質問主意書

第73回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三号

緊急な諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十九年七月三十一日

上田 耕一郎   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   緊急な諸問題に関する質問主意書

 今回の参議院選挙の結果は、長年の自民党政治、とりわけ田中内閣の大資本擁護、国民生活破壊の悪政にたいする、国民のかつてないきびしい批判のあらわれである。
 この国民の審判を政府が厳粛にうけとめてこれを国政にどのように反映させるのか、物価高騰をはじめとする緊急の諸問題にどのように対処するかを、国会の審議をつうじて国民にあきらかにすることこそ選挙後の臨時国会の最大の課題である。したがつてその所信を国会であきらかにし、当面する緊急課題での国会審議に応ずることが政府の当然の責務である。
 ところが政府、自民党は、国会と国民の当然の要求をふみにじり、議会制民主主義の原則にそむいて所信表明さえおこなわず、各党の代表質問、緊急質問をいつさい封殺するという異例の暴挙にでた。これは、政府による審議拒否にほかならない。
 私は、日本共産党を代表して要求し、政府と自民党によつて阻止された代表質問、緊急質問にかわつて、いま国民が解決を切実に求めている内外の緊急問題について、国会法第七十四条にもとづき、文書をもつて政府に質問する。
 政府の責任ある明確な回答を求めるものである。

一 侵略戦争美化の総理発言について

 田中総理は、六月二十二日高知市での演説で「明治から百年の今日、四十五ケ国を相手にして戦いのできたのもこの教育の成果である」とのべ、同二十八日山形市では「(戦前)海外に出る道もたたれ、自分たちが働いた製品もうけいれられない情勢がつくられたとき、日本人はどこに道を求めたか。歴史の示す通り四十五ケ国を相手に戦つたわけだ。」と演説した。
 四十五ケ国を相手にした戦いとは、あの太平洋戦争のことにほかならない。
 この発言は、日本国民に、三百万人以上の死者、五百万人以上の負傷者を出し、千数百万人におよぶアジア諸国人民を殺傷し、いいあらわすことのできぬ損害をあたえたあの侵略戦争に露ほどの反省をしめさないばかりか、反対に国民経済の前途を打開するためにやむをえなかつたものとして公然と合理化し、軍国主義教育の成果だつたとして賛美するおどろくべき重大発言であると考える。
 これは、太平洋戦争を開始した戦争犯罪人の発言とすこしもかわるところがない。
 田中総理は、かつて国会でも「日本が行つた過去の戦争を、ポツダム宣言に書いてあるように侵略戦争であると、私が判断できる立場にない」と発言し、ポツダム宣言否定、侵略戦争肯定の立場をほのめかしてきたが、今回の発言はさらにこれをおしすすめて公然と侵略戦争を賛美、肯定したものである。
 これは、過去の侵略戦争の反省にもとづいて、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」する憲法前文の規定にまつこうからそむいたものであることはもちろん、日本軍国主義、ドイツとイタリアのファシズムの侵略と戦つた全世界の平和愛好勢力と平和を求める国際的世論にたいする許すことのできない挑戦である。総理のこの発言は、国際的にもきわめて重大である。
 政府は、この秋にメキシコ、ブラジル、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ビルマなどへの総理の訪問を計画しているが、総理はこの発言をそのままにして、太平洋戦争の相手国であつた地を踏むことができると考えているのか。総理はいまでも、この発言のとおり考えているのか。太平洋戦争が侵略戦争であつたとは思つていないのか。ポツダム宣言の内容をどう考えているのか、責任ある回答を求めるものである。

二 物価問題について

1 田中総理は六月十六日福岡市で、物価問題は「雨もり程度」にすぎないといい、選挙中には鉄鋼、灯油などの大幅値上げ、選挙後にはセメント、アルミ地金、大手私鉄運賃、洗剤、砂糖など次々と大幅値上げを認めてきた。これらは物価狂騰にあえぐ国民の苦しみをまつたく意に介さず、物価対策に真剣にとりくもうとしない自民党内閣の体質と政治姿勢をこの上なく鮮明に浮きぼりにしたものであり、国民はこれをきびしく糾弾している。
 七月の東京区部の消費者物価指数は、前月比二・二%、前年比二三・四%の上昇であり、政府が宣伝するように、沈静どころか破壊的な急騰が続いていることをしめしている。総理は選挙結果について反省するといいながら、つぎつぎと値上げを承認し、今後も、一連の公共料金の値上げを実施しようとしている。そこでつぎの点を質問する。

(1) 政府は公共料金について従来抽象的に「極力抑制する」と言いながら、つぎつぎに値上げしてきたが、今後値上げが予定されている東京ガス、消費者米価、電報料金、電話料金、郵便料金、国鉄運賃、航空運賃、民営バス、タクシー料金、たばこ小売価格などの公共料金について、どの程度抑制するつもりか。その値上げをやめさせ、それにともなう必要な措置をとるかどうか。
(2) 政府は本年にはいつてからの基礎物資や公共料金の値上げに加えてさらに今後の公共料金のひき上げが国民の生活にどの程度の影響を与えると考えているのか。
 また、すでにあらわれている消費者物価の二〇数%という上昇率は、欧米諸国とくらべても、群をぬいてはげしく、戦後をふりかえつても、戦争直後の混乱期を除いては、例を見ないものである。このようなはげしいインフレ物価上昇が、国民生活の困難と不安をかつてなく深刻にしているのに、それでも、「雨もり」程度といまでも認識しているのかどうか。
 公共料金は、その公共性を重視する立場から、国鉄運賃と同様、国会の議決によるようにする意思はないか。理由もふくめて明確にされたい。

2 第三波といわれる今日の値上げの特徴は、原油の値上げを口実として、石油製品、電力、大手私鉄、鋼材など公共料金や基礎資材の値上げを「新価格体系」への移行という名目で、政府がつぎつぎと認めていることにある。石油製品価格を大幅に引き下げるために、第一に「石油危機」の最中に、もうけを八倍にもふやしたメジャーにたいし、西ドイツ政府がおこなつているような、値下げ交渉を直ちに開始して値下げさせることである。メジャーのもうけは、一年間でバーレル当たり八倍の四ドルになつたと、OPEC事務総長が発表している。このメジャーの大もうけを二ドルへらせば、キロリットル当り原油価格は約三千六百円の値下げが可能となり、メジャーのもうけを昨年なみの五十セントに引き下げれば、原油を六千三百円値下げすることも可能である。
 政府はすみやかに、メジャーと交渉する意思があるかどうか。今後交渉する意思がないというならその理由をききたい。
 また第二に、石油関連諸税の廃止ないしは大幅減税を実行することである。今日たとえば、日本のガソリン税(揮発油税および地方道路税)はキロリットル当りで三万四千五百円にもなつている。したがつて関税をのぞいてガソリン税など石油関連諸税の廃止、または大幅減税をおこなえば(ただし、地方道路財源へまわされる地方道路税などに関しては地方交付税増額により代替財源をつける)、原油輸入価格上昇分の影響を大幅にへらすことができる。
 以上の二つの措置をとれば、石油製品価格キロリットル当り約一万円の値下げさえ可能であり、少なくとも民生用についてはその価格を今年三月の値上げ前にもどすことができるが、そうした努力をおこなうつもりがあるかどうか。
3 政府は生産者米価の引き上げを理由に消費者米価の引き上げは当然であるといつている。
 その内容は、すでに予定されている十月からの消費者米価九・八%値上げに、さらに三〇~四〇%といわれる値上げを上乗せしようとするもので、国民生活にあたえる影響はきわめて大きい。消費者米価の前例のない大幅引き上げ強行をやめるべきであると考えるがどうか。
 政府は今回の生産者米価の引き上げにより食管赤字が一兆円に達するという大宣伝で、消費者米価の大幅引き上げを正当化しようとしているがもともと生産者米価と消費者米価を連動させることは食管法の規定にも違反するものである。
 一兆円の中には、食管法にもとづいて、本来一般会計で負担すべきものである食糧証券利子や倉庫料などがふくまれており、物価抑制が最大の政治課題であるというなら、国民生活安定のための特別支出をおこなつて、食管法の精神を守るべきではないか。

三 国民生活に関する緊急問題について

1 中小零細企業の営業を守る緊急措置について

 中小零細企業はいま田中内閣の「総需要抑制」政策のもとで、大企業が史上空前の増収益をあげている状況のなかで、受注の減少、売行きの後退、資金難など、かつてない経営と生活の危機にあえいでいる。
 繊維産地では、大正九年以来の不況といわれ、受注減、工賃の切り下げなどがあいつぎ、「早く織機を動かしたい」といいながら自殺する業者まで出るという事態が生まれている。
 しかもこのような中小零細企業の苦しみに追い打ちをかけるように、大商社は、東南アジアの低い賃金と特恵関税を利用して、安い繊維製品を逆輸入し、国内産業をいつそう圧迫している。
 このような深刻な事態は、繊維だけにとどまらず中小建設業、自動車部品の下請、家庭電機などにも及んでいる。
 政府は、こうした中小零細企業の経営危機をどのように認識し、どのような対策をとろうとしているのか。中小零細企業に仕事と市場を保障するため、災害復旧、住宅、保育園、老人ホーム、生活道路の建設など国と地方自治体の投資を早急に回復し、中小企業への発注を優先させるべきではないか。
 繊維、雑貨などわが国の不況産業の中小企業経営を圧迫する商品の輸入をきびしく規制すべきではないか。
 営業と生活の困難におちいつた小規模業者にたいしては、無担保、無保証人、無利子のつなぎ資金の特別融資を実施すべきではないか。

2 年金生活者、生活保護者、障害者(児)の生活と権利の擁護について

 深刻な生活破壊にさらされた国民、とりわけ劣悪な社会保障の下で、月わずか五千円の年金だけをたよりに生きる全国四百二十万人の老齢福祉年金受給者、四人家族で月六万円余り、一日の食費が百円内外という生活保護費の下で、生存そのものが危機にさらされている生活保護者の生活は、“狂乱”といわれる物価高によつて極度に悪化している。物価高騰は、大きなハンディキャップを背負つた障害者とその家族の生活をいつそう困難にしている。
 したがつて政府はつぎの緊急措置をただちに実行すべきである。
 まず現在もつとも劣悪な老齢福祉年金を現在の五千円から二万円に、障害福祉年金を一級障害者の場合三万円に即刻引き上げること、厚生年金、国民年金は最低夫婦で八万円に、生活保護費はさしあたり五割の引上げ、失対賃金の大幅引き上げを実施すること、年金や生活保護基準に物価、賃金の上昇に見合つた短期のスライド制を導入すること。
 障害者(児)が自由に行動できる町づくりをすすめるために、段差解消、障害者用エレベーター、車いす便所設置など、まず官公庁、公共施設の建築改善をおこなうこと。
 以上の対策を実行する考えがあるかどうか。

3 食糧、農業問題について

 今日、世界的な食糧不足と価格の高騰は、アメリカの世界戦略の一環に「食糧」を組み込もうとする動きともあいまつて、深刻な事態にある。
 こうした世界の食糧事情の下で、日本の食糧自給率がオリジナルカロリーで、五三%にまで落ち込んでいることは、他の先進諸国にも例のない、深刻な影響をあたえている。まさに、歴代自民党政府のすすめてきた対米従属の食糧海外依存政策の破たんこそが、“食糧が第二の石油になるのでは”という、不安をいだかせ、現に、大豆、小麦、エサなどの海外事情が日本経済の各分野の混乱を招いており、その責任は重大である。
 総理は、食糧自給率向上を選挙中にも公約したが、政府が昨年発表した「生産目標」によつても自給率の向上はわずか一%~四%にしかすぎず、しかも、その達成すらきわめてきびしい現状である。エサ代の暴騰で、毎日百戸近くの酪農家が酪農をやめ、五百戸の農家が養鶏をやめているのが現実の姿である。そればかりか、農業の将来に希望がもてず、北海道、山形、秋田など、各地で農民の自殺者があいついでいる。農民を自殺に追い込む農政では、食糧の自給率向上などできるはずがない。そこで、私は、農民の労働に報いる、採算のとれる農産物価格保障の確立が不可欠であると考えるが、政府はこの点についてどのように考えているか。
 また、ひきつづき深刻化している畜産危機を打開するため、養鶏農家、肉牛生産農家にたいする十分な価格保障を実現できるよう国の財政援助をおこなうとともに、養鶏、畜産などの生産と流通への大商社、大企業の進出を規制すべきであると思うがどうか。
 さらに、無制限な食糧輸入政策を改め、国内生産の発展に応じて輸入を制限する措置を講ずべきであると思うがどうか。

四 当面の災害復旧問題について

 今回の台風八号および梅雨前線豪雨による災害は、西は香川、兵庫から東は神奈川、東京に及び死者、不明者百二十二名、床上浸水一万六千戸、床下浸水十万二千戸など被害額二千八百億円を上回る被害を出している。
 災害の復旧と被災者救済をさまたげている大きな問題の一つは、災害救助法など現在の関係法規が政府の責任にはほおかむりして、生活再建はあくまで被災者の自力でおこなわせる建前をとりつづけていることである。そのため被災者は自力で畳の入れ替や家屋の修復をおこなわなければならず、水害をうけた商品についてもなんらの補償もない状況のもとで、多くの被災者は衣食住にもことかき、小規模経営者、農民は経営の再建と生活の目途もたたないまま放置されている。
 このような被災者にただちに必要な救援の措置をとることこそ政治の責任である。政府は、激甚災や災害救助法の発動にみられる選別的な救援ではなく、すべての被災者、被災自治体に、国が責任をもつて救援、復旧事業をおこなうことが緊急に必要であるが、これを実施する意思があるかどうか。
 また、政府はただちに、自力回復をおしつけている現在の法律等を改め、個人被害にたいして救済できるようにすべきであると思うが、具体的にどのような措置をとろうとしているか、うかがいたい。

五 自由と民主主義に関する問題について

1 まず自民党の指導でおこなわれた「企業ぐるみ選挙」について質問したい。
 企業がその従業員にたいし、業務命令で後援会加入を強制し、政治活動、選挙運動をおこなわせることは、思想信条の自由侵害、国民の基本的人権の乱暴なじゆうりんであると考える。また、従業員にたいし雇用契約関係を利用し、系列・下請会社の社長、幹部らにたいして取引関係を利用して、集票活動をおこなわせることは、それぞれ選挙の自由妨害や強要罪に該当し、この「企業ぐるみ選挙」は、憲法に違反し、労働基準法、公職選挙法、商法、刑法などに違反するもつとも悪質なものであると考える。このような行為が、橋本幹事長の署名入りの依頼文書にもとづいて、自民党の指導のもとにおこなわれたことは重大である。
 田中総理は、この「企業ぐるみ選挙」についていまどのように考えているか、またこれを指導した自民党の総裁としてその責任をどうとるつもりか。また金で議席を買い取つたとまでいわれて世論のきびしい糾弾をうけている買収による選挙違反者を数多くかかえている自民党総裁として、総理はどう処置するつもりであるか。史上最大とまでいわれた金権選挙はそれ自身政治問題であり、捜査当局の結論を待つという態度ではなく、明確な回答を求める。
2 大企業からの政治献金は、政府と財界のくされ縁のもとであり、利権、汚職、腐敗政治など諸悪の根源である。
 総理は、このような大企業をはじめ会社、団体からの政治献金を禁止するよう政治資金規正法をすみやかに改正する考えはないか。
3 国会運営の問題について、田中総理は、選挙中、「一週間に二日程度の審議では通年国会にならざるをえない。法案の付託業務は事務総長の役割であり、議運委などがいじる問題ではない」(六月二日閣議)「国会法改正案をだす。政府が国会の召集権を持つているのに、会期がきめられないというのはおかしい。旧法では政府が決定していた」(六月二十三日、徳島での記者会見)、「多数決政治をやります。待つたなしにやります」(六月二十一日、NHKテレビ)などと発言した。
 憲法第四十一条は「国会は国権の最高機関」と規定しており、国会自身が会期をきめ、法案の付託の順序をきめることは、まつたく当然のことである。
 田中総理のさきの発言は、国会を主権在民の原則が否定されていたかつての大日本帝国憲法時代にひきもどそうとするものであり、憲法にさだめられた国会の権限を奪い、議会制民主主義の原則をふみにじろうとする暴言である。「待つたなしの多数決政治」とは、自民党の一党独裁政治の別名にほかならないと考える。
 田中総理は、さきの発言にもとづき、いまでも国会法の改正を考えているのか、どうか。
4 田中総理は、選挙公示直前に、小選挙区制を強行する発言をくりかえしおこなつたが、選挙後、奇怪にも態度を急変させ「私は小選挙区制論者ではない」などとのべている。
総理はいままでの考えを変えて、小選挙区制は断念したのかどうか、明らかにされたい。
5 自民党は、その綱領に「自主憲法制定」をかかげて憲法改悪をはかつてきた。自民党憲法調査会は「憲法改正大綱草案」を決定し、ことしの憲法記念日には、憲法改悪団体である「自主憲法制定国民会議」が主催した「自主憲法制定国民大会」に、江崎自民党幹事長代理が正式に党代表としてあいさつし、小島自民党憲法調査会長が「五月から案文作成に入る」ことを報告しており、憲法改悪作業は、すでに本格的に進行している。総理は、このような憲法改悪作業の着手を自民党総裁として承認しているか。
 また総理は、「憲法改正大綱草案」がかかげている(イ)「天皇の地位の明確化」-天皇の「元首」化、(ロ)「世界平和への寄与とわが国の安全保障」-自衛隊と日米軍事同盟の合憲化、(ハ)「社会連帯の理念による文化的福祉国家の建設」-基本的人権の制限、(ニ)内閣の緊急立法権の付与などの内容に賛成するのか。

六 外交に関する問題について

1 日「韓」問題について

 「金大中事件」は、すでに事件発生後満一年を迎えるが、政府はいまなおなに一つ解決しようとせず、朴政権の不法行為を野放しにしている。
 そのうえ、今日、悪名高い「大統領緊急措置」違反を口実とした早川、太刀川両氏にたいする朴政権の卑劣なデッチあげ事件が起きている。ところが政府は、この事件にたいしても、「静観」と称して両氏の救出になんら効果的な措置をとらず、事実上、朴政権の不法行為を容認している。

(1) 「金大中事件」について、昨年十一月、当時の大平外相は「真相を究明し、国民の納得のいくスジのとおつた解決をはかる」と公言してきたが、事件の真相究明と金大中氏の現状回復については、具体的にどのように国民への約束を果たすのか。その見とおしはあるのかどうか、あきらかにされたい。
(2) 現在、早川、太刀川両氏が、朴政権によつて重刑に処せられ、投獄されている法的根拠となつている「大統領緊急措置第四号」なるものは、文明国の刑法の原則である罪刑法定主義、刑罰不遡及の原則に反したまつたく不法不当なものと思うが、政府はどう考えるか。
 さらにジャーナリストとして学生デモの取材活動にあたつた太刀川氏の処罰は、言論、表現の自由を侵害する不当なものである。これは「言論、表現の自由は、国境を越えていると、いないとにかかわらず、だれもが有する権利」として保障した「世界人権宣言」に明白に違反したものと思うが、政府はどう考えているか。
(3) 政府は早川、太刀川両氏の不法逮捕、投獄にたいして厳重に抗議するとともに、両氏の即時釈放、家族の面会実現のため、具体的にどのような外交措置をとるつもりなのか、回答ねがいたい。
(4) 今回の事件でも、金大中事件のさいと同様、多数のKCIAが「韓国」から日本に派遣され、秘密裏にデッチ上げ事件の資料集めに当たり、日本の主権を公然と侵害する捜査活動に従事したことは、さきにあきらかになつた東京在住のフリーカメラマン阿部剛氏の事件によつても明白である。このようなKCIAの日本国内での活動をただちに禁止し、国外に退去させるべきであると思うが、政府はどのように考えているか。
 さらにKCIAの日本国内での活動、主権侵害の実態を全面的に調査し、国会に報告すべきであると思うがどうか。
(5) 朴政権の重大な主権侵害、基本的人権じゆうりんの不法行為をやめさせるためにも、対「韓」経済援助を打ち切るべきであるにもかかわらず、最近、外務省は、来日した朴政権の李宜基企画院経済協力局長と会談した結果、「金大中事件」、日本人二学生の裁判問題などの政治問題ときりはなし、経済協力を継続し、さらにことし新たに二億ドル程度の援助供与に合意したと伝えられるが、これは事実かどうか。
(6) 田中総理は、さきに、わが党議員の質問にたいし、朴独裁政権下の「韓国」を「自由と民主主義をめざす国」とくりかえし言明してきたが、いまでもそう信じているのか。アメリカ政府すら朴政権を「権力主義的専制政治」ときめつけた長文の書簡を議会に送つているが、総理は、この評価についてどう考えるか、明確な回答を求める。

2 南ベトナム臨時革命政府発行の旅券所持者の入国問題について

 ことしの第二十回原水爆禁止世界大会は、日本原水協の招待にこたえ、南ベトナム共和臨時革命政府発行の旅券を所持した南ベトナム平和委員会代表団(団長、グェン・バン・タン臨時革命政府駐ソ大使)が入国申請をしていたが、政府は七月三十日不当にも入国を拒否した。
 南ベトナム臨時革命政府代表団の入国問題については、さきの七十二国会でも、当時の大平外相が「政治的に支障がない場合、できるだけ認めていく」とのべており、これまでも二度にわたつて入国を認めた前例もあり、現在入国を拒否する理由はなにひとつない。
 しかも南ベトナム臨時革命政府は、日本政府も「尊重している」と言明しているパリ協定の当事者の一員であり、国際的にも認められた政府である。政府が今回の入国問題でその承認問題などを理由に否定的態度をとつたことは、南ベトナム臨時革命政府の存在を事実上無視するものであり、国際政治の流れに逆行するものである。政府はすみやかに南ベトナム臨時革命政府代表団の入国拒否を撤回して入国を認めるべきである。国民の納得のいく説明を求める。

3 ニクソン来日について

 アメリカ下院司法委員会は、ウォーター・ゲート事件に関し、ニクソン大統領にたいする弾劾決議を多数で可決した。ニクソン大統領が米上院の弾劾裁判で弾劾されることはほとんど確実視されている。
 周知のようにウォター・ゲート事件は、きわめて悪質、卑劣、破れん恥な犯罪であり、ニクソンは大統領の権限を悪用してこの悪事をはたらきながら、ベトナム、ラオス、カンボジアにたいする侵略をすすめ、わが国はその重要な基地とされてきた。
 このようなニクソンを、「賓客」として日本に「招待」することは、わが国と世界の世論に反するものである。総理は、ニクソン大統領の来日を断るべきであると考えるがどうか。

  右質問する。