続け韓国側は金東雲を容疑者として取り調べたのち相応の措置をとり、捜査の結果とともに日本側に通報する。金大中氏の身柄については一市民として出国も含めて自由を保障する」との了解が得られたことは御承知のとおりである。その後政府は捜査結果の通報及び金大中氏が出国を希望するのであればその早期実現が望ましい旨を再三申し入れているが、遺憾ながら捜査については未だ通報を得られず、また金大中氏の出国許可手続についても進展がみられないので、今後とも韓国政府に対して強く申し入れを重ねていく所存である。
 なお、事件に関するこれまでの捜査結果では主権侵害と断定するに至つていないので、
政府としては金大中氏の原状回復の問題を権利として提起する立場にはない。
(2) 罪刑法定主義、刑罰不遡及の原則は、我が国を含め、広く自由主義文明国において採用されており、また、普遍的に採用されるべきものと考えるが、他方、一般論として、国内法令の制定は、一国の主権の不可欠な要素であるから、政府が他国の法令について軽々しく批判を行うことは適当ではないと考える。したがつて、韓国の大統領緊急措置第四号について、その規定自体を取り上げて論評を行うことは差し控えたい。また、早川、太刀川両氏に対する大統領緊急措置第四号の適用については、両氏が第一審判決に対する控訴を行つており、未だ最終的に確定していないこともあり、政府として現段階において断定的な論評を行うことは適当でないと考える。
 更に、世界人権宣言は、「すべての人民と国家が達成すべき共通の基準」を示す法的拘束力のない宣言であるから、韓国の今次の措置をこの宣言に照して違法であるかどうかとの問題は生じないと考える。
(3) 早川、太刀川両氏の逮捕、裁判問題は、第一義的には韓国の国内問題であり、相手国の主権を尊重するとともに、在外邦人保護の任務を果すというのが政府の基本方針である。現在、両氏の裁判手続が継続中でもあり、政府として国際法上不当なる内政干渉とみなされうる措置は差し控えるべきであることはいうまでもなく、今回の逮捕そのものを不当として即時釈放を権利として要求することはできないが、もとより政府としても、両氏がなるべく早く帰国できることが望ましいと考えており、かかる政府の考え方は十分韓国政府に伝えてある。また、家族との面会についても、その実現につき再三にわたり強く申し入れていることは御承知のとおりである。
(4) 日本国内におけるKCIAの存在と活動については、政府としては具体的にはは握していない。したがつて、現在のところ特別の措置を講ずることは考えていない。
 阿部剛氏の件については、外務省より本人と在日韓国大使館の双方に対し事情を照会しところ、双方の話は多少食い違つている点もあるがいずれにせよ公権力の行使として主権侵害になるような捜査活動があつたとは考えていない。
(5) 渡米の帰路日本に立ち寄つた韓国の李宣基経済企画院経済協力局長は七月二十三日鹿取外務省経済協力局長を訪れ会談したが、右会談においては一九七二年以降既に約束ずみの対韓農業開発借款について話し合つたのみであり、新規援助の話は一切されていない。したがつて政治問題と切り離し今年新たに二億ドル程度の援助供与に合意したごとき事実はない。
(6) 韓国は、その憲法の前文からも明らかなように自由と民主主義を目指している国であると理解している。もつとも、韓国では、現在のところ、いくつかの権利の行使が制限されていることは事実であるが、そもそもいかなる体制の下でいかなる国政の運営を行うかは各国がそれぞれ独自に決定すべきことであり、政府としては、韓国のみならず、およそ他国の政治、社会体制等の是非につき軽々に論評することは慎しむべきものと考える。
 御指摘の「米国政府の書簡」は、「韓国政府は人権の重要性を認めているが、敵対的な北朝鮮からの脅威を理由として重要な権利の行使を制限している。朝鮮半島の安全保障と韓国政府の緊急措置はいずれも米国の関心事である。」等としているが、日本政府としての評価は本項前段で述べたとおりである。

2 我が国は、ベトナム共和国政府を南ベトナムにおける唯一の合法政府として承認し、同政府と外交関係を結んでいることを考慮して、南ベトナム臨時革命政府に属する者の入国申請については、従来から、入国目的等に照らしてケースバイケースで検討する方針を採つてきたところ、今回の「原水爆禁止世界大会」への参加のための入国は、政治的色彩の強いものであるから、このような入国を認めることは、適当でないと考える。
3 政府は、相手国の信条や体制のいかんにかかわらず友好親善関係を増進していくとの我が国外交の基本方針に照らして、我が国と最も緊密な関係にある友好国である米国の大統領を日本に招待することは当然なことと考え、昨年八月、田中総理よりニクソン大統領夫妻の訪日に対する日本政府の招待を伝達した次第でありかかる政府の方針に変わりはない。