質問主意書

第73回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質七三第二号

  昭和四十九年八月六日

内閣総理大臣 田中 角榮   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員二宮文造君提出当面する政治課題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員二宮文造君提出当面する政治課題に関する質問に対する答弁書

一、について

 いわゆる企業ぐるみ選挙の実態は、千差万別であると思われるが、企業に属している個々人が、個人として適法な活動を行うことは許されるものであり、また、企業も相応の政治的行為をする自由を有するものと考える。具体的行為が公職選挙法その他の法規に抵触するかどうかは、個々の法規に照らし、その行為の実態によつて判断されるべきものであると考える。
 政治資金規正法改正の問題は極めて重要な問題であるが、過去において幾度か改正法案が国会に提案され、廃案になつた経緯があることは周知のとおりである。これを今日の時点にたつてみると、金のかかる選挙制度をそのままにしてこれを具体化することにいろいろと無理があることを示しているように思われるが、今後、政党本位の金のかからない選挙制度の実現への動向も踏まえつつ、更に検討と論議を積み重ねてまいりたい。
 なお、電気料金の改訂に当たつては、当該申請に係る料金が、電気事業法第十九条第二項第一号に規定する適正な原価に適正な利潤を加えたものであると認められるかどうかを審査した上で、認可しているものである。したがつて、電力会社が政治献金をしていることを理由に一部需要家が行つている電気料金の「一円不払い運動」については、適法に認可された電気供給規程に従わないものであるから、政府としては、需要家の理解を得てこのような事態が早急に解決されることが望ましいと考えている。

二、について

(1) 昭和五十年度予算については、現在のところ、いまだ具体的な内容に言及しうる段階にはないが、物価の安定及び国民福祉の充実については、五十年度予算編成においても最も基本的な柱となるべきものと考える。
(2) 政府は、物価安定を第一の政策目標として、今後とも総需要抑制策を堅持する所存であり、御趣旨は十分尊重してまいりたい。
(3) 民間設備投資についても、総需要抑制の基調を継続することとし、将来の需給バランス維持等のために必要な投資以外は抑制を続けてまいりたい。

(1) 政府は、公共料金については従来から極力抑制的に取り扱つてきたところであるが、料金の抑制によりコスト上昇の吸収ができず、企業の存続・維持が困難になると考えられるような場合、公共サービスの量的、質的水準の大幅な低下を招くような場合等、真にやむを得ないものについては、必要最小限度の改定を認めてきたところである。今後とも、公共料金については、物価動向及び国民生活への影響や、負担の適正化、合理化等に十分配慮し、極力抑制的に取り扱つてまいりたい。
(2) 今回の政府買入価格の大幅な引上げにより、両米価の逆ざやは一層拡大することとなるが、このような両米価の大幅な逆ざや関係は、財政上、食糧管理制度運営上種々問題を生ぜしめるので、早急にその是正を図る必要があると考えている。
 他方、今後の物価動向とその消費者家計に及ぼす影響についても十分留意していく必要があるものと考えられる。
 このような理由から米の政府売渡価格については、物価動向、国民生活への影響及び食糧管理制度の運営等に十分配慮して適正な改定を行いたいと考えている。
 なお、現在、両米価の間に逆ざやはあるが、食糧管理法上、二重米価制度というものを当然に前提としているわけではない。食糧管理法においては、両米価の算定に当たつては、いずれについても「経済事情」を参酌すべきこととされており、両米価決定に当たつてその相互関連を考慮することは許されるものと考えている。

(1) 経済社会基本計画は国民共通の目標である福祉社会の実現と国際協調の推進を目指した昭和四十八年度から五十二年度の期間における経済運営の指針を示すものとして、昨年二月に策定されたものである。
 経済社会基本計画は環境の保全、社会保障の充実、生活関連社会資本の整備等の福祉政策の充実及び国際協調政策の推進等を目指したものであり、この計画の趣旨は適切であつたが、石油危機や物価の異常な高騰等、同計画策定時において十分想定されていなかつた事態が発生し、内外経済情勢が変化したため、現計画の改定が必要となつてきている。現在、今後の日本経済社会の在るべき姿について検討作業を進めているところであるが、この作業を通じて新計画策定の基礎を固めていきたいと考えている。

(1) 現在、公正取引委員会において、私的な諮問機関である独占禁止法研究会を設け、御指摘の諸点を含め、鋭意検討を進めている一方、経済関係各省においても、これについて検討中の段階であり、政府としても、これらの検討の結論を待つて、総合的に判断し、対処してまいりたい。
(2) 公正取引委員会の権限及び機能の強化拡充については、政府としても、実情に沿うよう十分検討する所存である。なお、現在、国民生活審議会において特別研究委員会を設置して調査審議を行つているので、その中で消費者代表監視制度についても慎重に検討してまいりたい。
(3) 消費生活協同組合は、消費者自らがその生活の安定、向上を図るため、自発的に生活必需物資の共同購入等の事業を行う共同組織体であり、その重要性にかんがみ従来から育成に努めてきたところであるが、最近の社会経済情勢にかんがみ、消費生活協同組合の健全な発展のため、一層の努力をしてまいりたい。

5 政府は、従来から法制定の主旨にのつとり、国民生活、国民経済の安定確保の観点から、物資の指定等、これら各法の運用に当たつては、需給の適正化、価格の安定化に心がけてきたものであるが、今後とも、かかる観点に立脚して、生活関連物資等の投機的取引を厳重に監視するとともに、標準価格の設定等に関しても、同様に適時適切に対処してまいる所存である。

(1) 厚生年金保険、船員保険及び国民年金については、四十八年度の改正により、年金額の実質価値を維持するために物価自動スライド制が導入されているところであり、四十九年度は、近時の著しい物価上昇にかんがみ、特に支給時期を繰り上げ、厚生年金及び船員保険については八月分から、国民年金については九月分から、四十八年度の消費者物価の上昇率(十六・一パーセント)により年金額を引き上げることとしている。
 生活扶助基準については被保護者の生活を確保するという立場から昨年来の異常な物価上昇等の動向に対応して基準再改定並びに二度にわたる特別一時金の支給等の措置を講じてきたところであり、四十九年度においても年度当初二〇パーセントの基準改定に加えて、四十九年六月には六パーセントの基準再改定の措置を講じて被保護世帯の生活が確保されるよう配慮を行つているところである。今後とも、情勢の変化に応じた対応措置を必要とするようなことがあれば、所要の措置を講じていくつもりである。
(2) 消費者物価が大幅に上昇しているため預貯金金利引上げの要請が強いことは事実である。
 こうした預貯金者の立場を考慮しつつ、昨年以降四回にわたり預貯金金利引上げを実施する等できるだけの配慮をしてきたところであるが、預貯金者の利益を守るためには、正統的な総需要抑制策の堅持により、物価の安定を図ることが肝要であると考える。
(3) 勤労者財産形成貯蓄については、本年四月に減税措置を拡充したところであるが、更に、今後とも、事業主が勤労者財産形成貯蓄を援助する制度を導入すること等制度の充実を図つてまいりたい。
(4) 公営住宅の家賃については、建設費等に対する国庫補助を行うことによりその低減を図つているほか、特に収入の低い者その他特別の事由がある者に対しては必要に応じて家賃の減免又は徴収猶予等の措置を講ずることにより入居者の生活安定に資しており、当面家賃の凍結は考えていない。
 なお、第二種公営住宅又はこれに準ずる公営の低家賃住宅に入居している生活保護世帯については、その支払うべき家賃等の額に相当する住宅費が支給されることとなつている。

三、について

(1) 我が国経済政策の課題は、安定成長路線の下でバランスのとれた福祉経済社会を実現することにあるが、ここ一~二年においては、これに至る過渡的段階として、物価狂乱の再現を阻止し、物価の安定を中心とした経済運営を図るべきであると考える。
 本年度経済見通しの改訂については、(イ)本年度に入つてからまだ四か月程度しか経過していないこと、(ロ)国民所得統計(速報)では本年度四~六月期の計数がまとまるのになお時日を要すること等の理由により、現時点で即断することはできないが、今後の景気動向、物価動向、国際収支動向等も十分勘案の上、必要に応じ検討してまいりたい。
(2) (イ)最近の国際収支の特徴は、貿易収支の赤字幅が、二-三月をピークとして逓減する傾向にあり、六月は黒字に転じたこと、長期資本収支赤字の縮小傾向及び貿易外収支赤字が月平均四~五億ドルの水準にあることである。
    (ロ)貿易収支逆調の原因は輸入額の急増であり、これは一次産品及び原油の価格上昇によるものであるが、このところ騰勢は一服しており、他方、輸出も価格の上昇に最近は量的な伸びも加わり伸び率が高いものとなつている。
    (ハ)四十九年度の国際収支見通しについては、輸出入の価格が著しく上昇し、その先行きが不安定であるなど、内外の経済動向が流動的であるため見極め難いが、輸出は年間を通じて比較的高水準となるものとみられる一方、総需要抑制効果の浸透等により、輸入の伸び率がかなり鈍化すると予想されるので、貿易収支は基調としては、改善に向かうものとみられる。
 貿易外収支の赤字幅は、ある程度拡大するとみられるが、長期資本収支の赤字幅の縮小及び貿易収支改善傾向のため、経常収支、基礎収支とも次第に改善することとなろう。

(1) 最近における物価の鎮静化傾向を定着させるため、総需要抑制策は引き続き堅持する必要があり、このため、金融政策は引締め基調を継続するとともに、財政、特に公共投資について引き続き抑制的態度を維持してまいりたい。とりわけ、公共事業等については、本年度上半期の契約目標率を五三・九%とすることを、さきに閣議決定したところであり、政府の態度は一貫している。
 また、「但し、中小零細企業など特定の分野については、必要に応じ弾力的に配慮する。」というのは、総需要抑制の基本的態度を維持しつつも、例えば、健全な中小企業が不当に過度なしわよせを受けることのないよう今後の政策運営においてキメの細かい配慮を加えるという方針を示したものである。
(2) 昭和四十九年度六月末の一般会計税収は、三兆三千八十八億円である。これは、予算額十三兆七千六百二十億円に対して二十四・〇パーセントの進捗割合で、前年同月の対決算進捗割合二十・三パーセントを三・七ポイント上回つている。
 しかしながら、全体に対する進捗割合が二十四パーセントにすぎない現段階では、年度間を通ずる自然増収の見込みをたてることは困難である。
 所得税については、昭和四十九年度の税制改正において初年度一兆四千五百億円(平年度一兆七千二百七十億円)の大幅な減税を行い、この結果、課税最低限は夫婦子二人の給与所得者の場合百十二万円(昭和四十八年分)から一挙に百五十万円(平年度百七十万円)へと引き上げられたところである。この水準は諸外国の水準を相当上回るものであり、最近の国民生活の実情等からみても十分なものと考えている。
 物価上昇による国民生活への影響の問題については、総需要抑制政策を堅持する等、物価対策に全力を挙げることにより対処してまいる所存であり、年度内減税を行うことは考えていない。
(3) 租税及び印紙収入の予算は、政府経済見通しを基礎とし、最近における課税実績を勘案しながら見積りの時点においてできる限りの正確さを期して計上しているものである。最近、例えば、昭和四十八年度において多額の自然増収が生じたのは事実であるが、これは、我が国経済の変動が極めて著しく、賃金、物価水準等も当初の見込みを大幅に超える伸びを示し、また、土地の譲渡も当初の見込みをはるかに超えるものがあつたため、所得税、法人税を中心として、大幅な増収があつたことによるものである。
(4)(一) 今年度の追加財政需要については、現段階ではいまだ流動的な要因が多く、補正予算の規模・内訳についても確たる見通しを述べることはできないが、人事院勧告に基づく給与改善が行われる場合には、その所要額が例年になく大幅なものとなるほか、福祉年金等改善実施時期の繰上げ、生活扶助基準等の改定などの措置に伴う所要の経費もあり、更に義務的経費の精算等を加えれば、追加財政需要全体の規模もかなりの額に達するものと思われる。
   (二) したがつて、本年度予算に計上した予備費のみではこれらの財政需要に対処し得ないと考えられるので、いずれ補正予算を提出することになろうが、その規模・時期等については今後検討してまいりたい。
   (三) 補正予算の財源については、現時点では税収等の見通しもいまだ十分予測し難いので、補正予算編成の段階で検討いたしたい。

(1) 日本銀行の買入手形は、最近の計数で約四兆五千億円とかなり高水準になつているが、これは六~八月が季節的に資金不足月に当たるため、短期的な調整を行つた結果であり、金融引締めの基調には何らの変化もない。
 日本銀行の手形買入れは、金融市場に対する通貨供給の手段として実施されるものであり、特定の企業への資金供給を意味するものではない。
 市中金融機関の企業貸出が日本銀行の窓口指導等により厳しく抑制されていることは御承知のとおりである。
(2) 総需要の抑制等の影響が、健全な経営を行う中小企業者の資金面に不当にしわ寄せされることがないよう、政府関係中小企業金融三機関の貸出枠を増額(四十九年三月に五百億円、五月に千五百億円増額)し、資金繰りが著しく困難となつている業種に対する運転資金の貸出しに重点を置きつつ、中小企業向け金融の円滑化を図つているところである。
 また、中小企業に対する民間金融を円滑にする上で重要な機能を果たしている信用補完制度については、第七十二回国会で、中小企業信用保険法の改正を行い、保険限度額の引上げ、倒産関連保証の特例措置の対象範囲拡大等、その強化拡充に努めているところである。
 更に、民間金融機関に対しても、中小企業救済特別融資制度の積極的活用を図る等、中小企業向け金融に対ずる配慮方要請してきたところであるが、今後とも、事態の推移を慎重に見守りつつ、機動的に、適時適切な施策を講じてまいる所存である。

四、について

1 我が国の年金制度は、私的扶養の考え方に立つているものではなく、社会保障の理念に基づき、国民の共同連帯、相互扶助の基盤に立つた社会保険方式によつて運営されており、その費用負担についても、世代間の相互扶助の考え方が取り入れられているところである。
 年金の財政方式については、年金制度は、老後生活の支えとなる年金給付を永続的に保障していく制度であるから、人口の老齢化や年金受給者の増大等を長期的に、かつ、的確に見通して年金財政の健全な運営を行う必要がある。
 我が国の場合は、既に年金制度が成熟化の段階を迎えている西欧諸国と異なり、今後、人口の老齢化が進むばかりでなく、被保険者に対する年金受給者の割合も現段階では少ないが、今後急激に増大するものと見込まれている。
 このような見通しの下において年金財政を運営するに当たつては、被保険者に対する受給者の割合が定常化するいわゆる年金制度の成熟期を見通して、世代間の負担の不公平や、急激な負担の増加を避け、なだらかな負担の増加を図つていく必要がある。政府としては、このような観点から先般の改正においても、財政運営の在り方として従来どおりの建前を維持することとしたものである。将来、年金制度が成熟化し、受給者が定常化する段階における年金財政の運営の在り方については、その時点において検討すべきものと考える。
 次に、御指摘の厚生年金、国民年金の「八万円年金」の実施については、先般の改正においていわゆる物価スライド制を導入したところであり、第一回目のスライドにより標準的な年金額は本年八月(国民年金は九月)以後増額されることとなるが、賃金、生活水準の向上による年金額の改定については、今後の社会経済情勢の推移をみながら対応してまいりたい。
 また、老齢福祉年金の改定については、逐年福祉年金の増額を図つているところであり、今後とも引き続きその改善充実に努力してまいりたい。
 更に、賃金スライド制の導入については、厚生年金や国民年金については、被保険者の賃金体系など所得の在り方がまちまちであり、また、景気変動の影響を受ける度合いが異なるなどの事情もあるので、年金額スライドに賃金そのものを指標として用いることは適当でないと考えており、物価を指標とする自動スライド制にあわせ、従来どおり財政再計算期ごとに賃金や国民生活の水準等を総合的に勘案して改善を図ることによつて適正な年金額の水準が確保されると考えている。

2(1) 最近の物価変動の中で、政府はこれまで社会福祉施設の運営に係る入所者処遇費について、四十八年度中にはその引上げと特別一時金の支給を行い四十九年度当初には前年度当初に比べて二〇パーセントの引上げを行い、更に四十九年六月には六パーセントの引上げを行つたところであり、今後とも物価の動向等経済情勢の推移に応じ適切に対処してまいりたい。
 (2) 社会福祉施設に働く職員の確保については、給与の引上げ、定数の増員等による夜間勤務体制の整備、労働時間の短縮及び福利厚生制度の改善等による勤務条件の改善並びに養成、研修制度の改善等により努力しているところであり、今後とも一層の努力をしてまいりたい。
 (3) 老朽施設の建替えについては、施設整備の中で特に配慮しているところであり、今後とも必要度の高い施設から順次建替えを図つてまいりたい。
 (4) 社会福祉施設の運営に係る入所者処遇費については、物価の動向等に対応し、前述のとおり大幅な引上げを行つたところであり、今後とも特に食事を含め入所者処遇には十分配慮してまいりたい。

(1) 児童手当の額については、先般、国民生活水準の伸び等を考慮して、昭和四十九年十月分から支給対象児童一人につき月額三千円から四千円に引き上げたところであるが、支給対象児童を全児童に拡大し、児童一人につき五千円の手当を支給することは、費用負担が膨大となり、他の社会保障給付との均衡等を考慮しても、なお慎重に検討すべき問題と考える。
(2) 最近の家族構成は、子供が二人までの家庭が多いことは、御指摘のとおりであるが、現在の児童手当の支給対象児童は二百四十万人を超えており、非常に重要な役割を果たしていると考える。
(3) 児童手当の支給対象の拡大の問題については、(1)で述べたとおり、慎重に検討してまいりたい。
(4) 児童手当制度は、児童を養育している家庭における生活の安定と次代の社会を担う児童の健全な育成及び資質の向上に資することを目的とするものであり、我が国社会保障制度の中で重要な役割を果たしていると考える。

五、について

1 環境影響事前評価法(アセスメント法)の制定について

 各種の開発事業が環境に及ぼす影響の事前評価については、従来より、その重要性を認識し、一昨年(昭和四十七年六月六日)には公共事業における環境保全対策について閣議了解を行つたほか、昨年の第七十一回国会においても、環境影響のチェックの徹底を図る観点から関係法令について所要の規定の整備を行つたところである。
 今後、諸外国のアセスメント等を参考としつつ、立法化を含め環境影響評価制度について慎重に検討を進めてまいりたい。

2 無過失損害賠償責任制度について

 現行の法体系では無過失責任は、民法の過失責任の例外をなすものとして、その範囲を緊急性、重大性の判断から大気汚染及び水質汚濁に係る健康被害に限定しており、これを大気汚染及び水質汚濁の健康被害以外にも拡大することについては、引き続き慎重に検討してまいりたい。

3 自動車排気ガス許容限度設定方策について

 いわゆる五十一年度規制の問題については、できるだけ既定方針に沿つた規制を実施したい考えであるが、技術的な可能性について種々の意見もあり、内容が技術的、専門的なものであるので、中央公害対策審議会で審議いただき、その上で最終的結論を出す所存である。

4 地盤沈下の防止法について

 地盤沈下の防止対策については、現在中央公害対策審議会において審議を願つているところであり、その結論を待つて、必要があれば、地盤沈下防止のための法制度の整備等を図つてまいりたい。

5 食品は、本来安全であるべきものであり、食品の安全を確保するための諸方策の推進が第一に重要なものであるが、飲食に起因する健康被害が社会的問題となる事例も見受けられたため、食品事故による健康被害者が速やかに救済される体制の整備についても研究することとし、食品事故による健康被害の救済の制度化研究会を設け、慎重に検討を進めているところである。
 また、医薬品の副作用による被害者の救済については、医薬品の特殊性から、科学的水準に照らし、開発当初予見し得なかつた副作用が、医薬品が広く使用されるようになつて初めて発見される場合もあり、このような場合における被害者の救済を中心とした救済制度について、現在、専門家からなる研究会を設け、検討を続けているところである。

六、について

1 憲法に定める「義務教育無償」の意義については、最高裁判所の判例にもあるとおり「授業料を徴収しない」ことと解されており、教科書、学用品その他の教育に必要な一切の費用をすべて無償としなければならないというものではない。
 しかしながら、国としても義務教育無償の理想をより広く実現するため、昭和三十七年度より義務教育諸学校の教科書無償給与を実施し、また、私費負担諸経費については、経済的理由により義務教育が受けられないことのないように、経済的に就学困難な家庭の児童生徒については、学用品費、修学旅行費、給食費、医療費等が無償となるような補助措置を講じているが、今後とも引き続き充実を図つてまいりたい。
2 学校給食に要する経費については、学校給食法第六条及び同法施行令第二条の規定により、施設設備費及び人件費は学校の設置者が負担し、その他の経費(食材料費等)は児童生徒の保護者が負担するものとされている。
 このうち、施設設備費及び人件費について各種の財政措置を講じていることはもとよりであるが、食材料費に関しても、学校給食用の小麦粉、牛乳、脱脂粉乳等について国庫補助を行つているところであり、また、良質かつ低廉な食材料を確保するために、学校給食用物資供給体制の整備を推進しているところである。更に、学校給食費の支払いの困難な者については、公費による学校給食費の援助のための国庫補助を行つているところである。
 今後とも、前記の学校給食法の建前の下に、これらの諸施策を維持充実することにより、学校給食の円滑な実施を確保するよう努める考えである。

(1)から(3) 私立大学等経常費補助金を始めとする私立学校に対する国の助成措置については年々拡充しており、私立大学等経常費補助金についてみれば、昭和四十九年度予算では前年度より四十七・五パーセント増に当たる六百四十億円を計上している。
 日本私学振興財団の融資については、昭和四十九年度には前年度より四十五億円増の三百八十億円を計上している。
 高等学校以下の諸学校に対しては、私立大学に対する国の助成の例に準じて都道府県が経常費補助を行うことができるよう地方交付税制度を通じて財源措置を講じているところである。
 私学の学校教育に果たす役割にかんがみ、今後とも引き続き私学振興の推進に努めてまいりたい。
(4) 私立学校を設置する学校法人に対して個人及び法人が支出する寄付金については、現行税制上、次のように既に十分配慮しているところである。

(一) 個人の学校法人に対する寄付金は、入学に際して行うものを除き、所得税法上の寄付金控除の対象としている。
(二) 法人の学校法人に対する寄付金は、一定額の範囲内であればすべて損金に算入されるほか、所定の手続の下に指定寄付金とされれば全額損金算入が認められている。

(5) 父兄の支出する教育費について所得税法上教育費控除といつた特別な形でこれを考慮することは、税制調査会の従来の答申がしばしば指摘しているように、個別の事情を税制においてしんしやくするにはおのずから限界があるので、適当でないと考える。
 この問題については、一般的な扶養控除の引上げで対処することが望ましいので、昭和四十九年度において扶養控除を二十四万円(従来は十六万円)まで大幅に引き上げたところである。

(1) 四歳児及び五歳児の幼稚園就園を促進するため、公立及び私立を通じて、施設・設備の整備費補助及び父兄負担軽減のための就園奨励費補助の制度の拡充を図つてきたところであるが、今後とも引き続き、就園促進に努力してまいりたい。
 幼稚園教育の義務化については、今後慎重に検討してまいりたい。
(2) 私立幼稚園に対しては、私立高等学校の例に準じて、都道府県が経常費補助を行うことができるよう、地方交付税制度を通じて財源措置を講じているところである。
(3) 幼稚園は、幼児に対し学校教育を施すことを目的とし、保育所は、保育に欠ける乳児又は幼児を日々保護者の委託を受けて保育する児童福祉施設であつて、両者はその目的・性格を異にするものである。当面、幼稚園・保育所共に、それぞれの目的・性格に沿つた普及充実を図つてまいりたい。

 なお、教育は、将来の日本を担う人間性豊かなたくましい青少年を育成するものである。そのための教育は、知育、徳育及び体育の調和のとれた教育でなければならない。したがつて、今後の教育においては、学校教育における徳育の充実を図り、家庭教育及び社会教育を通じて道徳教育、情操教育の拡充強化を図る必要がある。

七、について

1 最近における国際的な食料の需給事情からみて、国民の基礎的な生活物資である食料については、極力国内で生産し自給力を維持向上していくことが基本的に重要であると考えている。
 このような観点に立つて、米、野菜、果実、鶏卵、肉類、牛乳・乳製品等については完全自給ないしは八割以上の自給率を確保することとし、そのために最大限の政策努力を傾注しているところである。
 なお、農産物需給の長期展望とそれに基づく生産目標については、現在農政審議会において検討中であるが、今後これらの検討結果を踏まえて対処してまいりたいと考えている。

(1) 畜産物価格政策については、畜産物の価格安定等に関する法律及び加工原料乳生産者補給金等暫定措置法等に基づき、適正な価格の形成に努めているところである。
 また、牛肉価格については、最近の牛肉価格の異常な変動にかんがみ、今後とも国内生産の振興を確保するとともに消費者価格の安定に資するための諸施策について検討を行つている。
(2) 配合飼料については、長年にわたり民間の自由な経済活動をつうじ畜産の動向に見合つた飼料の供給、品質の改善が行われてきたところであり、今後とも民間の自由な企業活動を基本として需給、価格の安定を図つてまいりたい。
 したがつて、配合飼料についての国による一元管理制度については考えていない。
(3) 飼料生産については、昭和五十七年度までに草地開発事業により草地利用面積約六十四万ヘクタール、飼料作物生産振興対策により既耕地における飼料作物の作付面積約九十九万ヘクタールを確保し、これによつて供給される良質粗飼料量が乳用牛、肉用牛の飼料総需要量の約六割を目標として、各種施策を通じ一層の生産増加に努めることとしている。

3 農産物価格政策によつて価格の安定を図ることは、農業経営の健全な発展と食料の安定的供給による消費者家計の安定を図る上からも重要な問題である。価格政策については従来から、米麦をはじめ主要な農産物の大部分を対象として実施してきたところである。
 農産物価格政策の運営に当たつては、農産物ごとの特性に応じて定められた価格安定の仕組みと行政価格の決定方式に基づき、最近の需給事情、生産費の動向、物価その他の経済事情を十分勘案し、適正な価格水準が形成されるよう努めているところである。

八、について

1 政府は、台風その他の災害から国土と国民を守ることを政治の基本姿勢としているところであり、このため、災害対策基本法に基づき防災基本計画を策定し、防災体制の確立、防災事業の促進、災害復興の迅速適切化及び防災に関する科学技術の研究の推進の諸点に重点を置いて施策を進めているところである。
 なかでも、国土の保全を図ることが最も緊急な課題であることから、治山事業五箇年計画、治水事業五箇年計画等に基づき、鋭意防災事業の推進に努めてきているところである。
 最近の被災状況をみると、特に中小河川のはん濫、山崩れ及びがけ崩れによる災害が目立つていることにかんがみ、これら災害から人命及び財産を守るため、中小河川の改修事業、急傾斜地崩壊対策事業等に重点を置いて国土保全事業を推進するとともに、住民の警戒避難体制の整備に努めてまいりたい。
2 急傾斜地の崩壊等による災害危険箇所については、従来より地域住民に対する周知徹底を図るとともに、警戒避難体制を整備することについて関係者を指導してきたところであるが、今後一層指導を強化するとともに、急傾斜地崩壊危険区域の指定を拡充して、行為の制限を徹底し、かつ、急傾斜地崩壊危険区域の整備を推進することにより、災害の防止に努めてまいりたい。

(1) 急傾斜地崩壊危険区域の指定は、関係市町村長の意見を聴く等慎重に行うこととなつているが、災害の防止を図るため必要な区域については、今後積極的に指定してまいりたい。
(2) 昭和四十八年度実施の急傾斜地崩壊対策事業から、受益者負担金相当額について軽減を行い、また、先般の伊豆半島沖地震に係る緊急急傾斜地崩壊対策事業については、更にこれを軽減することにより、事業の促進を図つている。
(3) 急傾斜地崩壊対策事業の採択基準については、昭和四十七年度において大幅に緩和したところであるが、改訂後の採択基準に該当する危険箇所がなお相当数あるので、当面この対策事業を鋭意推進してまいりたい。

4 集中豪雨の監視、予報、伝達の体制の整備については、最重要事項の一つとして積極的に取り組んでいる。
 すなわち、監視については、全国二十か所のレーダー網と地域気象観測網システムによる約千三百余か所の雨量計を整備するとともに、その得た気象資料を有・無線通信網によつて、予報担当官署に収集し、迅速的確な予報・警報等を発表することに努めている。
 また、予報・警報等の伝達については、各地方気象台が速やかに都道府県・警察署その他防災機関に通報するとともに、一般国民に対しては、報道機関を通じて通報している。
 なお、集中豪雨の早期予報を行うためには、気象資料を随時入手することが最も必要であるので、昭和四十七年度を初年度とする地域気象観測網の整備を実施中であり、現在約千百か所の雨量をオンラインリアルタイムでは握できるシステムを開発し、その試験運用に入つており、来る十一月から本運用に移る予定である。これにより、二十四時間いつでも降雨量をは握できる体制となり、従来の雨量資料の収集よりも監視体制が飛躍的に強化されることになつた。
 この地域気象観測網整備に当たつては、気象学的な見地から検討した結果、適切な間隔をもつて雨量計を配置している。
5 河川改修事業については、従来から重要な大河川の改修とともに中小河川の改修にも鋭意努力してきたところであるが、今後とも積極的に対処してまいりたい。
6 都市河川対策については、従来から重点的に推進してきたところであり、現行の第四次治水事業五箇年計画においても都市河川の改修の促進を図ることとしている。
 すなわち、都市河川については、一般の中小河川改修事業等を重点的に促進するとともに、都市小河川改修事業、地盤沈下対策河川事業、耐震対策河川事業、都市河川治水緑地事業、防災調節池事業、高潮対策事業及び河川環境整備事業を強力に推進している。

(1) 昭和四十七年十二月に本制度が発足して以来、現在までに、次の市町村において事業が実施されている。

昭和四十七年度         秋田県河辺町  十一戸
昭和四十七年度-昭和四十八年度 宮崎県えびの市 二十三戸
昭和四十八年度         宮崎県北郷町  十四戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 愛知県小原村  二十二戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 愛知県藤岡村  二十七戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 滋賀県愛東町  六十戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 島根県益田市  十一戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 熊本県倉岳町  五十二戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 熊本県竜ケ岳町 三百二十九戸
昭和四十八年度-昭和四十九年度 熊本県姫戸町  百七十九戸
合計 十団体 七百二十八戸

(2) 防災集団移転事業は関係市町村が集団移転促進事業計画を定め、内閣総理大臣がこれを承認することとなつているが、計画の策定、実施に当たつては、法の趣旨にのつとり、事前に移転促進区域の設定、移転先団地の用地の選定等を十分に関係住民に周知させ、関係住民の意向の尊重を前提として制度の運用を行つているところである。
(3) がけ地近接危険住宅移転事業については、過去の実績等からみて現行の制度の運用によつて十分対処できると考えており、現時点では、本事業の法制化は考えていない。

8 災害弔慰金の支給及び災害援護資金の貸付けに関する法律により、昭和四十八年七月十六日以後に生じた自然災害によつて死亡した者の遺族に対しては弔慰金を支給し、また、被害を受けた世帯に対しては、災害援護資金の貸付を行つているところであるが、今後とも災害救助の在り方については、更に検討してまいりたい。